【日本総合研究所】現場で磨くテックリードのキャリア~エンタープライズで実践する挑戦と共創のリアル~
AI時代、個人の技術力や「力技」を磨くだけで、複雑化する組織の課題を解決し、価値を創出し続けることはできるだろうか。 TECH PLAY主催の「TECH PLAY Career Talk」に登壇した株式会社日本総合研究所の金光 淳一郎(かなみつ・じゅんいちろう)氏は、エンジニアがキャリアの各段階で直面する「3つの壁」と、それを乗り越えるための知性の進化を指摘する。本講演では、生成AI時代においても変わらない技術の本質や、組織を動かすための「ことば」の磨き方など、現場で磨き続ける、テックリードのための持続可能なキャリア戦略について語った。AI時代、個人の技術力や「力技」を磨くだけで、複雑化する組織の課題を解決し、価値を創出し続けることはできるだろうか。
TECH PLAY主催の「TECH PLAY Career Talk」に登壇した株式会社日本総合研究所の金光 淳一郎(かなみつ・じゅんいちろう)氏は、エンジニアがキャリアの各段階で直面する「3つの壁」と、それを乗り越えるための知性の進化を指摘する。本講演では、生成AI時代においても変わらない技術の本質や、組織を動かすための「ことば」の磨き方など、現場で磨き続ける、テックリードのための持続可能なキャリア戦略について語った。
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企画から運用、そしてグローバルへ。日本総研の「全社標準」を策定するテックリード・金光氏の歩み
演者プロフィール
株式会社日本総合研究所
技術統括部
プリンシパル
金光 淳一郎(かなみつ・じゅんいちろう)氏
株式会社日本総合研究所は、SMBCグループのシステム中核会社として、ITソリューション、シンクタンク、コンサルティングの3つの機能を展開している。
グループ各社のシステムについて、企画から運用までを一貫して担う同社で、今回登壇した金光氏はITソリューション部門に所属。現在はグローバル拠点と連携したアーキテクチャ標準の策定や大型案件のレビュー、人材育成などに携わっている。3年ほど前からクラウドにも本格的に取り組み、昨年には「AWS Top Engineer」にも選出された、現場と技術の双方に精通するテックリードだ。
20代の「ストロングスタイル」から30代の「制約」へ。ライフステージがもたらした学びの転換点


金光氏のキャリアはグループ会社のWebシステム開発から始まった。アプリケーションからインフラまですべてを内製化し、複数案件を並走させながら毎週のようにリリースする、アジャイル・SRE的な文化が根付いた現場だった。
20代のころは専門書をすみずみまで読み、フレームワークの深いコードまで理解しようとする「ぶつかり稽古」「ストロングスタイル」で技術を習得していた。この時期に直面したのが「技術の学び方・情報収集の壁」である。時間が無限にあるような感覚のなかで、独力と力技でこの壁を乗り越えていった。
転機は30代に訪れた。子供が生まれ、介護も経験するなか、突然時間が有限に変わったことで、これまでの学びのスタイルが通用しなくなる。
「割り切りが必要になりました。技術の追求を諦めるのも止む無しと思ったこともあります」(金光氏)
しかし、この制約が「物量と時間の壁」を突破するカギとなった。個人の力技から、周囲に聞きながら効率的に学ぶ姿勢へとシフトし、細かな情報収集が「点と線」で繋がり始める感覚を得たのもこの時期だった。
個人の力技から「組織の推進力」へ。最高位の壁を越えるために必要な「ナラティブ・熱量・迫力」
46歳となった現在は、さらに自身の学び方のスタイルを進化させている。物理的にすべてを把握することが不可能な全社レベルの役割を担うなか、個人のスキルから「役割分担・組織化」による組織学習へと完全に舵を切った。
また、学びの手段も効率化を追求している。学者が論文を読むように、まずアブストラクト(要旨)を読み、関心領域に絞って本質を掴むスタイルだ。
壁打ちに対する姿勢も変わった。若手のころからの習慣で、相応に調べてから議論するだけでなく、現在は、早い段階で周囲と壁打ちし、気づきを得ることを重視している。また若手・中堅との壁打ちも、効果的であることを実感している。相手が識者でなくとも、話す事で自分自身の思考も整理されることが非常に多く、また、育成にも繋がるためだ。
また、年を重ねるほど減っていく「耳の痛いフィードバック」をあえて得られる関係性も重視している。一人でできることには限界があり、多様な関係者との人脈が物事を進めるのに重要なキーと考えているからだ。
現在、金光氏が挑んでいるのは、エンタープライズレベルで物事を進める上で、最高位の壁の一つである「ロジックの壁」だ。
「広い領域で物事を動かすには、正論(ロジック)だけでは不十分です。ナラティブ(物語性)、熱量、迫力を持って周囲を巻き込む力が求められます」(金光氏)
技術的な正しさを、いかに組織の推進力に変えていくか。その挑戦を続けている。
改めて、金光氏は「自分がコントロールできるところにエネルギーをかけることが重要」と語る。阻害要因や外部要因に振り回されず、楽しめるポイントを探しながら学ぶことや、自分の感情に素直になることを大切にしている。
リーダーの器を広げるために知っておきたい“3つの知性”

