【北九州市】「稼げるまち」という新常識。──今さら聞けないITエンジニアの地方移住【KITAKYUSHU Tech 2025 Day1】
“稼げるまち”とは、単に「所得を増やせるまち」を表す言葉ではない。 北九州市は、地方におけるテクノロジー人材の活躍をテーマにしたオンラインイベントを2025年9月30日に開催。 地方にいながら首都圏水準で稼げる働き方の実現を軸に、エンジニアのキャリア、企業の拠点戦略、地域での暮らしについて北九州市へのU・I・Jターン経験者が自らの体験談と移住後のリアルを明かした。 「仕事」「暮らし」「自己実現」を両立できる都市の在り方──北九州市が提示する新しい地方創生モデルを探る。“稼げるまち”とは、単に「所得を増やせるまち」を表す言葉ではない。
北九州市は、地方におけるテクノロジー人材の活躍をテーマにしたオンラインイベントを2025年9月30日に開催。 地方にいながら首都圏水準で稼げる働き方の実現を軸に、エンジニアのキャリア、企業の拠点戦略、地域での暮らしについて北九州市へのU・I・Jターン経験者が自らの体験談と移住後のリアルを明かした。
「仕事」「暮らし」「自己実現」を両立できる都市の在り方──北九州市が提示する新しい地方創生モデルを探る。
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オープニングトーク
特別ゲスト
芸人/料理人/ 農業活性化支援員/ 北九州市観光大使
ロバート 馬場 裕之(ばば・ひろゆき氏)
モデレータープロフィール
I.I. 代表
Code for Kitakyushu 顧問
(公財)北九州産業学術推進機構 ロボット・DX推進センター マネージャー
NPO法人Startup Weekend 認定ファシリテーター
糸川 郁己(いとかわ・いくみ)氏
オープニングトークでは、モデレーター・糸川氏が芸人で北九州市観光大使のロバート馬場氏にインタビュー形式で話を進め、北九州市への思いや地元での活動についてトークした。
ロバート馬場氏:僕は北九州市の門司(もじ)出身です。ふだんは東京で芸人や料理の仕事をしていて、宮古島と東京都目黒区で飲食店を経営しています。
最近は、自分の出身中学校の跡地を活用して「コブミカン」も栽培しています。タイ料理で使うハーブなんですが、これを北九州・門司の名物にできればと思って頑張っています。
北九州市にまだ移住はしていないが、将来的には地元に戻りたい気持ちがあるという。
ロバート馬場氏:いつかは北九州に帰れたらな、と心の中で思っています。北九州にはよく帰るのですが、何日か過ごすと北九州で過ごした思い出が蘇ってきますね。門司港の夜景、関門橋を見るとやっぱり感動します。その時はその風景が当たり前にそばにありましたが、とても良い街だったんだなと感じます。
2拠点生活への憧れ:「北九州市だからできる」暮らしと仕事の可能性
ロバート馬場氏は、現在東京を拠点に活動しているが、北九州市との往復を繰り返しているそう。
糸川氏:北九州市は、交通の要所というところもあり、色々なところへ行きやすいのがメリットですよね。とはいえ、東京での生活とどのようにバランスを取っているのでしょうか?
ロバート馬場氏:結局、仕事で東京に行くのは毎週月曜日の朝の情報番組『ラヴィット!』くらいなんです。YouTubeの撮影は名古屋で行っていて、ほかの仕事は北九州にいてもクオリティは変わりません。しかも、北九州空港は朝早くから夜遅くまで飛行機があるのがかなり大きいです。
ここで、話は「コブミカン」プロジェクトへ。
糸川氏:出身校で「コブミカン」を栽培されているとのことでしたが、そもそも「コブミカン」は北九州で穫れるものだったのでしょうか?
