【対談】POL×eiicon 〜アカデミアに山積する課題を、日本のLabTech領域の旗手として解決していく〜
優秀な人材が日夜研究に勤しむアカデミアの世界。しかし日本のアカデミアはIT化が遅れ、ヒト・モノ・カネ・情報、すべてにおいて課題が山積している。その課題に切り込んでいこうとしているのが、「研究室×IT=LabTech」の領域で事業を展開する株式会社POL。CEOは、東大教養学部在学中で自らも理系人材である、加茂倫明氏だ。
同社はまず理系学生の研究と就活の両立を支援すべく、2017年2月に研究室と所属学生のデータベース 『LabBase(ラボベース)』をリリース。半年あまりで東大をはじめとする理系学生約3000人(2017年10月時点)が登録するサービスへと育っている。
オープンイノベーションプラットフォームを展開するeiiconは、POLが擁するアカデミアの情報とeiiconのリソースを掛け合わせることで、新たなサービスを展開していこうとしている(※)。加茂氏がアカデミアに抱いた課題感、見据えている未来、そして両者の協業で創出されるイノベーションの可能性とは。22歳の若き学生起業家と、eiicon founder 中村 亜由子(上写真/左)が対談を行った。
▲株式会社POL 代表取締役CEO 加茂 倫明氏
理系学生の就活に問題意識を感じたことが、『LabBase』誕生のきっかけ
中村: 『LabBase』のリリースは2月28日。eiiconは27日なので、1日違いなんですね。東大在学中の起業ですが、いつ頃から起業を考えていたんですか?
加茂: 高校2年生頃からですね。起業に興味を持った理由は3つあります。1つ目は、父が経済学の教授で家にビジネス書が溢れており、ビジネスが身近だったこと。周りの友達がゲームで遊んでいる中、僕はバフェットを読んでいるような意識高い系高校生でした(笑)。
2つ目は、人に言われて何かをするのが嫌で、自分でやりたいことをやった方がパフォーマンスも上がると気付いたこと。
そして3つ目は、世の中に広く価値提供をしたいという気持ちが強かったことです。起業なら、ビジネスができて、好きなことも追求でき、かつ多くの人に良い影響を与えられると考えたんです。といっても、当時は具体的なアクションにまでは至らず、まずは東京に行こうと、東大に進学しました。
中村: 「いつかは起業したい」という気持ちは持っていたんですね。
加茂: そうですね。東大入学後は、1年生の頃からベンチャーでインターンをしたり、2年生の時には休学してシンガポールでヘルスケアサービスを作ったりしていて。そのうちに、「やりたいことが見つかったらいつでも起業しよう」と気持ちの準備も整い、課題探しを始めました。
中村: 立ち上げのきっかけとなった課題意識は、どんなきっかけで芽生えたんですか?
加茂: 僕は理系の人間なのですが、ある時先輩が「研究が忙しくて就活できない。とりあえず研究室推薦で行けるところに就職する」と話していたんです。研究に打ち込む優秀な人には多くの選択肢があるはずなのに、その可能性に触れることもなく大事な進路を決めてしまう。この状況、勿体ないと思いました。本当はもっと広い視野を持って、自分がどこに行くべきか、自分の頭で考えて欲しい。だけど、現実には難しい。こうした多くの理系学生を悩ませる「研究と就活の両立」を解決するためのサービスを作ることにしました。
ここは企業視点で見ても、可能性がある領域です。今後、理系人材の採用ニーズはどんどん高まっていきます。しかし就活市場に出てくる理系人材は圧倒的に少なく、各社苦心している状況です。これまで理系学生に特化したサービスを成功させている会社も他にないことから、社会的意義だけではなくビジネスチャンスもあると考えました。
中村: サービスの詳細は1人で詰めていったのですか?
加茂: 元ガリバーインターナショナル専務取締役 吉田行宏さんにアドバイスを受けました。吉田さんとは会社登記の2カ月くらい前にあるイベントでお会いして。その後オフィスに訪問して事業の相談をしたんです。吉田さんの圧倒的な戦略思考力と、僕を起業家として育てようとしてくださるスタンスに惚れて、会社の立ち上げは2人で行いました。現在も取締役として指導をいただいています。
リリース半年ほどで、東大理系学生の4人に1人が登録するサービスに
中村: 2016年9月に登記して、今年2月にサービスリリース。結構急ピッチですよね。
加茂: よく頑張ったなと思います。2016年10月頃から『LabBase』の案を具体的に詰めていって12月にプレスリリースを行い、法人事前登録の募集を開始しました。その時点でシステムは開発していなかったのですが、まずは世の中の反応を見ようと思って。そしたら100社くらいから登録をいただいたんです。そこで他社で活躍していたエンジニアを口説き落として入ってもらって、何とか2017年2月にサービススタートさせることができました。
中村: eiiconと時期も流れもほとんど同じ!法人企業の登録は順調でしたか?
