課題の最前線にテクノロジーを。仙台発、社会課題に挑む4社のリアル
日本の未来に立ちはだかる課題は、地方都市でこそ最も鮮明に現れます。人口減少、災害医療、地域産業の担い手不足、そして中小企業のDX遅れ——これらは待ったなしの現実として、東北の地に横たわっています。 本記事では、仙台市主催「Tech Drive Sendai 2026 Day1」に登壇した4社の実例を紹介します。いちご産業を再生させたGRA、病院マニュアルをAIに変えたCERCIT、東北学院大学と地方創生に挑むNTTデータ東北、地域企業のDXを伴走する七十七デジタルソリューションズ。それぞれが「現場に最も近い場所でこそテクノロジーは真の価値を生む」という共通の答えを語ります。Sendai DX最前線。仙台にはなぜDX推進者が集まるのか? ー医療、農業、防災。
日本の未来に立ちはだかる課題は、地方都市でこそ最も鮮明に現れます。人口減少、災害医療、地域産業の担い手不足、そして中小企業のDX遅れ——これらは待ったなしの現実として、東北の地に横たわっています。
本記事では、仙台市主催「Tech Drive Sendai 2026 Day1」に登壇した4社の実例を紹介します。いちご産業を再生させたGRA、病院マニュアルをAIに変えたCERCIT、東北学院大学と地方創生に挑むNTTデータ東北、地域企業のDXを伴走する七十七デジタルソリューションズ。それぞれが「現場に最も近い場所でこそテクノロジーは真の価値を生む」という共通の答えを語ります。
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時給693円の農業を、データで再現できる産業に変えた15年
株式会社GRA
観光部 副部長 兼 新規就農支援事業責任者
山根 弘陽(やまね ひろあき)氏
株式会社GRAは、宮城県山元町に本社を置く従業員約100名のいちご農業法人です。生産・販売・輸出から加工品、いちご狩り、新規就農支援まで手がけています。
山元町は2011年の東日本大震災で甚大な被害を受け、町の基幹産業だったいちごづくりも、ハウスの多くが海際にあったためほぼ壊滅状態だったといいます。GRAはもともと震災直後のボランティア活動から始まった組織です。町の人から「経済や雇用を復活させてほしい」と声をかけられ、いちごづくりへと舵を切りました。創業者の岩佐はいちごづくりの経験がない状態から、町に雇用を作りたいという思いを胸に走り出しました。
インフラが破壊された地でいちごを作るには、まず水が必要です。GRAは井戸掘りから事業を始め、2012年に創業1年目の収穫を迎えました。その過程で見えてきたのが、当時のいちご農家の可処分所得が時給換算で693円ほどしかないという現実。最低賃金を下回る稼ぎで長時間労働している——これでは地元に根付く産業になりません。GRAはこの構造を変えるため、アグリテックの活用を決めました。

農業は元来、経験や勘に頼る分野です。創業メンバーだった親戚のおじさんも名人でしたが、「いちごと会話しながら覚えろ」と背中で語るタイプでした。GRAはこの職人の技術やノウハウをデータ化・マニュアル化し、手作業の工程もシステム化。毎年安定して美味しいいちごを収穫できる基盤を作り上げました。
1粒1,000円のブランドと、町に戻った賑わい
品質が安定すると、独自の「ミガキイチゴ品質基準」を設けてブランド化。最高ランクは1粒1,000円で、首都圏の百貨店やスーパーのほか、東南アジア圏にも輸出しています。品質基準に満たないいちごも、加工品事業で活かしています。
山元町では、いちご狩り施設や直営ショップ、カフェを運営しています。年間3万人以上が訪れ、その数は山元町の人口約11,000人の3倍以上にのぼります。震災で失われた賑わいが、少しずつ町に戻ってきていることを実感しています。

