TOYOTA×Nissan×Hondaのエンジニアが語る、ソフトウェアエンジニアが創り出す「クルマのUXとは──Japan Mobility Tech Day#1

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TOYOTA×Nissan×Hondaのエンジニアが語る、ソフトウェアエンジニアが創り出す「クルマのUXとは──Japan Mobility Tech Day#1
モビリティ業界を代表するトヨタ自動車、日産自動車、本田技研工業の3社が一堂に会し、モビリティの世界観や展望を紹介する「Japan Mobility Tech Day」。第二回となる今回は「クルマのUX」をテーマに開催された。パネルトークセッションは及川卓也氏をモデレーターに招聘し、クルマのUXの現在地と未来も含めた、モビリティのソフトウェア技術戦略について語り合った。

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【TOYOTA】クルマのソフトウェア開発に注力することで、日本社会に貢献

トヨタ自動車 村田 賢一氏
トヨタ自動車株式会社
デジタルソフト開発センター
フェロー 村田 賢一氏

最初に登壇したのは、トヨタ自動車の村田賢一氏だ。家電業界で情報家電やゲーム機などのソフトウェアプラットフォームの開発などに従事した後、2008年にトヨタ自動車に入社。コネクティッド戦略策定推進などを経て、現在はデジタルソフト開発センターでフェローを務める。

村田氏はまず、なぜトヨタ自動車に入社したのか、次のように述べた。

「日本企業はこれまで、様々な事業で海外の企業に太刀打ちできていませんでした。しかし、自動車業界は日本の基幹産業です。そこで、これまでの自分の経験を活かし、貢献したいと思いました」(村田氏)

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SDV(ソフトウェアデファインドビークル)とは、従来のようにハードウェアを定義してからソフトウェアを開発する流れではなく、ソフトウェアを定義してからハードウェアを設計することだと村田氏は説明する。

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従来の開発手法ではスピード感が乏しく、問題の箇所が明確化できないなどの課題があることを指摘した上で、さらに今、取り組むべき理由を補足した。

テレマティクスサービスやOTA(Over The Air)に代表されるコネクティッドカーを台頭に、IVI(in-vehicle infotainment)の機能追加やさらなる進化が拡大している。

さらにはBEV(Battery Electric Vehicle)の登場により、あらゆる制御が機械から電子に変わることで、ソフトウェアによる制御の重要性が増しているからだ。

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SDVの構造、ソフトウェアのアーキテクチャについても紹介された。スライドで示されたように、OSやミドルウェアの上に、いろいろなアプリケーションやサービスが乗る構造で、いくつかはクラウドにつながる。

このようなソフトウェアアーキテクチャをハードウェアに機能として落とし込んでいくが、その際には注意が必要だと村田氏は解説する。「機能安全」のレベルである。「走る・止まる」といった動作の機能安全と、エンタメ系領域の機能安全は異なるからだ。

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そして、「一つの大きなコンピュータで制御するのではなく、分けて考える必要がありますし、そうならないといけないと思っています」と、見解を述べた。なお機能安全については日本と海外など、地域や客層でも異なると補足した。

ソフト・ハードウェアとも販売後のアップデートに対応できるように、拡張についても事前に考えておくことが求められており、「システムアーキテクトは重要です」と、続けた。

他にも複数のシステムを同時にアップデートする。リファクタリングを行う。SDK(Software Development Kit)を提供し、自由にアプリケーションを作ってもらう。このような取り組みが必要になってくる。

だが前述したように、機能安全の問題やハードウェア主体のものづくりが根付く環境下では、どれも難しいと村田氏。だからこそ「自動車会社自身がソフトウェアを開発しないといけない」と、改めて現在のクルマ開発におけるソフトウェアの重要性を強調した。

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また、コネクティッドなど、Out Carにおけるサービスに注目が集まりがちだが、クルマの進化により安全・安心で事故がゼロになる社会を目指すことを、しっかりと取り組んでいきたいことも強調した。

