【バンダイナムコネクサス】「熱狂」を設計するデータストラテジストが紐解く:エンタメ現場を動かす意思決定のデザイン
顧客の「熱狂」や「愛」という、目に見えない感情をいかに定量化し、ビジネスの意思決定へとつなげるか――。この難題に対し、エンターテインメントの最前線でデータはどのような役割を果たせるのだろうか。 バンダイナムコグループのデータ分析を一手に担う株式会社バンダイナムコネクサスでは、膨大なユーザーの声の解析や、開発現場の「職人」を動かすエビデンスの提示により、感覚の世界と思われがちなエンタメの現場をデータで支えている。 本記事では、生成AIを活用してユーザーの熱量を可視化する具体的なアプローチに加え、スマホ・家庭用ゲームにおける「好き」の構造化、リスクを背負う事業企画者やこだわりを持つ開発者との信頼を築くコミュニケーション術を紹介する。 さらに、180名規模へと進化を遂げたデータ組織の運営まで、現場を率いる実践者たちが語った知見をお届けする。顧客の「熱狂」や「愛」という、目に見えない感情をいかに定量化し、ビジネスの意思決定へとつなげるか――。この難題に対し、エンターテインメントの最前線でデータはどのような役割を果たせるのだろうか。
バンダイナムコグループのデータ分析を一手に担う株式会社バンダイナムコネクサスでは、膨大なユーザーの声の解析や、開発現場の「職人」を動かすエビデンスの提示により、感覚の世界と思われがちなエンタメの現場をデータで支えている。
本記事では、生成AIを活用してユーザーの熱量を可視化する具体的なアプローチに加え、スマホ・家庭用ゲームにおける「好き」の構造化、リスクを背負う事業企画者やこだわりを持つ開発者との信頼を築くコミュニケーション術を紹介する。 さらに、180名規模へと進化を遂げたデータ組織の運営まで、現場を率いる実践者たちが語った知見をお届けする。
トレーディングカードゲームの顧客体験の定量化アプローチ
演者プロフィール
株式会社バンダイナムコネクサス
IPビジネスエンハンス部 IPマーケティング課
マネージャー
大橋 卓真(おおはし・たくま)氏
セッション冒頭では、IPビジネスエンハンス部 IPマーケティング課 マネージャーの大橋 卓真氏が登壇した。
定性的なデータ(ユーザーの声)を分析するサービス開発
演者プロフィール
株式会社バンダイナムコネクサス
IPビジネスエンハンス部 IPクロステックオフィス
IPクロステックセクション
有井 佳祐(ありい・けいすけ)氏
事業部の不安を解消する「ユーザーの声」に着目
次に登壇したのは有井氏。新卒で入社した楽器音響総合メーカーでは、海外営業や商品マーケティング、新規事業開発など、幅広い実務経験を積んできた。その後、データ分析スキルを研鑽するためにデータ分析系のスタートアップで修行を積み、バンダイナムコネクサスに入社。データ分析のプレイヤーとして幅広い事業領域に関わり、現在は、生成AIを活用したテキスト分析の開発および企画推進を担当している。

有井氏がバンダイナムコネクサスに入社してから感じていたのは、事業部が抱える漠然とした不安だった。「企画しているゲームって、レッドオーシャンに突入しつつあるのではないか」「この商品って本当にニーズに合っているのか」「そもそも企画がぶれていないか」。こうした声を頻繁に耳にしたという。
有井氏は、この課題の根底に「市場を理解するための手軽な道具がない」という問題があると解釈していた。そこで有井氏が目をつけたのがユーザーの声(自然言語)である。これは、アンケートのフリーコメント、SNSの投稿、レビューサイトの評価など、自然言語として存在するさまざまな「声」を指す。

自然言語に着目した理由は以下の3つである。
①データが取得しやすい
過去の市場調査でフリーコメントを取得したものの分析していないケースや無償でAPIに公開しているレビューサイトなど、新たに調査をせずとも活用できるデータが眠っている
②解釈性が高い
ユーザーの声は攻撃力が高い文脈がある。「バトルが楽しい」など具体的な声を直接伝えられるため、事業部とのコミュニケーションがスムーズになる
③グローバルに対応可
翻訳精度の向上とコスト低下により、海外展開している商材の分析もスピーディに行える
生成AIだけでは不十分:ユーザーの声を意思決定につなげるための3つの壁