ロバート馬場氏:もともとは東南アジア原産です。最初は、門司の実家で3〜4年ほどかけて育てていて、2024年に門司の藤松という地域に畑を借りました。両方越冬したので、資材置き場になっていた出身校の跡地を畑にして、いよいよちゃんと育てることにしました。これを北九州の名物にして盛り上げたいと思っています。こういった切り口で北九州に帰ってくる理由ができたらな、なんて思っていますね。
糸川氏:出身校の跡地を畑に…すごい事だと思いますが、どうやって実現したのでしょうか?
ロバート馬場氏:同級生が北九州市さんに交渉してくれました。それ以外でも地元の方々にたくさん助けられています。畑の肥料に小倉牛の牛糞を分けてくれたり、草むしりを手伝ってくれたり。「門司港ビール」さんともつながらせてもらって、「コブミカンビール」を開発しよう、という話もあります。こうやって周りが動いてくださるので少しずつ事業っぽくなってきましたね。北九州の人は本当に人情味があると感じます。
北九州市で生まれる「時間的・金銭的なゆとり」が新しい挑戦への投資につながる
つづいて、話題は北九州市へ移住した場合の収入や生活費など金銭面の変化についてへ。
糸川氏:北九州に移住する時に、金銭面で今の暮らしとどのように変わると想像されますか?
ロバート馬場氏:まずご飯が美味しくて安い。野菜も魚も新鮮ですし、東京と比べると生活コストが全然違うので、生活しやすいと思いますね。
糸川氏:最近、「貯金がなくなった」というネットニュースを拝見しましたが……。
ロバート馬場氏:そうなんです(笑)。東京の目黒区にお店用の物件を購入したんですよ。東京は賃料がめちゃくちゃ高いので、今のうちに購入して挑戦してみようと思いました。
糸川氏:シンプルに事業に投資されたということですね。ただ、北九州なら貯金がなくてもなんとか食べていけそうな気がします。
ロバート馬場氏:そうですよね。物々交換でも生きれそうな街じゃないですか。山に行って山菜を探したり海で魚を釣ったりもできます。
糸川氏:街中から車で5〜10分ほどで海岸があって、皆さん釣りを楽しまれていますよね。
ロバート馬場氏:そうですね。魚が釣れなくても、ゆったりした過ごす時間は有意義です。東京ではできない時間の使い方だと思います。
ロバート 馬場さんにとって北九州市とは?
オープニングトークの締めくくりとして、ロバート馬場氏は、自身にとっての北九州市を語った。
糸川氏:最後に、馬場さんにとって北九州は、どのような街ですか?
ロバート馬場氏:人生の半分以上を東京で過ごしてきて、東京も楽しくてここでずっと暮らすことになるのだろうと思っていました。ただ、年齢を重ねて北九州に帰ってくると、とても良い街だなと改めて思います。一度離れても、また受け入れてくれる。「また戻ろうかな」と誰かに言えばウェルカムに迎えてもらえる、そんな温かい街です。
ゆとりと挑戦が生むキャリアの好循環
演者プロフィール
日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社
地域DXセンター事業部 九州DXセンター
佐々木 真観子(ささき・まみこ)氏
つづいて登壇したのは、日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社(以下「IJDS」の佐々木氏。
佐々木氏:前職では東京で金融機関の市場系システムを担当していました。その後、北九州に引っ越してからは医療系パッケージソフトの製品保守開発をしていました。今の会社には2年前に入社して、Salesforceの案件を担当しています。
佐々木氏:実は私自身は岡山出身です。夫の転職をきっかけに北九州へ移住してきました。今は、ウィンタースポーツと子どものスポーツ観戦など、北九州で楽しく過ごしています。
北九州市から全国のDXを支える「九州DXセンター」
佐々木氏:IJDSは、2020年に設立されたIBMグループのIT企業です。新しい会社に見えますが、長年IBMのシステム開発を担ってきた複数の子会社が統合してできた会社で、歴史も実績もある組織です。

