「Developer eXperience AWARD 2025」から読み解く、日本の開発者体験の現在地
2025年7月15日、一般社団法人 日本CTO協会主催の「Developer eXperience AWARD 2025」表彰式が開催されました。技術者901名を対象とした「開発者体験ブランド力」調査の結果に基づき、上位30社が表彰されたこのイベント。その背景にある日本CTO協会の想いと、調査結果から、日本における開発者体験の現在地を探ります。一般社団法人 日本CTO協会について
「テクノロジーによる自己変革を、日本社会のあたりまえに」をミッションに掲げる一般社団法人 日本CTO協会は、2019年9月2日に設立されました。協会では日本を世界最高水準の技術力国家に成長させることを目指し、現在個人会員1,047名、法人会員102社、賛助会員1団体を擁しています(2025年8月29日時点)。
協会は現在、新たなビジョン「変革を実践するテクノロジーリーダーたちを生み出すプラットフォーム」を掲げ、以下3つのバリューを行動指針として設定しています。
- Give First:率先して、価値を還元する
- Grit:情熱を胸に、責任をもってやりきる
- Go Beyond:常識を超え、革新を創造する
コミュニティ運営、エンジニア育成、DX企業の基準作成、調査・レポート発行、グローバル進出支援などを通じて、これらの価値観を持つテクノロジーリーダーが日本社会全体の変革を担うと考え、技術責任者がその力を最大限に発揮できる環境を醸成しようと取り組んでいます。
開発者が企業の開発者体験を評価する「Developer eXperience AWARD」
同協会が2022年より毎年実施しているのが、各社が「開発者体験」についてどれだけ魅力的な発信をしているかを調査・評価する「開発者体験ブランド力」アンケート、その調査結果の上位企業30社を表彰するのが「Developer eXperience AWARD」です。このアワードは、各社のエンジニア採用力強化の指針となるだけでなく、開発者体験の向上と透明性やオープンネスなどの企業文化の重要性を広く認知してもらうことを目的としています。
「開発者体験」はさまざまな要素を含みますが、日本CTO協会が定義している「開発者体験」は、エンジニアとしての生産性を高めるための技術、チーム、企業文化など、開発者を取り巻く環境全体を指します。

協会代表理事の今村雅幸氏(株式会社BuySell Technologies 取締役 CTO)によると、アワードを通じて目指すのは「開発者体験の発信、採用広報活動の指標、羅針盤を作る」こと。特に強調する真の狙いは「企業の開発者体験が向上し→社外に発信され→社内外に認知されるという好循環をつくること。そして、その循環によって技術者を活かす企業が成長し、そうした企業が増えることで、最終的に日本全体の技術力向上につなげること」だと語ります。
本アワードでは対象企業の発信などを通じて、技術者自身が対象企業に対して「開発者体験が良い」というイメージを持っているかどうかが評価につながります。
2025年度の調査では、技術者901名を対象に「開発者体験ブランド力」調査・集計を実施し、上位30企業を選出しています。
「Developer eXperience AWARD 2025」開催概要と受賞企業
「Developer eXperience AWARD 2025」開催概要
「Developer eXperience AWARD 2025」当日は、下記の流れで進められました。
- 開会の挨拶
- 「Developer eXperience AWARD 2025」について
- 表彰式(30位~1位表彰・受賞企業コメント)
- 今年度のトレンド・傾向について
- 受賞企業によるトークセッション
登壇企業:日本CTO協会 理事・株式会社LIFULL/株式会社LayerX/さくらインターネット株式会社/株式会社DMM.com - 閉会挨拶・フォトセッション
- 懇親会
「Developer eXperience AWARD 2025」受賞企業
「Developer eXperience AWARD 2025」1〜30位までの受賞企業は以下画像の通りです。

