NISSAN×AWSがつくる「クルマの中のクラウド基盤」大解剖! ——高速CIでテスト時間75%削減|5000人が使う開発ポータル|コンテナ技術を量産車に適用
大変革期の自動車産業において、多くの自動車メーカーがSDV(Software Defined Vehicle)開発に取り組むなか、「AWS re:Invent 2025」ではNISSAN×AWSのSDVプラットフォーム「Nissan Scalable Open Software Platform」が発表された。 本イベントでは、日産自動車(以下、日産)とAWSが共同で取り組む「クルマづくりを支える」について、技術的な観点とプロジェクト体制の両面から詳しく解説が行われた。大変革期の自動車産業において、多くの自動車メーカーがSDV(Software Defined Vehicle)開発に取り組むなか、「AWS re:Invent 2025」ではNISSAN×AWSのSDVプラットフォーム「Nissan Scalable Open Software Platform」が発表された。
本イベントでは、日産自動車(以下、日産)とAWSが共同で取り組む「クルマづくりを支える」について、技術的な観点とプロジェクト体制の両面から詳しく解説が行われた。
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ソフトウェアがクルマの価値を決める時代へ。日産が取り組むSDV開発の全容
日産自動車株式会社
ソフトウェアデファインドビークル開発本部
ソフトウェア開発部
部長
杉本 一馬(すぎもと・かずま)氏
最初に登壇したのは、杉本 一馬氏。2001年に携帯電話の組み込みエンジニアとしてキャリアをスタートしたのち、一度ベンチャー企業を立ち上げ、2015年に日産へ入社した。
当時は世界中の自動車メーカーがソフトウェア開発の内製化へと大きく舵を切り始めた時期で、杉本氏は社内のソフトウェア内製化の推進を牽引してきた。
SDV開発が先行するアメリカや中国と比較すると、後発の取り組みになるものの、他社と競争していくための戦略的な技術を示したものが以下の図となる。

SDVとは本来、「ハードウェアを売って終わり」だった従来のクルマを「ソフトウェアの継続的なアップデート」によって進化させる概念だが、単にアップデートが可能なだけでは、他社との明確な差別化は難しい。
そこで差別化の鍵として定めたのが「AIとのコラボレーション」だ。主に3つのAI領域を軸に据えることで、他社に対して競争優位性を保ち、「日産ならではの価値を提供するSDVを作り上げていきたい」と杉本氏は話した。

1つ目は、AIがクルマを運転して自動運転をさらに強力にサポートしていく「AI-driver」だ。2025年12月に提携を発表したWayve社と共に、ニューラルネットワークを活用した次世代自動運転の開発に着手している。
また、クルマが外の世界とつながり、AIがドライバーや同乗者と会話をしながらリクエストに応える「AI-Eco system」のほか、AI活用によってソフトウェアの開発自体をより効率的かつ高速化していく「AI-Software development」にも取り組んでいる。

続いて、杉本氏は日産のSDV開発におけるコンセプトを紹介した。
これまでの車両売り切り型モデルから、販売後のアフターセールスを通じて、クルマに新たな価値を継続的に付与し、それに対する対価をいただく。
従来のように顧客へ車両を引き渡した後も、ソフトウェアを通じて常に最新の状態へアップデートし、「ユーザー一人ひとりの好みに合わせた細かなカスタマイズが可能なサービスとプラットフォームを目指している」と杉本氏は説明した。
また、スマートフォンの登場が生活を変えたように、クルマもSDVの世界になると「走る・曲がる・止まる」といった移動手段から、新たな役割を担う存在になり得ると杉本氏は述べ、「未来をどれだけ想像し、それに対して柔軟に対応できるプラットフォームを用意できるかが鍵になる」と語った。
車両販売後のメンテナンスに留まらず、サードパーティーなどの多様なプレイヤーが日産のデバイスを活用して参画できる仕組みを整えることで、新たなビジネス・オポチュニティの創出につながるわけだ。
SDV開発を通じて、以下のようなプラットフォームの構築を目指しているという。