佐々木氏:IBMは全国8カ所に地域DXセンターを展開していて、そのひとつが私が所属している「九州DXセンター」。設立は2022年11月で、最初はIBM北九州事業所に小さく立ち上がりましたが、2024年には商業施設リバーウォーク北九州とBIZIA KOKURAに新オフィスを開設して、今では300名規模の体制になっています。九州DXセンターには開発DXとBPOの2つの部門があり、私は開発(部門)に所属しています。
北九州市への移住者の割合は、約半数!
ここで、佐々木氏は「九州DXセンター」開発チームにおける移住者の割合を紹介。

佐々木氏:私の部署で調べてみたところ、なんと50%が北九州以外からの移住者でした。センターの開発チーム全体で見ても48%が他の地域から移住してきた社員であることが分かりました。
佐々木氏:移住してきた理由も本当にさまざまです。地元で働きたくてUターンした人もいれば、福岡県という活気のある地域の開発センターで技術を磨きながら趣味も楽しみたいとIターンしてきた人もいます。北九州は良い釣りスポットが多いそうで、釣り好きが高じてJターンしてきた人もいました(笑)。
3つの良い環境がそろう、北九州市

同社社員に北九州市への移住を選んだ理由を聞くと、「やりたい仕事ができる環境」「生活しやすい環境」「子育てしやすい環境」の3つがよく挙がるそう。
佐々木氏:まず仕事面では、自分がやりたいと思う仕事に携われる環境が整っていること。学習環境が整備されているので、都市部と同水準でスキルを磨けます。
佐々木氏:2点目は、生活しやすい環境であること。私自身東京から引っ越してきたときに驚きましたが、家賃の安さなど生活コストの低さが魅力だと思います。東京時代と同じような広さ・通勤距離で探すと、北九州では家賃が半額でした。
佐々木氏:3つ目は、子育てしやすい環境です。小児医療体制がとても充実していて、休日に子どもが熱を出したり怪我をしたりしたときも困ったことがありません。
「ゆとり」が「挑戦」へと変わるキャリアの転機
ここからは、佐々木氏自身のキャリアの変遷をワークライフバランスの観点で振り返った。

佐々木氏:社会人としてスタートした時期は慣れるのに必死で仕事のウェイトが7割と高め。アソシエイト期になると、できることが増えさらに忙しさが増して仕事のウェイトが8割に上がりました。この時期に夫の転職で北九州に移住を決め、一度目の転職で医療系システムメーカーに入社しました。人が温かくて、公私ともに充実した北九州生活のスタートになりましたね。
佐々木氏:子育てが一番忙しい時期が終わりに近づき、キャリアに向き合う時間ができました。そこで自身がチャレンジしたい仕事と今の仕事にギャップがあると気づき、やりたいことに向き合って選んだのが、今のIJDSです。
ここで佐々木氏は、仕事と生活の充実度を10点満点で自己採点したグラフを示した。
佐々木氏:東京時代は仕事の充実度は上がっても、忙しさのあまり生活のゆとりがなくなっていって、ある時期にガクッと下がりました。その後、北九州に移住して最初の転職をした時期に生活のバランスを取り戻して少し上向きましたが、今後のキャリアを見つめ直した時期に、迷いが生まれ、ワークバランス迷走期に入りました。そして、やりたい仕事に重きを置いて、IJDSへの転職を決意しました。
佐々木氏:一度目の転職時は、地方でできること・できないことの差が今より大きかったと思います。でも、リモート環境が整ったことで、どこにいても同じように開発できるようになりました。ここ数年で教育の面でもITの存在感が大きくなり、IJDSが北九州市立大学の情報系の新部設立に向けて産学連携協定を結ぶなど、地域全体でデジタルの動きが広がっています。入社して2年の間だけでも、ITを通じた地域貢献が加速しているのを実感します。
自ら地域に貢献できる実感、ワーク・ライフがさらに充実
最後に佐々木氏は、北九州市でエンジニアとして働くうえでの軸が3つに増えた、と語る。

