仙台X-TECHイノベーションプロジェクト2025-2026 経営層向けキックオフセミナー~「現場×AI・データ」で創る、仙台・東北の地域企業の未来(前編)
AIを中心とした先端テクノロジーを用い、社会課題の解決や新規ビジネスの創出支援、そのような活動に取り組むことができる人材の育成や実践の場を提供してきた、仙台市主催のX-TECHイノベーションプロジェクト(以下、X-TECH)。イベントやセミナーに参加した人の累計は約3,000名にも上り、地元企業の生産性向上や付加価値向上といった効果も出ている。今回は、仙台・東北の中小・中堅企業の経営層を対象に、AI・データ活用の最新動向と活用戦略を学ぶキックオフイベントが開催された。2つの基調講演やQ&A、トークセッションなどをレポートする。
コミュニケーションとフィードバックを意識した仲間・組織作りが、DX推進のコツ

パラレルキャリアエバンジェリスト
EBILAB取締役ファウンダー|CTO|CSO
常盤木 龍治氏
まずは、EBILABの取締役ファウンダー兼CTO兼CSOであり、地方企業のDX推進において豊富な実績を持つなど、さまざま方面で活躍するトッキーこと常盤木龍治氏が登壇し、基調講演を行った。X-TECHでは地域企業のメンターも務めている。
EBILABとは、後ほど常盤木氏が改めてDX事例として紹介するが、伊勢神宮の門前町で150年の歴史を持つ老舗食堂の経営を立て直したDXソリューションの外販や、関連事業を支援するスタートアップである。
日本は他の先進国と比べると、相手に何かを提案したり、伝えたり、共有することでその人を動かす力が著しく低い。そのことが、ホワイトカラーの生産性が他国の約半分の理由であり、その本質的な問題はコミュニケーションだと、常盤木氏は述べた。
そして、コミュニケーションを円滑にするのが、効果的なデータでもあると続けた。さらには自分以外のものを有機的に使うことも大事であり、イベントに向けて自分のことをセミナー参加者に伝えるためにAIに作ってもらったという資料を紹介した。
続いて常盤木氏は、「厳しいことを言います」と前置きした上で、次のようなメッセージを参加者に投げかけた。
「労働人口が30%減っているということは、この先マーケットが縮小するということです。仙台経済圏だけで食べていけるだろうとの甘い考えは捨ててください。実際、これまでの仕事のやり方では、円安、世界情勢など外的な要因で一瞬で利益が吹き飛ぶからです。対応するために必要となるアジリティを身につけるには、データとAIを活用することが重要です」(常盤木氏)
経営者でもある常盤木氏自身、まさにアジリティを身につけるためにデータとAIを活用し、従業員を守るためにさまざまな事業を創出しているという。年間200ほどのイベントに携わり、海外でのプロジェクトも多い常盤木氏だが、データとAIはどこにいてもアクセスし、確認できるものでもある。

実際、EBILABは伊勢市にあるが現在の常盤木氏の拠点は沖縄県であり、沖縄県においてもAIとデータを活用することで、商店街の売上を6年で5倍にするプロジェクトを手がけている。
「コザスタートアップ商店街」と呼ばれるプロジェクトだ。コザのあたりは元々挑戦者的な人たちが集まる土地柄であり、特にエンターテイメントが発達してきた歴史もあることから、まさにそのような気概を持つデザイナーやイノベーターなどが数百名集まるエリアを作り、コワーキングスペースなども設置。ヒト・モノ・カネが動く、動かせる人が集まるエリアにデザインしていった。
コザスタートアップ商店街での取り組みのように、データやAIを活用すること、コミュニケーションが生まれる場をつくることは重要だが、地域がこれまで歩んできた文脈を汲み取ることも重要だと常盤木氏は言う。