実現に向けては自社だけでなく、社会システムのプラットフォームと協調することが大事であり、クルマの知能化が重要だと述べた。

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自動車開発におけるUX/UIは重要な要素であり、新しい体験を常に提供し続け、絶え間なくUXを改善する必要がある、と村田氏は強調する。その実現のためにはユーザーと向き合うことや、IT業界の開発アプローチと同様に、UXを考えた上で最終的にUI、ソフトウェアリリースに持っていくことが重要だと続けた。

一方で、クルマは機能安全が異なっていたり、異常が発生したりしても安全・安心に動作するフェイルセーフの機能が備わるなど、様々なシステムやサービスが分散システムとして、複雑に重なり合って構成されている。

そのため実現には時間がかかるため、「今まさに、時間をかけないでの実現にチャレンジしているところです」と、語った。

具体的にはこちらもIT業界での手法と同じく、アジャイル開発を用いる。

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まずは、UXが体験できるMVP(Minimum Viable Product)のようなデモ的なシステムを作り、ユーザーに体験してもらう。

その上で高評価であったら機能安全やフェイルセーフを担保し、最終的に世に出す商品に仕上げていく、という流れだ。

実例も紹介された。クルマに近づくとBluetoothにより、自動でドアの解錠はもちろんエンジンが起動する。そのためコックピットに座ったらすぐに発進できる、というUXシステムである。

村田氏は、Raspberry Piを使った簡易的なシステム構成図も示した。

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ソフトウェア開発の面白さは、車載(In Car)、クラウド(Out Car)それぞれにおいて、様々なソフトウェア開発に取り組んでいることだと、村田氏は語る。

一方で、領域が幅広いことなどから「1社だけでソフトウェアを開発することはもはやできない」とも述べた。実際、関連企業が参加し、構成されるOSSプラットフォーム、Automotive Grade Linuxも活用しているという。

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さらにはIT業界、ソフトウェアの世界では当たり前ではある、OSPO(Open Source Program Office)というコミュニティも設立した。

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「これからは世界に向けてコントリビュートしていく必要がある」と、まさにソフトウェアエンジニアらしいメッセージを述べると共に、次のような言葉でセッションを締めた。

「OSSに限らずインハウス、グループ会社と協業もしながら、我々は新しい時代のソフトウェアの作り方を進めており、実際、数多くのソフトウェアを開発しています。まさに、私がやりたかったことであり、日本社会への貢献に寄与できると考えています」(村田氏)

【日産自動車】ソフトウェアデファインドビークルが切り拓く、モビリティの未来

日産自動車 村松 寿郎氏
日産自動車株式会社
コネクティドカー&サービス技術開発本部
コネクティドカーオフボード開発&オペレーション部
部長 村松 寿郎氏

続いて登壇したのは日産自動車の村松寿郎氏だ。1991年に入社した当初はハードウェアの研究などに従事していた村松氏だが、その後は車載マルチメディアにおけるソフトウェア開発などにも携わっていく。

「クルマの内側から外側に担当が移っていった」と村松氏が言うように、現在はOut Carの領域、コネクティドカーがつながるクラウド側のシステム開発と運用を率いている。加えて、モバイルアプリケーションの開発ならびにオペレーション領域などを主に担当している。

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日産自動車では「電動化」「自動化」「コネクティド」という3つの技術柱があり、「この3つを重ねるとモビリティサービスになる」と村松氏は言う。

自動車業界のトレンドや昨今の技術を表した「CASE」というワードがあるが、「Sに関してはSDVのSと言ってもいいほど、クルマ業界を変革するキーワードになっていると思う」と、見解を述べた。

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Infotainmentは大きく、Information、Entertainment、HMI(Human Machine Interface)との3つの分野から成り立っており、それぞれの領域で様々な技術やサービスが生まれてきた。

初期の頃はラジオや交通情報であり、その後はカセットやTVなどである。HMIにおいてもスイッチからタッチパネル、昨今は音声認識がホットであり、逆にカセットやCDといったサービスはシュリンクしており、「今後は生成AIに入れ変わっていくと思う」と、村松氏は今後の展望を述べた。

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自動運転や音声認識機能など、現在のIVIの主な機能も紹介された。増大の一途をたどる車載ソフトウェアの大半が、このようなIVI関連だという。