佐々木氏:これまではワークとライフの2本柱で考えていましたが、北九州で働くようになって、地域=リージョンが新たな軸に加わりました。IJDSに入社してIT人材育成にかかわる地域共創のための活動に参加する機会を持てるようになったためです。
佐々木氏:地方で働くことは、ワークライフバランスにゆとりを持たせる観点が注目されがちですが、それだけではなく、自らが地域に貢献できる機会がたくさんあることが、ワークとライフをさらに豊かにしてくれることだと知っていただけると嬉しいです。
なぜ、IT企業とエンジニアは北九州市を目指すのか?~「稼げるまち」という新しい常識。首都圏一極集中から多極化の時代へ~
演者プロフィール
GMOインターネット株式会社
システム開発本部 ネットワーク所リューション開発部 マネージャー
村上 悠(むらかみ・ゆう)氏
つづいて登壇したのは、GMOインターネット株式会社のシステム開発本部 ネットワークソリューション開発部 マネージャー の村上氏。自身のキャリアを通して見た「北九州市で働くリアル」を語った。給与・評価制度、暮らし、街の変化──20年間エンジニアとして地元を見続けてきた村上氏の言葉から、地方で働くことの新しい価値が見えてくる。
北九州で20年。エンジニアとしての歩み
ここから本題へ。まず村上氏は、自身のキャリアについて語った。
村上氏:私は生まれも育ちも北九州で、20歳のころからソフトウェア開発を始めて2025年で20年になります。2018年にGMOインターネットに入社してからは、アプリケーション開発のほか、採用・育成・拠点運営など幅広く担当してきました。現在は、インターネット接続事業、プロバイダ事業でプロジェクトマネジメントや開発を担うほか、社内エンジニアの研修体制のリニューアルに注力しています。

村上氏:今の会社に入る前は、地元のSIerで11年ほど働いていました。結婚して子どもが生まれたタイミングで転職を考えたのですが、「地方拠点だと給料が下がるのでは」という不安がありました。でも、実際に働いてみるとそれが思い込みだったと分かりました。

村上氏:GMOインターネットでは、どの拠点にいても評価基準は同じです。スキルや成果をベースに判断されるため、住む場所に関係なく、成果を出せば正当に評価してもらえます。東京で働いても、北九州で働いても、収入面には全く関係ないことが答えでした。
小倉から始まる「デジタル城下町構想」
ここで話題は、北九州市のデジタル構想と取り組みについてへ。

村上氏:北九州市では「小倉デジタル城下町大作戦」という取り組みが進んでいて、IT企業の誘致が加速しています。小倉駅前の商業施設「セントシティ」や「BIZIA KOKURA」に新しいオフィスが次々と開設され、地場企業や大学も含めた集積が進んでいます。

村上氏:こうした動きがあるからこそ、北九州にいながら首都圏の仕事もリモートで可能になっているのが現状です。弊社では、東京と北九州のメンバーが同じプロジェクトをバーチャルチームのように動かしていて、なかでもAIやGPUクラウドなどの開発プロジェクトを北九州メンバーが担っています。いまや、地方の仕事に限定されるどころか、最先端の領域にも携われる環境があります。
村上氏:北九州市では、製造業DX関連の仕事がたくさんあります。そういった機会に挑戦したい人にも向いていると思います。
通勤ストレスなし、生活コストは東京の半分
北九州市で「働く」ことはもちろん、「暮らす」のも快適だと村上氏は語る。
村上氏:毎回、東京から出張者が来ると北九州の美味しい飲食店にお連れするのですが、非常に満足度が高いです。海鮮、焼き鳥、もつ鍋と美味しいものが多く、食を中心に会話がはずむことも少なくありません。仕事においてコミュニケーションは大切ですから、そういったメリットもあります。

村上氏:また、なんといっても生活のしやすさです。家賃が安く、通勤ストレスもほとんどありません。東京で同じ広さ・通勤距離の部屋を借りると家賃は倍以上しますが、北九州なら東京の半額ほどで済みます。空港も新幹線も市街地から近くて、首都圏をはじめ、他地域への出張にも便利です。
村上氏:可処分所得が増えるということが、資産形成をする上で大事です。生活コストの低さやQOLの向上は、やはり北九州に住まなければ得られないものだと思います。
「どこで働くか」ではなく「どう働くか」の時代へ
最後に村上氏は、北九州市で暮らし、働く魅力を改めてまとめた。