また、跡継ぎ経営者との交流も多い常盤木氏は、特にイノベーションを起こしたい跡継ぎ経営者はデータ活用に積極的のため、どうしても現場よりもPCと相対している時間が多い。そのことを先代経営者がよくないと捉え、未だに経営の舵を握っている。その結果、経営も事業継承もうまくいっていないケースが少なくないことを指摘した。
さらに「できるビジネスパーソンはSNSのメッセージ機能でやり取りしています」と常盤木氏。SNSであれば、相手の人柄も分かるし、共通の知人がいれば与信にもつながる。さらには、地域や国といったマーケットを越えてつながることができるとの理由を示した。
まさに先ほど述べたように、仙台という地域だけで事業を展開するのではなく、SNSを活用し与信を得ながら他の地域にマーケットを広げていくことの重要性を挙げたのである。そしてイノベーティブな跡継ぎ経営者は、まさにこのような動きもしていることも補足すると共に、次のように述べた。
「地域に限定したビジネスでは単価が決まっており、大きな上がりを残すことが難しいからです。ましてやこの先人口が減っていくわけですから、これまでの資本主義的な仕事の仕方では、利ざやを残すことが非常に困難になっていきます。勝ち残るためにはAIやデータが手段となり、DXも有効です。ただ方法論ではなく、調理法を大事にしています」(常盤木氏)
常盤木が言った調理法とは先述したような、その土地や企業における歩みや文化を汲み取った上で取り組みを行うことだ。このようなスタンスのため常盤木氏の元には、売上規模数百万円の企業から10兆円規模の企業まで、地域も含めさまざまな支援依頼があるが、対応できている。
SNSを使って会社の取り組みなどを発信していることついても、若いメンバーに任せない。若いメンバーは承認欲求に飢えているので、「いいね」を押すだけでも構わないので、フィードバックをする。決して傍観者にならない。そして、このようなフィードバックループが結果として、新しいオペレーションを若いメンバーに頼む際などに、承認してくれることにもつながると述べた。

ここからは具体的な事例をいくつか紹介した。まずは、400年続く長崎県の老舗カステラ屋だ。常盤木氏はまずは、カステラが作られていく工程を動画で示した。すると動画には複数の職人がネタを練る工程から焼きまで、すべて手作業で行っていることが映し出されており「DXが入る余地がない」と、最初はそのように発言した。
しかし、商品の価値を一番理解してくれていて、お金も出してくれる人に販売しているかどうかとの視点が忘れがちであり、現在のメイン顧客である百貨店ではなく、アラブの王族などによりハイエンドな商品を作り販売していくことを考えていると述べた。そしてこのような考えは高級であることが好まれている虎屋の羊羹がまさにそうであり、「市場を把握することが大事です」と、続けた。
続いては石川県にある大手企業内で社食を作っている企業の事例だ。毎日2,000人ほどの食事を提供していたが、コロナ禍による売上の減少や原材料の高騰、さらには働き手の不足、廃棄ロスなど、さまざまな課題があった。
そこでデータ活用ならびにデジタル化を進めることで、先の課題を改善していこうと考えた。具体的には、データを活用することで廃棄ロスを減らす。その分で浮いたアセットを商品企画や品質管理、メニュー改善などに充てていく。この循環をまわしていくイメージだ。
このような改善の取り組みを進める際には、削減や減らすといった取り組みをすると人もいなくなるし、お金の匂いがしなくなり銀行も逃げていってしまうので注意が必要だとのアドバイスも送った。
データ活用のトライアルを行うと、廃棄ロスにより月約35万円ロスしていることが分かった。そこで、注文内容が社員証と連携していたことから、過去の注文から予測客数や注文内容を洗い出していった。
すると99.3%との高い確率で来客の予測ができるようになり、廃棄ロス削減にもつながっていくことが分かった。そして浮いた分で質の高い食材を仕入れることにした。廃棄があるのは、安い材料を使っていることもあるからだ。
もちろん、単価の高いメニューが増えることによる、利ざやアップというプラスもある。特に日本人は舌が肥えているので飲食事業を手がけている人は、質の高い食材を使うなどの改革は重要だと述べた。
また、このような取り組みを行う際には、これから先の事業計画を描いていくのではなく、まずは、自分たちはどのような存在になりたいのか。ビジョンも含め、そのことを最初にかためることが重要だという。
そして、スライドで示したようなマスタープランを作成し、そこからのバックキャスティングで、さまざまな具体的な取り組みを練り、実践していく。また、「ありたい姿を描く際には、いまの状況はどうでもいい。300点の人が400点を目指しても350点くらいにしか成長しないが、600点を目指すと450点くらいに伸びるからです」と、補足した。
マスタープランを作成したら、具体的に実現するロードマップも作成する。本事例であれば、中食やデリバリーといった領域にも展開していくとの内容が見られた。そして、紹介してきたこのような取り組みこそが経営であると、常盤木氏は述べた。

