【オムロン】ITとOTはなぜ分かり合えないのか? ―時間とデータをめぐる設計のリアル、製造業DXの「泥臭い」真実
ミリ秒の世界を「速い」と感じているだろうか。OT領域の現場では、その8000分の1という極微細な時間で勝負が決まる。たった1周期のズレが不良品を生み出し、設備を破壊することもある「絶対に取りこぼせない」世界だ。 こうした現場のリアルを「ITとOT(制御技術)の融合」を推進するエンジニア2名が語った。ITとOTをつなぐ人材が強く求められるいま、エンジニアにとって製造業という新たな活躍の場が見えてくる。ミリ秒の世界を「速い」と感じているだろうか。OT領域の現場では、その8000分の1という極微細な時間で勝負が決まる。たった1周期のズレが不良品を生み出し、設備を破壊することもある「絶対に取りこぼせない」世界だ。
こうした現場のリアルを「ITとOT(制御技術)の融合」を推進するエンジニア2名が語った。ITとOTをつなぐ人材が強く求められるいま、エンジニアにとって製造業という新たな活躍の場が見えてくる。
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ITの常識は、μs(マイクロ秒)の世界で通用するか? —— デジタルツインを阻む『時間・データ・責任』の壁
オムロン株式会社
インダストリアルオートメーションビジネスカンパニー
商品事業本部
コントローラ事業部
技術専門職
岩村 慎太郎(いわむら・しんたろう)氏
ITとOTの距離は想像以上に遠い
岩村氏は、2006年にオムロン株式会社(以下「オムロン」)に入社し、産業用コントローラの統合開発環境「Sysmac Studio」の基盤開発や、ロボット技術とPLCシミュレーションを統合した3Dシミュレーションの基盤開発をリードしてきた人物。イギリスでの駐在経験を経てグローバル開発にも深く携わり、現在は技術専門職として、主に製造装置のエンジニアリングにおけるデジタルツインやAIの研究開発・商品化を担当している。


オムロンはヘルスケア製品のイメージが強いが、事業の核はファクトリーオートメーション(FA)を中心とした自動化である。自動改札機などさまざまな「世界初」を生み出してきた歴史があり、現在は「ソフトウェアが工場を定義する(Software Defined Factory)」次世代の製造現場の実現に注力している。

岩村氏は冒頭で、IT(Information Technology)とOT(Operational Technology)の違いを「用語の壁」から説明した。ITの世界では「Lambda」と言えばAWSの機能、「Blob」と言えばAzureのストレージを指すなど、機能ベースの共通言語が存在する。
一方、OTの世界では「SMC」「IAI」といった言葉が飛び交う。これらはメーカー名がそのまま機器名を指している。「SMCのチャックが壊れた」という会話が日常的に交わされるため、IT業界の人間にとっては最初の言葉の壁で躓くことになる。

さらに決定的な違いは「時間」の概念だ。ITの世界で「速い」と感じるのはミリ秒(1/1000秒)オーダーだが、FAの制御では125マイクロ秒、つまり1秒の1/8000という極めて短いサイクルで動いている。しかも、このサイクルの中で一つでもデータを取りこぼせば、装置の破損や不良品の発生につながるため、絶対に取りこぼしが許されない世界なのだ。
デジタルツインを阻む3つの壁
ここで岩村氏は、デジタルツインを実現するうえで立ちはだかる壁を3つに整理した。


1つ目は「時間の壁」だ。具体例として、1周期(125マイクロ秒)だけ遅れたデータを示した。たった1周期のズレでセンサーが検出できなくなり、不良品の流出につながる。消費者が受け取った製品が不良品だった経験は誰にでもあるだろう。その背後には、こうした微細なタイミングのズレが潜んでいる。

2つ目は「データの壁」だ。実際の制御プログラムから出力されるデータは、サインカーブが並んでいるだけで、何が起きているのか理解が難しい。デジタルツインを使って意味づけ(コンテキスト化)することで、初めて「この動きは円を描いている」といった理解が可能になる。従来、OTの技術者はMicrosoft Excelでデータを出力し、軌跡を描かせて解析していた。

3つ目は「責任の壁」だ。ITの世界では、特にアジャイル開発の場面で「Fail Fast(早く失敗する)」が推奨され、早く失敗し、学ぶことが良しとされる。しかしOTの世界では、1サイクルの失敗が設備の破損や人命のリスクにつながる。そのため、基本的にはウォーターフォール開発で品質を担保し、全機能をテストで検証する必要がある。
仮想空間を成立させる3つの鉄則

