SHIONOGI DATA SCIENCE FES 2026 ——データとともに進化する、社会の“日常”
生成AIの登場をきっかけに、データサイエンスはかつてないスピードで広がり、研究、医療、ビジネス、社会の意思決定の形を変え始めています。そうした時代にデータをどう活用し、どう扱うべきか。SHIONOGI DATA SCIENCE FES 2026では「データとともに進化する、社会の“日常”」をテーマに、業界のスペシャリストが講演を行いました。生成AIの登場をきっかけに、データサイエンスはかつてないスピードで広がり、研究、医療、ビジネス、社会の意思決定の形を変え始めています。そうした時代にデータをどう活用し、どう扱うべきか。SHIONOGI DATA SCIENCE FES 2026では「データとともに進化する、社会の“日常”」をテーマに、業界のスペシャリストが講演を行いました。
本レポートでは【講演③:AIを用いた医薬品の開発/育薬におけるプロセスの効率化】【講演⑧:データエンジニアの役割と挑戦 -DX指針×データエンジニアリング×人的資本経営-】を取り上げさせていただきます。
※他講演のレポートは塩野義製薬データサイエンス部の特設サイトからご覧ください。
【講演3】AIを用いた医薬品の開発/育薬におけるプロセスの効率化

塩野義製薬株式会社
データサイエンス部 Generative AIグループ
松野 匡志

塩野義製薬株式会社
データサイエンス部 データサイエンス1グループ
米田 卓司
SHIONOGIのデータサイエンス部は、臨床試験およびリアルワールドデータ(以下、RWD)に関連して、現在二つの新たなプロジェクトに取り組んでいる。
はじめに、松野が医薬開発文書作成の効率化について解説した。医薬開発においては、治験実施計画や治験総括報告書をはじめとする厳格な様式の文書を大量に作成しなければならない。薬事部のメディカルライティング部門では、一つの文書を仕上げるだけで数十から数百時間を要することもあり、その工数やヒューマンエラーのリスクが課題となっている。これを受け、薬事部とデータサイエンス部の共同プロジェクトとしてAIアプリケーションの開発に乗り出した。

AI活用においては、厳格な文書だからこそ逆にその構造を活かすことができる。各章ごとに「何を書くべきか」というガイドラインが明確に定められているため、その指示をAIに与え、章・節ごとに生成を制御する。
開発したWebアプリケーションでは、メディカルライティング担当者が対話的に文章を編集できる仕組みを採用。生成した内容に対して新たな指示を入れれば、該当部分だけが差し替わるようにした。最終的には社内で使用しているWordテンプレートに出力できるため、実務の流れに沿った設計になっている。
「このプロジェクトで感じたのは、すべてをLLMに任せてしまうと、高品質なものはできないということでした。従来的なPythonやルールベースのロジックをどんどん組み合わせていかないと、良いものは作れないというのが今回の学びです」(松野)
今期に実施したPoCでは治験総括報告書の作成時間を50%削減、プロトコルの作成時間を20%削減という結果が出ており、当初目標の15〜20%削減を大幅に上回る成果を達成した。この取り組みは現在、日立製作所との協業を通じて他企業への展開も始まっており、企業間の垣根を超えた非競争領域での社会貢献としても注目を集めている。
続いて米田が、育薬領域、すなわち発売後のRWDを活用したエビデンス創出を効率化する「AI-SAS for RWE」について紹介した。
RWDを用いた解析は年々活発化している一方で、データ形式がベンダーごとに異なっていたり、解析プロセスや資料がプロジェクトごとに個別最適化されたりしていることから、標準化が十分に進んでいないという課題を抱えていた。また、第三者による監視体制が限定的なため、研究の透明性への懸念もついて回る。

