Devinはチームメイト──Devinとタッグを組んで◯人分の開発を実現!
「AIと協力して○人分の仕事なんて、本当にできるの?」──そう思っていたウルシステムズ株式会社の瀧口 翔生氏が、実際のプロジェクトでその疑念を払拭した。同氏は、AIエージェント「Devin」の圧倒的なスピードと並列処理能力を活用し、3週間で30本以上のバッチを完成させた実体験を紹介。「Devin」を単なる道具ではなく「真の開発パートナー」として育て上げる極意を語った。アーカイブ動画
ウルシステムズ株式会社は、2025年10月1日にULSコンサルティング株式会社へと社名変更しました。当記事は、登壇時の掲載情報となります。
ウルシステムズ株式会社
テクノロジー本部 アドバンストテクノロジー部
シニアコンサルタント
瀧口 翔生(たきぐち・しょうい)氏
瀧口氏は新卒でウルシステムズに入社し、エンタープライズの基幹システムや通信向けサービスの開発支援など、さまざまなプロジェクトに携わってきた。最近は社内の「Devinチーム」に所属し、「Devin」の活用方法を社内で研究している。
冒頭で瀧口氏は自身の開発チームの構成に触れ、「私の開発チームは、私と残りのメンバーは『Devin』。人間は1人で、あとはAIです」と紹介。この体制に至った背景には、同氏が経験したあるプロジェクトが関係している。
2週間でバッチ30本「無茶振りでは…?」

瀧口氏が参画したのは、現行システムから新システムへのモダナイゼーションが目的のプロジェクトだった。現行システムにはレガシー技術が多く使われ、巨大なストアドや「コピーアンドペーストで作られたと思われる」コードが大量にあり、「ドキュメントもなければテストもほぼない」状況だったという。
一方で新システムでは、モダンなアーキテクチャで作り直し、処理を適切な単位に分けて共通化を進め、設計書と実装を一致させてテストコードも充実させることが求められていた。

そんななか、プロジェクト参加間もない瀧口氏に「バッチが追いついてない。30本ぐらい残ってて、なんとかして」という依頼が3週間という期限付きで舞い込んだ。「まだプロダクトの仕様や業務にキャッチアップできていない、ほとんどゼロベースの状況でAPIの設計も実装もやるなんて、正直無茶振りじゃない?と思った」と当時を振り返る。
そんな状況で「Devinを使っていいよ」と言われたのをきっかけに「Devinとの“チームビルディング”」を模索するようになった。
「新人エンジニア的」な「Devin」との付き合い方とは?

そもそも「Devin」とは、コミュニケーションツール「Slack」からチャットでタスクを依頼できる機能や、「GitHub」と連携してリポジトリを参照して理解する機能などを持つAIエージェントである。特徴的なのは、セッションごとに独自の実行環境を持ち、コンテナも利用できることから、「ほぼ開発者がPCで行なっているのと同じことができる」ツールであることだ。
「Devin」を触った瀧口氏の第一印象は「優秀だけど、新人エンジニアっぽい」というものだった。「放っておくと自由奔放に作業してしまう」ことに気づき、エンタープライズ環境で仕様やルールに沿って開発してもらうために、「Devin」にどのような情報を与える必要があるかを考えるようになる。
3つの課題と具体的アプローチ
「バッチを30本作る」というミッションを達成するため、瀧口氏は「Devin」との協働における3つの課題とそれぞれの解決策を整理した。
1 業務知識のない「Devin」への情報提供

1つ目は、完全新規バッチとストレートコンバージョンのバッチで、「Devin」に何の情報をわたすべきかという課題だ。前提として「『Devin』に業務知識はない」ため、新規開発とストレートコンバージョンそれぞれで異なるアプローチが必要だった。
新規バッチについては、瀧口氏自身もプロジェクト参加間もなく業務理解が不十分だったため「有識者にヒアリングして情報を集める」ことに。そのうえで仕様や処理はもちろん、複雑なSQLを1から構築し、詳細な設計書として仕上げた。
一方、ストレートコンバージョンのバッチは「誰も動作を知らない」レガシーコードをソースからリバースエンジニアリングし、処理内容を明らかにする作業が必要だった。ただし、「レガシーな処理を生成AIに与えて言語化させると間違いも多く、新しいアーキテクチャに合わせて不要な処理も入る」ため、新しいアーキテクチャに合わせて人力で必要・不必要を判断しなければならなかった。
これらをふまえて、「Devin」が正しい処理をするにはまず人が方針を決めて設計する必要があると考えた。
2 期待通りにコードを生成してもらうための方針設定

2つ目は、「Devin」の「自由奔放さ」を制御し、期待通りのソースコードを書いてもらうための方針設定に対する課題である。
「何も方針がない状態で『Devin』に任せると勝手にアレンジしてしまう」課題に対し、瀧口氏は共通化設計とお手本となるバッチのサンプルの提供で解決を図った。
スプリングバッチを前提に、ジョブの起動パターン、共通機能のインターフェース設計、ログ出力の仕組み、リトライを考慮した仕組みなど、「一般的なバッチとして考慮すべき要素をプロジェクトに最適化して定義」。これをベースにサンプル実装し、「Devin」に処理させる対応を確立した。
3 品質担保のためのテスト戦略