過去10年分の犯罪データから犯罪が起きやすい箇所を推測し、その地域にパトカーを走らせパトロールすることで犯罪数の削減を実現した、ブラジルでのデータ活用事例も紹介した。
DX責任者として携わったハウステンボスでの取り組みも紹介した。飲食部門の従業員の離職率が高かったため、毎週ミーティングを行い話を聞き、課題を抽出していった。そして、苦手なことをさせないようにした。たとえば、接客が苦手な従業員には接客業務ではなく、皿洗いなどバックヤードの仕事をしてもらう、といった具合だ。
従業員の特性、強い分野を見つけるためにもジョブローテーションやワークショップの開催が重要であること。特に、ワークショップではKPIなどのデータでは上がってこない、見ることがない従業員一人ひとりの特徴、個性を知ることができると常盤木氏。「世の中のDXを支えているのはあくまで人です」と、続けた。
そしてまさしく、当時ハウステンボスの社長を務めていた坂口克彦氏が、そのような姿勢や人物であることも紹介した。毎朝お客様に手を振る。従業員にありがとうとのメッセージを送る。情報も全従業員に開示していたからだ。「経営者が経営を閉じた瞬間に推進力が奪われます」と、常盤木氏は述べた。

常盤木氏がデータやAIを、地域課題の解決に活用するようになったきっかけとなる事例も紹介した。徳島県の山奥に位置する人口1,500人程度の上勝町で、シニアの農家などが手がけている、山で採れた葉っぱなどを料亭などに販売するビジネスだ。
こちらの取り組みでもポイントは、AIとコミュニケーションだ。事業を手がける地元の人たちはよく知る仲間ではあるが、それはあくまで表の顔であり、「長年一緒にいるからこそライバル心が逆に強い」と常盤木氏は言う。
そこで、1,000万円を超えるような稼ぐ人をあえて出すことで、他のメンバーのやる気を感化し、ビジネスの底上げを実現していったのである。また、その時々で需要のある葉っぱをピックアップする際には、データやAIを活用していることも紹介した。

経営者の仕事は戦略を練ることであり、軍師的だと常盤木氏は言う。そのためAIやデータ活用といったDXも、主導はあくまで経営者が行うこと。IT部門や外部の士業の人たち、さらにはコンサルタントやデータサイエンティストなどに任せない。
昨今はさまざまなITツールが充実しているため、多額の費用を払って先のような専門家にお願いするよりも、経営者自らがこれらのツールを積極的に活用すべきだと、述べた。
データ活用においては、無料で開放されているオープンデータの活用も重要であり、そのようなオープンデータをもとにChatGPTなどのAIに資料を作成してもらうことの価値を強調。実際、仙台市のオープンデータとChatGPTを使って資料を作成するデモも行った。

生成AIにテキストを入力する際には、タイピングではなく音声入力の方がグローバルでは一般的であり、常盤木氏もふだんは音声入力で行っているという。AIの活用ではもちろん、従業員に何かを伝える際にもこのような言語化が重要であり、「この点が弱いから日本経済は停滞している」と、述べた。
ただ、講演で流暢に話す常盤木氏も、27歳のころまでは言語化が得意ではなかったそうだ。そこで、本を多く読み文章も多く書く。インプットとアウトプットの量を増やし猛勉強を行い、今のように成長したことも紹介した。

仕事に取り掛かる前には、それぞれの従業員が今日は何をするのか。仕事が終わった後には、この先は何に取り組んでいくのか。チェックイン・チェックアウトを行う場を設けることが重要だとも述べた。そしてこのような取り組みは、先述した一人ひとりの従業員の特性を知ることにもつながるし、お互いが興味関心を持つことで全従業員のコミュニケーション力の醸成にもつながることを示した。
コミュニケーションを醸成する際には、マインドマップを作成すると効果的であることも示した。個人との関係性から部門との関係性などに、ツリーを足すことで容易に増やしていくことができるからだ。

常盤木氏は最後に、EBILABでの取り組みも紹介した。先ほどの社内食堂での事例をまさに実践していったものであり、今では経営陣も含めた全従業員が、オープンにされているデータをタブレット端末なども活用し常にチェックし、その上でオペレーションしている様子の動画を紹介した。

このようにデータを活用し、業務効率化を進めたり、食材のロスを削減したりするなどして、以前は500円ほどのうどんを扱っていた食堂は、今では客単価3000円、A5ランクの和牛なども扱う高級店に変貌した。
売上が増えた一方で、従業員数は増やしていないのもポイントだ。それどころか逆で、完全週休二日制も実現しているという。これも一重にデータを活用しているからであり、次のようにメッセージを参加者に送り、セッションを締めた。
「数字がすべてです。残業をしているから努力しているんだろう的な感情論で評価せずに、経営者はいかに勝つかを考えていく。それが、本当にがんばっていることだと思います。自社や関連データを見ながら、改めて戦い方を考えてほしいと思います」(常盤木氏)
──後編に続く
SENDAI X-TECH
https://bd.techplay.jp/sendaixtech/
仙台市 SENDAI CITY: LIFE IS YOUR TIME.
https://lifeisyourtime-sendai.com/
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