村上氏:最近は、北九州市立大学や西日本工業大学がIT人材育成の学部・学科を新設するなど、IT人材を育てる取り組みが活発化しており、首都圏と同じ仕事ができる状況が出来上がろうとしています。また、それを北九州市が全面的に後押しをしているという、非常に良い循環がうまれています。この流れを目の当たりにし、「東京でしかできない仕事は、もうない」と実感しています。どこで働くかより、どう働くか。地方で働くことがキャリアを広げる可能性につながっている──。北九州でこそ、その可能性を最大化できるのではないでしょうか。
エンジニアの視点から見る北九州で働く魅力と現実
演者プロフィール
ウイングアーク1st株式会社
地域創生ラボ ラボ長
石山 雅規(いしやま・まさき)氏
ウイングアーク1st株式会社
BDプロダクト開発部 エンジニア
仲井 一穂(なかい・かずほ)氏
ウイングアーク1st株式会社
データプラットフォーム事業開発部
星野 詞文(ほしの・ふみひと)氏
最後に、ウイングアーク1st株式会社の3名が登壇。「北九州市でエンジニアとして働く魅力と現実」をテーマに、U・I・Jターンを経験した同社の3人がトークを繰り広げた。UIJターンの実感、企業としての地方戦略、そして地方拠点だからこそ直面するリアルとは?
移住組が7割を占める「地域創生ラボ」
冒頭では、石山氏が同社の北九州市での取り組み概要を紹介した。
石山氏:「地域創生ラボ」でラボ長を務めています。生まれも育ちも北九州で、大学入学とともにしばらく地元を離れていましたが、2024年に30年ぶりにこちらへ戻ってきて(Uターン)「地域創生ラボ」の拠点立ち上げと地域DX・GX推進を担当しています。

ウイングアーク1st株式会社は、東京・六本木に本社を置く従業員約1,000名の企業で、データ活用によるイノベーション支援をソフトウェアで実現している。帳票基盤ソリューション「SVF」事業と、データエンパワメントソリューション事業「Dr.Sum」「MOTION BOARD」の主要事業2軸を展開している。

石山氏:2023年に「北九州市への進出及び包括連携に関する協定」を締結し、2024年に小倉の商業施設「BIZIA KOKURA」に地域創生ラボを開設しました。ラボのビジョンは「”産官学”の共創で地域のDX・GXを推進 北九州発の地域創生モデル『ザ・北九州モデル』を創出」です。北九州市立大学、九州工業大学、地元の高校や地元企業、自治体と連携しながら、北九州の課題を解決するためのモデルを構築し、全国へ展開することを目指しています。またエンジニアの移住を推進していて、現時点ではラボに所属するメンバーの約7割が都心からの移住組です。
つづいて、Jターンを経験した仲井氏、Iターンで移住した星野氏からも自己紹介があった。
仲井氏:私は社会人になる際に九州から東京に出ましたが、ちょうどコロナ禍に入り、一度も出社したことがありませんでした。東京にいる意味がないのでは?と思い、2024年に北九州へ引っ越してきました。
星野氏:私は2017年4月にウイングアーク1stに転職してきて、現在は環境データを活用した新規事業「EcoNiPass」の要求定義に特化した業務を担当しています。Iターン組なので、北九州にもともと縁があったわけではありませんが、昔旅行で訪れた際にすごく住みやすい街だと感じ、思い切って移住に踏み切りました。
北九州市における3つの”稼げる"
本題は、「稼げるまち」の6つの条件へ。

今回は、そのなかでも以下3つに絞って3人の意見が交わされた。
- 生活コストを抑えて”稼げる”
- 時間が”稼げる”
- 子どもが将来”稼げる”
⚫︎生活コストを抑えて”稼げる”

