エンジニアが創造するITオペレーションにおける未来と現実(イマ)~ Accenture Tech Summit ~
2018年1月27日(土)13:00より、「Accenture Tech Summit ~エンジニアが創造する未来と現実(イマ)~」が開催されました。
本イベントの主催であるアクセンチュアには、コンサルティングのイメージを持っている人も多いのではないでしょうか。そのアクセンチュアの特徴のひとつが、テクノロジー領域に強いことです。アクセンチュアでは早期からテクノロジーに注力しており、エンジニア育成のための取り組みも重要視しています。それは、エンジニアがプロジェクトに欠かせない存在であるからです。
アクセンチュアのプロジェクトにおけるテックにテーマを当てたこのイベントは、多くのエンジニアが参加を申し込み、当時は当選した約70名が参加しました。
イベントの具体的な内容は下記の通りです。
「アクセンチュアについて」
アクセンチュア株式会社 田中慎二さん
「 ITビジネス環境の変化におけるエンジニアの未来とNewITへのナビゲーション」
アクセンチュア株式会社 田中慎二さん
「デザインシンキングの事例紹介」
アクセンチュア株式会社 小林伸夫さん
事例紹介1
「FinTechを実現するために必要な『エンタープライズ・マルチベンダー・アジャイル プロジェクトマネジメント』と『DevOps』とは」
アクセンチュア株式会社 田中慎二さん
事例紹介2
「Outsourcing Self-Service Portal (AI + RPA + SharePoint)導入」
アクセンチュア株式会社 田中伸明さん
Q&A
テーマ別トークセッション
それでは前半の講演部分の内容を中心にご紹介します!
アクセンチュアについて
田中慎二(たなか・しんじ)/アクセンチュア株式会社 テクノロジーコンサルティング本部 ITアウトソーシング デリバリー統括 マネジング・ディレクター。
田中さんはまずアクセンチュアについて紹介します。
「私たちアクセンチュアの日本法人には現在約1万近い従業員がいます。グローバルでは5年ほど前にフィヨルドというデザインシンキングを得意とする会社を買収しました。フィヨルドの強みは人なのでそのまま会社として残しているのですが、この買収は大きなポイントのひとつだと感じます。多様性を重んじながら新しい仕事を創り出すことにチャレンジする会社だと思っていただければと思います。
業務の領域はコンサルティングだけではなく、戦略立案からその実践まで一貫したサービスを提供しています。そこにはもちろんシステムインテグレーションも含みます。どの領域もお互いにリスペクトをしながら、みんなでチャレンジを支え合うカルチャーですね」(田中さん)
田中さんは「環境の変化が速いスピードで起こる現代では、従来のアドバイザーではなく、クライアントともに成果を作り出せるビジネスパートナーが求められる」と指摘します。
「従来の一般的なITサービサーは、クライアントのIT部門から案件を『外注』されていました。それに対して、私たちアクセンチュアではクライアントのビジネス部門のパートナーとしていわゆる上流も含めて主体的なマネジメントを提供してきたのです。
将来的には、クライアントのビジネス部門さえ飛び越えて、さらにその先であるクライアントの顧客がどのようなニーズを持っているのかを一緒に考えていくことが必要になるでしょう。それが今後のITサービサーのあり方です。そして、その未来を実現するためにはデザインシンキングが不可欠です。
クライアントのビジネスと密接な関係を目指す世界で、エンジニアに求められるのは単なるITスキルだけではありません。言われたことを実装するだけではなく、真の要求を理解し、物事を率先して計画実行するビジネススキルが非常に大切になると私たちは考えているのです」(田中さん)
ITビジネス環境の変化におけるエンジニアの未来とNewITへのナビゲーション
引き続き田中慎二さんによる講演です。
「従来型のエンタープライズITは、コストの削減やサービスの品質向上、状況の可視化が主な領域だった」と田中さん。これからの展望を続けます。
「今後は直接的に『売上向上』という顧客価値を提供できるITが競争優位性を確立するでしょう。そこでキーワードになるのは、アジャイルやDevOpsといった敏捷性の高い運用、そして、人を起点として『理解』『発想』『試作』を迅速に行うデザインシンキングなんです。