SDV実現のためには、クラウド上での開発基盤やパーソナライゼーションを実現するためのデータ活用プラットフォーム、そしてアップデート可能なビークルOSといったイネーブラーが重要になってくる。これらのイネーブラーを掛け合わせることで、他社よりも迅速に新しい価値を継続的に顧客へ提供し続け、日産の強みである安全性、パフォーマンスの精度を損なうことなくSDVを適用していくという。
杉本氏は日産の目指すSDVのかたちとして、①迅速かつ継続的に価値を提供する②必要な安全性と性能を確保する③すべての顧客にSDVを届けるの3つを掲げる。
特に、日産がこれまで培ってきた安全性への信頼や高いパフォーマンスといった強みを損なうことなく、それらを活かしながらSDVへの適用を進めていくことを大事にしているという。
また、現状としてはバッテリーを搭載したEV(電気自動車)のSDV開発が主流になっているが、日産ではEV以外のハイブリット車やICE車(内燃機関車)にもSDVを適用していく予定だと杉本氏は述べた。
そしてAWSと連携して構築を進める「Nissan Scalable Open Software Platform」では「Open SDK」「Open Data」「Open OS」の3つを軸に据えている。
車載のオープンOSを通じて顧客データやリクエストを収集し、解析・変換したうえでセキュアにソフトウェア開発を行いながら、SDK経由で迅速にOSへインストールしていく。日産は、この一連のサイクルをより効率的かつスピーディーに回すために、AI技術を導入し、迅速な価値の提供に取り組んでいる。
また、日産には世界中に開発拠点があり、各リージョンには顧客ニーズを最も理解するエンジニアが在籍している。現地のエンジニアが迅速に機能を開発できる体制を活かし、パーソナライズ、リージョナライズされたソフトウェアをいち早く展開するプラットフォームをつくりたいと杉本氏は語った。
日産×AWSが取り組む「Nissan Scalable Open Software Platform」
アマゾンウェブサービスジャパン合同会社
グローバルオートモーティブ事業本部
シニアソリューションアーキテクト
長谷川 仁志(はせがわ・ひとし)氏
次いで、AWSで自動車メーカーの技術的な支援を担当する長谷川氏が登壇した。
日産はITや研究開発など幅広い分野でAWSを活用してきたが、2023年からはSDVの領域でも本格的にAWSの導入を開始。主に以下の3つの領域で支援してきたと長谷川氏は説明した。

車両開発のためのクラウドベースの開発環境を指す「Tool on AWS」、デジタルツインを実現するために、クラウド上で車載ソフトウェアを開発するための仮想環境「バーチャルECU」を実行し、開発効率を向上させる「Target on AWS」、そして両開発に関わる膨大なデータをAWS上で一元管理・活用する「Data Driven on AWS」の3本柱が肝になっている。
これらの中で、Nissan Scalable Open Software Platformの中核となるのが「Engineering Cloud」だ。

図のように、Engineering Cloudが提供している機能は大きく分けて3つある。
CIプロセスの自動化はすでに本番環境で運用されていて、車載ソフトウェア開発におけるCIパイプラインの実行時間を、従来比で75%削減することに成功した。

日産はこれまでオンプレミス環境でCIパイプラインを構築・運用していたことから、ソースコードのビルドやテストに多くの時間を要していた。そこでAmazon S3やEC2、Lambda、Auto ScalingなどAWSの各種サービスを活用することで、車載ソフトウェア開発におけるパイプラインを最適化し、処理速度の大幅な改善につながった。
このパイプラインは仮想環境で検証を実施する「SIL(Software-in-the-Loop)」と、開発したソースコードを統合・テストし、結果を自動で出力する「統合パイプライン」の2段階で構成されていて、開発スピードと品質の両立に大きく貢献した。
特にAWS Step Functionsを活用し、バッチ処理を並列化・最適化することで、オンプレミス時代には実現できなかった高効率なビルド・テストプロセスの構築を実現したという。

また、新しい開発を迅速に立ち上げるための「ワークベンチポータル」を提供しており、グローバルの複数拠点から数分で開発環境にアクセスできる基盤として利用している。
このポータルには、オープンソースフレームワークのBackstageを採用し、開発環境のデプロイ自動化やエンジニアが必要なツールを同梱した環境を簡単に構築できる仕組みになっている。開発環境にはコンテナ技術を活用し、AWS CodeBuildやImage Builder、Amazon ECRを組み合わせて効率的なビルドとデプロイを実現しているほか、AWS CodeBuildでは「Docker-in-Docker」機能を活用し、ビルドツールや依存ライブラリを柔軟に管理している。
ワークベンチポータルは将来的に5000人以上の開発者が利用する計画があり、「共通の開発環境やローカル特性の両立を図りながら、より迅速で柔軟な車両開発を支援するプラットフォームへと進化させていく」と長谷川氏は述べた。