石山氏:仲井さん、星野さんは北九州に移住して、実際に生活コストが抑えられていると感じたことはありますか?
仲井氏:皆さんが仰る通り、家賃は安いと思います。個人的には、光熱費はあまり変わらない感覚です。ただ、小倉北区の中心部に近い立地の物件に住みながらも、関東にいたときと比べて毎月1万円ほど固定費が下がりましたね。
星野氏:移住する際に物件を探して、北九州市の家賃はワンルームで5万円ほどだと分かりました。都内に住んでいたときの家賃をベースに北九州で物件を探すと、部屋の広さが2倍くらいになり、生活の質がかなり上がりました。
石山氏:お二人が語ってくれたように、やっぱり北九州で働く魅力の1つは、生活コストを抑えられるということなのではないでしょうか。
⚫︎時間が”稼げる”

石山氏:星野さんが「時間が稼げている」と感じるのはどのような時でしょう?
星野氏:リモートワークという働き方です。弊社は原則リモートワークなので、通勤時間がかかりません。
石山氏:通勤時間がないのは大きいですよね。私も東京で働いていたころは、同僚が数時間を平気でかけて通勤していました。仲井さんはどうですか?
仲井氏:私は今、会社まで15分程度の場所に住んでいて、妻は徒歩5分くらいのところに勤めています。一度出社して、お昼ご飯を自宅に食べに帰ってきてもう一度出社する、といったゆとりある生活を送れていますね。
石山氏:家族との時間は本当に大切だと思うんです。エンジニアが良い仕事をするためにも、そういったことが実現できるのは北九州の魅力でしょう。
石山氏:仕事内容によっては対面でこなさなければならないプロジェクトもありますよね。北九州では、チームメンバーで集まる際にもすぐに会社に集まれるのが魅力的だと感じます。コミュニケーションの観点で北九州で働くメリットを実感したことはありますか?
仲井氏:リモートで東京にいたときは、誰とも会いませんでしたが、今はオフィスが非常に近いので、色々な人と気軽にコミュニケーションが取れるので楽しいですね。
星野氏:北九州は都市部だと感じるところはありつつ、地方特有のフレンドリーさも持ち合わせているのが良いところだと思います。我々のオフィスがある「BIZIA KOKURA」では入居している企業間のつながりが深く、さまざまな距離感が近いところが良いポイントです。
石山氏:ほかの企業の方々とのつながり、懇親会やスポーツ大会などのイベントがたくさんありますよね。なかなかほかの拠点では味わえない「人と人とのつながり」がここにはあると感じます。
石山氏:また、北九州市自体も本気で移住を支援してくれていると感じる部分があります。補助金だけでなく、移住後も「その後どうですか?」とフォローしてくれるのがとても心強いですよ。
⚫︎子どもが将来”稼げる”

石山氏:弊社では、若い世代の育成や家族の時間を本当に大切にしています。リモートワークの選択肢がなかったころは、子どもが小さいときの送り迎えの調整は大変でした。
でもリモートワークを取り入れられるようになり、妻と分担しながら子どもに関われるようになったのが私自身大きかったですね。
星野氏:「BIZIA KOKURA」の近くに大学のキャンパスが誕生する予定で、地元の子どもや学生との交流の機会がますます増えていくと思います。そういったところで、子どもの将来を広げるチャンスが広がっている機運を感じていますね。
仲井氏:弊社でも若い世代の人材育成に力を入れて取り組んでいます。例えば、インターンシップで学生を受け入れるなど、技術を若い世代へ伝える活動には注力しています。
石山氏:そうですね。大学生向けのカリキュラムを作ったり、夏休みを利用して小学生向けIT・プログラミング教室を提供したりしています。このように弊社では幅広い世代をターゲットに育成支援を行っているので、こういったことが北九州にいる子どもたちが将来稼ぐことにつながれば良いな、と考えています。
【パネルディスカッション】
イベント後半では、パネルディスカッションが実施された。モデレーターは再び糸川氏。「東京水準で稼げるまちとは?」「自分を活かして稼げるまちとは?」「複業で稼げるまちとは?」の3つをテーマに、登壇者それぞれの視点から、地方で働くリアルと北九州市の可能性を語った。
⚫︎東京水準で稼げるまちとは?:ぶっちゃけ、移住して”収入”は下がった?上がった?