有井氏は事業部と要件定義を重ね、2つのアウトプットを設計した。1つ目は、膨大なコメントを5〜20程度のカテゴリに要約・分類すること。2つ目は、各カテゴリにポジティブ・ネガティブのスコアを付与し、優先度を可視化することだ。
それだけであれば「生成AIでできるのでは?」と考える人もいるだろう。有井氏も最初はそう考えて取り組んでみたものの、結果はいまいち納得できないものだったそう。

課題は3つあった。1つ目は精度の問題。実際のユーザーコメントを生成AIが微妙に言い換えてしまうハルシネーションが発生することがあった。2つ目は深掘り分析の困難さ。フリーコメントとログデータを紐づけたり、満足度と組み合わせたりする際に、ラベルの精度や結合の精度に不安が残った。3つ目は可読性の悪さ。生成AIの出力は情報量が多く、「結局何を言っているのかわからない」と読むのを諦めてしまう事象が起きていた。
独自技術で実現した意思決定直結型アウトプットとグループ横断活用
これらの課題を解決するため、有井氏のチームは生成AIに指示する前に独自の前処理を挟む仕組みを開発した。具体的な手法は企業秘密とのことだが、結果として、低コストで一定のスピード感を保ちながら、現場担当者が求める可読性と精度を実現できた。

アウトプットのイメージはこうだ。
まず全体のユーザー評価をサマリーで示し、ポジティブ・ネガティブの評価を概観できるようにする。次に、「達成感が面白い」「グラフィックが良い」といったカテゴリごとにコメント数とスコアを詳細に表示する。
有井氏がよく使う分析アプローチは散布図だ。縦軸にスコア、横軸にコメント数を取り、各カテゴリをプロットする。右上の象限はコメント数が多くスコアも高いため「より伸ばすべきポイント」、右下の象限はコメント数が多いがスコアが低いため「緊急度高く改修すべきポイント」と、意思決定に直結する形で可視化できる。

この分析サービスは現在、グループ横断で活用されている。家庭用ゲームでは、企画初期にベンチマークタイトルのユーザーセグメントを分析したり、ベータ版リリース時にクリティカルなコメントを抽出したりしている。スマホゲームでは、リリース直後に顧客価値が実現できているかを検証したり、キャンペーンの受容性をログデータと紐づけて分析したりしている。
この分析サービスは現在、バンダイナムコグループ内でデジタル/フィジカルを横断して活用される仕組みへと広がっている。家庭用ゲームでは、企画初期にベンチマークタイトルのユーザーセグメントを把握したり、ベータ版リリース時にクリティカルなコメントを抽出して改善ポイントを特定したりする用途で使われている。
スマホゲームでは、リリース直後に想定した顧客価値が実現できているかを検証するほか、運営フェーズではログデータとコメントを紐づけ、キャンペーンの受容性を多角的に確認するための基盤となっている。
さらにフィジカル領域(カードゲーム・玩具など)では、年間で大量に取得されるアンケートを自動分析し、事業部がいつでもユーザーの声を参照できる環境が整備された。IPや世界観に対する感情の温度感を可視化でき、商品評価や改善の検討に役立っている。
このように、単発の分析を出発点にしつつ、いまではグループ横断の意思決定を支える基盤へと進化している。
エンタメ分析の醍醐味:データで可視化し、現場とインサイトを探る