ソースコードの桁数は現在、飛行機や最新鋭の戦闘機に実装されている車載ソフトウェアのソースコード量をはるかに超えており、村松氏は「いずれは億を超えるでしょう」と、見解を述べた。

村松氏は、さらにOSの変遷も示した。当初は堅牢性を重視し、μITRONなどのリアルタイムOSが使われていたが、汎用OSにシフトしていき、現在はAndroidやLinuxが使われている。それが「いずれはMulti OSになるだろう」と、語った。

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すでに市場に出ている、INFINITI QX80のIVIに実装されている機能も紹介された。

正面と側面に大きなディスプレイが2つ装備されており、サイズは14.3インチだという。両ディスプレイがシームレスに連携し、タッチパネルも2箇所設けるなど、UXを工夫していることが伝わってくる。

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ソフトウェアではまさに先のOSの変遷の箇所でも触れたように、Google Built-Inが採用されており、GoogleマップやGoogleアシスタントが利用できる。

しかし、トヨタ自動車の村田氏も述べたように、クルマにおけるGoogle Built-Inなどスマートフォンのソフトウェアの実装においては、単にAndroidを乗せただけではなく、苦労が伴うと意見を語る。

例えば、Fastbootである。スマホは電源をオンにしてから実際に使えるまで、かなりのタイムラグがある。しかし、自動車では電源をオンした後、すぐに走り出すことが求められており、「法律で2秒以内と決まっています」と、村松氏は解説した。

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さらには見通しの悪い交差点やボンネットの下など、運転席に座っている状態では確認が難しい領域の映像も、カメラや魚眼レンズなどを活用し、ディスプレイに表示されるような工夫がされている。スマホなどにはない、まさにクルマならではのUIと言えるだろう。

また、Google Built-Inにより、従来はサプライヤーからハード・ソフトウェア両方が支給されていたナビゲーションシステムは、Googleのサービスに置き換わっているという。このような変化により、ハードウェアとソフトウェアの分離が始まっており、「些細なことだが、大きな一歩だと捉えています」と、村松氏は見解を述べた。

続いて、コックピット目の前のメーターディスプレイと、脇に位置するIVIのディスプレイが高速でシームレスに連携(通信)など、先述したボンネットの下の画像が映し出される現在のアーキテクチャの構成も紹介された。

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さらには、いずれこの2つのECUは1つに統合され、それぞれのOS(RTOS(リアルタイムOS)、Android)の上に、各種アプリケーションやHMIが乗るようなアーキテクチャになるだろうと、村松氏は今後の展開を述べる。さらに、次のように語り、セッションを締めた。

「このようなアーキテクチャが実現すれば、これまでは別々に挙動していた2つのディスプレイがよりインテグレートされ、より良いUIになるでしょう。我々はそのような未来を描いています」(村松氏)

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【Honda】データ活用や組織改革など、ソフトウェアデファインドなものづくりを推進

本田技研工業 宮下 拓也氏
本田技研工業株式会社
電動事業開発本部
SDV事業開発統括部
UX企画ソリューション統括
シニアチーフエンジニア 宮下 拓也氏

続いて登壇したのは、ビッグデータを活用したリチウムイオン電池の開発やデータサイエンティスト集団のリードなどを経て、HondaのDX推進に貢献してきた宮下拓也氏だ。

現在はHondaをUX起点の開発へ変革すべく、UX企画ソリューション統括の立場として推進に取り組んでいる。

Hondaにおけるものづくりの原点は顧客を中心とした考えであり、ユーザーをハッピーにすることだ。実現に向けては顧客のペインの原因を突き止め、改善していく。その結果として顧客体験(UX)がより良くなると考え、「プロセスを極力シンプルに考えたい」と宮下氏は言う。

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またこうした考えは、Hondaの創業者である本田宗一郎氏の創業エピソードとも重なるという。

毎日自転車の移動で疲れている妻に、快適に移動してもらいたいという想いから開発した、簡易的なエンジンを自転車載せたバイク「バタバタ」だ。多くの人が手に入れられるように、ありものを合わせて安価に作れる構成にしたのもポイントだ。