引用:プレスリリース『日本CTO協会 | エンジニアが選ぶ "開発者体験が良い" イメージのある企業ランキング「Developer eXperience AWARD 2025」上位30社を発表』
「Developer eXperience AWARD 2025」の傾向
雇用者に焦点を当てた「エンプロイヤーブランディング」
表彰式では、同協会でテックブランディングワーキンググループに参画する吉田 武志氏(株式会社Jストリーム / インキュベート室Mgr)が、開発者体験の背景にある世界的なトレンド「エンプロイヤーブランディング」について解説しました。

エンプロイヤーブランディングとは、「雇用者」という立場に焦点を当て、企業で働く人にとって魅力的な企業・職場になることを目指す取り組みを指します。吉田氏はこの観点をふまえて、「開発者体験の向上と発信自体が、企業にとっての重要なエンプロイヤーブランディング活動の一環」であることを強調しました。
エンジニア採用が激化するなかで、各社はエンジニア文化や技術ノウハウを積極的に発信してきましたが、これらの成果を客観的に評価する場はこれまでほとんどありませんでした。そこで本アワードは、まさにそれを実現する仕組みだと改めて意義を説明しています。
2025年度、開発者が評価したコンテンツとは?
2025年度のランキング上位企業30社を選択した開発者を対象に、該当の企業が行う情報発信のなかで
- 開発者体験が良さそうだと感じたコンテンツ
- 認知している発信チャネル
の2題を新規調査項目として追加・公表し、アワードでは「開発者体験で良さそうだと感じたコンテンツ」の一部分析結果が紹介されました。

引用:プレスリリース『日本CTO協会 | エンジニアが選ぶ "開発者体験が良い" イメージのある企業ランキング「Developer eXperience AWARD 2025」上位30社を発表』
調査結果では、「開発戦略」「技術戦略」「プロダクト戦略」など、戦略についての情報発信のほか「組織文化」や「働き方」など、開発者を取り巻く働く環境や組織づくりへの取り組みについてのコンテンツが上位に挙がっていることが明らかになっています。
なかでもアワードの上位5社の平均は、上位30社と比較して以下コンテンツがとくに高く評価されていることも特徴です:
- 開発戦略:開発生産性、開発プロセス、技術的負債
- 技術戦略:技術選定、アーキテクチャ、研究開発
- プロダクト戦略:ドメイン、プロダクトマネジメント、ロードマップ
- オフィス環境:ディスプレイ、PC、オフィスチェア、オフィス機能
- 開発ツール:IDE、GitHub、Copilot、Wiki、生成AIツール
- プロジェクト事例
生成AI時代に求められる開発者体験とは
2025年度は、生成AIの出現により技術者や技術組織が大きな変化に直面した年でした。今村氏によると、こうした背景から企業の生成AI活用に関する発信に多くの関心が寄せられており、具体的には、どのような生成AIを導入しているか、それをどう事業成長に活かそうとしているかといった技術戦略や、社内での活用事例などに注目が集まる傾向にあるようです。

「生成AIの出現によって技術組織が大きな変化に直面している。今まさに各企業、各自が試行を繰り返し、現状をシェアしながら議論しているところだ」と今村氏は語り、こうした変化が「開発者体験が良さそうだと感じたコンテンツ」の調査結果にも色濃く反映されていると分析しています。
一方で吉田氏は、今回の調査結果をふまえ、企業が開発者体験に関する情報を発信する際には、エンプロイヤーブランディングの視点を意識することの重要性を改めて強調しました。戦略的にコンテンツを選定し、社内外の人材両方を意識して発信。それに加えて企業独自の文化を発信し、共感を集めることが、より効果的な採用広報活動のカギとなるとしました。
このような変革期において、企業には自社が目指すべき開発者体験を明確に定義し、それを実現・発信していくことが求められているのではないでしょうか。
取材=武藤 竜耶(パーソルイノベーション)
文=宮口 佑香(パーソルイノベーション)
※所属組織および取材内容は2025年8月時点の情報です。











