【バンダイナムコネクサス】データ活用で大規模な利益貢献を生むには
おもちゃ、ゲーム、アニメ、アミューズメント施設まで、多様な事業を展開するバンダイナムコグループ。そのなかでデータ活用を推進する株式会社バンダイナムコネクサスでは、グループ横断のデータ活用構想の中で、数億円規模の事業インパクトを持つプロジェクトが連発されると見込んでいるという。しかし、複数の事業領域でのデータ活用は決して容易ではない。データ構造の違い、変化する要件、予期せぬトラブル。それでも成果を上げ続ける背景には、「臨機応変な対応力」を支える3つの要素があった。チーフデータアナリティクスオフィサーの西田幸平氏が語る、データ活用で事業を変えるためのアプローチとは。おもちゃ、ゲーム、アニメ、アミューズメント施設まで、多様な事業を展開するバンダイナムコグループ。そのなかでデータ活用を推進する株式会社バンダイナムコネクサスでは、グループ横断のデータ活用構想の中で、数億円規模の事業インパクトを持つプロジェクトが連発されると見込んでいるという。しかし、複数の事業領域でのデータ活用は決して容易ではない。データ構造の違い、変化する要件、予期せぬトラブル。それでも成果を上げ続ける背景には、「臨機応変な対応力」を支える3つの要素があった。チーフデータアナリティクスオフィサーの西田幸平氏が語る、データ活用で事業を変えるためのアプローチとは。
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多様な事業の複雑さを強みに変える、グループ横断のデータ活用
株式会社バンダイナムコネクサス Chief Data Analytics Officer
IPビジネスエンハンス部 IPクロステックオフィス
オフィス長
西田 幸平(にしだ・こうへい)氏
バンダイナムコグループは、トイホビー、デジタル、映像・音楽、アミューズメントの4つのユニットと関連事業会社で構成される。それぞれが異なる事業特性を持ちながらも、共通するのは「IP(知的財産)」を軸とした事業展開だ。一つの作品が、おもちゃ、ゲーム、アニメなどさまざまな形で顧客接点を生み出す。
西田氏が所属する株式会社バンダイナムコネクサスは、デジタルユニットの一社だが、その活動範囲はグループ全体に広がる。グループ横断のデータ基盤構築と活用を目指す「データユニバース」という取り組みで、各事業会社との連携はもちろん、ユニットを超えたナレッジの共有を推進している。
本来全く異なる事業でもIP軸での事業展開を行う共通性があるので、「一つのプロジェクトで得た知見が、グループ内の他の事業でも活用しやすい」と西田氏は語る。例えば、ゲームでの顧客分析結果が、関連する事業の販売戦略に活かされるといった具合だ。多様な事業を抱える複雑さを、強みに変える仕組みがここにある。
人気ゲームの裏側で、どのような分析が行われているのか
具体的にはどのような取り組みが行われているのだろうか。
例えば、運営型ゲーム(リリース後も継続的に新しいコンテンツやアイテムを追加したりして、ユーザーのゲーム体験向上を目指すゲーム)を手がける事業部門から、こんな相談が持ち込まれた。「商材の販売戦略が立てられない。どんなターゲットにどういう優先順位をつけて、そのユーザーにはどんな商材が受け入れられるのかが分からない」。要は、「誰がどんな遊び方をしているのかわからない」という課題だ。
まずは、プレイスタイルごとにユーザーをセグメント分けする。例えば、「対戦好きタイプ」「ストーリー好きタイプ」「育成好きタイプ」などだ。しかし「ここまでは誰しもやったことがあるだろう分析」と西田氏が語るように、本当に難しいのはここから。適切に分類するには豊富な経験とドメイン知識が必要だ。さらに施策の意思決定を助けるシミュレーション、そして分析と企画の密な連携、企画側のゲーム設計の技術。これらがそろって初めて「使えるセグメント」になるという。「当たり前のことのように聞こえるかもしれませんが、きれいに実行するのは意外と難しく、日々トライ&エラーです」(西田氏)

ここまではゲーム業界では一般的なタスクだというが、こうしたケースでもゲームタイトルごとにアプローチがオーダーメイドになりがちで、ログデータの仕様が違えば、横断的な分析は難しくなる。そこで同社は「並々ならぬ情熱」で複数のゲームを横断して分析できるダッシュボードとデータマートを構築した。

このダッシュボードは、計画策定機能、タイトル間のKPIを比較する機能、KPIの中期的なベースラインの変化を検知する機能など6つの主要機能を備える。そのうち3機能が、最初のリリース後にユーザーからの要望を受けて追加実装されたものだ。
ニーズに即応できたのは、「さまざまな要望を吸収できる、企画と分析のナレッジに根ざしたデータマートを粘り強く作り切ったからだ」という。

