【イベントレポート】仙台X-TECHイノベーションプロジェクト2022-2023 特別企画〜仙台・東北の地域リーダーが語るAI活用/DXとまちの未来〜
日本ディープラーニング協会理事長/東京大学大学院工学系研究科教授 松尾 豊 氏
●10年ビジョンを策定し、未来に向けたDXを進める七十七銀行
株式会社七十七銀行 代表取締役頭取 小林 英文 氏
●業界に詳しく経営の知識を持つ自らがAIを学び、宿泊産業の改革につなげたい
株式会社ホテル佐勘 代表取締役社⻑ 佐藤 勘三郎 氏
●数百万人のユーザーを把握し、将来のモノづくりにつなげる
弘進ゴム株式会社 代表取締役社⻑ ⻄井 英正 氏
●自社だけではなく、オープンイノベーションで取り組む方法を考える
今野印刷株式会社 代表取締役社長 橋浦 隆一 氏
●テクノロジーの進化とともに、事業のチャンスも訪れる
イベントは、特別ゲストの東京大学大学院教授であり、日本ディープラーニング協会理事長を務める松尾豊氏の挨拶から始まった。
日本ディープラーニング協会は、2017年に設立され、AI・ディープラーニング人材を育成し、産業競争力の向上を目的に活動を行っている。松尾氏は様々な活動を通じて、"AIやデジタルスキルは、実際の業務や専門性を持っている人が使ってこそ、価値を生み出すことができる”と感じていると語った。
「AI・ディープラーニングは急速に進化し続けていますが、まだまだこんなものではなく、これからの5年、10年、20年と驚くようなことが起こると思います。これから技術の進化とともに、事業のチャンスも訪れると思いますので、活用していってほしいと思います。」(松尾氏)
「仙台X-TECHイノベーションプロジェクト」に参画する4社によるAI活用/DXの取り組み事例紹介
続いて「仙台X-TECHイノベーションプロジェクト」に参画する4社が、各社におけるAI活用/DXの取り組み事例を発表した。
●10年ビジョンを策定し、未来に向けたDXを進める七十七銀行
最初に発表を行ったのは、株式会社七十七銀行頭取を務める小林英文氏。将来の成長発展へ向け、10年ビジョンを打ち立ててDXに取り組んでいるという。
「今後、人口減少や少子高齢化が大きな制約要因となるのは目に見えています。このまま縮小傾向に身を任せていては、我々は役割を果たせないと考えました。現状の延長線上ではない七十七グループを目指すためにも、強みを伸ばし、弱みを改善し、組織を活性化する、この3つの方向性を打ち出しました。」(小林氏)
ビジョンの実現に向け、デジタル戦略としてDXに取り組んでいる。アプリやポータルサイトなどを活用した"非対面チャネルの改革”、デジタル化で事務作業を減らし、お客様のコンサル時間・営業人員拡大を目指す”営業店改革”、データ分析チームを設置し、データ活用分野の取り組みを強化する”データ活用改革”、店頭タブレットを活用して窓口業務を軽減する“事務レス改革”、デジタル人材育成に向けた”行員のデジタル改革”。これらの5つの改革を進めるとともに、地域金融の強みとデジタルテクノロジーによる新規ビジネスの創出も行っている。
「データ活用はなかなか難しく、マーケティング知識やリスク管理の知識、業務知識を備えた上で活用しないと意味がありません。AIは人間の能力の延長線上であることを理解し、データ活用分野の取り組みに力を入れています。個人情報を扱う銀行という特性上、安心・安全を最優先としつつ、これからも銀行業務の全般的な抜本改革を進めていきます。」(小林氏)
●業界に詳しく経営の知識を持つ自らがAIを学び、宿泊産業の改革につなげたい
続いて登壇したのは、株式会社ホテル佐勘代表取締役社長 佐藤勘三郎氏。佐藤氏は宮城県中小企業団体中央会の会長も務めており、中小企業や組合の連絡手段はいまだにFAXが主流であり、通信手段の確保から始めなければならない状況だという。中小企業においては、AIやDXに触れる機会が少ないため、取り残されてしまっていることが大きな問題だと考え、来年、宮城で行われる中小企業団体全国大会では、メタバース空間で物産展を行うなど、テクノロジーに触れる機会を作りたいと語った。
宿泊産業においては、宿泊予約がはがきで行われていた時代から考えれば、予約システムなどは導入されたものの、本質のサービスは変わっていないという。例えば、飲食店ではロボットが料理を運んだり、AIで新たなレシピを作るなど、今までになかった新しい発想がどんどん出てきている。このような中、佐藤氏はテクノロジーを活用した宿泊産業の改革に向けて活動を行っているが、中小企業がDXを行うには課題があるという。一番はDX人材の確保。中小企業では、大企業のような人材の流動性を求めることはできず、企業にとどまってもらいながら勉強してもらい、人材を育てていくことが重要になる。そのため、佐藤氏はまず自らがG検定※の取得を目指しているのだという。
「AIやDXを活用してどうサービスに活かすのかというと、その地に行かなければ見えないものがあると思っています。自分でAI、DXを活用して経験を積み、そこで初めて変えられる何かが見えてくると期待しています。」(佐藤氏)
