丸井・イオン・LIFULLの事例から学ぶ「プロダクトマネジメントメソッド」──エンタープライズ組織におけるプロダクトマネジメントとは
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丸井が取り組むエンタープライズアジャイルとプロダクトマネージャーの役割
株式会社Muture
プロダクトマネージャー 兼原 佑汰氏
最初に登壇したのは、丸井グループとグッドパッチがジョイントベンチャーとして設立したMutureのプロダクトマネージャー 兼原佑汰氏だ。IT系の事業会社でソフトウェアエンジニアとしてキャリアを積んだ後、プロダクトマネージャー(以下、PdM)を経て、2023年にMutureにジョインした。
Mutureでは、丸井グループへのDX支援をはじめ、同メソッドを他社にも展開している。兼原氏はPdMとして同業務を牽引。Mutureの特徴について、次のように述べた。
「経営から事業までの階層を横断して、課題の抽出から解決まで伴走しながら支援していくのがMutureならではのアプローチであり、特徴です」(兼原氏)
近年、ビジネスを展開する上でITが必要不可欠となってきており、これまで外部委託していた部分を内製化する必要性が増えてきた。だが、IT化やDXを推進する人材が不足していると、兼原氏は指摘する。
デジタル専門人材を外部から採用するのはもちろんだが、ドメイン知識や企業力学を持つ内部人材との協働なしに、デジタル人材が活躍することは難しい。そのため、採用戦略と内部人材の育成戦略、いわゆるリスキリングなどを両輪としてアプローチすることが重要だと語った。
経産省とIPAが作成したデジタルスキル標準においても、最新版でPdMが記載されるようになった。大企業がDXを推進する際には、プロダクトマネジメントの手法が役立つと言える。
BTC(Business・Technology・Creativity)を橋渡し、議論を紡ぐ力や変化を促すことに、プロダクトマネジメントは寄与するからだ。一方で、「大企業でプロダクトマネジメントは難しい」と兼原氏は言う。
いわゆる従来の“モノ”を開発し販売していくビジネスプロセスや、プロセスに準じた組織や制度が根付いている大企業では、不確実性をコントロールしながらビジネスを進めていく、現在のソフトウェアビジネスにはフィットしないからだ。
このような状況を踏まえ、兼原氏は「プロダクトマネジメントの知識を活用し、組織の変化を促していく必要がある」と述べると同時に、2つのキーワードを挙げた。「Product Ops」「Product Coach」である。
Product Opsは下記スライド左側の領域であり、大企業ならではの組織構造を現場主導の構造へと転換していく。一方、右側の領域がProduct Coachであり、総合職的なチーム編成から、職能横断型のチームに再構築していく取り組みである。
「この両面でアプローチしていくことで、組織全体の改革が進むと思っています」(兼原氏)
大企業の組織構造はいわゆる縦割り型が多い。そのため、Product Opsへのアプローチは、縦の壁とともに上意下達からチーム全体で共創し、チームや部署間・横の壁も突破していくことが重要だ。
このような縦・横の壁を突破していく際に、以下3つの観点でアプローチしていく。
1. 変化の起点となる特区を作り、既存組織との摂理面をデザインする
2. 継続的な価値探索のための新たなプロセス/制度を設計する
3. コミュニケーションとナレッジを透明化する
Product Coachにおけるアプローチについては、DiscoveryとDeliveryの概念を理解し、回していける状態を目指すことが重要となる。
Discoveryはいわゆるリーンスタートアップであり、Deliveryはアジャイル開発であるが、兼原氏は以下のように指摘する。
「アジャイル開発の重要性ばかり認知されていて、Discoveryに対する理解が浸透しておらず、軽視されていると感じるシーンも多く見受けられます」(兼原氏)
開発プロセスはアジャイルを導入しているが、その前後のフェーズに課題が残っているケースなどもある。このようなFuzzy front endな状況においては、「リーンスタートアップの習得がよいのではないか」という仮説を述べた。
上記を踏まえ、以下の順序でプロダクトマネジメントのインストールを進めていく。
1. 組織を横断するストリームアラインドチームを組成