金光氏は、キャリアの停滞や変化に悩むエンジニアへのヒントとして、「大人の知性」には段階的な成長があることを紹介した。一般に「大人の脳は成長が止まる」と言われるが、これは誤解であり、実際には個人差を伴いながら進化し続けるのだという。
金光氏が引用したモデルによれば、知性は以下の3つの段階を辿る。
● 環境順応型知性: チームプレイヤーとして周囲に順応し、指示を忠実に実行する段階
● 自己主義型知性: 自律性を持ち、自ら課題を設定して導くために学ぶ、リーダーの段階
● 自己変容型知性: 複数の視点や矛盾を受け入れ、学ぶために導く「メタリーダー」の段階
今どの段階にいるかを客観視することは、単なる技術習得を超えた「テックリードとしての成長」への指針となる。
変革をリードするアーキテクトが磨くべき最強の武器は「ことば」

テックリードやアーキテクトに期待される役割は、技術的な意思決定に留まらない。金光氏は、アーキテクトが備えるべきスキルは「テクニカルからノンテクニカルまで非常に幅広い」と強調する。
具体的には、アーキテクチャの決定やトレンド分析といった技術面に加え、事業ドメインの知識、対人スキル、さらには組織政治の理解と舵取りまでもが求められる。
「技術的に優秀なだけでは、全体の品質は上がっていきません。周囲に理解してもらい、ビジネス側の理解を得ることが不可欠です」(金光氏)
そのための最大の武器となるのが「ことば」である。自身の気づきや技術をシステムや組織にどう落とし込むか。変革やモダナイズをリードするためには、日々「ことば」を磨き、高い抽象度で価値を伝える力が重要になるのだ。
技術を組織の武器に「言語化」する
つづいて、金光氏は「テクノロジーの螺旋」の考え方を紹介した。
新しい技術が次々と出てくるが、本質的なポイントは変わっていないことが多い。例えば、2024年に開催された「アーキテクチャ Conference 2024」で『ソフトウェア設計の結合バランス』の著者の話を聞いた際、金光氏は既視感があったという。2000年代にオブジェクト指向やエンタープライズ・アーキテクチャ・パターンに触れていた経験が、新しい概念を理解する助けとなったのだ。
「パラダイム(考え方の枠組み)やテクノロジーを点ではなく線で見ると、短時間で学べるようになります」(金光氏)
ただし、頭で理解するだけでなく、「触らないとわからないことも多い」とし、概念的な理解と実践のバランスは大切だ、と話す。

さらに、新しい技術にチャレンジする際には「己を知り敵を知れば百戦危うからず」の姿勢が重要だと金光氏は言う。自分の組織や部下の技術力、体力を冷静に見ながら、新しい技術のパラダイムや作り手の意図を分析する。すぐに飛びつくのではなく、自社の現在地と技術の特性を照らし合わせる判断力が求められるのだ。
また、金光氏は技術を「言語化」し「名付ける」ことの大切さにも触れた。海外のスポーツの強さを例に、高度な技術も言葉として定義されることで初めて高いレベルで定着し、組織に落とし込むことが可能になる。組織への適用に際しては「チームトポロジー」などの既存のパターンを参考にすることも、新しい技術へのチャレンジを成功させるための重要なヒントになる、と説明した。
生成AIが奪う「学びの困難」を、チームの「共創と感情」で補う

金光氏は、短期間で効率的に学ぶための鍵として「望ましい困難(Desirable Difficulties)」を挙げる。主体性が強くなることで記憶の定着が高まるもので、思い当たる経験をしている人も多いのではないだろうか。
しかし、ここで金光氏は現代の大きな課題を指摘する。
「便利な生成AIはすぐに答えを教えてくれるため、この学習に不可欠な『困難』を減らしてしまう」(金光氏)
調べればすぐ解決する環境では、知識が脳に深く刻まれず、技術が血肉化しにくい。この「困難なき時代」にどう学びを深めるか。金光氏が提示する解決策は、個人の力技ではなく、チームによる「共創」と「感情の共有」である。
● 「独り」から「共創」へ: 擬似的に困難を振り返るポスト・モーテムや、人脈を通じた疑似体験によって、学びを構造化する
● 「一喜一憂」できる同僚の存在: 知識を脳に固定する強力な「アンカー(錨)」となるのは、苦労した調査や解決時の安堵といった感情を伴う経験である
「1人で仕事をするのではなく、同僚と一喜一憂しながらワイワイと進めること。そのプロセスで動く豊かな感情こそが、AI時代に技術を深く定着させるための鍵になる」(金光氏)
「ビジネス×責任ある人×テクノロジー」の方程式。AI時代を一巡した先にある、テックリードの真価