3つ目はアウトプットの品質をどのように担保するか、というテスト戦略だった。
「Devin」は「優れた技術を持っているが、方針を決めずにテストを書かせると書きすぎたり、複雑なテストや意図しないテストデータを作ってくる」課題があった。そうなると、人が理解できない、保守できないレベルのものが作られる可能性があり非効率だ。 この解決策として、テスト範囲を明確に限定。ジョブの結合テスト相当(ジョブ実行からデータ取得・更新まで)と、リポジトリの単体テスト(クエリの動作確認)の2種類に絞り込んだ。
「テスト範囲を明確にして品質担保し、『Devin』が書いたソースコードを『Devin』自身に検証させる」仕組みを構築することで、効率的な品質管理を実現した。
実践から得られた4つの学び
これらの課題解決を通じて、瀧口氏は4つの学びを得た。
1 設計書起こしは人、コード書くのは「Devin」

まず「設計書起こしは人、コード書くのは『Devin』」という明確な役割分担の確立である。「Devin」は人がやっていたタスクを並列でこなせるため、「コード書きやテストデバッグは得意分野」として活用。人間が上流の設計と判断・決定に集中し、時間をかけた分、後の量産体制は「Devin」が担保するスタイルを実現した。
2 パターン確立後の圧倒的な量産力

次に、パターン確立後の圧倒的な量産力だった。「サンプルを用意して新しいアーキテクチャの共通設計パターンを標準化すれば、期待通りの処理を量産できる」ことがわかったからだ。
複数の「Devin」セッションを並列実行すれば、「1本5〜10分で仕上げてくれるので、依頼している間に前のセッションからレビューが来る」高速サイクルを実現。最終的には1日6本程度を処理できるまでに効率化が進んだ。
3 人間の隙間時間を成果に変える

3つ目の学びは、「Devin」による時間の最大活用だった。「Devin」は人間の「会議前、移動中、食事時間、PCから離れているタイミング」でも稼働してくれる。そのため「自分が動けないと思ってきた時間が成果に変わった」と明かした。
ただし並列実行時は「共通部はインターフェースを切って疎結合化し、コンフリクトを防ぐ工夫が必要」だという注意点も発見したそうだ。
4 現場で使える効果的なプロンプト設計術

最後の学びは、効果的なプロンプト作成の3つのコツである。
1つ目は「プロンプトをテンプレート化して徐々に育てる」こと。最初から完璧を目指さず、「雑に指示してみて結果を見ながらアップデートしていく」アプローチが効果的だ。 2つ目は「参照ソースのフルパス指定」による「Devin」の処理高速化。参照してほしいソースを示し、明確に指示することで効率化が実現する。
3つ目は「先回り指示」。別セッションで出た指摘は他でも発生しうるため、「プロンプトに加えるかメモ機能を使って、同じ間違いを起こさせない」工夫が必要だった。
「Devin」は「チームメイト」

結果として、瀧口氏はほぼ0スタートから3週間で30本以上のバッチを完成させることに成功。「役割分担がカギだった。お手本とプロンプトで強みを引き出すこと、そしていつでも働くAIで限られた時間を最大活用すること」が成功要因だったと総括した。
最後に「『Devin』をチームメイトとして迎えて、重要な教訓が得られた。AIを仲間として活用する方法を、さらに模索していきたい」と語り、講演を締めくくった。
【Q&Aセッション】
Q&Aセッションでは、ウルシステムズ株式会社の瀧口氏がイベント参加者から投げかけられた質問に回答した。
Q. 今回は「Devin」の活用だったが、そのほかのツールで注目してるものや検討したものはあるか?
瀧口氏:当時は「Devin」を中心に、「GitHub Copilot」などのエージェントも併用していました。最近はほかのエージェントツールも登場していますが、まだ十分に使いこなせていない状況です。
Q. AIが書きやすいコードとは具体的にどのような設計書仕様だったのか?
瀧口氏:処理ブロックを明確に分けて、「データ取得しに行く」「データ取得期間を取りに行く」といった関数レベル、クラスレベルで言語化しました。共通機能のインターフェースのモデルが抽象化されていれば、「このバッチではこんなオブジェクトを使うので実装してください」といった具体的な指示ができるようになります。
Q. バッチ30本のなかで、「Devin」がとくに時間がかかったものやうまくいかなかった処理の傾向はあるか?
瀧口氏:実際にはそれほど大きな問題はありませんでした。ただし、テストデータ作成時にDBのDDLをしっかり読ませていてもnullエラーが発生したり、ログ出力の指示を無視されたりといった細かな問題が意外とストレスフルでした。
文=宮口 佑香(パーソルイノベーション)
※所属組織および取材内容は2025年8月時点の情報です。
ウルシステムズ株式会社は、2025年10月1日にULSコンサルティング株式会社へと社名変更しました。
ULSコンサルティング株式会社
https://www.ulsconsulting.co.jp/
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