2. ユーザーや提供価値への理解を深める「価値探索」の実践
3. 作って学ぶという「価値検証」の実践
まずは、組織を横断するストリームアラインドチームの組成だ。ストリームアラインドチームの組成に対する取り組みにおいて、兼原氏は以下のように注意点を述べた。
「総合職が大半である大企業において、デジタル専門人材が不足するケースが多いですが、外部のパートナーに丸投げするのではなく、一緒になってメンバーの選び方や探し方を学ぶことが重要です」(兼原氏)
続いては、ユーザーや提供価値への理解を深める「価値探求」の実践である。インタビューなどは実施しているケースも少なくないが、目的が不在であったり、分析できる人材が限られたりしているといった課題がある。
「チームで考えていける状態に脱却する必要があります」(兼原氏)
3つ目は、作って学ぶという「価値検証」の実践である。いわゆるMVP(Minimum Viable Product)などの検証であるが、作ることではなく「学ぶために作る」という文化を根付かせることが重要となる。
さらには異なるプロジェクトを複数担うことで、発生する多種多様な課題をストックすると同時に類型化する。依存関係を分析するなどの取り組みを通じて、組織変革のレバレッジポイントを見つけていくことも可能となる。
兼原氏は、実際に取り組みを実践した大企業におけるDX推進のアセスメント結果も紹介した。Mutureが支援することで、1〜2年後には着実に成果が現れていることが分かる。
一方で兼原氏は、「大企業におけるプロダクトマネジメントの道のりは長く険しい」とも語った。理由は、大企業の多くは属する会社の組織環境によって、実際に行うべき業務比率が、想定とは異なるケースが少なくないからだ。
その上で次のようなメッセージを投げ、セッションを締めた。
「まずは大企業がどのフェーズなのか、理解することが大事です。その上で時間や権限はもちろん、PdMとして取り組む本人の覚悟も必要となってきます。ただ個人的には、外部の力も借りて進めることをおすすめします」(兼原氏)
AEONにおける、プロダクトオーナーとプロダクトマネージャー制へのチャレンジ
イオン株式会社 CTO
兼イオンスマートテクノロジー株式会社 CTO 山﨑 賢氏
続いて登壇したのは、イオンの山﨑賢氏である。新卒で大手SIerに入社後、ヤフー(現、LINEヤフー)やリクルートといった大企業の新規サービス立ち上げや大規模サービスの開発者として活躍してきた。一方でアソビューなど、数社のスタートアップでのCTO経験も持つ。
2023年にイオンにジョインした後は、イオンのテックカンパニー化を加速させるべく、イオンならびにグループ唯一のデジタル専業会社、イオンスマートテクノロジーのCTOも兼務。イオングループすべてのビジネスを、テクノロジーの力で進化させるためのチャレンジを続けている。
1758年に創業したイオンは、ダイエーやマルエツなど300を超える同業者を積極的に吸収合併することで、グループ連結の売上高が10兆円超え間近の規模までに成長した。そしてイオングループに迎える際には、各社がそれまで築いてきたカルチャーなどを大切にしてきた。山﨑氏は次のように述べる。
「事業が多様なこともありますが、グループ会社や個々の事業の独立性や独自性を重んじるカルチャーがあると感じています」(山﨑氏)
一方で、グループ全体としてシナジーを生む必要はある。そこで山﨑氏が先頭に立ち、各種IT・デジタル化やDXを進めているのである。
例えば、顧客の膨大なIDや購買データを集約したアプリ「iAEON」である。その他、グループ共通のデータ基盤や基幹システムの構築なども進めている。
「IT・DXを通じて、顧客に価値を届けるための組織が成り立っていないと感じていました。それらを解決するには、PdMやプロダクトオーナーと呼ばれる役割を担う職種を設け、一貫性のある真に顧客ファーストなプロダクトを開発していく必要があるだろうと考えました」(山﨑氏)
このような背景を踏まえて、山﨑氏は改めてPdMの役割や、ここ数年特にPdMが求められている理由などを分析、「因数分解」していった。
その結果が、以下スライドで示した内容である。IT分野における機能の飽和状態とは、例えば、どのECサイトで買い物をしても、だいたい同じ商品が揃うといった意味である。
山﨑氏は、PdMに必要なスキルも次のスライドに明示した。「顧客理解」「分析能力」といった上側のスキルは勉強会に参加したり、専門書を読んだりすることで習得可能だと語る。