生成AIの普及により、エンジニアの仕事は大きく変わりつつある。しかし金光氏は、AIがコモディティ化し、即座に回答が返ってくる世界になるからこそ、人間の役割がより重要になると指摘する。
「AIを使いこなそうとすると、AIには処理できない『大きいものの分解』が不可欠で、これは人間にしかできない領域」(金光氏)
AI駆動開発においても、タスクの分解、ビジネスの調整、泥臭いロジックの整理はテックリードの活躍の場として残る。さらに、生成AIが一巡した後のビジネスの差別化ポイントは、AIが自動的に作ってくれるわけではない。技術とビジネスの境界をなくし、いかに「価値共創」ができるかが鍵となる。
金光氏が示したのは、これからの時代を生き抜くための「ビジネス×責任ある人×テクノロジー」という方程式だ。技術を持つ人がしっかりと責任を持ち、ビジネスをつないでいくことが、これからのテックリードに求められる姿だという。
外部要因に振り回されず、学び続ける姿勢を貫くための秘訣
最後に金光氏は、持続可能なキャリアを築くためのマインドセットを語った。キャリアの各段階で直面する壁は異なるが、「学び続ける姿勢」と「周囲を巻き込む力」は一貫して重要である。
20代の「力技」、30代の「効率化」、40代の「俯瞰と組織学習」。どの段階においても共通して大切なのは、他者や環境といった外部要因に振り回されるのではなく、「自分がコントロールできるところ」にエネルギーを集中させることだ。
「阻害要因は常にありますが、得てしてコントロールできないことにエネルギーを投入し、消耗しがちです。自分が楽しめるポイントを探し、自分の感情に素直に学ぶこと。それが長く走り続ける秘訣です」(金光氏)
【Q&Aセッション】
Q&Aセッションでは、金光氏がイベント参加者から投げかけられた質問に回答した。
Q. 「ことばという武器を磨く」とは、具体的にどのようなことでしょうか?
金光氏:相手のコンテキストに合わせて話すことが大事です。例えばオンプレミスの運用経験が豊富な人にクラウドの説明をするならオンプレミスの言葉に置き換えて話す。ビジネスの人に技術負債の話をするときも、相手の業界の言葉に置き換えると通じやすくなります。保険業界の方に話したとき、経営層に対して技術的な課題を、保険のリスク用語で説明した瞬間にあっという間に理解してもらえたという話も聞きました。相手も耳にしていると想像される、トレンドのニュース等を絡めながら、相手に自分の言葉を聞いてもらえるよう工夫することが大切です。
Q. テックリード、リードエンジニア、エンジニアリングリードとスタッフエンジニアの違いは何でしょうか?
金光氏:「テックリード」などの「リード」が付くキャリアを選んでいくと、最終的にはエンジニアリングマネージャーのように人の管理に入っていく要素が強くなる側面があります。一方、スタッフエンジニアは特定のチームの管理に回るというより、熟練した技術者がさまざまなチームを横断的にヘルプし、技術的な知見を積み上げていく役割だというイメージです。ただし、これらの呼称や期待される役割、キャリアパスの引き方は、SIer、ベンチャー、自社サービス系といった業種や会社によって定義に「色分け」の違いがあるため、自身の環境における定義を確認することも重要です。
Q. 一番苦労した仕事、自分が成長した記憶に残る仕事を教えてください。
金光氏:10年ほど前、現在のようなフロントエンドフレームワークが普及する前の時代に、画面のデザインをJavaからJavaScriptへ刷新する案件を担当し、その際の性能チューニングには非常に苦労しました。コードを書き換えるだけでなく、インフラのレイヤーから、ブラウザごとの細かな仕様の把握、コンテンツをロードする順番の最適化、さらにはキャッシュ化や圧縮の検討に至るまで、文字通りデザインから下の層まで全レイヤーを一気に手がけたからです。「チューニングは一部の知識だけでは通用しない」ということを身をもって知り、システムを全方位で俯瞰して見ることの大切さを改めて実感した、非常に記憶に残っている仕事です。
Q. テックリードの仕事がAIにどのくらい取って代わると思いますか?
金光氏:私の肌感では5〜6割程度は減るのではないかと思っています。調べれば解決できるレベルの質問は、ガサッと減っていくでしょう。ただ、裾野が広がることで、人間が介在しなければならない高度な質問の量は逆に増えてくると思います。今やっている定型的な仕事の半分はなくなりますが、ビジネスとテクノロジーを繋ぎ、価値を共創していく、より人間らしい高度な仕事が半分生まれてくる。そんなイメージを持っています。
Q. キャリアの方向性を決める際の決め手を教えてください。
金光氏:一緒に仕事をする人が楽しいか心地よいか、大変な時に一緒に頑張れるかというところが大きかったです。また、自分なりにキャリアの選択肢を持ちながらやってきたことも良かったと思います。よく「若いころにもっと勉強しておけばよかった」と後悔する話も聞きますが、当時に立ち返ってそれを完璧に実践するのはなかなか難しいものです。だからこそ、その時々の人間関係を大切にし、自分の可能性を狭めないような選択肢を常に確保し続けてきたことが、納得感のあるキャリア形成に繋がったのだと思っています。
文=宮口 佑香(パーソルイノベーション)
※所属組織および取材内容は2026年1月時点の情報です。
株式会社日本総合研究所
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株式会社日本総合研究所の採用情報
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