さらに、デジタルツインの実現に向けた「軽量コンテナ管理」の開発も進めているという。
従来の自動車では、ECU(Electronic Control Unit)ごとに専用ハードウェアを用意し、個別のアプリケーションを直接デプロイする方式が一般的であった。近年ではコンテナ技術をECUに取り入れ、実行環境を抽象化することで、ソフトウェアの更新や運用の柔軟性を高める動きが進んでいる。
日産では、各拠点で開発された多様なアプリケーションを共通の仕組みで車両に適用することで、更新の容易さと開発効率・メンテナンス性の向上を目指している。技術的にはセキュリティと軽量性に優れたPodmanを採用し、AWS Gravitonを活用してクラウド環境と車載環境をArmアーキテクチャで統一することで、リソース制約の厳しい車載環境においても小規模かつ効率的なコンテナ運用を実現している。
これからの自動車業界はソフトウェアエンジニアが牽引する
後半に行われたパネルトークセッションでは、「日産・AWSに聞く、クルマづくりを支えるクラウド潮流のリアル」をテーマに、日産自動車株式会社の湯原 拓朗氏とアマゾンウェブサービスジャパン合同会社の河田 浩平氏が議論を展開した。
日産自動車株式会社
ソフトウェアデファインドビークル開発本部
ソフトウェア開発部
主担
湯原 拓朗(ゆはら・たくろう)氏
アマゾンウェブサービスジャパン合同会社
プロフェッショナルサービス
シニア プロサーブ クラウドアーキテクト
河田 浩平(かわた・こうへい)氏
湯原氏:私は前職の電機メーカーでサーバー機器向けのファームウェアやソフトウェア開発に従事した後、2017年に日産へ入社しました。当初はソフトウェア開発部の立ち上げに参画し、自動運転(AD)の量産ソフト開発に関わるなど、チームとして新しい取り組みを進めてきました。現在はAWSと連携した次世代の開発環境づくりに取り組んでいます。
河田氏:私は新卒で自動車メーカーに入り、約9年間エンジン開発に携わっていました。現在はAWSのプロフェッショナルサービス部門に所属しています。元々は機械設計や開発が専門で、今はIT分野に関わっていますが、「技術で社会を良くする」というものづくりの本質を大切にしながら、日々仕事に取り組んでいます。
セッションの冒頭では、Nissan Scalable Open Software Platformの構築における両社の役割と自動車業界のトレンドについて湯原氏が紹介した。
湯原氏:日産は車両側の要件定義から設計、ソフトウェア開発までの工程を担当しています。ソフトウェア開発を効率的かつスピーディに進めるためには、開発環境の整備がとても重要になりますので、AWS様にはクラウドソリューションを用いたアーキテクチャ設計やプロトタイプ開発を担当いただきました。日産の持つ既存のAWS基盤や社内IT基盤を活かしつつ、AWSのグローバルな知見やリファレンスをもとに、お互いに連携しながらプロジェクトを推進しています。
自動車業界のトレンドを振り返ると、かつては「走る・曲がる・止まる」などの基本性能が重視された時代から、自動車業界を大きく席巻した「CASE」という技術革新を経て、現在はソフトウェアがクルマの価値や機能を定義する「SDV」へとシフトしました。
この変遷の中でソフトウェアの重要性は急速に高まっており、これからの自動車業界を牽引するのは間違いなくソフトウェアエンジニアだと確信しています。
自動車開発には車両内で動作する組み込みソフトウェアの開発と、クラウドやITインフラを活用した開発の領域があります。前者は安全性や信頼性、起動時間などの厳しい要件を満たすことが求められ、後者はDevOpsなどを活用して迅速かつ柔軟な開発が必要になり、今後の自動車におけるソフトウェア開発は、双方の技術を融合させながら進化していくと考えています。
河田氏:クラウドプラットフォームを提供する立場から見ても、今の自動車業界は大きな転換期にあります。かつてはMATLAB/Simulinkを使った「モデルベース開発」が主流でしたが、今は自動運転の進化やSDVの台頭によってソフトウェアエンジニアが自動車開発の中心的存在となりつつあります。
ソフトウェアと車両開発のチームによる連携体制がSDV開発を加速
こうしたなか、日産はCASEの潮流に乗るため、ソフトウェア開発の内製化に舵を切った。その第一歩が2017年のソフトウェア開発部の立ち上げだ。
湯原氏:まずは自動運転領域から内製化を開始し、CIパイプラインの構築などを通じて開発効率化の知見を蓄積してきました。現在は、内製で培ったノウハウにAWSのクラウド技術を融合させ、よりスピーディーな開発体制へと進化させるフェーズにあります。