「それらのスキルはいわゆる汎用スキルであり、組織に依存しない各人の努力で身につけることもできます」(山﨑氏)
しかし、中央領域のコミュニケーション力などの人間力は努力で培える内容もあるが、元々持っている素質やキャラクターが大きいと指摘する。
そして、経験に基づくビジネスドメインや社内状況の理解などの領域が非常に重要だと、山﨑氏は述べた。
このような分析を踏まえ、外部で活躍しているPdMを採用するのではなく、イオンとしては社内からPdMを選定するとの方針を固めている。
並行して、組織構成も2024年4月に大きく刷新した。プロジェクトごとに縦割りに近い組織構成から、COO、CTOに権限を持たせ、そこからプロジェクトごとにそれぞれの専門組織からメンバーを組成。PdMを配置する体制とした。
PdMは、各プロジェクトに精通した社内人材を抜擢する。そのため、店舗でオペレーションをしていた人材が候補に挙がる状況も生まれているという。
当然、必要な知識やスキルはこれから身に付けていくことになるが、「人が育つのを待つよりも、先に育つ環境を作った方がよいと考えています」と、山﨑氏は述べた。
まさに組織刷新であり、権限も移譲する。業種やホスピタリティなどが300以上あるイオンだが、お客様のことを考える気持ちは全社員が共通していると山﨑氏は強調する。次のように述べ、セッションを締めた。
「このような共通の想い、顧客のために頑張ろうしている社員を大事に育成していくことが、イオンにおけるプロダクトマネジメントの最適解だと考えています。銀の弾丸はない泥臭い取り組みですが、私たちに1番必要なことだとも思っています」(山﨑氏)
アウトカム志向の浸透とグロース活動を加速したLIFULLの取り組み
株式会社LIFULL
Chief Product Officer, LIFULL HOME’S 大久保 慎氏
日本最大級の不動産・住宅情報サイト「LIFULL HOME'S」の運営を中心に、各種不動産情報サービスなどを手がけるLIFULL。登壇した大久保慎氏は、編集者、エンジニア、コンサルタント、海外の会社やスタートアップでのチームリーダーなどのキャリアを経て、現在はCPO(Chief Product Officer)などを務める。
大久保氏は一般的なプロダクトマネジメントの定義を紹介し、「LIFULLでは、まさにこの定義をプロダクトマネジメントだと捉えています」と語る。
LIFULLがプロダクトマネジメントに取り組むようになったのは、今から3年ほど前のこと。「プロダクトチームへの権限移譲・責任範囲の明確化が十分でない」「プロダクト開発がアウトカム志向でない」といった、大きく2つの課題があったからだ。
大久保氏は当時を次のように振り返る。
「開発活動では◯月までにこの機能をリリースするという計画重視で、柔軟性が失われているような側面がありました。そんな折、CTOからプロダクトマネジメントの導入を検討してはどうかというアドバイスを受けました」(大久保氏)
導入に向けてリサーチをしていると、一冊の本に出会う。本書を読むとまさしくLIFULLが遭遇している、エンタープライズ企業における特徴や解決策が書かれていた。
「絶対にやるべき内容だと思い、同書をバイブルとして、プロダクトマネジメントを推進していくことを決めました」(大久保氏)
まずは、主要サービスのプロダクト責任者10名を集め、輪読会を開始することから始めた。そして徐々に、その輪をエンジニア、デザイナーなどに広めていくことで、本の内容を共通認識として広めていく。その後は実際に3カ月のトライアルを行い、チーム全体に広げていった。
具体的には、以下スライドで示した4つの変革を行った。まず行ったのは、新しい役割「プロダクトマネージャー」「テックリード」「プロダクトデザイナー」を設けたことだ。
さらには単に役割を決めるだけだと逆に混乱するだろうと、プロダクトのどこの価値にコミットメントするかも明確に定義した。一方で、厳密すぎる役割分担はよろしくないと、3職種が連携することも明確に提示。その際にはRACIチャートなども活用した。
中でも4つ目の変革「アウトプットからアウトカムへの目的移行」が大事なポイントだと大久保氏は語る。
「リリースはあくまで手段であり、 顧客への提供価値を生み出すことが最終的に重要です。そして、その価値の対価が、売上・利益にもつながると考えています」(大久保氏)