有井氏がこの取り組みで意識したのは、分析自体を「ものづくり」として捉えることだ。いきなりシステム化を進めるのではなく、小さなレポートから積み上げ、「これぐらい分かればいい」「これは分からないと困る」という要件を事業部と一緒にPDCAを回しながら確立していった。
「事業部の方が不安になっているところに、ユーザーの声という企画の柱を提供できる。ユーザーの声を直接的に表現することで、ディスカッションがすごく盛り上がる」と有井氏は語る。
エンタメ領域のユーザーの声はおもしろい。その声を分析で可視化し、プロダクションや事業部と「いやいや」言いながらインサイトを探っていく。有井氏にとって、それこそがエンタメ領域でデータ分析に携わる醍醐味なのだという。
事業企画者と職人集団、クライアントが異なれば分析も異なる
演者プロフィール
株式会社バンダイナムコネクサス
データストラテジー部 プロダクトアナリティクス課
プロダクトアナリティクスセクション
佐伯 暁生(さえき・あきお)氏
ターゲットが異なれば分析も異なる:スマホゲームと家庭用ゲームのビジネスモデルの違い
続いて登壇したのは佐伯氏。人文科学系のバックグラウンドからキャリアをスタートし、独学とスクールでデータ分析を学んだ後、キャリアチェンジしてゲーム領域のデータ活用に携わるようになったアナリストだ。現在はバンダイナムコネクサスで、家庭用ゲーム・スマホゲームの運営データやレビュー分析に基づき、プロデューサーや開発スタジオと協働する現場密着型の分析業務を担当している。
佐伯氏は、冒頭でスマートフォンゲームと家庭用ゲームのビジネスモデルの違いを整理した。

スマートフォンゲームは基本的に無料でインストールしてもらい、遊び続けてもらいながらマネタイズにつなげるモデルだ。長寿タイトルでは10年以上運営が続くものもある。そのためユーザーに報酬を次々と用意し、そこにたどり着くためのやりがいも提供し続けなければならない。必然的にユーザー動向を追いかけ続け、意図した結果になっているかをチェックして修正するPDCAサイクルが求められる。
一方、家庭用ゲームは依然として買い切り型が多い。「楽しかった、満足したと感じてプレイを終えてもらわないといけない」と佐伯氏は語る。追加コンテンツや次回作への期待、口コミでの評判拡散が重要になる。そのため、継続運営要素が薄く数週間でプレイが完了するタイプのゲームであれば、ユーザー動向をリアルタイムで追い続ける意味は薄い。結果として、ログを取得して分析するという文化はスマートフォンゲームほど強くない。
行動ログから「気持ち」へ:定量・定性で解き明かすスマホゲームのモチベーション構造
スマートフォンゲームの分析では、ユーザーが何を考え、何を求めているかを捉えることが大きなテーマとなる。佐伯氏が担当したプロジェクトでは、行動ログからは「いつ誰が何を何回プレイしたか」は分かるが、「どのような気持ちでプレイしているか」という内心は正確には分からないという課題があった。

そこで実施したのがユーザーインタビューだ。アプリ内でアンケートを行い、インタビュー参加者を募集。市場調査会社のモデレーターに委託してインタビューを実施した。佐伯氏もその様子を観察し、ユーザーがどのような考えで遊んでいるかを把握していった。

インタビュー結果をもとにモチベーションの構造を図式化したが、これは少人数の声から得られた仮説に過ぎない。そこで、周年イベントのタイミングで広くユーザーにアンケートを実施し、モチベーションの分布を検証した。

結果は明らかで「キャラクターへの愛情」が圧倒的に突出していた。「好きなキャラクターを強くしたい、活躍させたい、特殊な装備を詰め込んで最高の状態に仕上げたい」という気持ちでプレイしているユーザーが大多数を占めていたのだ。
佐伯氏はこの結果をもとに、プロデューサーと運営方針を議論した。
「ステータスやスキルなど性能面を気にしがちだが、それだけでなく定性的な意味でキャラクターを魅力的に見せることが大事ではないか」(佐伯氏)
こうした分析からキャラの登場スケジュールを重視する必要性も見えてきた。地域と年代の分析から、どのキャラやエピソードがどの市場で人気なのかを把握し、日本国内の運営チームの感覚と全世界・全年代のユーザーの感覚を合わせていくことにも活用できたという。
レビューの不満を定量化:高度な予測モデルに頼らない家庭用ゲームの改善
一方、家庭用ゲームでは異なるアプローチが求められた。
ある新作ゲームは売上こそ堅調だったものの、レビュー評価が想定より伸びないという課題を抱えていた。プロデューサーから「どこに不満が集中しているのか、分析で特定できないか」と相談を受けたのが出発点だった。

まず佐伯氏は、寄せられたレビュー文を自然言語処理で解析し、「どの要素がどれくらい語られているか」と「その語られ方がポジティブかネガティブか」の二軸で可視化した。散布図の右下(=言及数が多く、かつネガティブ度が高い)に位置する項目ほど、ユーザーが強く不満を抱きやすい“危険領域”といえる。分析の結果、ボスの強さや攻略の幅に関するテーマが問題として浮かび上がった。