日産はあくまでクルマのソフトウェア開発を主軸としてきた組織であり、最初からクラウド技術のスペシャリストが揃っていたわけではありませんでした。そのため、AWS様との協業は単なる技術導入にとどまらず、私たちの開発メンバーに対する「スキルトランスファー」や「ナレッジ共有」の側面で非常に大きな意義がありました。
実際のプロジェクトを通じてクラウドの知見を共有いただくことで、メンバー一人ひとりが着実にスキルアップを果たしています。
河田氏:私が初めて杉本さんや湯原さんにお会いしたのは2022年のことでした。その際に印象的だったのは、日産のオンプレミス環境がすでに出来上がっており、クラウドへのマイグレーションが驚くほどスムーズだったことです。
クラウドには、スケーラビリティの高さや数千台規模で同時に環境を立ち上げられる利点がありますが、オンプレミスでの開発環境がしっかり構築されていないと、その効果は十分に発揮できません。
日産様が2017年から内製化に取り組み、地道に積み上げていた「ソフトウェア開発の基礎体力」があったからこそ、クラウド環境へ移行した際にすぐに効果を発揮できたのだと思います。まさに、長年の内製化への取り組みがクラウド活用の成功を支えた好例だと感じました。
一方で、車両開発のチームと車両の量産開発を担うチームとの間では、どのような連携がなされていたのでしょうか。
湯原氏:ソフトウェア開発部の立ち上げ当初は、ソフトウェアとハードウェアの開発が密接に連携できるように、あえて車両開発チームと同じ拠点に開発チームを置く戦略を取りました。歴史ある大企業ゆえの部署間の壁もありましたが、毎日のように現場へ足を運び、膝を突き合わせて議論を重ねることで、SDV実現に向けた強固な連携体制を築くことができました。
河田氏:そうだったのですね。しかし、PoCで終わらせずに量産化までもっていくには多くの困難があったのではないでしょうか。そんななか、日産のソフトウェア開発部チームはどのように壁を乗り越えてきたのでしょうか。
湯原氏:自動車業界では多くの先行研究や開発テーマがありますが、PoCで終わってしまうケースも少なくありません。日産ではPoC止まりにせず、すべての技術テーマで量産化を検討する「レビュー会」を必ず設け、実際のクルマづくりにどう活かせるかを議論しています。その成果の一つが、クラウドを活用したCIパイプラインの構築やワークベンチポータルの開発で、PoCを経て量産開発に活用されている事例となっています。
限られた予算を有効活用するため、日産では量産化の道筋が見込まれるものにリソースを集中させています。この「選択」と「集中」が、高い確率で実用化につながっていると考えています。
もちろん、すぐには形にならなかった事例もあり、数年前から取り組み始めたバーチャルECUは、技術的制約で量産化を一度は断念せざるを得ませんでした。しかし、立ちはだかる幾多の制約を乗り越えた今、ようやく実現の見通しが立ってきたと感じています。
【Q&Aセッション】
Q&Aセッションでは、日産とAWSの登壇者が参加者からの質問に対して回答した。
Q. 物理ECU内でソフトウェアをコンテナ化する場合、Linux前提となる課題があるが、どの物理ECUでコンテナを利用可能にして機能安全とLinuxを両立させているのか。
杉本氏:結論から言うと、機能安全とLinux環境は明確に切り分けています。これこそが自動車メーカーにおけるソフトウェアエンジニアリングの醍醐味であり、設計の「肝」だと確信しています。車内にはリアルタイムOSやLinux、Androidが共存しており、各機能をどの環境で動作・連携させ、どの層で分離すべきかを慎重に見極める必要があります。
安全性を維持しつつ、更新の柔軟性をどう確保するか。
このようなグランドデザインを描くことが、自動車メーカーでソフトウェア開発に携わる最大の意義だと考えています。
Q. 日産とAWSの双方の視点から、お互いをどう評価しているか?
湯原氏:まず大きなポイントとして挙げられるのは、サービスの豊富さと多様なソリューションを持っている点だと思います。AWS様のクラウドプラットフォームは、高い安全性と信頼性を兼ね備えており、これが多くの企業に選ばれる理由のひとつだと感じています。また、幅広い業界での導入事例をお持ちでしたので、それらを参考にリファレンスアーキテクチャという形で、日産社内への導入も非常にスムーズに進めることができました。
河田氏:日産様の強みは、PoCによる先行開発から量産開発へつなげていく実行力にあると思います。また、ソフトウェア開発部チームと車両開発チームの関係性がしっかりと築けているのも印象的でした。杉本さんや湯原さんが長年かけて、自動車開発の現場に深く入り込み、丁寧な対話を積み重ねてきたことが、PoCから実用的な開発へと昇華させる原動力になっていると感じます。
Q. 日産がオンプレミスからクラウドへの移行を成功させた要因は?