続いて岩村氏は、デジタルツインを成功させるための3つの鉄則を示した。「接続性」「資産の共通化」「環境の同期」だ。

接続性とは、125マイクロ秒というタイムスタンプを維持しながら、制御を妨げずに全データを収集することを指す。これができて初めて、ITの仮想空間とOTの現実世界をつなげられる。実際、全周期のデータを取得することで、円を描く軌跡がわずかに偏心しているといった微細な変化も捉えられるようになる。

2つ目の資産の共通化とは、さまざまなCADメーカーの設計データに意味を付与し、デジタルツインの世界と連携させることだ。例えば関節がどの方向に曲がるのか、どこまでの角度で動くのか。さらに摩擦や設計公差といった物理的な情報も渡さなければ、精度の高い再現はできない。

最後に環境の同期とは、設計から保守までエンジニアリングチェーン全体でデジタルツインを活用することだ。例えばX線検査装置は被曝の危険があるため内部を直接見られないが、MRグラスとデジタルツインを組み合わせれば、稼働中の装置内部の動きを確認できる。
ソフトウェアが工場を定義する時代へ
最後に岩村氏は、ITエンジニアの活躍の場についても言及した。

OTの世界は複雑化が進み、さまざまなソフトウェアとの連携や膨大な組み合わせテストが必要になっている。CI/CD、分散処理、自動テストといったITの知見が求められる場面が増えているのだ。
このようにOTの「失敗できない」課題を打ち破るためには、ITとOTの両方を理解し、両者をつなぐエンジニアがこれからの時代には不可欠になる。

さらに岩村氏は、FA業界で働く魅力について「自分が作ったソフトウェアによって、自動車や半導体の製造ラインで実際にものができていくプロセスを見られる。数百メートルもあるラインで物が動き、社会のサプライチェーンを支えている実感を得られる」と語った。

現在のテクノロジーでは、物理現象を全てソフトウェアで再現することはできていない。そのため、物理とソフトウェアをつなぎ、「ソフトウェアが工場を定義する時代」を創ることが求められている。その主戦場として、工場は大きな可能性を秘めた舞台だ。
『つなげば見える』の裏側にある葛藤 —— 他社機混在の現場でデータを統合する『泥臭い』実装の工夫
オムロン株式会社
インダストリアルオートメーションビジネスカンパニー
商品事業本部
コントローラ事業部
情報ソフトウェア開発部4課
開発リーダ
廣田 拓也(ひろた・たくや)氏
製造業大国なのにデータ活用が進まない理由
続いて登壇した廣田氏は、2002年から産業用コントローラの開発に従事し、商品開発や技術開発の現場でLinuxなどのオープン技術やロボット技術の実用化を牽引してきた。現在はコントローラ事業部の開発リーダとして、主に「情報と制御の融合」をテーマとした商品開発を担当している。

製造業の現場には、センサーのオン・オフ情報、距離や速度のデータ、カメラで撮像した画像、製品のシリアル番号、生産数など、多様なデータが存在する。しかし廣田氏によると、日本は製造業大国でありながら、製造業のデータ活用への注目度は世界的に見ても低いという。
ではなぜ大国でいられたのか。「現場のベテラン層が製造業を回してきたからだ」と廣田氏は語る。しかし現在、そのベテラン層は引退し、働き手不足も深刻化している。

また、環境規制やエネルギー問題への対応として、どれだけのエネルギーを使っているか、どの原材料をどう加工してどこに流れているかを、データで示すことが世界的に求められている。


ITの世界では、Linuxの起動時間をコマンド一発でグラフ化し、ボトルネックを即座に特定できる。生産現場も同じことをしたいが、OTの現場ではその「当たり前」がまだ難しいのだ。
コーラとピザで理解する制御の世界
廣田氏は、OTの世界を身近な例で説明した。ドリンクバーでコーラを注ぎすぎて、こぼれないようにそっと席まで運ぶ経験は誰にでもあるだろう。製造業の現場でも同じことが起きている。

液体を載せたトレーを移動させる動画が示された。普通に動かすと中に入った液体はもちろん揺れる。しかし上手く制御された方は、移動速度が速いにもかかわらず液体がほとんど揺れない。その秘密は、約500マイクロ秒ごとに細かくトルク(※)を変えて動かしていることにある。

これが実際の製造ラインでどう役立つか。例えばピザのラインで具材を乗せていく場合、揺れてしまうと同じ具材が一カ所に固まってしまう。

高速・高精度の制御の世界は、ビデオゲームの動作系に似ている。一般的なゲームは60FPS(1秒間に60回の処理)で動くが、製造現場の制御は8000FPS相当。分散した機器を同時に動かし、一定のタイミングごとに繰り返し処理するサイクリック制御が基本となる。
※トルク:回転軸を中心に物体を回そうとする「ねじる力(回転力)」の大きさのこと
同じデータだが、読めない現実