※日本ディープラーニング協会が実施する、ディープラーニングとその活用に関する基礎知識の有無を認定する検定試験。
●数百万人のユーザーを把握し、将来のモノづくりにつなげる
ゴムやビニル製品の製造・販売を行う弘進ゴム株式会社では、製造部門・業務部門・営業活動の3つに分けてDX・IT化を進めていると、代表取締役社長の西井英正氏は話した。
製造部門と業務部門のDX・IT化は、コスト削減と工数削減を目的に行っている。製造部門においては、ゴム・ビニル製品というやわらかいものを扱う特性上、工程のロボット化は難しく、人の手が必要となる。そのため、前後の工程や情報整理などの、人の手を必要としない部分をDX・IT化する。このように、人が関わることで付加価値を生む作業に人員を割けるよう、価値を生まない作業の人手を削減する取り組みを進めている。また、業務部門においても、受注システムを整備したり、SaaSサービスを取り入れながら工数削減を進めている。
「今後、一番肝心と考えていることは営業活動におけるDX・IT化です。これまで、メーカーとして卸売りをメインとしていたために、数百万人いるユーザーの顔が見えていない状態でした。DX・IT化により、いかにユーザーを把握し、そこから課題を見つけて、AIなどのテクノロジーを使い改善していくことが企業の成長につながると考えています。」(西井氏)
●自社だけではなく、オープンイノベーションで取り組む方法を考える
最後に登壇した今野印刷株式会社代表取締役社長の橋浦隆一氏は、地方の印刷業の現状として、既存のビジネスモデルでは成り立たなくなってきていると話した。印刷業の本質は、情報を広げるという大きな役割を担っていると考え、印刷業の持つ、情報を加工して編集する能力、デザイン能力を活かした、新しいビジネスの創出を考えていた。そのような中、「仙台X-TECHイノベーションプロジェクト」に出会ったのだという。
プログラムに参加して取り組んだのは「商店街の活性化」という大きなテーマに向けたデータ活用。商店街では、例えば応募はがきなど、手書きの情報を集めることはできるが、活用することができていない状況だったため、商店街の買い回りを促すアプリを開発し、プレゼントとしてクーポンを発行する際に、顧客データの取得を行う仕組みを作った。このデータを活かした取り組みのアイデアは、昨年行われた「仙台X-TECHイノベーションアワード2022」において、優秀賞を受賞した。
今年はさらに新たな取り組みを進めている。イベントの種類ごとに、どんな人が動き、どれだけ人流が変わるのかを調べ、イベント実施のタイミングや周囲の状況により、どんな変化が起きたのかをデータ化する。これを繰り返すことで、増えたデータをディープラーニングで活用することが可能になる。まずは商店街の方にデータ活用の重要性を知ってもらうために、データから見える情報をもとに、品ぞろえや店構えを変えることで売上に直結することを示したいという。
「中小企業の課題として人材やリソースの問題などがあると思いますが、自社だけではなく、いろいろな方と協力してオープンイノベーション的なつながりを作り、取り組むことが大事だと思っています。今回紹介した取り組みでは、仙台X-TECHイノベーションプロジェクト、仙台市、商店街と組んで一緒に進めていますが、将来的にはコンソーシアムを作るなど、横断的に取り組んでいけたら、もっとおもしろいことができるのではないかと考えています。」(橋浦氏)
課題やテクノロジーの進化についてフリーディスカッション
参加者全員が参加し、AI活用やDXの取り組みにおいて抱える課題や、テクノロジーの進化について、自由に意見交換が行われた。最後は特別ゲストの松尾氏の総評で締めくくられた。
「冒頭でお話ししたとおり、AIやデジタルスキルは、業務の知識や専門性を持っている人が使うことで価値を生み出します。今回発表いただいたように、事業を行いながら、その中でAI・デジタル活用を進めるというのは素晴らしい取り組みです。このような企業とスタートアップが連携しながら、取り組みを行うというのが王道のやり方ではないかと思っています。応援できることがあれば協力しますので、ぜひ仙台から広げていっていただきたいと思います。」(松尾氏)
また、本イベントでの意見交換を通じて、松尾氏には「仙台X-TECHイノベーションアワード2023」の審査員を務めていただくことが決定した。
2022年3月3日に開催される「仙台X-TECHイノベーションアワード2023」では、AI・データ活用が広がりを続ける仙台・東北の各企業・団体の取り組みや新たなアイデアが数多く発表される予定。仙台X-TECH推進事務局 事務局長の竹川は「アワードを通じて、松尾先生をはじめ多彩な審査員の方々とのアイデアのディスカッションやブラッシュアップを行い、産官学をまたいだ取り組みやAI・データ活用の取り組みが、仙台・東北の各企業により広がっていくことを期待したい」と話す。