PRDの正しい使い方 ~AI時代にも効く思考・対話・成長ツールとして~【パーソルキャリア】
AI時代にプロダクト要求仕様書(以下「PRD」)はもう不要か──。「AIが一瞬でPRDを生成し、プロトタイプがすべての物事を語る世界もありえる」。そう語りながらも、「だからこそ、もう数年間ぐらいはPRDをうまく使っていくべき」と”あえてのPRD論"を展開するのは、パーソルキャリア株式会社の真崎 豪太氏だ。PRDを単なるドキュメントではなく「思考・対話・成長ツール」として再定義すると、AI時代でも活用できるのか……?AI時代にプロダクト要求仕様書(以下「PRD」)はもう不要か──。「AIが一瞬でPRDを生成し、プロトタイプがすべての物事を語る世界もありえる」。そう語りながらも、「だからこそ、もう数年間ぐらいはPRDをうまく使っていくべき」と”あえてのPRD論"を展開するのは、パーソルキャリア株式会社の真崎 豪太氏だ。PRDを単なるドキュメントではなく「思考・対話・成長ツール」として再定義すると、AI時代でも活用できるのか……?
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PRDが持つ「本来の価値」3つ
パーソルキャリア株式会社
dodaダイレクト プロダクトマネジメント部
ゼネラルマネジャー
真崎 豪太(まさき・ごうた)氏
真崎氏は、新卒でソフトバンク株式会社に入社後、株式会社メルカリなど複数の企業でPdMを歴任し、現在はパーソルキャリア株式会社が運営するダイレクトリクルーティングサービス「dodaダイレクト」のゼネラルマネジャーを務める。

同社は、転職サービス「doda」をメインに展開する企業で、真崎氏は「コロナ禍前まで受託開発中心だったこともあり、もしかするとテックやPdMのイメージがあまりないかもしれない」としつつも、ここ5年間でプロダクト開発へと大きく舵を切っている最中であると語った。
今回はAI時代に人の手で作成することがなくなると囁かれる「PRD」をテーマに、AI時代におけるその本来の役割・価値を再評価する講演である。
真崎氏:近い将来、PRDなどのドキュメントはAIが一瞬で生成してくれるようになるでしょう。そもそもPRDが不要になり、プロトタイプが全てを語る世界も今後ありえるかもしれません。だからこそ「もう数年間はPRDをうまく活用しませんか?」というのが今回の趣旨です。
1. PdM成長・評価のためのツール

真崎氏がPRDの本来の価値として最初に挙げたのは、PdMの成長・評価ツールであることだ。
真崎氏:色々な会社を渡り歩いてきて感じるのは、PRDを一人で”良い感じ”に書けるスキルは、一人前のPdMを名乗れるかどうかの分かりやすい指標だと感じます。ただ単純にフォーマットを埋めてきた人と、しっかり考えてきた人とでは明確に差があると、お分かりいただけるのではないでしょうか。だからこそこれを裏返して考えると、PRDを通じてPdMの育成が可能になるのではないか、と考えているわけです。
同社では成長フェーズにあるエンジニアも多いことから、組織的なPdM育成ツールとしてPRDを位置づけているという。
2. 思考のためのツール

PRD2つ目の価値として挙げられたのは、思考を整理するのに有効なツールであることだ。
真崎氏:何も参照せずに一からPRDを書くと、完成度が50%程度にしかならなかった経験があります。一方で企画からデリバリーまで全行程でPRDのフォーマットに沿って考えれば、おさえるべきポイントを漏らさず整理できます。AI時代でも、人間が企画することはこれからも変わらないと思うので、フォーマットに則って進めるのは思考するための重要な材料になります。
真崎氏:しかも、PRDに記載する意思決定のフローや文脈コンテキストは、AIが非常に好むもの。今だからこそ、それを残していく文化を作っておくことが大切です。
3. コミュニケーションツール

PRDの真の価値3つ目は、チーム内でのコミュニケーションハブとしての役割だ。
真崎氏:弊社は長らくウォーターフォール型の開発を行っていた企業だったこともあり、プロダクトに関するドキュメントといえば、指示書や要求定義書などのイメージが非常に強かったと思います。一方で現在のプロダクト開発においては、デザイナーやエンジニアと対話するためのハブとしてPRDを活用する会社が多いのではないでしょうか。
真崎氏:対話の場所としてPRDを日々使いこなせる人材を育成する、という観点でPRDは有効です。さらにPdM・デザイナー・エンジニアが三位一体で企画を進行し、本当の意味でのアジャイルを達成するためにも大事なツールだと考えています。
PRDの上手な使い方とは?
ここから話はPRDの上手な使い方に移行。
真崎氏:ここまでPRDの価値を説明してきましたが、別のツールでも代用できます。インセプションデッキやデザインドック、プロダクトブリーフなどを使う会社も多いです。あくまで会社やプロダクトの事情に合わせれば良い。何よりも重要なのは、単なるドキュメントとしてそれらを扱うのではなく、AI時代をふまえて、育成・思考・コラボツールとして利用できているかだと思います。
PRDはどのツールで書くべき?

