【トレジャーデータ】生成AI導入「成功する5%」の企業が実践する業務再設計と人材育成の秘訣
生成AIを導入しても思うように成果が出せない――そんな悩みを抱える企業は少なくない。MIT(マサチューセッツ工科大学)の調査によると、ビジネスインパクトを生み出せている生成AIプロジェクトは全体のわずか5%にとどまるという。 講演で登壇したトレジャーデータ株式会社の金野浩之氏と池田俊介氏は、この“5%に入る企業”には共通点があると語る。 講演では、同社が支援するAIエージェント開発の現場で見えてきた成功・失敗の分岐点、CDPを基盤としたエージェント構築の強み、そしてAI時代に求められる人材像について、実践知をもとに語られた。生成AIを導入しても思うように成果が出せない――そんな悩みを抱える企業は少なくない。MIT(マサチューセッツ工科大学)の調査によると、ビジネスインパクトを生み出せている生成AIプロジェクトは全体のわずか5%にとどまるという。
講演で登壇したトレジャーデータ株式会社の金野浩之氏と池田俊介氏は、この“5%に入る企業”には共通点があると語る。
講演では、同社が支援するAIエージェント開発の現場で見えてきた成功・失敗の分岐点、CDPを基盤としたエージェント構築の強み、そしてAI時代に求められる人材像について、実践知をもとに語られた。
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95%が成果を出せない生成AI導入の壁と、成功企業の違い
演者プロフィール
トレジャーデータ株式会社
プロフェッショナルサービス
Manager, Enterprise Solutions
金野 浩之(こんの・ひろゆき)氏
トレジャーデータ株式会社
プロフェッショナルサービス
AI Solutions Architect
池田 俊介(いけだ・しゅんすけ)氏

セッションの前半では、池田氏がトレジャーデータ株式会社(以下「トレジャーデータ」)の事業と、自身が担当するAIエージェント導入支援の現場を紹介した。同社は、企業の顧客データを統合・活用するCDP(カスタマーデータプラットフォーム)を展開し、データとAIを軸に企業のマーケティングや業務改善を支援している。近年は生成AIを使ったエージェント開発を可能にする実行環境「AI Agent Foundry」も提供している。

そのうえで池田氏は、「生成AIの活用は、まだ多くの企業にとって手探りの段階にある」と切り出す。引用したMIT(マサチューセッツ工科大学)のレポート『The GenAI Divide: State of AI in Business 2025』によると、約95%の生成AIプロジェクトで十分なビジネス成果を出せていないことが報告されているという。
では、成果を出している残り5%の企業は、何が違うのか。池田氏は、それら企業におけるAIの位置づけの違いに着目する。
「成功している企業は、AIを便利な『道具』として扱うだけでなく、『業務再設計の仕組み』として位置づけています」(池田氏)
一方、成果が出づらいプロジェクトには共通する落とし穴がある。池田氏は次の5点に整理した。
1. 業務の流れに組み込めていない
2. AI導入の責任者がはっきりしていない
3. データやシステムが整っていない
4. 目的があいまい・期待が大きすぎる
5. 現場の人が使ってくれない

こうした課題を乗り越えるため、トレジャーデータではエージェント開発の際に5つのポイントを重視している。
まず、対象となる業務プロセスを徹底的に理解すること。うまくいっている現場の動きだけでなく、「本当は時間がかかっていて困っているところ」まで洗い出し、どこをAIで支援するかを見極める。
次に、何でもこなす汎用エージェントを目指すのではなく、具体的なタスクに絞り込んだエージェントを設計することだ。例えば「キャンペーンレポートのドラフトを作る」「分析結果をもとに施策案を3つ提示する」といった具合に、やらせたい仕事を細かい単位で定義していく。
3つ目は、ビジネスゴールとKPIを先に決めること。「問い合わせ対応時間を30%削減したい」など、目的が明確であればあるほど、エージェントの設計も評価も行いやすくなる。
残る2つはデータとコンテキストだ。AIに与える情報をどう用意するか、どのデータを読ませるのかを事前に決め、品質を整える必要がある。何の情報も与えなければ、どれだけ優秀なモデルでも「70点の推論」にとどまってしまう。

池田氏はプロジェクト全体像について、次のように説明する。
「プロンプトを書く作業は、エージェント開発のなかのほんの一工程にすぎません。実際には、プロジェクト体制づくりや要件定義、導入後の評価やチューニングまで伴走する、総合格闘技のような仕事です」(池田氏)
トレジャーデータでは、こうした経験を踏まえて、エージェント開発を5つのフェーズに分解し、「Agent Delivery Frame Work」を構築している。
1. プロジェクト体制構築
2. エージェント要件定義・タスク精査
3. エージェント実装・参照用データベース整備・構築物社内レビュー・エージェント納品
4. 評価・チューニング
5. 利活用・伴走支援
1つひとつのタスクを積み重ねながら導入を進めているという。