15年前、震災で全てを失った町から始まった挑戦は、少しずつ町に賑わいを生み出してきました。町が活性化していくにつれ、そこに暮らす人々にも誇りが生まれてきます。誇りが生まれれば、「自分たちも何かをやっていきたい」という新しい動きが自然と芽吹いていきます。
146ページのマニュアルを、AIナビゲーションに変える
株式会社CERCIT
代表取締役
横川 裕大(よこかわ ゆうた)氏
株式会社CERCITは、東北大学病院の医学教育機関「クリニカル・スキルスラボ」を母体とする大学発ベンチャーです。役員には現役医師が3名在籍し、横川氏自身も東北大学病院の救命救急センターで働きながら、DMAT(災害派遣医療チーム)の隊員として活動しています。
同社が東北大学病院高度救命救急センターと共同で開発しているのが、災害時病院支援AI「RES-Q Navigation」です。災害直後の救命救急センターでは、怪我人が病院にひっきりなしに運ばれてきます。病院自身も被災している状況で、総力を挙げて患者を救う必要があります。そのために各病院はマニュアルを整備していますが、地震、津波、原子力災害、COVID-19と対応すべき事態が多様化する中で、マニュアルはどんどん分厚くなっていきました。東北大学病院のマニュアルは146ページにも及びます。

1秒を争う現場で、「この指示は何ページにあったか」「次に何をすればいいか」を探す時間は、患者の命に直結するロスになりかねません。この読む時間を、命を救う時間に変える——それがRES-Q Navigationのコンセプトです。
読むマニュアルから、ナビゲートするAIへ
膨大なマニュアルをデータベース化し、使う人の役割と災害状況に応じた最適解を提示する仕組みです。自分の役割(例: 多数傷病者部門の医師リーダー)と災害規模を入力すると災害レベルが自動設定され、今行うべきことがチェックボックス形式で提示されます。

AIアーキテクチャには、大規模マニュアルを高速並列処理する技術に加え、専門用語に強いハイブリッド検索、マニュアルのどこに書いてあるかの根拠を明示しながら回答する仕組みが組み込まれています。誤った情報が現場に伝わると重大な事故につながりかねないため、根拠の可視化を徹底しています。
RES-Q Navigationは、仙台X-TECHイノベーションアワード2026で最優秀賞を受賞し、今年度は仙台市の先端テクノロジー・データ利活用ユースケース創出支援事業に採択されています。

今後は仙台モデルとして医学的エビデンスを構築し、標準化を進めた上で、全国8,000の医療機関に届けていく計画です。マニュアルとの格闘をゼロにし、目の前の命に全力を注げる環境をつくる。災害が起きても医療体制を面として維持できる社会を目指しています。
3人に1人が高齢者の東北で、産官学金の共創に挑む
株式会社NTTデータ東北
デジタルトランスフォーメーションオフィス
地方創生・CX変革担当部長
佐々木 光宏(ささき みつひろ)氏
株式会社NTTデータ東北の企業理念は「地域に生きる、活きていく」。東北・仙台・宮城の課題解決と、幸せをITでつなぎたいという思いが込められています。AI開発・AI基盤構築・AI人材育成・データ活用支援・自治体オープンデータのダッシュボード構築などが事業の中心です。
東北は既に3人に1人が高齢者で、2040年に向けては生産年齢人口が全国の1.5〜1.7倍のスピードで減少します。首都圏に投資と人材が集中する中、東北のDX推進は停滞し、社会課題解決が後回しになる懸念があります。
こうした課題は複雑で難易度が高く、1社だけで解決できるものではない——それが佐々木氏の立場です。同社は「産官学金の共創による社会課題解決」を掲げ、多様な主体が持つ情報・技術・人材・資金を結びつけるオープンイノベーションハブとして機能することを目指しています。

社会課題解決はこれまで、経済合理性の低さから公共セクターが担ってきた領域でした。しかし現在、ICT活用の進展によって民間が手を伸ばせる領域に変化している——ここに取り組むべきだと佐々木氏は語ります。
衰退の連鎖から導いた、教育・観光という仮説
社内で衰退する自治体の傾向を分析したところ、雇用の喪失、学校の廃校による教育機会の低下、行政サービスの縮小、観光客の減少、外貨の枯渇という連鎖が浮かび上がりました。そこから導き出したのが、「魅力的な町づくりには、教育環境の充実と観光客の増加が重要だ」という仮説です。

この仮説を実現するために結ばれたのが、東北学院大学との包括連携協定です。本協定を通じて、人材育成、データを活かした地域交通と観光の高度化、社会課題の解決という3つの価値創出を目指しています。現在、自治体・高校・東北学院大学と連携し、「国内留学」をテーマにした地域探究プログラムを推進しています。地域理解・課題発見から解決策の検証・実装までを一気通貫で体験する仕組みで、教育を核とした地域リブランディングに取り組んでいます。