糸川氏:1つ目のテーマは、収入面における「東京水準で稼げる」について登壇者の皆さんのお話を聞いてみたいと思います。ここは、参加者が一番気になるであろう「上がった」という回答の村上さんに話を伺いたいと思います。
村上氏(GMOインターネット):私は地元から地元への転職なので、移住による条件とは少し異なるかもしれませんが、転職時点で100万円ちょっと上がりました。転職から8年経った今は当初の倍程度になりました。北九州のエンジニアは東京のプロジェクトの仕事もやりますが、地場でのエンジニアイベント、例えば中高生向けの職業体験イベントや大学生にITを教えるイベントに参加する機会があり、エンジニアリング以外の要素の仕事にも携わっています。それらをうまくアピールできると、高く評価してもらえることがあります。
石山氏(ウイングアーク1st):私は東京にいたときと収入は変わりません。東京にいたときと同じ給与で北九州で生活することになるので、純粋に可処分所得が増えている実感がありますね。生活コストが抑えられる分、美味しいものを皆で食べに行く機会が増えて、体重も右肩上がりの状態です。弊社では、社内移住制度があり、東京にいた人が北九州へ移住する場合は、会社が一年間家賃を補助する仕組みがあります。
村上氏(GMOインターネット):あとは、他県から引っ越してくる際に北九州市の助成金がいただける制度があります。その制度を活用すると良いよ、と社員パートナー同士で勧め合っていますね。
⚫︎自分を活かして稼げるまちとは?:地方にいても、本当に”キャリアアップ”ってできるの?

糸川氏:佐々木さんのご発表のなかで技術を磨きに、九州DXセンターに来られるケースがあるという話がありましたが、もう少し詳しく伺っても良いですか?
佐々木氏(日本アイ・ビー・エムデジタルサービス):九州DXセンターでは、既存スキルを生かすだけでなく、新しい技術やプロダクトに挑戦できる環境があります。私自身、Salesforceを扱っていますが、この年になって初めて扱い始めました。このように、新たな技術を身につけながら頑張っているメンバーがたくさんいますね。
佐々木氏(日本アイ・ビー・エムデジタルサービス):また、IBMグループ全体で女性リーダーを育成する研修を実施しています。大体3〜4カ月ほどの中期スパンで異業種の女性社員と交流したり、女性リーダーの講演を聞いたりして、キャリアを築くうえでの課題や経験を共有できたのは、大きな刺激になりました。
村上氏(GMOインターネット):弊社では、開発・運用領域を含めてAIを活用した業務効率化に取り組んでいます。2024年卒の新卒エンジニアが東京と北九州のエンジニアチームのAI活用を推進するプロジェクトをリードしている例もあり、年次に関わらず挑戦できる環境があります。
村上氏(GMOインターネット):「BIZIA KOKURA」の共有スペースで行われているイベントに参加させていただいています。地域で学び合いながらスキルを高めていける環境があるといえるのではないでしょうか。
⚫︎複業で稼げるまちとは?:地域で複業キャリア、アリかナシか。