ただし、レビューが指摘する内容が本当にゲーム内で起きているのか、起きているとしてどの程度深刻なのかは、ログデータで裏を取らなければならない。ここで必要なのが、佐伯氏のいう「ドメイン知識」だ。ゲームを実際にプレイし、操作感や難易度の“肌感”を理解していなければ、ログからどのような指標を作り出してどう評価すべきかも判断できず、抽象論だけの分析になってしまう。
ログとの照合で今回は「特定のボスだけ極端に撃破率が低く、この装備を持っていないとほぼ勝てない」という具体的な因果構造が特定できた。開発側が意図したユーザー体験とは異なる結果だったため、改善提案もすんなり受け入れられたという。

しかし「強すぎるなら弱くすればいい」という単純な話ではない。ボスの強さは攻撃力・HP・攻撃頻度・ギミックの複雑さなど複数要素の掛け合わせで成立しており、どれが支配的要因なのかを見極める必要がある。
そこで佐伯氏は各ボスの撃破率やバトル時の装備を比較し、どのタイプのボスにユーザーがつまずきやすいのかを推察した。開発側の想定と実際のプレイ結果がズレていれば、「この特徴はユーザーは意外と苦にしていない」「逆にここがストレス源になっている」といった、改善に直結する洞察が得られる。
重要なのは、ここで高度な予測モデルを組む必要はなかったという点だ。レビューの声、ログの数値、実際のプレイ感などの状況証拠がそろえば、あとはゲームづくりの職人である開発チームがどう調整すべきかを自ら判断できる。分析はその後押しをする役割に徹し、開発者の暗黙知と意思決定を引き出すことができたのだ。
職人集団と協働するデータ分析の最適解:正解は示さず、方向性を示す

修正パッチのリリース後、レビュー評価は改善し、低評価レビューでの当該ボスへの言及頻度も下がった。「次回作もぜひお願いします」という声まで届き、分析の成果がしっかり手応えとして返ってきたという。
しかし佐伯氏が重視するのは、こうした直接的な成果だけではない。ゲーム開発の現場には、長年の経験で積み上げた職人の技術やセンスがあり、本来ならもっと力を発揮できる人たちが多い。ところが、感覚だけで判断しなければならない環境では、その腕前が十分に活かされないこともある。
「データ分析の役割は、この部分を調整するともっと良くなるという改善の方向を示し、職人が持つ暗黙知や創造性が発揮しやすい状態をつくること」(佐伯氏)
言い換えれば、細かいパラメータ調整の“正解”をデータサイエンスで出し切る必要はなく、むしろ出しすぎると職人の判断力を奪ってしまう。どこが問題で、どの方向に直すべきかという大枠だけを示し、その先の具体的な設計は開発チームに委ねる。このバランスこそが、職人集団と協働するうえで最も効果的だと強調し、佐伯氏は講演を締めくくった。
エンタメを俯瞰する ~データ分析の事業装着~
演者プロフィール
株式会社バンダイナムコネクサス
データストラテジー部
ゼネラルマネージャー/リードデータストラテジスト
松浦 遼(まつうら・りょう)氏
熱狂を支える組織論:事業横断ビジネスを後押しするデータ利活用戦略
最後に登壇した松浦氏は、分析会社でのゲーム系の分析から始まり、ゲーム企業への移籍を経てバンダイナムコネクサスへ入社。分析チームの立ち上げをリードした経験を持つほか、現在はリードデータストラテジストとして、データ利活用戦略全般を担当している。
松浦氏の講演のテーマは、現場の熱狂を設計するデータ分析を「支える組織と人のおもしろさ」に焦点を当てるものだ。これまで3名の登壇者が紹介した具体的な事業実装や事業装着の事例を統合し、それら全体を組織としてどう支え、運営しているかという、より俯瞰的な視点から紹介する内容である。

まず松浦氏は改めて、バンダイナムコネクサスのビジネスモデルに触れた。まず同社は、トイホビー、デジタル、映像音楽、アミューズメントという複数の事業ユニットで構成されている。