このように緻密な制御が行われる一方で、その過程で発生するデータを活用しようとすると、OT特有の収集の難しさという壁にぶち当たる。 現場では、オムロン独自のFINSプロトコルやMCプロトコル、さらには名もなき独自仕様など、各社がそれぞれにデータを扱っているため、共通の作法でデータを集めること自体が極めて困難なのだ。

さらに厄介なのは、データを取得しても解釈が難しいことだ。廣田氏は同じ「2026」という値を、異なる表現形式で示した。バイナリ、16進数、BCD(Binary-Coded Decimal)。すべて2026を表しているが、機器ごとに仕様書を読み込んだり、技術問い合わせをしないと、何のデータか分からない。


こうした「闇鍋状態」の現場に対して、オムロンはどうアプローチしているのか。廣田氏のチームが開発したのは、現場を止めずに後付けで接続し、データを読み出せるデータ活用プラットフォーム「DX1」だ。各社製品やプロトコルに対応した読み出し方を揃え、Node-REDのようなノーコードプログラミングで、箱を置いてつなげるだけで始められるようにした。IT人材不在の現場でも、ブラウザさえ開ければ使える。

ただし、ソフト的な拡張性も必要だ。日本でメジャーな機器が海外ではそうではないケースがある。例えばドイツでは別のメーカーがスタンダード。そこで現地のSEが自分でプログラムを拡張して追加できる仕組みを作り、世界中で同時に強くなっていける設計にしている。
電源が切れた瞬間に何ができるか
「ここまでの内容は、IT畑の人材にとっては常識的かもしれない。ただ、失敗がなかなか許されないOTの世界では、これから実現していきたいこと」と廣田氏は改めて語る。

ITの成功パターンをそのままOTに持ち込めない壁を突破するため、廣田氏のチームが取り組んでいる3つの設計・実装の工夫が明かされた。

1. データ収集の時間関係の考慮
OTの世界では、データの同時性や前後関係が極めて重要となる。例えば、X軸とY軸のモーターで位置を特定する場合、両方のデータを完全に同タイミングで取得しなければ正確な位置が分からず、数ミリ秒のズレでデータの意味が失われてしまう。オムロンでは、こうした「絶対に取りこぼせない時間の制約」のなかで、いかに同時性を保証するかという設計に注力している。

2. 現場環境で壊れないソフトウェア設計
製造現場はPCのように手順を踏んで終了できず、「ブレーカーを切って終わらせる」という運用が珍しくない。いきなりの電断はソフトウェアを損なうリスクがあるが、廣田氏のチームは、電源が切れた瞬間を検知し、一定時間内に必要な終了処理を完了させる仕組みを構築した。Dockerを用いた実装において、高負荷時でも処理が間に合うよう、1つのCPUコアをシステム保護専用に固定するなど、ブートローダーレベルでの工夫を施している。

3. 各種規格や規制への対応
昨今、工場のセキュリティ確保は急務である。同社はISA / IEC62443(※)のプロセス認証を取得しながら開発を進めているが、ここでは「堅牢なセキュリティ」と「ITの良さである迅速に修正できる要素」の両立が求められる。コンテナ技術に独自の工夫を組み込むことで、IT側の不安定さをOT側に波及させないといった、独自の対策を講じている。
※ISA / IEC62443:産業用オートメーションおよび制御システム(IACS)のセキュリティを確保するための国際標準規格
開拓する楽しさがある世界