AI時代のPRD作成で重要なのは、適切なツールの選択だそう。
真崎氏:AIは、マークダウン記法(#,*,>など特定の記号を使って、文書の構造や装飾を表現するマークアップ言語)を好むため、AI時代でさらにPRDを活用するためにも、なるべくテキスト系ツールを活用するのがおすすめです。
真崎氏:図も同様で、なるべくマーメイド記法(テキストベースの記法を使って様々な図表を生成できる記法)で作成すれば将来、AIフレンドリーなドキュメントが整っていくはずです。
PRDの構成には「ダブルダイヤモンド」を活用

真崎氏は、PRDのフォーマットをデザイン思考の「ダブルダイヤモンド」の概念に沿って構成することを提案しています。「ダブルダイヤモンド」とは、2005年に英国デザイン協議会で導入された問題解決の手法で、「正しい課題を見つけるダイヤモンド」と「正しい解決策を見つけるダイヤモンド」の2つの工程から構成されています。それぞれのダイヤモンドで「発散」と「収束」を繰り返しながら、問題解決へと導くという考え方です。

真崎氏:まず課題やチャンスを発見・定義する。その課題に対する解決策を見出して提供する。この流れに合わせてPRDの構成を整理できると良いと思います。
気をつけたいPRDの「悪い」書き方

ここで真崎氏は、効果的でないPRDの書き方にも触れる。
真崎氏:ソリューションありきで企画を考えてしまっているなど、開発の背景などが抜けてしまい、何を作りたいかの「WHAT」から書き始めたPRDは、良いものをあまり見たことがありません。経験上、開発の背景を含めて上から順番に埋めていくのが良いですね。
真崎氏:あとは、PdM一人でPRDを埋めてしまうのも良くないと思います。エンジニアやデザイナーなど開発に関わるメンバーと対話しながらPRDの項目を埋めていく。特に「WHY」や「HOW」はエンジニアに都度見てもらうなど、多方面からの意見やアイデアを集結させるとPRDとしても良いものができますし、一緒に進めていくスタンスをチームメンバーに示せます。
結局AI時代にPRDは必要なのか

真崎氏:ここまで話してきたように、人と人がコラボすることがなくならない限りはPRDは有用だと私は思っています。もっというと、AIと人がコラボすることも今後出てくると考えていて、その際にも共通の思考フレームワークとしてPRDを活用してAIと会話できるはずです。
真崎氏:プロダクト開発は、複数・さまざまな背景や意思決定が積み重なって実現していますよね。だからこそ、それら意思決定の記録という意味で人に対してもAIに対してもPRDは有用です。

ここで、真崎氏は「プロトタイプがPRDの代替になりうるか」というテーマに対して「弊社もいつかは企画書の代わりにプロトタイプで運用することを目指したいと思っている」と語る。
真崎氏:一方でそれを実現するにはPdM、エンジニア、デザイナーが一定のレベルであることが求められると思います。良いプロトタイプを作れるのは一人前のPMであり、PRDを書くのも上手ですし、出てきたプロトタイプの良し悪しを正確に判断できる高いPM力を持っていることが前提。当面弊社では、PRDを通じて個人と組織を強化したいです。

とはいえ、同社ではAIを活用したPRD作成の効率化が一部実現しているという。
真崎氏:弊社でも「Dify」によりPRDの一次レビューを実験しているところです。マークダウン形式で作ったPRDとHTML形式のPRDの精度の差など、さまざまな条件での実験をいかに重ねるかが重要だと思っています。
真崎氏:AIにPRDを書いてもらうことにも挑戦中です。「Cursor」はもちろん「ChatGPT」でも有用で、ツールよりも使い方とモデル選定の方が大事だと考えています。あとは、私自身がPRDを書くときと同様に、PRDフォーマットを上から順番に生成してもらうことがコツです。そうすると比較的精度が高いアウトプットが期待できます。
レビュー力を身につける重要性

講演の最後で、真崎氏は未来のPdMに求められるスキルについて言及した。
真崎氏:最後になりますが、AI時代に対応するためにPRDをレビューする力を身につけることが大切です。PRDを人間が書くことは、なくなっていくと思います。ただ、予算執行を伴う意思決定は、必ず人の手に残ると思います。そうなったときに的確に判断できる力を伸ばすことが必要です。よろしければ皆さんもPRDを活用しませんか?
AI時代だからこそのPRDを通じた思考力の鍛錬と、人間ならではの判断力を磨くことの重要性を真崎氏は強調して講演を締めくくった。
【Q&Aセッション】
Q&Aセッションでは、真崎氏がイベント参加者から投げかけられた質問に回答した。
Q. AI企画を「WHY」からスタートさせるコツはあるか?
真崎氏:まず「AI」を細分化して考えることが重要です。そもそもマシンラーニング、ディープラーニング、大規模言語モデルでは特徴もできることも異なります。お客様の課題を整理したうえで、どれを使うべきか、あるいは組み合わせが最適かなどと検討するのが本来考えるべきポイントだと思います。
Q. PRDはどのようなツールを使って書いているか?
真崎氏:現在は「Confluence」を利用していますが、マークダウン出力ができない課題があります。そのためHTML形式で出力するなど試行錯誤しております。
Q. PRDを用いる際に気をつけるべきポイントはどこか?
真崎氏:PRDに限らず、インセプションデッキでもデザインドッグなどほかのツールも活用できますが、まずなるべくテキスト系ツールを活用するところからスタートしてほしいです。それから、開発の背景を含む上から順番に書いていくこと。真ん中から書き始めても、大体のプロダクト開発は行きづまってしまうと思います。
Q. AI活用が進むほどドキュメントが作られなくなる傾向はあると思うか?
真崎氏:その通りだと思います。特に「Cursor」のような「AI付きメモ帳」と呼ばれるツールは、相談しながら作業を進めるうちに自然とPRDが完成してしまっていた、ということがありうるものです。このようなツールがさらに普及すれば、従来のドキュメント作成プロセスは必然的に変化していくでしょう。
文=宮口 佑香(パーソルイノベーション)
※所属組織および取材内容は2025年9月時点の情報です。
パーソルキャリア株式会社
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