また「Hondaは技術ではなく、人間を研究するところ」という、本田宗一郎氏が残した言葉とHondaのフィロソフィーを紹介すると共に、改めてUX起点の開発における見解を次のように述べた。

「単に顧客に聞けばよいというものではありません。ペインの分析や洞察、アイデア出しなど本質的な作業を経た上で、UXは改善できるからです。プロセスはシンプルですが、作業自体は難易度が高く大変だと考えています」(宮下氏)

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具体的な進め方は、データとソフトウェアを活用していく。「サイエンティフィックにUXを向上する」と宮下氏が述べるように、ペインの特定や改善後の効果なども、定量データとして「見える化」していくという。

このような取り組みにおいては、顧客との対話によりUXをスピーディかつ継続的に改善していくサイクルを実践しており、「先進のテック企業に学ぶことが多い」と、宮下氏は振り返る。

実際、シリコンバレーに本社を置く、アジャイル開発などソフトウェア戦略に強いスタートアップ、Drivemode社を傘下とすることで、同社の知見を今まさに取り入れ、チャレンジしている最中でもある。

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これまではクルマの開発に注力していた感があった。だが、それ以前の開発を振り返るとなぜ顧客はそのクルマを買うのか。さらには購入後どのような体験をし、次のクルマの購入に至るのか。顧客体験の対象とすべきスコープを広げた。

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世界最大級のテクノロジー見本市「CES 2024」で発表されたコンセプトカーには、宮下氏が述べてきたHondaのフィロソフィーが詰まっているという。人間を中心としたものづくりであり、具体的には人間のためのスペースは最大に、機械のためのスペースは最小限にという「M・M思想」が反映されている。

「データやソフトウェア、さらにはAIなどを活用していきますが、あくまでプロダクトの中心は人間です」(宮下氏)

さらに宮下氏は、Hondaにおけるものづくりのフィロソフィー、こだわりを繰り返し語り、その上で「世界No.1のモビリティソフトウェア企業を目指しています」と、力強く宣言した。

Hondaの現在の課題は、ソフトウェアファーストやデータドリブンな考えや仕事の進め方と、従来からの強みであったウォーターフォール式にしっかりとモノ作りをするハードウェア主体のものづくりの考えや仕事の進め方とを、うまく両立させることである。

そこで今まさに、走る・曲がる・止まるなど安全に関わる領域ではハードウェア主体のもの作りを維持しつつ、不確実性の高い領域ではソフトウェア主体のクルマづくりを取り入れるように、パラダイムシフトしている真最中だという。つまり、ソフトウェアデファインドなものづくりへ変革しているのだと語った。

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例えば企業起点ではなく、これまで説明してきたように、顧客起点で製品やサービスを考えるという思考や組織変化といったシフトである。具体的には車両の開発ではなく、ユーザー体験ならびにソフトウェアのデザインを先に考えるスタイルだ。

ソフトウェアデファインドなものづくりがスムーズに進行するように、組織も変革している。UXUI起点で顧客体験を改善し続けるデジタルプロダクトチームの設置、これらチームが横断的に機能するような体制の整備などである。

常に検証を繰り返す、アジャイル開発の手法も取り入れており、ユーザー理解では実際にユーザーにMVPを使って頂いたり、Webアンケートなども活用したりして、常にブラッシュアップを重ねた上で、最終的に顧客が満足するUXを実現するプロダクトとしてリリースする。

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このような顧客に最適なプロダクトをスピーディに開発していくことで、「ものづくり業界に革命を起こしたいと考えています」と宮下氏は述べ、セッションを締めた。

【パネルトークセッション】「クルマ×UX」について語り合う

Tably 及川 卓也氏
Tably株式会社
代表取締役 Technology Enabler 及川 卓也氏

パネルトークでは、これまで培ったソフトウェアも含めたテクノロジーの知見を活用し、企業や社会の変革をサポートしている及川卓也氏がモデレーターとなり、3社からも新たなエンジニアが登壇。クルマのUXについて語り合った。

