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NECソリューションイノベータ株式会社
公共ソリューション事業部門 行政経営ソリューション統括部
主任
藤井 智弘氏
現場開発担当からPMへのキャリアパス
藤井氏は、2000年に新卒入社した企業で県庁の入札・契約システムなどの開発に約8年間携わった後、ベンチャー企業への転職を経て2009年に現在のNECソリューションイノベータ株式会社に入社。以降15年間にわたり、プロジェクトマネージャー(以降「PM」)として数々のプロジェクトを成功に導いてきた。
NECグループのなかで主にシステムインテグレーションを担う同社では、①官公庁・自治体、②医療・ヘルスケア、③通信・キャリア、④金融、⑤製造・プロセス、そして⑥流通・サービスと6つの事業領域がある。なかでも藤井氏は、自治体のシステム開発に一貫して従事してきた。
本題に入る前に、藤井氏は「今回は、プロジェクトリーダー(以降「PL」)からPMにステップアップする人、あるいはPMになって間もない人を想定しての内容になっています。少しでも楽をしながら楽しくPMを続けるためのコツをお話します」と本講演の趣旨を説明した。
「赤字スレスレ」のプロジェクト…立て直した方法とは?
現役のPMである藤井氏は、PMが直面する現場のありのままを率直に語る。講演の中核となったのは、3年前より同氏が担当するプロジェクト―10年以上前に導入されたシステムの運用保守案件だ。自治体5団体、ビジネスパートナー4社が関わるプロジェクトで、毎年の法改正に対応するのもミッションの1つである。藤井氏が引き継いだ時点で判明したのは毎年「赤字スレスレ」のプロジェクトだ、という厳しい現実……。はたして、どのようにPMとしての仕事を楽しんでいるのか。
藤井氏は、本プロジェクトを進行する際の工夫や心がけを3つに分けて解説した。
1. タスク最適化による業務効率化
「よくある話ですが、PMがプロジェクトから外れてPLのあなたがPMを担わなければならない、という状況を想像してください。今回のプロジェクトがまさにそれで、PMとPLの業務をどちらも1人が担ってしまい、PLのタスクが多すぎる状況でした」と当時を振り返る。
藤井氏が最初に着手したのは、PMとPLの役割分担の見直しと徹底的なタスク最適化だった。まず「本当にPMにしかできないタスクか」という根本的な問いから始め、PLだけでなく、開発担当者、派遣社員などと、適切な業務再配置を実施した。
それだけでなく、1つのタスクを細分化して再配置する手法も紹介。具体例として、品質調査票の送付・承認業務を挙げた。「たしかに承認はPMでなければできませんが、お客さまへのメール送付などはPMでなくてもできる」とし、1つの業務を「誰ができるか」の観点で分割し、PMでなくてもできる作業を適切に再配置、不要な作業は廃止したという。
「PLやPMは処理能力が速く、優秀な方が多いのでなんとなくこなせてしまう。無駄や非効率をスリム化する意味で、面倒ではあるが、掃除や整理整頓する気持ちでぜひとも取り組んでいただきたい」と呼びかけた。
2. 見積改革による収益改善
次に、藤井氏は見積の改革による収益改善に取り組んだことを明かす。
見積の重要性について、「PMの場合、要件定義よりもさらに上流である見積作成の工程を担います。ここで不具合が発生すれば、下流工程では到底コスト面でのリカバリーが難しくなる」と強調。毎年発生する法改正対応の見積精度向上こそ、プロジェクトの収益改善のカギになると判断したそうだ。
1つ目の改善点は、現実的な見積作成に転換したこと。もともとは「超上級者がプロジェクトに入ることを前提として作られた見積」だったと振り返る。これを実際のメンバーの生産性とスキルに基づき、現実的な見積に試算しなおした。
2つ目のポイントは、リスクの適切な積算だ。「QCD(Quality:品質、Cost:コスト、Delivery:納期)の管理とバランスをとることがPMの重要な役割」とし、トラブルが発生した際もプロジェクトを完遂するためにもコスト面で余裕を持たせた見積の作成が欠かせないと説明した。
3. 「現場の気持ちを忘れない」PMにとって大切な心構え
3つ目に、藤井氏は「現場の開発メンバーやPLだったときの気持ちを忘れない」ことを常に心がけていると話す。
「私自身システム開発は大好きですが、PMになるとどうしても現場から遠ざかって、ちょっと寂しい気持ちがあります」と率直に語る。一方で「現場担当者だったときの気持ちを忘れないことを心がけていれば、開発の楽しみを感じながらメンバーと良好な関係を築いて、プロジェクトを進行していけるのではと信じている」と語った。
最後に、「皆さんも開発現場の楽しみを感じつつ、PMにしか味わえない醍醐味も同時に感じながらPMを推進していただければ」という言葉で講演を締めくくった。