加茂: そうですね。開発を行う間に、企業に営業し続けていきました。まだ見せられるサービスも実績もないので、「こういうサービスあるべきだと思うんですよ。最初の事例を作りましょう!」と、エモさで推していました。そして4月には、サービスを通した初採用が決まりました。「一人の人生を動かしたぞ!」と感慨深かったですね。
中村: 学生側のエントリー状況はどうでしたか?
加茂: 2月のリリースまでに300人が目標でしたが、サークルの先輩が研究室を訪問するなどして尽力してくださり、ぎりぎり達成できました。現在(2017年10月時点)は約3000人ほどで、東大は理系学生の4人に1人が登録しています。他にも東北大学、京都大学、大阪大学、北海道大学、筑波大学、東京工業大学など、優秀な理系学生の活用が広がっています。
中村: 他にないデータベースですね!ここまでどうやって広げていったのですか?
加茂: 理系学生は就活意識があまり高くないので、「就活サービスです」と広告を打つだけでは、登録数の増加は見込めません。POLの場合は、全国各大学の学生がアンバサダーとして大学の研究室を訪問したり、キャンパス内でイベントを行ったり、理系学生団体と提携したりと、オフラインで広めていっています。
こうした全国に広がる学生によるネットワークは、他にない強みですね。こうして供給サイドをしっかり集めた上で、その後は研究室検索機能や、奨学金検索機能など、就活以外の理系学生が気になる機能を追加していきます。
中村: POLさんの問題意識やビジョンに共感した全国の学生の方々が、自ら課題解決のために行動しているからこそ、拡大しているのですね。
eiiconとの連携で、企業とアカデミア距離を、もっと縮めていきたい
中村: 将来的にはどのような展開を考えていらっしゃいますか?
加茂: 研究室を訪問して教授や研究者と対話を重ねるうちに、アカデミアにはヒトだけではなく、モノ・カネ・情報すべてに課題が山積していると実感しました。ヒトの面では、新卒・中途の他、ポスドク問題は根深いですね。情報では、各研究室での研究内容の情報が表に出ていないこと、モノでは試薬の在庫管理などが未だ紙ベースであること、カネでは研究費の分配が基礎研究には集まりにくいこと――無数に課題があるんです。
POLの事業構想としては、まずは事業の核として理系人材の市場を取りつつ全国のラボのメンバーや研究室とネットワークを作り、アカデミアが抱える課題を解決するサービスをリリースし、研究者のパフォーマンス向上と科学や社会の発展につなげていきたいと考えています。
中村: eiiconでは連携先として大学の研究室を探せる機能をもっと充実させていきたいと考えています。しかし、企業とアカデミアでは同じ領域に取り組んでいたとしても、使っている言葉が全く違うことがあります。こうした事態を目の当たりにして、単に企業と研究室をつなげるだけではほぼ意味を成さないと考えているのが現状です。
ただし、企業が新しい事業を考える上で、研究室の知見やアイデア、視点はとても重要なキーファクターになりうるはず。そこで、理系研究室人材のデータベースを持ちアカデミアの課題解決を見据えるPOLさんと一緒に事業会社×大学研究室の座組みを検証していけたらと思っています。
アイデアソンも企業内だけで行うのではなく、アカデミア人材も交えたらもっと面白いものが生まれるはず。
加茂: もっと企業とアカデミアの距離を近づけていきたいですよね。POLは理系に特化して研究室・研究者・学生に関する様々な情報を集めています。僕らがそうした情報を提供し、eiiconさんのプラットフォームで色んな企業とつなげていただく。そんな良いパートナーシップを築けるはずだと思っています。
中村: あと、これは私の一方的な願望ですが、いずれ人材参入をeiiconが成しうる際には、ポスドク問題のためのサービスを共同で作っていけたらいいですね。ポスドク問題や研究者の就職難は、日本の研究開発が遅れている大きな要因の一つですから。オープンイノベーションには「人」が欠かせないですから、人に関するサービスも行っていきたい。
加茂: いいですね!教育もセットでやっていきたいですね。民間企業で働いた経験のない人や、適性のない人がアカデミアには多いので、彼らに対する教育を行う仕組みも必要になってくるはずですから。
中村: 一緒に、面白い取り組みがたくさんできそうですね!
取材後記
「理系学生の研究と就職の両立は難しい」自らが理系学生として感じた問題意識から、事業のヒントを得た加茂氏。将来的には、アカデミアに横たわる様々な課題解決に取り組み、科学の発展につなげていくことを目指している。注目すべきは、POLが掲げるビジョンに共感し、全国の学生がサービス拡大へと動いていることだ。学部や専攻、そして大学の垣根を越えて新しい世界を実現していくうねりは、まさにオープンイノベーションといえる。
POLとeiiconとの提携も、オープンイノベーション。企業とアカデミアの距離は、そこまで近づいていくだろうか。
(構成:眞田幸剛、取材・文:佐藤瑞恵、撮影:加藤武俊)