プロダクトマネジメントの手法を浸透させるべく、各種取り組みも実践していった。具体的には、各プロダクトチームでプロダクトマネジメントそのものについて振り返りを行った。
隔週でPdMが10名集まり、それぞれの状況や課題を相談できるように横断の会議体も設置・運営。アウトカム志向の文化定着においては、成功事例を毎週全社に発信するニュースレター的な取り組みを行った。
このような取り組みの結果、以前は職種ごとにウォーターフォール型で開発が進みがちであったが、デザイナーやエンジニアが企画・ディレクション業務にも携わるようになっていった。「企画の品質に寄与するという効果が生まれた」と、大久保氏は成果を述べた。
また、GoogleやAmazonなども提唱・実施している日々の改善の高速化も取り入れた。分析においてはアクセス解析ツールではなく、プロダクトアナリティクスを行える各種ツールに切り替えるなどの取り組みも行っていった。
このような取り組みの結果、各種指標は軒並み上昇。アウトカム、成果指標であるCRO施策からのコンバージョンリフトにおいては以前の10倍にも達した。
さらには先述したプロダクトアナリティクスツール「Amplitude」主催のアワードにて、優れたプロダクト組織として世界約4万5000社の中から、日本企業としては初となる「Pioneer of The Year」を受賞するなどの成果も得た。
一方で大久保氏は、エンタープライズ組織ならではのプロダクトマネジメント導入の難しさについて、「何もないところに導入するよりも、すでに各種プロセスが整っていることが逆により変革のパワーを要する」と述べた。
さらには、その難しさをどのように乗り越えたかについても触れた。事業として解決したい課題を最初の段階で明確にしておくことや、本の内容を徹底的に踏襲して妙なアレンジをしないこと、迷ったら本に立ち返ることなどである。
小さなトライアルをこまめに行うことで、全体展開する前に課題をクリアしておくことも重要なポイントだと指摘。次のように述べ、セッションを締めた。
「その時々で悩み、考えられる最善策を打ち続けたことで、今の状態にたどり着きました。まだまだ道半ばであり、これから取り組むべきこともたくさんあると考えています」(大久保氏)
登壇者によるパネルディスカッション
3名のセッションが終わった後は、パネルディスカッションが実施された。モデレーターはPdMのための情報メディア「Granty PM」の運営などを手がける株式会社Grantyのファウンダーであり、代表の松原泰之氏が務めた。
株式会社Granty
代表取締役 CEO 松原 泰之氏
●プロダクトとビジネスの関係性において、直面した課題や解決策
兼原:「プロダクトは資産である」という意識が、大企業ではそれほど高くないと思っています。PL(損益計算書)とBS(賃借対照表)の関係に例えるとすれば、PLばかり追うことが全社的な意思決定の構造になっており、BSである資産に対しても同様の理論でどのような効果を出すのかを問われる機会が多く、課題であると捉えています。
先行指標と遅行指標という整理だと、遅行指標は財務指標となりますが、これだけがKPIとして扱われており、先行指標についてはあまり理解はされておらず、言及されることもありません。
とはいえ、プロダクトは資産です。資産から価値を生み出していくので、先行指標が上がることで生まれるビジネスインパクトの構造を、ロジックを立てて説明するのは骨が折れます。しかし、ここから逃げると理解されないという感覚もあります。
山﨑:関係性という言葉自体に壁があるため、そうではない議論に持っていった方がいいと思います。具体的には、ビジネスから作ってほしいプロダクトがある一方で、実際に作られたプロダクトは何か違うといった議論です。
お互いが目線を合わせた土俵で議論をすると、顧客に対してどうなのか、アウトカムにコミットするという議論になるからです。そしてこのような両者を中和する役割が、PdMやプロダクトオーナーであるのではないでしょうか。
大久保:プロダクトマネジメントの考え方は、ユーザーに対して価値を提供し、その対価として事業の数字を作っていきます。ノーススターメトリックの概念だとも言えます。 このような1つの共通した考え方は提供価値を見極めて、プロダクトもビジネスも追う構造としています。また、技術負債は、PdMが中期的な観点で解消も含めて責任を担う構造としています。
松原:先行指標の話が出ましたが、Mutureさん、丸井さんでも同じようにノーススターメトリックを設定して進めているのですか?