池田氏は、トレジャーデータのAIエージェントが成果を出しやすい理由として、同社が持つデータ基盤との相性の良さを挙げた。エージェントが業務の文脈を正確に理解するためには、適切なコンテキストを与えることが欠かせない。同社ではこのコンテキストを、2つの形態でAIにわたせる仕組みを用意している。
1つは、CDP上に蓄積された構造化データを扱う「データベースナレッジベース」だ。既存のテーブルをそのままエージェントに参照させられ、分析結果や顧客データなど、ビジネスに必要な数値情報を直接インプットできる。
もうひとつは、マニュアルやドキュメントといった文章情報を登録する「テキストナレッジベース」である。非構造化データをあらかじめ開発環境に用意しておくことで、エージェントが必要な知識を即座に参照できる。
この2つを組み合わせることで、ユーザーはシンプルな指示だけを出し、裏側ではエージェントが適切な情報を読み込みながら推論する。この仕組みを支えているのが、「AI Agent Foundry」だ。
AIエージェント構築に不可欠な「3つの専門ロール」
続くパートでは、「AI人材」へのキャリアチェンジのテーマにシフト。

「Agent Delivery Frame Work」を遂行する人材には、3つのロールの人材が欠かせない。
プロジェクト全体をリードするのが、プロジェクトマネージャー・ビジネスアーキテクトだ。顧客とのセッションを通じて業務を把握し、どんなエージェントを作るべきか要件を整理していく。ビジネス理解力やファシリテーション力が重視されるポジションだ。
2つ目は、AI・LLMエンジニアやアナリティクスエンジニアなど、プロンプト企画・設計やナレッジの構造化やマネジメント、必要に応じたデータ分析などを担う役割だ。池田氏自身も、このロールに近い仕事をしている。
3つ目は、データエンジニアやITアーキテクトに近い役割だ。エージェントが参照できるデータ基盤を整備し、新たなテーブルの設計や実装、セキュリティ面の配慮までを担当する。
「1人のスーパーマンがすべてをこなす、というイメージではありません。複数の専門性が組み合わさって、ようやく1つのエージェントが動き始める」と池田氏は強調した。
「ゼロからではない」AI人材へのキャリアチェンジ
ここからは、2人のキャリアの変遷が紹介された。

池田氏は広告代理店でデータアナリストとしてキャリアをスタート。アクセス解析やダッシュボード構築を通じて、デジタルマーケティングとデータ分析のスキルを磨いてきた。2019年にトレジャーデータに転職し、アナリティクスエンジニアとして分析基盤の設計などを経験。現在は、LLMエージェントの構築やプロンプト設計を担っている。

一方の金野氏は、新卒で入社した企業で営業やDM事業の顧客サポートを担当していた。そこで身につけたのは、ファシリテーションや課題の特定力といったビジネス寄りのスキルだ。2社目で国産MAベンダーの技術部に移り、データベースやサーバー、セキュリティなどの技術を習得。こうした経験を土台に、2019年にトレジャーデータに入社。プロンプトエンジニアリングやLLMのソリューション設計といった技術の幅を広げ始めたのは、ちょうど1年ほど前の2023年末頃。現在はソリューションアーキテクトとして、顧客企業のデータ活用・AI活用を支援している。
金野氏は、自身のキャリアを振り返りながら次のように語る。
「AI人材になるために、まったくゼロから新しいことをやり直したわけではありません。これまで積み上げてきたビジネスや技術のスキルを、AI時代に合わせて広げている感覚に近いです」(金野氏)
情報資産の壁を壊す:社内横断検索ツール「Glean」による業務改善
ここで金野氏は「AIが仕事を奪うのではないか」という不安に言及。そうした見方は根強いものの、同氏は「むしろ積極的にAIを使いこなせなければ、生き残ることが難しくなる」と感じているという。

トレジャーデータでは、データとAIへの投資を前提に、ガバナンスやセキュリティのルール整備、AI人材の育成、インフラ構築を進めたうえで、業務全体にAIを広く活用していく方針を掲げている。AIを単なるツールとして導入するのではなく、ビジネスや業務を再構成するための仕組みとして活用する。そのためには個々のスキルだけでなく、組織としての共通認識づくりが重要だと金野氏は語る。
生成AIにはハルシネーションや著作権の問題などのリスクもあるため、利用範囲や取り扱い方を適切に管理できる仕組みが欠かせない。