課題先進地域である東北には、既成概念を壊すほどのパラダイムシフトが必要です。DXやAIはあくまで手段で、それ自体が社会課題を解決するわけではありません。テクノロジー起点から社会課題起点へ、そして産官学金の共創で根深いテーマに向き合う——身近な課題解決から一緒に取り組みませんか、というメッセージで佐々木氏は締めくくった。
地銀ならではの信頼で、地域中小企業のDXに伴走する
七十七デジタルソリューションズ株式会社
取締役企画部長(CDO)
中津川 拓(なかつがわ ひらく)氏
東北地方の生産年齢人口は、これから20年でおよそ40%減少すると見込まれています。100名の会社であれば60名で事業を回さなければならない未来が、ほぼ確実に到来します。一方で宮城県のアンケートによると、東北の中小企業のうち約50%が「デジタル化が進んでいない」と回答しています。

なぜ進まないのか。アンケートや銀行のお客様の声を集約すると、「信頼できる相談先がない」という声が最も多く出てきます。DXやAXを進めるには、この課題をクリアする必要があると考えています。
銀行グループは、日々地域企業の経営者と会話できるリレーションをすでに持っています。業務課題や財務内容を把握しているため相談への抵抗感がなく、「何かを売られるのでは」というベンダーへの警戒心も持たれません。兼業ではなく専業で相談に応じる存在にならなければ——そんな思いから、非金融の専門会社を設立しました。
銀行の信用力が、契約を成立させる
同社の支援は、七十七銀行の県内約20万先の法人取引先を起点に、120か店の営業店が企業の課題やニーズを発掘することから始まります。そこから課題整理、導入支援までを伴走する流れです。銀行が持つ地域ネットワークと信用力に、提携ベンダーのノウハウを掛け合わせた支援体制が強みで、こうした案件は月20〜30件のペースで増えてきています。

信用力が生きた事例の1つが、仙台市の小中学校の教材費などの支払いサービスです。共同で事業を進めたベンダーは東京の企業でしたが、学校側は「地元の事業者に対応してほしい」というニーズがありました。そこで同社が地域のパートナーとして間に入ることで信頼を得て契約が成立。今年度は県内の公立高校にも展開する予定です。
開業から半年、地元ではまだクラウド導入による業務効率化がメインですが、最近は中堅企業を中心にデータ活用やAX相談が増えており、ここが伸びしろだと中津川氏は考えています。銀行グループとして、金融分野にとどまらずまちづくりや地方創生、将来的には宮城県の基幹産業である水産・農業・観光の地域DXにも貢献していきたいとしています。