河田氏:クラウド移行成功の最大の要因は、オンプレミス時代から磨き上げた「テストの仕組み」にあります。自動車開発では極めて高い安全性が求められ、かつ広範囲な検証が不可欠です。こうしたなかで、日産様は「いかに効率的かつ広範囲にカバーするか」という独自のノウハウをお持ちだったのが大きかったと考えています。
技術的には、個別のテストケースを用意するのではなく、一つのロジックに数千パターンの入力を与えるアプローチを採用しています。計算リソースをスケールさせながら並列処理を実行する際に、高いスケーラビリティとコスト効率を両立できるAWS Lambdaが大きな役割を果たしています。1回の処理は約15分と短時間で完結するため、長時間バッチには不向きですが、短時間で完結するテストには非常に適しており、数千単位のスケールアウトを安価かつ柔軟に実現できました。
湯原氏:Lambdaの活用については、従来のテストを単に移行しただけでなく、導入にあたってはテスト処理の見直しや最適化を丁寧に行いました。既存のテストの中に冗長な処理が多く含まれていることが散見されたため、一つひとつ見直しを図りながら中身を徹底的に精査しました。その結果、不要なテストケースや無駄な入力データを整理し、実行効率の高い構成に組み替えたことで、Lambdaのスケーラブルで軽量な処理特性がより活かせるようになりました。
Q. バーチャルECUでは最終的に自動車を使った評価を実施するのか?
湯原氏:ハードウェア(実機)を用いたテストは、今後も重要な工程として残り続けると考えています。バーチャルで抽象化できたとしても、やはりハードウェアの持つその性能や非機能要件の検証を完全に代替することは極めて困難だというのが、これまでの経験から分かっているからです。
そのため、私たちは「バーチャルで検証できる領域をいかに最大化し、実機テストの役割を最適化するか」という考え方にシフトしています。現在は実機でしか確認できないクリティカルな検証と、バーチャルの領域でテストを実施する仕組みづくりに取り組んでいるところです。
河田氏:技術的な観点から補足すると、ECUは車の中で多数のセンサーや外部デバイスと常に連携しており、膨大な情報が高速で入力されています。この動きをバーチャル環境上で完全に再現するのは非常に難しく、限界があるからこそ「抽象化」という考え方が重要になります。
外部との入出力(I/O)など、ハードウェアへの依存度が極めて高い部分をあえて抽象化して切り離すことで、ソフトウェアロジックのテストをバーチャル上で完結させています。
杉本氏:現状の技術レベルでは車両本体やハードウェアと一体で品質保証を行う必要があり、完全な仮想化は難しいのが現状です。しかし、最終的な品質保証を実機での評価に全て依存させてしまうと、どうしても開発スピードが停滞してしまいます。そのため、高頻度でアップデートが必要なソフトウェア領域については、品質保証も含めてできる限りバーチャル環境で完結できるような仕組みを整えていきたいと考えています。
Q. SDV開発に関わりたいと思った場合、学生の時にやっておくべきことは?
湯原氏:今の学生はデジタルネイティブ世代だからこそ、技術を使うだけでなく「新たな価値をどう作るか」という視点を大切にしてほしいです。SDV開発に興味があれば、今年度から日産で始まった実務型インターンを通じて、実際の現場で技術の裏側を学び、ものづくりを体験してみるといいのではないでしょうか。
河田氏:学生のうちに自動車開発そのものを学ぶのは困難ですが、ソフトウェア領域では多くのことを学べるでしょう。SDV開発は組み込みのソフトウェアやWebアプリケーション、モバイル、AIなど幅広い技術が関わっていますが、私が若いエンジニアにいつも伝えているのは「原理・原則を突き詰めてほしい」という点です。
社会人は時間に追われてしまい、既存の仕組みをどう使いこなすかという視点に寄りがちですが、学生なら技術の仕組みそのものを掘り下げることができる。
この一段踏み込んで考える経験は将来大きな強みになるので、ぜひ時間をかけて本質を突き詰める姿勢を大切にしてください。
文=古田島 大介
※所属組織および取材内容は2026年1月時点の情報です。
日産自動車株式会社
https://www.nissan.co.jp/
日産自動車株式会社の採用情報
https://www.nissan.co.jp/RECRUIT/
ソフトウェアデファインドビークル開発本部特設サイト
https://www.nissanmotor.jobs/japan/MC/EEandSystemsEngineeringDivision/
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