想定外のトラブルを乗り越えた「売上/販売数予測」
次に西田氏が紹介したのは、売上/販売数予測だ。こちらも一般的なタスクだが、西田氏の経験上、予測に留まらず、売上を伸ばし続けるための要因分析に発展することが多いという。1つの取り組みで数億円規模の事業インパクトが見込まれるタスクだが、そのぶんハードルも高い。
まず、売上/販売数予測は、商品企画、コスト・生産の決定、販促活動などのタイミングで求められる。早い段階で予測したい一方で、早ければ早いほどデータが少なく精度が出にくい。「どのタイミングでどう活用するかを見極めることが重要だ」と西田氏。

そして、データ整備も「生半可な努力ではない」という。商品情報、販売情報、物流情報、購入者情報、そしてIP情報。それぞれ「Microsoft Excel」やCSVなど異なるフォーマットで管理されており、まずはこれらをまとめる作業から始まる。特にIP情報は、「これはスピンオフか、それとも独立した作品か」といった判断が必要で、実際データを見てみるとファン層が違うなど、さまざまな見方ができてしまう。つまり、「データを整備する人間が、ドメインもデータの使い方も熟知している必要がある」ということだ。

実際のプロジェクトでは、想定外のトラブルも発生した。西田氏が紹介したサンプルでは、フェーズ0でいきなり想定外のスキルが必要となり、データエンジニアや技術PM(プロジェクトマネージャー)を増員。しかしモデルの精度が低く、進行が難しい状況に陥った。調べてみると、目的変数が適切でないことが判明。フェーズ1では目的変数を変更したものの、SHAP値(機械学習モデルの予測値に各特徴量がどの程度影響を与えたかを定量化し、モデルの解釈性を高めるための手法)をそのまま使うのが向かず、ビジネス要件に合わせたアルゴリズムの改良が必要に。その後、MLOpsの専門家をアサインして実運用に向けたモデルの運用方法を検討し始めるも、フェーズ3では前に変更した目的変数に矛盾が発生し、モデルを作り直すことになった。

「右往左往していて心配になる進行に見えるかもしれない」と西田氏は苦笑する。あるプロジェクトも実際にこれに近いプロセスをたどったが、最終的には成果を出した。重要なのは、分析結果やモデルの精度は事前に想定できないという現実を受け入れることだ。後続の機能を作ると矛盾が発生することもある。西田氏は、「成果に執着するなら、レジリエンスのあるデータの準備と体制づくり、そしてプロジェクトの進行が必要」と振り返る。
「臨機応変さ」を支える3つのポイント
これらの実践を通じて西田氏が得たものとは、「臨機応変に対応出来るようなレジリエンスのある土台を作っておくという身も蓋もないような結論」だという。しかし、その臨機応変さを支える要素は、大きく3つに整理できる。

データ面:変化に強いデータ基盤の構築
先を見据えてデータ収集やデータ基盤構築に事前投資したことが、変化に即応できる土台となった。重要なのは、データ整備にビジネスドメインと分析のナレッジを活かすことだ。
プロジェクト進行面:変更/巻き戻し/ストップがいつでも可能な状態に
分析プロジェクトはやってみないと分からないことが多く、西田氏らもいくつかの岐路に立たされた。進行管理体制を整え、変化や逆境に強いプロジェクト推進が求められる。
体制面:多様性を力に、変化に適応しながら新たな価値を創造
多様な人材の融合がイノベーションの源泉。必要に応じて適切な人材をアサインできる体制こそが、複雑な課題を乗り越える原動力となっている。
魔法の杖はない。変化に耐えられる基盤を作り、試行錯誤を続け、適切な専門家を配置する。これらを地道に積み重ねることで、データは確実に事業を変える力となる。
【Q&Aセッション】
講演後のQ&Aセッションでは、データマートの整備方法やオープンデータの活用について質問が寄せられた。
Q1:データマートはどのように整備しているのか?メタデータ管理は?
西田氏:データマートは、各プロジェクトごと、または事業単位で構築しています。まず全体像をお伝えすると、全社のデータ基盤があり、その上で各事業単位のデータべースが存在します。プロジェクトは一つの事業と協働することが多いため、その事業専用のデータマートを作成することが多いです。
メタデータは、データカタログツールを導入して管理していますが、課題もあります。分析担当者はすでにデータを熟知しているので問題ないのですが、新しくデータを使おうとする人がすぐにキャッチアップできるかというと難しいことも。この点については現在もトライ&エラーを続けている状況です。
Q2:ゲーム業界でのオープンデータ活用は?
西田氏:市場のトレンドデータ、SNSデータ、ユーザーの声など、外部データの活用には取り扱うことが出来る範囲で積極的に取り組んでいます。自社の行動ログに加えて外部データも組み合わせることで、より打ち手に繋がりやすい知見を導出することができています。
文=酒井 真弓
※所属組織および取材内容は2025年9月時点の情報です
株式会社バンダイナムコネクサス
https://bandainamco-nexus.co.jp/
株式会社バンダイナムコネクサスの採用情報
https://bandainamco-nexus.co.jp/careers/
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