アクセンチュアはグローバルにビジネスを展開していますが、実はこのデザインシンキングは日本が先駆けとなって実践しているんです。ポイントは『早く小さな失敗を積み重ねるコト』だと私は考えています。成功するためにいつまでも考えて動かないよりも、まずはトライしてエラーがあったら『この方法はダメだったのか』と発見すればいいわけです。
戦略コンサルティングファームでもあるアクセンチュアは、すぐに仮設をたてて結論を出したがる傾向があります。その成功体験を打ち砕くべくやり方を変えているのです。『落とし所』とか『いつまでに』とは考えずにチャレンジを楽しんでいます。
デザインシンキングのアプローチはコンサルタントだけの専売特許ではありません。私たちエンジニアもこのアプローチを使い倒すことで、真の意味で『New IT』が実現できると考えています」(田中さん)
デザインシンキング事例紹介
小林伸夫(こばやし・のぶお)/アクセンチュア株式会社 テクノロジーコンサルティング本部 ITアウトソーシングデリバリーグループ シニアマネージャー
小林さんはまずデザインシンキングの定義について説明します。
「カルフォルニアのデザインコンサルティング企業であるIDEOの提唱によれば、デザインシンキングとは、『人々のニーズ・テクノロジーの可能性・ビジネスの成功要件を統合的に考えるデザイナーの思考技術から生まれた、イノベーションを創り出すための人間中心のアプローチ』と定義されています。
私たちもビジネスありきではなく、世界の人々が幸せにあるにはどのようにすればいいのかという視点に立ち返り製品やサービスについて考えています」(小林さん)
次に小林さんはデザインシンキングを実践した事例を紹介。
「ITヘルプデスクにデザインシンキングを導入した事例です。
この企業では顧客からのアンケート結果を元に仮説検証をし、品質改善を行っていました。しかし、ヘルプデスクのリーダーはその分析に限界を感じていたんですね。そこで、仮説検証・分析のアプローチからデザインシンキングのアプローチへ変更したわけです。
具体的にはまず『行動・タッチポイント・感情』をセットにしてユーザーを観察します。『どんなときにどのような感情が呼び起こされるのか』をシミュレーションするわけです。
次に改善のためにそのマイナスの感情を発生させないアイディアを拡散します。いわゆるブレインストーミングに近いやり方ですね。そして、そのアイディアを収束させ、プロトタイピングに移します。
このサイクルを回していくというアジャイル的な手法なのですが、これまでのアジャイルと決定的に異なるのは、起点がユーザーの感情であるという点なんです。
この企業ではユーザーの“面倒”という感情に向き合い、自己解決ランチャーを導入する改善を行いました。次のフェーズではアクション傾向に基づくユーザーごとのランチャーカスタマイズを考えています。最終的にはユーザーが何も意識せずに予防保全できる仕組みを導入したいと考えています。」(小林さん)
小林さんは最後に、アイディアを生み出すための仕掛けとしてのソフト・ハードの両面での取り組みを紹介して講演を終えました。
FinTechを実現するために必要な『エンタープライズ・マルチベンダー・アジャイル プロジェクトマネジメント』と『DevOps』とは
続いて田中さんによる金融業界での事例紹介です。
田中さんは2つの事例を紹介します。まずひとつめは福岡銀行による、スマートフォン上で銀行コンシェルジュサービスを提供する「Wallet+」です。
「『Wallet+』は単に銀行が提供するアプリではありません。福岡市営バスやホテル、レストラン、保険、医療、不動産、電気、ガスなど多くの異業種と連携するというコンセプトでスタートしている点が特徴です。
プロジェクトは『失敗してもいいから早く作る、やってみる』という考えのもとで、ビジネスプランニングから始めました。開発開始から初期リリースまでは約10ヶ月という短いスパンです。さらに初期のリリースと並行してどんどん次の取り組みを発想して拡張させていきました。デザインシンキングからエンジニアリングにつなげていくという手法を実践できた事例ですね。
開発はクライアントの本社である福岡、東京の勝どき・晴海にあるソリューションセンター、中国・大連のデリバリーセンターと3拠点をリアルタイムに接続してアジャイルを回しています。