こうした前提を整えたうえで、同社ではクローズド環境で利用するAIツールを複数運用している。そのひとつが、社内に点在する情報資産を横断的に検索できる「Glean(グリーン)」だ。トレジャーデータは、自社の業務改善にも積極的にAIを取り入れている。
社内の情報資産を横断検索できる「Glean」を活用し、GitHub、Gmail、Slack、Salesforce、Confluenceなどさまざまな業務ツールに散らばる情報を横断的に検索できるようにしている。過去の問い合わせ対応の履歴をもとにチャットボットが社内QAに答えたり、長大なSlackスレッドを要約して現在の状況を整理したりする仕組みも整えた。

また、Geminiを使った社内向けエージェントも複数開発している。営業部門が商談前に顧客企業の情報を把握するためのリサーチ支援や、テストデータ生成の自動化、スクリプト作成の支援など、メンバーが本来注力すべき業務に時間を割けるようにする取り組みが進んでいる。
ただ、生成AIの活用にはリスクも伴う。ハルシネーションや著作権侵害といった問題に向き合うため、同社ではクローズドな環境での利用やデータガバナンスのルール整備を徹底している。
「『まずAIを使ってみよう』ではなく、どこまでの情報を預けてよいか、結果をどう検証するかといったルールづくりが欠かせません」(金野氏)
「偏差値75の新入社員」をどう育てるか

セッションの最後に、金野氏はAIとの付き合い方を次のような比喩で説明した。
「AIは、偏差値75の超ハイスペックな新入社員のような存在です。ポテンシャルはすごいけれど、まだ会社のことを何も知りません」(金野氏)
その「新入社員」に対して、企業独自のルールや用語、データ、これまで培ってきた仕事の進め方をどう教えていくか。ここに、AI活用の成否がかかっているという。
AIに仕事を奪われるかどうかを心配するよりも、AIと協力して成果を出せる状態をつくることが重要だ。会社ならではのナレッジを丁寧に学習させていけば、その企業に最適化されたエージェントを育てることができる。
「これから価値が高まるのは、AIそのものを作る人だけではなく、AIを教育し、現場で使える形に仕立てていける人材だと思います」(金野氏)
生成AI活用の明暗を分けるのは、モデルの性能だけではない。業務への深い理解、整ったデータとガバナンス、明確なゴール設定、そしてAIを“育てていく”視点だ――セッションはそんなメッセージで締めくくられた。
【Q&Aセッション】
Q&Aセッションでは、金野氏と池田氏がイベント参加者から投げかけられた質問に回答した。
Q. トレジャーデータでGeminiを選定した理由は何ですか?
金野氏:詳しい選定理由は把握していませんが、もともとGoogleアプリケーションを会社で契約して使っていた流れがあります。また、お客さまのデータをお預かりしている立場として、AIに顧客情報を流した際に学習データとして使われないよう、セキュリティ環境が担保できてベンダーロックができる点も重要でした。そうした条件を満たしつつ、既存のGoogle環境との親和性からGeminiが選ばれたのだと思います。
Q. 営業出身で最近IT部門にキャリアチェンジしました。エンジニア畑ではない人間だからこそ求められるスキルや経験はどのようなものでしょうか?
池田氏:今後重要になるスキルとして、それぞれの専門家の間に立って翻訳をする仕事、つまり考え方を受け取って理解し、整理・構造化するような中間に入る仕事の価値が高くなると思います。専門家の仕事はLLMなどで効率化されていくので、その間の接着剤的な人材を目指すのが良いのではないでしょうか。
Q. コンサルの役割が価値創造に近くなっている印象ですが、どんなプロジェクトだと価値創造しやすい、または逆にしづらいですか?
金野氏:プロジェクトによるしやすさ・しにくさはあまりないと思います。どちらかというと、入ったプロジェクトのなかでお客さまのビジネスをどう伸ばすか、ROIやKPIをどう定義するかという問題解決力や、課題をしっかり浮き彫りにすることがコンサルに求められています。課題設定がきちんと落とし込めていれば成功につながりますし、逆にそこができていなければうまくいきません。
文=宮口 佑香(パーソルイノベーション)
※所属組織および取材内容は2025年11月時点の情報です。
トレジャーデータ株式会社
https://www.treasuredata.co.jp/
トレジャーデータ株式会社の採用情報
https://www.treasuredata.co.jp/careers/
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