廣田氏は「ITの成功パターンをOTナイズして、OTの現場に持っていく」ことが工夫のしどころだと語る。ITでは当たり前のことが、まだまだOT現場では実現していない。ITを知っていれば、腕の振るいどころがたくさんある世界だ。今後は「ITがOTの世界においても標準語になっていく」と予測し、専門性に軸足を置きつつ、現場を理解し自分をアップデートし続けることで、OT領域を切り拓く準備が整う。ついにOT側にITを導入できる時代が到来したいま、ソフトウェアの力で現場のあり方を変えていく「開拓の楽しさ」を語り、講演を締めくくった。
【Q&Aセッション】
Q&Aセッションでは、登壇者2名がイベント参加者から投げかけられた質問に回答した。
Q. 同時性を担保するうえで邪魔なものは何か、またそれをどのように排除しているか?
廣田氏:やり方はたくさんあります。例えば、プロトコル上である程度同時に取得できる機能があれば、それを活用します。また、リクエストをかけてデータを取得する際に、自身の処理負荷が高いと遅延が生じてしまうため、処理が遅れても必ず一定の範囲内で実行できるよう最低値保証を設けています。さまざまな工夫を組み合わせて、同時性を確保しています。
Q. アプリケーションエンジニア以外のキャリアパスにはどのようなものがあるか?
岩村氏:OTの世界でアプリケーションエンジニアと言えば、一般的には客先でプログラムを組む「フィールドエンジニア」を指すことが多くあります。ただ、キャリアパスはそれだけに留まりません。ハードウェアやコントローラのファームウェア、ソフトウェア開発といった代表的な職種に加え、テストエンジニアやCI/CDを担うインフラエンジニア、ネットワークエンジニアなど、IT業界で必要とされる専門職はOTの世界にも一通り存在します。
廣田氏:キャリアパスは流動的な時代で、どんどんアップデートされます。例えばデータサイエンティストやAI活用の領域など、専門領域を固めてスペシャリストになる方法もありますし、新しい山を自分で建てていくこともできます。
Q. 「ソフトウェア・デファインド・ファクトリー」という言葉は業界で浸透しているキーワードか?
岩村氏:浸透させようとしている、というのが答えです。まだメジャーな言葉ではありませんが、フィジカルAIのようなものをIT・OTの世界で実現していくためのベースとなる技術として、「ソフトウェア・デファインド・ファクトリー」という言葉を使っています。
Q. 「DX1」はさまざまなメーカー製品からデータが取れるが、オムロン製品で揃える必要がなくなってしまうのでは?
廣田氏:鋭いご指摘です。製品企画を考える際も、その点は議論になります。ただ、現場でデータを集めようと思ったら本当に闇鍋の世界なので、自社製品だけでは勝負できません。一方で、オムロンはセンサーやIOなどさまざまな機器を出しているので、自社製品で揃えると簡単につながるとか、他社同士をつなげただけではできない便利機能を提供するなど、いかに強みを出していくかが勝負どころです。
Q. ITとOTの時間の壁は技術進化で解消できるか、それとも設計思想の違いとして永続的に残るか?
廣田氏:残るものもたくさんあります。ネットワーク技術で時差をなくすような新しいものも生まれていますが、使うにはコストがかかり、現実的に使えないケースも多いです。簡単に使えて必要十分というレベル感が現場には求められ続けます。設計思想の違いをいかに埋めて、「これで必要十分だよね」を見計らうかが腕の見せどころです。
岩村氏:フィジカルAIがすべての物理現象を理解するようになれば壁はなくなるかもしれませんが、それは相当先の未来だと考えています。物理現象を理解するにはセンシングが不可欠ですが、現実には「真空状態で測定できない」といった環境の制約や、そもそも「直接測定できない物理量」も存在します。こうしたセンシングしきれない物理的な制約がある限り、ITとOTの壁は残り続けると思います。
Q. デジタルツインで絶対に再現しきれないと感じている領域はあるか?AIの発展で状況は変わったか?
岩村氏:再現しきれないものだらけというのが正確だと思います。例えば半導体製造装置では、シリコンと銅の熱膨張係数の差が製品精度に影響しますが、直接測定できないため、リアルタイム再現は極めて難しいです。一方、AIの発展で状況は変わってきています。データ収集・分析において、人間では対応できない組み合わせ爆発のようなものに対して、AIがどう整理すべきか紐解いてくれるようになり、データサイエンスの領域は特に今年大きく変わっています。
Q. 「闇鍋状態」を打破するためのインターフェースの標準化は、業界や世界で進められているのか?
廣田氏:だいぶ進められてはいますが、標準化自体がまだ「闇鍋状態」です。各社が独自仕様を強みにしているため、足並みが揃うのは難しい状況です。ただ、最近はOPC UAなどIT系の人たちが持ってきたものをベースにしようという動きがあるなど、今後10年で形相は変わると思います。過渡期ではありますが、確実に進んでいます。
Q. 「ソフトウェア・デファインド・ファクトリー」が実現した時、従来のFAベンダーの競争優位はどこに移ると考えるか?