これらの事業が連携しながら価値を生み出すうえで、鍵となるのがIPの活用だ。一つのIPを、最適なタイミングで、最適な事業・商品・地域に届けていくことが成長戦略の核であり、その戦略をデータで後押しすることが、バンダイナムコネクサスに求められている役割である。
IPの世界に深く浸る:感情ベースの顧客行動を読み解く三層データ資産
松浦氏によると、グループ内には三つの強力なデータ資産がある。一つ目は、各事業やサービスを横断する「BANDAI NAMCO iD」による顧客データの一元管理。二つ目は、グループ内のサービスや事業データを集約した統合データ基盤としてのデータレイク。三つ目は、市場データやオープンデータなど外部データの積極的な活用だ。

こうした三層のデータが重なることで、「一つのIPが、ゲームではこういう振る舞いをしている、玩具ではこういう振る舞いをしている」といった差異が見えてくる。
「IPの世界観や特色に合わせて事業展開を最適化できるのは、この横断的なデータ構造があるからこそだ」(松浦氏)
なかでも松浦氏が最もおもしろいと感じているのは、顧客の行動が感情ベースで動いている点だ。多くの企業では、ポイント還元などの経済的インセンティブで顧客を横断的に誘導することがしばしばある。一方バンダイナムコでは、一つのIPを複数の事業で楽しむこと自体が「その世界により深く浸りたい」というファン心理を満たしている。この感情の強さこそが、事業横断を自然に生み出し、データにも明確に表れる。
「その感情を刺激することでファンに楽しんでもらい、作り手自身も楽しめる。それが今日登壇した三人の発表からも伝わったのではないか」(松浦氏)データを見ることは、ファンとIPのつながりを読み解く作業である。感情ベースでの顧客とのつながりが、データ分析チームの仕事に色濃く反映されているのだ。
武器を選ばない:事業変化に対応し続けたデータチームの守備範囲拡大

バンダイナムコネクサスのデータ利活用チームは当初、ゲーム事業の分析からスタートしたチームだ。ゲーム事業はユーザー行動ログからデータが豊富に取得でき、事業規模が大きく、一つひとつの意思決定がもたらすインパクトも大きい。一方で分析には大きなコストがかかる。だからこそ松浦氏のチームでは、分析結果をレポートとして出すだけでなく、その先の「意思決定につなげていく」ことをバリューステートメントとして掲げてきた。

しかし数年走ると、当初の枠組みだけでは対応できない課題が見え始めた。データ分析を意思決定につなげるためには、分析に先んじたデータの整備も、分析の後に続く意思決定の促進のための業務フロー再構築も必要になる。そして取り組みやすい課題から解決していくと、より難易度の高い課題が表面化してくることも多い。松浦氏は「自然と、業務の守備範囲や提供できる価値を進化させざるを得ない状況になっていった」と振り返る。

こうした変化が職種構成も大きく変化させた。最初はデータアナリスト、データサイエンティスト、データコンサルタントの三者でスタート。その後、分析効率を上げるためにデータエンジニアを内製化。高度なモデルをシンプルな運用に乗せるためのテックPM。ログだけでは解決できない課題に対応するリサーチャー。そして直近では生成AIのビジネス活用を推進する人材も加わった。
「熱狂を加速させるためには、武器を選んでいる場合じゃない。これからも新たな領域は増えていくと思う」(松浦氏)