トヨタ自動車 関沢 省吾氏
トヨタ自動車株式会社
ソフトウェアPF開発部 IVIソフトウェア開発室
グループ長 関沢 省吾氏

トヨタ自動車からは、元々は機械系のエンジニアであり、Lexus LFAのワイヤハーネス設計などにも携わった経験を持つ、関沢省吾氏が参加。現在は次世代コックピットのUX/UIを中心とした、ソフトウェア開発のプロジェクトマネージャーを務める。

日産自動車 宮内 崇氏
日産自動車株式会社
コネクティドカー&サービス技術開発本部
CCSソフトウェア開発グループ
主担 宮内 崇氏

日産自動車からは、IT企業2社でスマートフォンなどの組み込みソフトウェアや、Webの広告配信システムなどの開発に携わった後、2017年に日産自動車に入社。組み込みエンジニアとして、カーナビの開発などに従事。現在はコネクティドカーの内製ソフトウェア開発業務の主担を務める、宮内崇氏が参加した。

本田技研工業 柴田 直生氏
本田技研工業株式会社
電動事業開発本部
SDV事業開発統括部 SDV戦略・企画部
デジタルラボ 課長 チーフエンジニア 柴田 直生氏

Hondaからは、制御工学や人間工学を専門領域とする柴田直生氏が参加した。2007年に新卒でHondaに入社後、人間工学をベースとしたクルマのコックピットやHMIの研究開発に従事。AIやビッグデータの研究開発グループのリーダーなどを経て、現在はデジタルUXにおける新価値創出ならびに、AI活用の推進を担っている。

●「クルマ✕UX」の難しさ

及川:今でこそ事情を理解していますが、私も携わる前は、自動車業界はWebやアプリと違って、クルマは古い技術を使っているのだろうと考えていました。実際、他業界から移られた宮内さんは、どうでしたか?

宮内:私が2017年に入社した頃は、正直まだ設備は整っていないと感じていました。それが今では改善され、CI/CDや自動ビルド、チケット管理システムなど、一般的なIT企業のソフトウェア開発の環境と遜色ないレベルになっています。

一方で、自動車業界ならではの特徴が大きく3つあると感じています。1つは開発期間や規模など、スケールの大きさです。2つ目は開発予算の金額。スマホなどに比べ100倍近いですからね。3つ目は、グローバル製品であることです。

各国の顧客ニーズに合わせるために、ハンドルの位置を左右にどちらにするのか。GUIはどうするのかなど、それぞれについてブラッシュアップする必要があり、旧態依然の手法では追いつかないと感じました。

及川:ソフトウェアの国際化はある意味当たり前のことですが、実際に日本企業でどれだけ取り組めているのか。開発の多くは国内のみに限られていますから、自動車業界のソフトウェア開発の面白味の一つでもある、と感じました。

関沢:自動車産業にいらっしゃらない方でも分かりやすい課題としては、左右のハンドル問題があります。最近特に大型化しているディスプレイのデザインも、前からだけでなく斜めから見たり、タッチできたりする距離にあるかどうかなどを配慮した上でデザインする必要があります。

他にも、音量やエアコン温度の設定においては、iPhoneのようなUIにすると走行中の振動で操作を誤り、爆音になってしまったりするので、クルマならではの安全安心を意識しながら、タッチエリアを細かく設計したりチューニングするなどの配慮を、メンバーで議論しながら開発を進めています。

及川:プロダクトデザインとソフトウェアのUI/Xを融合させていく。まさに人間工学の領域だと感じますね。

柴田:ハンドル位置の違いにより、Hondaではディスプレイのウィジェットの配置も変えています。具体的にはショートカットしやすいものを運転席の近くにしたり、大きく表示したりするなどです。ユーザーの使い勝手を徹底的に考え優先していくUI/UX開発も、自動車業界ならではだと思います。

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柴田:例えば、パワーユニットの制御状態などを表示するUIを設計する場合ですね。駆動は前向きの矢印、回生は後ろ向きの矢印というシンプルな仕様であっても、実はバックする際に駆動方向(=前)に矢印が出てしまうと進行方向と不一致で違和感が出てしまう、など動的に変化する製品だからこそのユースケースが生じるからです。

自分がユーザー目線になり、ケーススタディを実行することで気づいていく。このようにエンジニア目線、ユーザー目線を使い分けることのできるスキルが、自動車業界では求められていると思います。

及川:UXにおいては、いかにユーザニーズを捉えられるかがポイントだと思いますが、顧客観点のリアルはどのように把握しているのでしょう?