糸川氏:複業の実例や、地域コミュニティとのつながりが複業に生きた事例についてお聞かせください。
石山氏(ウイングアーク1st):弊社では副業を公式に認めています。塾の経営や非常勤講師、さらには声優業まで、皆それぞれに多様な副業を行っているようです。
石山氏(ウイングアーク1st):もともとは、北九州で学生向けのイベントやアイデアソン、ハッカソン、LTなどは少なかったようで福岡市まで行かなければなかなか参加できない、という声があったようです。だからこそ弊社がそういったイベントを北九州で開催するとすごく喜んでもらえるんです。そういった活動から新たな取り組みへと広がりを見せているので、私たち自身の成長にもつながっていると感じます。
佐々木氏(日本アイ・ビー・エムデジタルサービス):弊社が入居する「BIZIA KOKURA」では、さまざまなLTや交流イベントが開催されています。異業種の女性社員との交流が広がったり、他社のテック知見が学べたりという機会が頻繁にありますね。
糸川氏:私は、北九州市の政策連携団体で仕事をしています。そこでは、地域の企業のデジタル化の課題に対して専門家を派遣するデジタル相談窓口を運営しています。実は、複業で専門家に登録してくださっている方もいらっしゃるので、ぜひ関心がある方は調べてみてください。
村上氏(GMOインターネット):首都圏や福岡市で開催されているような大きなテックカンファレンスが北九州に誘致できると良いな、と思っています。地方に誘致した場合の成功事例もありますし、開催できれば学生や地元エンジニアがさらに交流できる場になるので、魅力的だと思いますね。
【Q&Aセッション】
Q&Aセッションでは、イベント登壇者に向けて、参加者から質問が投げかけられた。
Q. 距離感が近いことがネガティブになることはないか?
石山氏(ウイングアーク1st):人と人との距離感の観点で回答すると、距離感が近いことがネガティブな要素にはならないと考えています。ビジネスでは、どうしてもコミュニケーションコストが発生しますが、距離が近いとそれを少しでも減らせますし、軌道修正をしやすい部分もあります。ビジネスにおいて距離感が近いことは決してネガティブにはならないのではないでしょうか。地域のコミュニティでのつながりに関しても、もちろんですが強制されることはありません。行きたければ行けば良いですし、無理する必要はありません。本人の自主性を重んじることは私自身大切にしています。
村上氏(GMOインターネット):北九州は横のコミュニケーションが多いと感じますね。弊社でいうと東京には昔からいるメンバーが多くて、北九州と比べると落ち着いた雰囲気があります。1人で静かに仕事したいタイプだと、マイナスな面もあるかもしれませんが、地方で色々な人とコミュニケーションを取りながら新しい仕事をやっていくという点では、距離感が近い方がやりやすいと思います。
Q. 九州の案件が多いのか?
村上氏(GMOインターネット):弊社はto C向けサービスなので、お客さま案件でいえば全国のものがあります。一方でインフラでいうと、福岡にデータセンターがあるので、その領域に限ってはある意味九州の案件だと思います。
石山氏(ウイングアーク1st):特に九州の案件が特別多いということはありません。ただ2024年に立ち上げた地域創生ラボでいうと、北九州関連のご依頼が多く身を結んでいる状況です。そういった意味では、北九州案件が少しずつ増えてきていると感じています。
佐々木氏(日本アイ・ビー・エムデジタルサービス):九州のお仕事が特に多いということはありません。せっかく地域DXセンターが立ち上げられたので、地元の企業さんや自治体の方と共創して進める案件が増えてほしいと思っているメンバーはたくさんいます。
Q. 地方での採用において、営業職とエンジニア職の採用割合はどの程度か?
石山氏(ウイングアーク1st):弊社では、営業は本社採用に任せています。北九州拠点の地域創生ラボでは、エンジニア採用を強化しています。
村上氏(GMOインターネット):北九州拠点では、エンジニアが9割を占めています。そのため北九州では、エンジニア採用がメインです。ただ、メディア営業というSEO関連のサービスを販売する営業チームの一部も北九州に拠点を置いています。営業を増やそうとする動きもありますが、ほとんどはエンジニア職での採用です。
佐々木氏(日本アイ・ビー・エムデジタルサービス):弊社も、地域DXセンターが開発センターなので、エンジニア採用がメインです。
文=宮口 佑香(パーソルイノベーション)
※所属組織および取材内容は2025年9月時点の情報です。
KITAKYUSHU Tech Day
https://impact-kitakyushu.jp/
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