このAI-SASは二つのアプローチで構成される。1つはRWDの標準化だ。各ベンダーから提供されるデータをSHIONOGI独自の共通データモデルに変換し、共通の解析プログラムで分析できる状態に整備する。もう1つはRWD解析の準自動化で、リサーチクエスチョンからプロトコル作成、解析用データセットや表の生成まで、一連のプロセスの準自動化を目指している。作成の履歴はGit上に自動記録され、透明性の確保にも対応している。
「従来は数か月を要していた解析作業が、RWD解析の熟練者でなくても数時間で完了したという利用事例も確認されています。今後はさらに生成AI技術を組み込み、コンセプトシートやプロトコルの作成支援、論文作成の補助へと機能を拡張し、RWE創出のさらなる加速を目指しています」(米田)
【講演8】データエンジニアの役割と挑戦 -DX指針×データエンジニアリング×人的資本経営-
塩野義製薬株式会社
データサイエンス部 データエンジニアリング2グループ長
今井 雅之
塩野義製薬株式会社
データサイエンス部
データエンジニアリング2グループ
秦 彩乃
はじめに、今井が、SHIONOGIにおけるDX指針の策定および、データサイエンス部のアクションプランについて紹介した。
SHIONOGIでは2025年度、「テクノロジーとデータと情熱でヘルスケアの未来を変える」というメッセージのもとDX推進に取り組んだ。テーマは3つ。グローバルファーマへの成長、次世代ファーマへの進化、組織と人材の強化だ。
データサイエンス部はさらに具体的な目標を立てた。グローバルファーマへの成長という文脈では、グローバルでのデータ連携が完了し、各エリアでの製品や経費の状況をリアルタイムで把握、迅速かつ的確な予算・SCM運営や意思決定を可能にしていくという姿を目指す。次世代ファーマへの進化という文脈では、各バリューチェーンで新たな価値創造につながるデータ利活用の推進を進めている。組織と人材の強化に関しては、2025-2026年度では特に生成AIの利用率100%を目指して活動を進めている。

「データサイエンス部の業務の本質は、各バリューチェーンの業務をよく理解し、皆様と連携しながら価値を生んでいくことにあります。積極的な提案を行って、バリューチェーンの皆様と共に変革を遂行していく存在を目指しています」(今井)
後半は、データエンジニアリング業務と人的資本経営に向けた新たな挑戦について、秦から紹介があった。
秦が注力する取り組みが、企業内の健康関連データを活用した人的資本経営ソリューションの開発だ。勤怠や研修履歴、エンゲージメントサーベイ、人事情報といった多くの企業がすでに保有しているデータを広義での「健康関連データ」として捉え直す。例えば勤怠データは働き方そのものを映し出し、ストレスや睡眠との相関が先行研究で明らかになっている。
「これらのデータを活用してメンタル不調による休職予測や労働生産性の評価、モチベーションの可視化ができれば、私たちがすでに保有しているデータの価値を高めることができます」(秦)
個人のQOL向上が組織全体の生産性向上や医療費抑制につながるという好循環の実現を見据えており、この課題はSHIONOGIだけでなく多くの企業に共通することから、広く社会への価値提供にもつながると秦は言う。

一方で、社内データの活用には多くのハードルが立ちはだかる。データの部門間の分散、オーナーシップの複雑さ、従業員からの同意取得、データ品質のばらつき——これらを乗り越えるために、人事や法務等の関係するステークホルダーと連携しながら社内規則の整理、同意文書の整備、法的妥当性の検証を地道に進めている。
そして、何より重視しているのは、従業員が安心してデータを提供できる透明性の確保だ。どのデータをどのような目的で使い、それらが従業員に対してどのようなメリットを生むのかなどを丁寧に説明することで従業員からの理解と共感を得ることが、データ活用の土台となる。
「取り組みの方向性は2つ。社内の人的資本経営領域にデータで価値を創造することと、外部協創を通じた新規事業の創出です。後者では特にメンタル領域をフックに、人的資本関連のドメインナレッジを持つ日立製作所との協業を進めています。社内で得た知見を外部事業に活かし、社外で得た知見を社内に還元する——このサイクルを回しながら、本分野をリードするポジションを確立していきたいと考えています」(秦)
他講演についてのレポートは塩野義製薬データサイエンス部の特設サイト内のレポートをご覧ください
https://shionogicoltd.github.io/shionogi-data-science-dept-site/events/ds-fes-2026/
塩野義製薬データサイエンス部の特設サイト
https://shionogicoltd.github.io/shionogi-data-science-dept-site/
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