現在では、約180名規模のデータ人材を擁するチームに成長している。多様な専門性を組み合わせ、常に変わり続ける事業に寄り添いながら、データで「熱狂」を支える組織へと進化してきたのだ。
【Q&Aセッション】
Q&Aセッションでは、登壇者4名がイベント参加者から投げかけられた質問に回答した。
Q. ゲームの体験要素はどのように見つけていますか?
大橋氏:読み物でのインプットや、プロデューサーさんの考えを聞くことも大切ですが、自分自身でしっかり体験に落とすことが重要です。例えば、私は以前シングルカードで効率的にデッキを組むタイプでしたが、この仕事を始めてからはボックスを開封するようになり、「ガシャ」の喜びを実感できるようになりました。色々な人の思いをインプットし、それを自分の体験に落として理解する。その順番で理論を立ててから、データ化に進むのが大事だと思います。
Q. ゲームの理解度を深めるために自分で遊ぶ時間は業務内で捻出できますか?
大橋氏:月に1日、業務にまつわるインプットに活用できる制度があります。また、特定タイトルを担当しているアナリストは、片手でゲームを触りながら片手でクエリを確認するようなこともしています。プロデューサーさんと会話するためにも、仕事に役立てるためにやっている面もありますね。
佐伯氏:定義書に書いてある内容と実際のテーブルが違うことがあるので、自分のIDで遊んだ記憶とログを突き合わせて確認することもあります。また、好きなシリーズの分析に関われると、仕事関係なく個人的にプレイしたくなってやってしまうこともありますね。
Q. 事業企画者とのコミュニケーションで気をつけていることは? なかなか分析を理解してもらえず、強く当たってしまうことがあります
大橋氏:エンタメ事業は安定性が非常に低く、事業企画者は大きなリスクに身をさらしています。評価も年によって大きく変動し、人生設計が立てづらい環境だと思います。一方、私たち機能部門は、比較的安定した環境で働けています。この前提を意識すれば、きつく当たろうという気持ちは起きません。事業サイドの方々がリスクを背負いながら事業を作ってくれているからこそ、私たちは分析しがいのあるデータやビジネスに関われる。敬意を持つのは当然のことだと思います。また、私たちのアドバイスが事業に実装され、成果が出て初めて価値が認識されるので、相手に納得して動いてもらうことが大切です。
Q. 担当商品に触れずに仕事をしている人はいますか?
松浦氏:可処分時間をそういったことにかなり使っていると思います。前述のゲーム事業向けの分析の担当者だけでなく、例えば玩具の仕事に関わる人は土日に店頭を見て回ったりします。事業部の人たちも同様ですので、私たちも自然とそうなっています。
Q. 最近熱狂した仕事を教えてください
有井氏:二つあります。一つ目は、とある事業の商品仕様の意思決定に携われたことです。1年がかりのプロジェクトで、最初はレビューコメントの分析から始まり、「バンダイナムコネクサスさんのデータ分析がおもしろいのでもっと取り組みたい」というお声をいただきました。そこから新商品の顧客視点での商品開発に携われることになり、各メーカーや部長を説得して予算を確保し、夜な夜なラップアップして、それが受け入れられたときは本当に熱狂しました。
二つ目は、分析サービスを作るなかで、皆さんが「この分析おもしろいですね」と言ってくださり、いい意味で自分の手を離れていったことです。レポートのスクショが送られてきて「これ使いました」と連絡が来たりすると、チームで歓喜しています。
Q. ユーザーの声の分析が「ふーん」で終わってしまうことがあります。どうすれば意思決定につなげられますか?
有井氏:分析結果が「ふーん」で終わることは、私たちも往々にしてあります。そうならないためには、要件定義に時間をかけることが大切です。意思決定が重い場合は、「このアウトプットが出れば、このような意思決定をする」ということを事前にしっかり握っています。
一方で、事業部の課題感があまり強くない場合は、探索的な分析でクリティカルな事象が見つかったら、それを仮説と捉えて「この仮説を立証できたらおもしろいので市場調査をしませんか」と次のステップにつなげ、少しずつ種を大きくしていくことを意識しています。
Q. プロジェクトを横断的に進める際、周りを巻き込むコツは?
有井氏:二つあります。一つ目は、ユーザーさんにできるだけ真摯でいることを誠実に伝えることです。しがらみや面倒なことがあっても、「ユーザーに届けるためにこれは大事な話ですよね」と味方をつけながら進めていきます。私の中で「インサイト派閥」と呼んでいますが、その派閥をできるだけ作っていくイメージです。
二つ目は、ビジョンを持つことです。「このシステムを通じてこれを実現したい」という話をして、身近な人から巻き込んでいきます。最初は大したものじゃないという評価でも発信し続け、巻き込んだ人たちに感謝を伝えて「あなたたちの動きがここに役立ちました」とコミュニケーションをとることが大切です。
文=宮口 佑香(パーソルイノベーション)
※所属組織および取材内容は2025年11月時点の情報です。
株式会社バンダイナムコネクサス
https://bandainamco-nexus.co.jp/
株式会社バンダイナムコネクサスの採用情報
https://bandainamco-nexus.co.jp/careers/
株式会社バンダイナムコネクサスのTechBlog
https://zenn.dev/p/bnx_techblog
おすすめイベント
関連するイベント