関沢:コールセンターからの情報や、直接販売店に出向き、ユーザーの生の声を聞くこともあります。

宮内:販売店に届く声が、直接技術者に届くようになっています。コネクティドカーに関しては、スマホアプリを通じてユーザーの潜在ニーズを掴んだりもしています。

柴田:我々も皆さんと同様で、データで見られるようになっています。その上で仮説を持ち、ユーザーの声を直接聞きにいく。このように、データとユーザーを組み合わせています。

●「クルマ✕UX」に向き合うエンジニアと組織

及川:クルマを運転する人が、特に若者を中心に減ってきています。対策についてはいかがでしょう。

柴田:これまではクルマの性能で各社が競っていましたが、それだけでは購入されない時代になったと感じています。まずはアプリなどを通じて、Hondaのサービスに親しんでもらうことで関心を持ってもらい、クルマに触れてもらう。このような機会創出を意識しています。

その上でご購入いただいたユーザーには、パーソナライズ化やアップデートを行うことで、必需品として使い続けてもらう。自動車はこのような商品であることを印象付けるような取り組みを行っています。

関沢:UIの設計や動作においてサクサク動くなど、スマホライクな挙動を意識しています。一方で、単にスマホの技術を搭載するだけでは安全安心は担保できませんから、こちらも意識しながら進めています。

宮内:私たちもスマホネイティブな世代が好むようなUIやUXを意識し、対応しています。具体的にはGoogle Built-Inなど、外部サービスとの連携などです。

及川:クルマは変わってきているとはいえ、開発は未だにハードウェアが中心で、ソフトウェアエンジニアは肩身が狭いのではないでしょうか?

関沢:開発においてはFlutterやRustを取り入れ、CI/CDツールも新しいものを、OSSもたくさん使うようにしています。

一方、組織においてはデザイナーとフロントエンドエンジニアが、ハードウェアを横に置きながら、喧々諤々議論するなど、多様性に富んでおります。

ソフトウェアにおいては日々ビルドやリリースを、ハードウェアに関しても実際にクルマを走らせるなど、それぞれが個性を出しながら高め合っている状況だと感じています。

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宮内:ソフトウェア開発のメンバーは、私以外にもゲーム業界など、様々な業界からのメンバーが集まっています。それぞれの経験をうまく活用しながら、ベストプラクティスを用いるかたちで活動しています。

柴田:我々も宮内さんと同じく、様々な業界出身のソフトウェアエンジニアがジョインしていて、特性も様々です。現状の開発体制は、例えると鍋のような状態かと(笑)。そしてまさに鍋のように、お互いが相手の領域にリーチアウトしていく姿勢が必要であり、結果として自動車会社ならではの最適な姿になるのではないかと考えています。

及川:ソフトウェアエンジニアのキャリアについても聞かせてください。

関沢:中途、キャリアチェンジ、公募などがあります。部門においてもUI、組み込み、OSといった技術領域だけでなく、プロジェクトマネージャーなど多様なキャリアが描けるよう整備されています。

宮内:私が所属する部署は中途採用が約95%です。今後は新人の育成にも注力していく予定です。

柴田:ソフトウェアの技術を知った上で、UXデザインやプロジェクトマネージャーといったキャリアを描くこともできます。ソフトウェアデファインドな世界ではアーキテクチャが重要なので、アーキテクトのキャリアも高めていくことが必要になってくるでしょう。

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トヨタ自動車株式会社
https://global.toyota/
トヨタ自動車株式会社の採用情報
https://www.toyota-recruit.com/career/

日産自動車株式会社
https://www.nissan.co.jp/
日産自動車株式会社の採用情報
https://www.nissan.co.jp/RECRUIT/

本田技研工業株式会社
https://www.honda.co.jp/
本田技研工業株式会社の採用情報
https://www.honda-jobs.com/
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