課題先進地・仙台で働く、暮らす、事業をつくる価値

登壇した4社は分野こそ違えども、仙台という場所を事業の中心に据える点は共通していました。モデレーターに株式会社zero to one竹川氏を迎え、4社の登壇者が仙台の魅力と、そこで働くエンジニアに求められる資質を語り合いました。
なぜ、事業を前に進める場所として仙台が選ばれるのか
山根氏: 山元町は震災前からもともと東北一のいちご産地でした。冬場でも日照が良くて温暖で、いちご栽培に向いている気候なんですね。だからこそ、被災した場所できちんとストーリーを持ってチャレンジするのに最適だと考えたし、代表の岩佐の出身地でもあるので、故郷を復活させるという意味合いでも山元町でした。
横川氏: 東北大学のシミュレーションセンターが日本でも有数の規模を持っていることが大きいです。教育だけでなく研究費を取って製品を作るところまで自分たちでできる。将来的には臨床現場で患者さんの予後をどう良くするかまで見据えているので、教育から診療現場までを一気通貫でできる環境が仙台にはあります。
佐々木氏: 今までは差別化要素がテクノロジーカットにありましたが、社会が発展してくると差別化要素はより上流の経営課題や社会課題に移っている。短期的に儲かる仕事だけでは競争に勝てないからこそ、社会課題解決に取り組むポジショニングが大事だと捉えています。
中津川氏: 産官学金の「金」が入るのが強いと思っています。シェアの高さは全国でも随一ですし、指定金融機関として39自治体と連携している。大学とも採用を含めてコミュニティが築かれています。日々の取引で自治体とも情報を共有していて、金融が持つ人のネットワークが凄く生きてくるんじゃないかなと思っています。
AI時代に、現場に近いことがなぜ価値になるのか
山根氏: 農業はほぼフィジカルなので、フィジカルAIが評価に耐えるレベルで普及するのはもう1世代先かなと。今はインテリジェンス側を、生産管理や会計で活用しています。うちの会社はもう「エンジニアという職種はなくて、全員エンジニア」みたいな感じで、事務員がいつの間にかGeminiを使ってコーディングして事務を改善している、みたいなことが起きています。エンジニアと非エンジニアの境目がなくなってくる中で、AIをどう活用していくのかを問いとして持っていきたいですね。
横川氏: RES-Q Navigationの開発も、本職のエンジニアがいるわけではなく、私も含め何人かで勉強しながら作っています。医療現場はDXが遅れていて、エンジニアから見ると「なんでこんな前時代的なことをやっているの」と感じることも多いはずです。ただ、その課題が本当に価値のあるものかを見定めるのは難しい。現場の人たちとどれだけディスカッションをして、本当のペインを深掘りできるか。そういう対話ができるエンジニアの方と、ぜひ一緒に活動したいですね。
佐々木氏: AIが流行る前はデータドリブン経営の支援をテーマにやっていましたが、データを活用したいと思ってもそこまで至らないお客様も多かった。それが今は、データ活用のフェーズを飛び越えて「AIで何とかしたい」という声が多いんです。アフリカで銀行口座を持たない人がスマホで金融機能を全部済ませるみたいな話に似ていますね。実装できているかは別ですが、意識はかなり変わってきています。
中津川氏: 中小企業だと、絶対に変えたくない年配の方がいるケースはやっぱり多いです。粘るしかなくて、銀行はお客さんのところに週1ペースで行っているので、「じゃあ勉強会しましょう、講師は僕たちがやります」と伴走していく。そうすると8割、9割は変わってきます。最初の入り口を作っていくのが大事ですね。
首都圏では得られない、仙台で働く・暮らす価値とは
中津川氏: 初任地では宮城県の中小企業さんを担当していました。カブに乗って集金して、現金を数えてバッグに入れて帰る。そういう中で色んな話を聞いてリレーションを作った経験は、首都圏だとなかなかないのかなと思っています。遊びの観点で言えば、海にも山にもゴルフ場にも行きたければ行ける。東京も1時間半なので出張ならその距離感で許されるし、すごく「ならでは」の地域だと思います。
佐々木氏: 東京で働くメリットは、大きな仕事と良い給料でダイナミックに働けることだと思うんですが、今は仙台でもダイナミックな仕事が遠隔でできる。加えて、社会課題先進地域でゼロをイチにする価値がある。社会課題ってめちゃくちゃ難易度が高くて、それをゼロイチでやる価値はすごくあるなと思っています。
横川氏: 現場という意味での東北大学との近さは、うちの会社の強みです。個人的には、私も関東から東北に来た側ですが、仕事は色んな場所でリモートでできる時代ですよね。だからこそ衣食住、特に食です。東北は本当にご飯が美味しい。お米もお酒も味が全然違いますし、ここに住む価値は非常に高いと思っています。
山根氏: よく言われるのは「都会田舎」で、都会だけれど自然が近い。この環境が生活する上でも仕事する上でも最高だなと思っています。6歳の娘がいるんですけれど、自然も都会的なことも享受できる環境は、子育ての面でも最高ですね。楽しく豊かに暮らせているかなと思っています。
人は、現場から一番近い場所でこそ鍛えられる。震災から立ち上がったいちご畑も、探す時間を救う時間に変えるAIナビゲーションも、衰退する自治体を結び直す産官学金の共創も、机上の空論では動きません。課題の生々しさに触れ、そこにいる人と向き合い続けることでしか磨かれない力があります。
社会課題の難易度が高いということは、裏を返せば、それだけ大きな価値をゼロから生み出せるということでもあります。日本の未来の課題が最初に押し寄せる場所だからこそ、そこで挑む人もまた、誰より早く鍛えられていく。仙台は、そんな成長の最前線です。
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