岩村氏:ITとOTを一致させられるベンダーが競争優位になると考えています。欧米企業はソフトウェア・デファインドの方向に先行していますが、逆にOT側がついてきていない現状もあります。OTとITの境目を行き来できるところで競争優位性が生まれると考えています。
Q. ITとOTの両面を考慮する取り組みは、ハード側の前提知識がないと対応できないのか?
廣田氏:ハードも必要ですが、両方できないと物事が進まなくなるため、片方を意識せずにもう片方がうまく動くようなラインを作り、抽象化の設計をしていくことがやりどころです。これまではハードの力に頼ることが多かった業界でしたが、ソフト側しか分からなくてもできる領域をどんどん増やしていくことが、プラットフォームや技術を確立する大きな目標になっています。
Q. 「DX1」のようなプラットフォームは最終的に標準化に向かうのか、ベンダーロックインが強まるのか?
廣田氏:商品を作る側としてはデファクトを取りたいですが、それだけでは戦えない世界になってきています。標準化を見越して自分たちの戦い方を変えていかなければ、結果的に選ばれるものにはできないと個人的には感じています。
Q. 高専で教員をしているが、ITとOTの壁を乗り越えられる人材を育てるには、学生のうちからどちらかの領域を目指すべきか、最初から二刀流を目指すべきか?
廣田氏:二刀流を育てるのは非常に難しいです。ある程度両面は知っているけれど、軸足はどちらかにあるという状況は必要だと思います。学生さんに向けては、ITは今後OT側にとっても標準語になっていくので、ITを押さえたうえでOTの文脈の言葉も分かるようにしておくと、入り口のハードルが下がると思います。
岩村氏:両方に興味を持っていただくことが一番大切です。興味がないものに対しては理解も進みません。高専のうちにできるだけ両方に触れて、「ソフトを作るのも楽しい、ハードを触るのも楽しい」と思っていただくのがいいと思います。
Q. 機器を自社製で独占することと他社製品にも使えるようにすることはビジネス的に相反するが、他社製品との接続の程度はどのように決めているのか?
廣田氏:結論は出ていません。試しながら進んでいくしかない部分と、実際のユーザーさまとの信頼関係で判断が変わる部分があります。私たちも他社も譲れない部分はありますが、現場でやりたいことをいかに実現できるかを、ユーザーさまの課題を聞きながら他に先駆けて出していくことで、独占できない世界でも優位性を保っていくことが入り口だと考えています。
Q. 製造業として注力しているセキュリティ領域を教えてほしい。
廣田氏:特にEU関係の輸出規制に関わるもの、EUデータ法やEU CRAなどに注力しています。ドイツが製造業の大国でもあるため、そこは明確にフォーカスしなければなりません。一方でセキュリティはまだ発展途上ですし政策でも変わりますので、研究会などでも影響力を発揮できるようにしていきたいです。
Q. ものづくりの経営者や現場は設備重視でソフト軽視の傾向があるが、エンジニアとして感じている顧客とのジレンマや課題感は?
廣田氏:エンジニアとしては「もうちょっとこうしたらいいのに」と感じることが多く、ソフトのように小さく始めて小さく試すことがなかなか難しいのがもどかしいです。一方で、現場にはそういう意識を持った方も増えてきており、デジタルネイティブ世代が主流になるにつれて変わっていく部分もあると思います。
岩村氏:世界は変わってきています。特に台湾の経営層はデータ活用が当たり前で、人に依存しない設備になっています。そういった製造現場を見ることで、日本の経営層の考えも変わりつつあり、ソフトウェアに比重を置くお客さまも現れています。まさに過渡期だと思います。
Q. OT機器のトレーサビリティ確保が難しいと感じるが、物理的に変わってしまう問題にどのようにフォローしているのか?
廣田氏:基本的には発生する因子に対して、追加でセンシングできるものをどう埋めていくかが課題です。最近の取り組みとしては、AIを使って振動や音などの間接的な情報をセンシングし、それが結果的に何を生んでいるのかを推論するといった実験をしています。またデジタルツイン上で要素を追加して試し、モデルを作ってみるなど、さまざまな取り組みをしている段階です。
Q. お二人がオムロンの制御領域で技術者として働く魅力はどのようなところか?
廣田氏:色々なトライができることが魅力です。例えば、会社の標準PCはWindowsですが、自分はMacbookを使ってIT系のことをやりたいと言えばすんなり環境を作れたりします。お堅い製造業のなかでも、そういったトライがしやすいのは魅力だと感じています。
岩村氏:AIについても高いパソコンを買って実験できる環境があります。技術を形にしてビジネスに変えていくことを自ら主体的に取り組めば、チャンスを与えてもらえるという組織風土があると思います。
文=宮口 佑香(パーソルイノベーション)
※所属組織および取材内容は2026年4月時点の情報です。
オムロン株式会社
https://www.omron.com/jp/ja/
オムロン株式会社の採用情報
https://www.omron.com/jp/ja/recruit/
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