ただし、もちろんプラットフォームを作っただけでは意味がありません。クライアントを始め様々なパートナーAPI接続で連携していく必要があります。クライアントのホスト基幹系システムと接続し、参照、更新、口座接続を行う必要があったのですが、その領域では柔軟にウォーターフォールによる開発も取り入れています。
その点で、私たちは『ハイブリッド・アジャイル・プロセス』と呼んでいます」(田中さん)
2つ目の事例は第一生命がリリースした健康増進プログラムです。第一生命では、特に若年層の顧客獲得を課題に感じています。
「保険会社のビジネスの観点で考えてみると、できるだけ保険金を支払いたくありませんよね。保険加入者が健康であることがうれしいわけです。
また、保険加入者も保険金がもらえるとはいえ、進んで病気になったり、事故に巻き込まれたりしたいわけではありませんよね。つまり、保険加入者が健康でいることは両者の利益として一致しています。
そこで、9社が協業してスタートしたのが保険加入者の健康増進のためのプログラムです。開発の開始から第1弾のリリースまでは約4ヶ月、第2段のリリースが約6ヶ月と福岡銀行の事例と比較しても、さらに短い時間でリリースしています。この第2段のリリースには24社が参加しました。
やはり、これだけの数の会社が協業するとなると、アジャイル開発のナビゲーションは重要な役割を果たします。さらに、私たちだけではなく他の企業も開発に参加したのが今回のプロジェクトです。私たちアクセンチュアは全体のトータルコーディネート、プロジェクトマネジメントをミッションとし、マルチベンダーによるアジャイルプロセスを実施したこの試みを『アジャイル・オーケストレーション』と呼んでいます」(田中さん)
田中さんはエンタプライズにおけるアジャイルについて次の4つのパターンに分類します。
- スタジオモデルでラピッドプロトタイピング
- 既存の1システムの保守開発・運用にアジャイルプロセスを導入
- アジャイルプロセスを利用して新しいビジネスモデルを立ち上げる
- アジャイルプロセスの推進よって業務システムを大規模に刷新する
「先ほど紹介した福岡銀行さんや第一生命さんの事例は3つ目のパターンですね。いまFinTechとして盛り上がっているのはこの領域です。
ただ、1つ目のパターンのように『アジャイルをやることが目的でアジャイルに取り組む』プロジェクトも増えています。私はこれにも大賛成です。なぜならば、アジャイルを経験しなければ、アジャイルの良し悪しを判断することはできないからです。
『アジャイル』と言っても、4つに共通することもあれば、全く異なる部分もあるわけです。『アジャイル』というだけで混同しないことは大きなポイントですね」(田中さん)
最後に田中さんはFinTechを実現するアジャイルデリバリーにおけるポイントとして、次の3点に関して説明して講演を終了しました。
1. エコシステムを統合し、育てていける統合ソリューション
「福岡銀行や第一生命の知見を活かし、私たちはアジャイルを実現するための『ACTS(Accenture Connected Technology Solution)』というソリューションを開発しました。
エンタープライズの開発においては、あるべき全体像が重要なんです。この『ACTS』では全ての機能がクラウド上に構築されて、外部とも内部ともAPIで接続できるソリューションになっています」(田中さん)
2. アーキテクチャを絵に描いた餅にしない、体制と推進チーム
「しかし、いくらあるべき全体像が描けても、実現できなければ意味がありません。実際にはエンタープライズな大規模案件を、マルチベンダー間でオーケストレーションして引っ張って開発していくことが必要です。
時には複数のベンダーに仕切らせたがるクライアントもいるのですが、やはりいいことはありません。ひとつのメインベンダーが全体をいかに組織化するかがポイントといえるでしょう」(田中さん)
3. 生産性を妨げない為のクラウドDevOps&アジャイル管理方針
「『Jenkins』を使うことがDevOpsではありません。DevOpsとは、『協調と改善がサイクルとして上手く回る状態』を表す言葉です。
その状態を実現するために、私たちのプロジェクトでは『Excel』を使わないこと、チケットで管理することを徹底しました。『Slack』や『Redmine』が利用したツールです」(田中さん)
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