兼原:特にそのような指標は立てていません。あくまでIRで公表している財務諸表などの指標を参考にしています。
●市場変化への素早い対応やプロダクト進化に成功したケース、実現ポイント
大久保:近年、大規模災害が多くなっています。そこで、業界の中でも先駆けて、ハザードマップを不動産検索サイト上で見ることができる取り組みを行いました。
LIFULLでは「あらゆるLIFEを、FULLに。」というビジョンを掲げているため、この体現という観点が一つ。さらに、UXリサーチやアナリティクスを普段から仕掛けるなど、柔軟にユーザーニーズに寄り添える仕組み作りを行っています。
山﨑:小売業界においては、Googleのサードパーティークッキー(3rdParty Cookie)廃止に伴い、広告のターゲティングができなくなる動きから、リテールメディアが注目されています。5年後には、リテールメディアが小売事業の売上を抜くと言われているほどです。
実現に向けては、特にアジャイル開発にこだわっていません。そもそもアジャイル開発とは開発のルールではなく、顧客価値をいかに届けるかの宣言だからです。
そういった観点からも、プロダクトオーナー制はまさに合致していて、アジャイル開発宣言に則ったウォーターフォール開発もありだと考えています。
兼原:これまでは要件定義を行った後、実装以降については外注先に丸投げする、いわゆるウォーターフォール的なコミュニケーションで開発を進めていました。
ここから今ではユーザーリサーチを頻繁に行い、スプリント毎に仮説検証を回す体制に変えています。例えば、あるスプリントではプロトタイプを作り、次のスプリントで仮説検証やインタビューを行う。その上で、ユーザーの声をプロトタイプに反映する。さらにはビジネスの数値もプロダクトの指標と照らしながら改善しています。
松原:ユーザーリサーチについてのご意見もお聞かせください。
山﨑:店舗で直接お客様の声を聞き、現場の業務を知ることが非常に重要だと考えています。実際、僕も入社直後は店舗で働いていましたからね。
大久保:プロダクトマネジメントに取り組む数年前から、社内の一部で取り組みが進んでいました。定性・定量両方のデータから得たヒントを元に、最終的なプロダクト改修を行うことで、品質がかなり上がっています。今後もリサーチは加速させる必要があると考えています。
●エンタープライズ組織を「デジタル化して自走させる」ためのメソッド
山﨑:エンタープライズ組織だから難しいということは、特にないと思います。前提条件を置き難しく捉えて言い訳を考えると、そこで終わってしまいますよね。
その企業規模なりのやり方があるはずですし、強みもそれぞれありますから、難しく捉えるのではなく、楽しみながら取り組む。このような姿勢が大事なのではないでしょうか。
大久保:特に組織のデジタル化という観点ではなく、学習を称賛する文化が組織に根付くことが大事だと思います。良いテーマがあれば、まずはトライアルしています。
改善するサイクルを回すとともに、成功事例を社内に発信することで、アンテナの高い人とつながる。それが結果として、変化につながっていくと思うからです。
兼原:私もユーザー中心に考えることが重要だと思います。丸井グループでは、新卒社員は入社後、全員が店舗で販売の接客を行います。
プライベートブランドでは、現場で得たお客様の声をフィードバックして、新しい商品を開発しており、まさにアジャイル開発です。
一方で、デジタルでこれを実現しようとしても、そのやり方が分かりづらいケースもあります。そこでプロダクトのペルソナを洗い出してものづくりをする。そうした取り組みが大事だと考えています。
【Q&A】参加者からの質問に登壇者が回答
セッション後は、イベント参加者からの質問に登壇者が回答した。
Q.ステークホルダーからの理解はどのように得ているのか?
山﨑:世界観や、実現したい戦略などを伝えています。経営者も「会社をより良くしたい」「いい商品をお客様に届けたい」と考えており、ゴールの世界観を握ることが一番大事だと考えています。
大久保:同じく、事業視点でのメリットをかみ砕いて伝えていく事で理解を得ていきました。また外部から有識者を招いて話していただくなどの取り組みも行う事で、世界観に対する信頼を高めていくなどの工夫もしています。
兼原:社員の働き方を伝えるようにしています。具体的には、noteや社内の媒体などに、インタビュー記事などを掲載。その人がいることでチームが活性化し、楽しそうに仕事をしている様子を伝えています。
Q.300を超える店舗に共通するプロダクトの機能は、どのようなプロセスや優先度で定義していったのか?
山﨑:各店舗から上がってくる要望は機能の話になりがちです。しかし機能はあくまで中間要素であり、大切なことはその機能を使って何をしたいのか。どんなペインを解決したり、アウトカムを出すのかが大切です。
現場で何に困っていて、何をしたいのかという目線ですり合わせすることで、各社の共通項を見つけていく手法で取り組んでいます。
Q.社内人材をPdMにする場合、ビジネス・エンジニアどちらサイドからがよいか?
大久保:どちらもありです。弊社のPdMは1/4がエンジニアからのPdMです。エンジニアである強みを活かしながら、ビジネス観点もキャッチアップしていくことで、PdMとしてのパフォーマンスを発揮しています。
兼原:職種は関係なく、プロダクトに対する熱量が重要です。例えば、プロダクトへの理解や情熱があったり、長く携わっていたりするなど。その中で改善や新たな取り組みをやりたかったけど、できずにいた方などが向いていると思います。
山﨑:どちらもありだと思います。大事なのは、熱量とビジネスドメインや顧客理解、そして自分を変化させる力。スキルは後から身につけることができるからです。