すべてのPM/PL必見!品質のプロが教える限られたコスト(C)と納期(D)の中で品質(Q)を達成する「基本の思考フレームワーク」
プロジェクトマネジメントにおいて、品質のコントロールは最も困難な課題の1つとされている。バルテス・ホールディングス株式会社の石原一宏氏は、約30年間のテスト・品質保証の経験から自身が導き出した思考フレームワークを用いることで、プロジェクトリーダー・プロジェクトマネージャーが現在100%の力を出して実現しているところを、80%程度の労力で同等の品質・コスト・納期目標を達成できると話す。受験問題を解くうえで、公式を知っているかどうかの違いで劇的に効率が違う。それと同じことが、品質管理の実践の上でもあることが、本公演では語られた。アーカイブ動画
バルテス・ホールディングス株式会社
品質ビジネスイノベーション部 部長 兼 首席研究員
バルテス・イノベーションズ株式会社
取締役
石原一宏氏
現場で頻発する品質課題の共通パターンとは

石原氏は講演の冒頭で、開発プロジェクトでプロジェクトマネージャー(以降「PM」)が抱えがちな悩みの種を話すーー「仕様通りに作ったはずなのに、リリース後の評判が悪い」「ユーザーからの仕様変更要求が多く、手戻りが頻発する」「品質確保のためのリソース・人材・時間が不足している」「プロジェクト前半は順調だったが、結合テスト以降で品質問題が多発する」

2004年創業の品質保証専門の企業であるバルテス・ホールディングス株式会社では、2024年度は約4,000プロジェクトのテスト・品質保証を手がけ、石原氏自身も同社で約20年、前職を含めると約30年間にわたりテスト業務に従事してきた。この豊富な経験から「プロジェクトの多くでは、下流工程で課題やトラブルが集中的に発生する」と指摘。
それら品質問題の多くは上流工程での対策不足に起因しており、「考え方を工夫するだけで、プロジェクトがうまくいく」ケースが多いと語る。プロジェクトにおいて、QCD(Quality:品質、Cost:コスト、Delivery:納期)を改善するための「公式」こそ、本講演で石原氏が解説する品質管理の思考フレームワークだ。
品質管理からプロジェクトを支援する3つの思考フレームワーク

石原氏は品質の観点からプロジェクトを支援する「QMO(Quality Management Office)」の考え方に基づき、実務で活用できる3つの思考フレームワークを紹介した。
1. 要求分析マトリクス:書かれていない要件の可視化
まず紹介したのは「要求分析マトリクス」。下流工程の手戻りを防ぐために、クライアントから入手する要件定義書や要求定義書に未記載の事項を含めて要件を可視化する考え方だ。
石原氏によると、顧客から提供される要件定義書には「テストしなければならない領域を100とすると、30程度しか書かれていないものがほとんど」だと所感を述べる。正常系の機能要件は記載されているものの、非機能要件や異常系、準正常系について記載されていないこともあるという。

この課題を解決するため、石原氏は「Must(できなければならないこと)」、「Never(あってはならないこと)」、「Want(あったらよいこと)」の3つの観点で要件を整理する手法を紹介した。
ここで、この考え方を実践するプチワークショップを実施。ホテル予約サイトのシステム構築を例に、空き部屋検索機能や料金表示など「Must」の機能設計に対し、二重予約や個人情報漏洩など必ず防がなければならない異常要件を「Never」として説明した。
改めて「100%の品質のものをつくるのは非常に難しい。まずはできなければならない『Must』とあってはならない『Never』をガッチリ押さえること。これだけでも手戻りがずいぶん減る。そのうえで付加価値が高まる『Want』の要素を考える、という流れで考えてみてほしい」と強調した。
さらにソフトウェア品質の評価に関する国際規格「ISO9126」の考え方も、上流工程での抜け漏れを防ぐのに便利だと紹介。そこでは品質特性が、機能性・信頼性・使用性の外部特性(=顧客にとっての品質)、そして効率性・保守性・移植性の内部特性(=作り手にとっての品質)に分かれると定義されている。

各項目で「Must」「Never」「Want」を当てはめ、手元にすでにある情報と不足している要素を可視化することが重要だと解説した。「全部完璧に埋める必要はない。ただ空欄の多さを認識し、チームメンバーやクライアントと議論するだけでも上流工程での抜け漏れを防ぐには大きな意味がある」と実践的なコツを語った。
2. テストマップ:全体像の見える化と優先順位づけ
つづいて、「テストマップ」を紹介。莫大な項目数のあるテストでは、漏れなくかつ効率的に進行することが求められる。石原氏は、あくまで全てをこなすのは現実的でないとしたうえで、優先順位をつけるために全体像を見える化することが重要だと語る。

石原氏は「テストマップ」のサンプルを提示。縦軸に機能、横軸にテスト観点の項目を並べ、優先度をA、Bで評価し、実施しないものも記入して明示する。そのうえで、もし未実施のものから不具合が発生した場合に「次回から優先順位を上げて対応します」と、中長期的なプロジェクトのなかでPDCAサイクルを回せることが「テストマップ」の意義だと説明した。

また「分母(全体像)と分子(実施する・しない項目)」という概念を用いて、全体俯瞰の重要性を改めて強調。「粗くても全体像を把握し、そのなかで今すべきこと、今回は取り組まないことを可視化できるだけで、PMの不安な気持ちが和らぐのでは」と話した。
3. 品質戦略マップ:時系列でプロジェクトの品質を管理する

3つ目のツールは「品質戦略マップ」で、これは前述の2つのツールの「複合技」だと石原氏は話す。

プロジェクト全体での品質管理となると、成果物ベース、フェーズ単位での「輪切り」管理には限界がある。下流工程での品質問題噴出をできるかぎり防ぐためには、それに加えて達成したい品質特性(課題)ごとに時系列でクオリティのゴールを設定する横軸のストーリーが必要になると説明した。

「品質戦略マップ」では、横軸に開発工程の時間軸、縦軸に品質特性のカテゴリを置く。この表を品質特性カテゴリごとに時系列で管理し、その各段階で「Must」「Never」「Want」を当てはめることで、どの開発工程までにどこまでの品質をつくり込む必要があるかを可視化できることを、具体例とともに示した。
石原氏は最後に、本講演で紹介した3つのツールを組み合わせることで「プロジェクトメンバーや外部ベンダー、あるいは生成AIに的確な指示を出せるようになり、プロジェクトの司令塔として、効率と正確さが格段に向上する」と総括する。
重要なのは完璧なツールをつくることではなく、「A4用紙1枚の簡易なものであっても、実施・未実施を可視化しておく」こと。本講演では、ウォーターフォール・アジャイル型開発の両方で活用でき、新人からベテランまですべてのPM・PLが活用できる汎用的な思考フレームワークが示された。
バルテス株式会社
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