NTTデータが挑むEVビジネスとは?「CASE」で変化するモビリティビジネスと事例を紹介
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CASEトレンドに伴い、EVは不可逆な波として多様・商用化が進む
株式会社NTTデータ 自動車事業部 第2ビジネス統括部
統括部長 布井 真実子氏
最初に登壇した布井真実子氏は、「CASE」という4つのトレンドによって変わろうとしているクルマの概念を基点に、 モノコトシフト視点から自動車業界におきている変革の現在地と未来像を紹介した。
布井氏は、まずCASEのそれぞれの領域について解説した。「C」にあたるConnectedは、車が常にインターネットとつながるようになること。走行中での情報のやり取りはもちろん、スマートフォンのように新たなソフトウェアをダウンロードすることで、バージョンアップが可能になる。OTA(Over the Air)という技術の実現だ。
自動車メーカー各社がサービスに取り組んでおり、例えばGMは「OnStar」というサービスを提供している。盗難対策として外部からスマートフォンでエンジンを停止するといった機能が備わっている。「車とスマートフォンもある意味コネクティッドしていく」と、布井氏は語った。
また、データを活用した位置情報の取得によるナビの高度化については、まだこれからの領域であり、現在も多様な研究開発が行われている。
続いては「A」にあたるAutonomousだ。キーワードは自動運転である。今年のCES2023では、完全自動運転を実現するレベル4を実現すると各社が公言しているが、歩行者や天候など周辺環境が複雑に変化するため「まだ時間がかかる」と布井氏は指摘している。
一方で、工場内や船舶に車を積み込む作業など、閉ざされた空間における自動運転化は進んでおり、条件を限定すればレベル4は実現すると捕捉した。注目すべき企業として、フランスの自動車部品メーカーValeo(ヴァレオ)などを挙げた。
3つ目は「S」のShared&serviceである。一昔前のように各人が車を所有するのではなく、現在はシェアリングに加え、リースやサブスクといったサービスも加わった。サービスにおいては先の「A」、自動運転が加わることで、社内の空間はもっと自由になる。
「CESでは、コックピットに多くのディスプレイを備え、乗車している人が見たい番組を流す総合的なエンタメ要素を備えた車の展示が目立っていました。これまで自宅で体験していたGoogleやAmazonのサービスを搭載する展示も多く見られました」(布井氏)
最後は「E」のElectricだ。電動化の一番の目的はカーボンニュートラルの達成だ。EVは車体構造がガソリン車に比べシンプルなため、よりソフトウェアの進化が影響を与えるようになる。結果として、先のCAS領域の技術やサービスも進むだろうと布井氏は語る。
さらには小さなモビリティから大型の建設機械、充電器も含めEVの多様化が進んでいることを挙げ、「EVは不可逆な波として商用化が進む」と、市場動向をまとめた。
CES2023での状況も踏まえ、布井氏はこれからの市場構造についての見解を述べた。これまでの自動車業界は製造業に分類されていたが、これからは自動車を基点として消費者へ新たな体験価値を提供する、いわゆる「モノコトシフト」がキーワードになっていくと予測する。
「現代社会はSNSを使い、情緒的な価値を共有するのが当たり前となっています。自動車業界も同じで、移動中の体験や移動の先にある目的。さらには社会課題も意識することが大事であり、それこそがモノコトシフトだと考えています」(布井氏)
EVシフトが不可逆な波として進んでいく一方で、課題も多い点であると指摘。例えば充電に関しては、ユーザ目線から見ると、ガソリン車の給油と比べて時間がかかるというペインが増える、また、ガソリンスタンド、つまりビジネス側からみた場合、自宅での充電が可能なため、ビジネスとしてのマネタイズが難しい点を挙げた。
EVシフトはカーボンニュートラルの達成が一番の目的であるため、太陽光や風力など、再生可能エネルギーである必要がある。しかし、これらのエネルギーは日照時間など天候の影響を受けるため、発電量のコントロールが難しい。そこで、充電する側でタイミングをコントロールする必要がある。バッテリーや車両価格もガソリン車と比べて高いことも問題だ。
このように多くの課題がある為に、現状EVにシフトしているのはアーリーアダプターに限られる。今後マジョリティ層に普及していくためには、情緒的なメリットがないとEVシフトは難しいだろうと布井氏。
一方でEVシフトは不可逆な波であるため、EVの価値向上に向けた挑戦を続け勝ち残ることがポイントであると語り、最初のセッションを締めた。
リサーチデータから読み解くEV分野のグローバルトレンド
ここからは後藤尚平氏、高橋亮氏、冨安啓太氏が加わり、布井氏が紹介したEVの市場動向やビジネス的な観点において関連トピックスを紹介しながら、より深掘りしていくディスカッションセッションとなった。
左から、自動車事業部 第2ビジネス統括部 統括部長 布井 真実子氏、課長 後藤 尚平氏、テクニカルグレード 高橋 亮氏、課長代理 冨安 啓太氏
日本のEV・充電スポットの普及率は欧米に比べ、著しく遅れている
まずは高橋氏が各国におけるEVの普及率を紹介した。
2020年のデータによれば、世界で販売された新車8000万台の内、EVは300万台であり、わずか数%という割合だ。一方で国別に見るとドイツの12%を筆頭に、ヨーロッパはアジアに比べかなり高いことが分かる。
さらに先月発表されたばかりの最新データによれば、ドイツでは24.7%とさらにEVの割合が高まっており、販売台数も全体で1000万台を超えるなど、EVシフトは確実に進んでいる。一方で、日本はいまだに1.7%と低い水準である。
続いて後藤氏が各国における充電スタンドの整備状況を紹介した。2021年のデータでは、充電スタンドにおいても、欧米に比べて日本は整備が進んでいないことが分かる。中国の整備が進んでいるのも注目すべき点だろう。
一方で、日本においても政府が2030年に15万基のEV充電器の整備を目標に掲げたことで、2014年頃から公共の場で一気に整備が進んでいる。
充電スタンドの整備状況においては、人口・車道の距離別で同じく各国の状況を比較すると、日本はこちらでも整備が進んでいないことがわかる。後藤氏はデータを踏まえ、「EVを利用する上で利便性を左右する充電器の整備が進んでいないことが、1つの大きなポイント」だと見解を述べた。
整備が進んでいるノルウェーに関しては、布井氏がその理由も踏まえ、見解を次のように語っている。
「ノルウェーの場合は国が強制して進めているため、情報を取得することも難しい。民間企業での取り組みの方が参考になるでしょう」(布井氏)
また、他国と比べ充電器の整備が進んでいるノルウェーにおいても、充電待ちする車の渋滞が社会問題になっている。つまり、ノルウェーですらまだ充電器は足りていないのだ。
充電渋滞は複合的な問題だと布井氏。一軒家の人が自宅で充電するのか。マンション住まいの人が自宅で充電するのか、あるいは出先のスポットで充電するのか、様々なシーンが考えられるからだ。
充電器の設置配分は、なかなか答えが見つからないテーマである。充電をコントロールするか、充電器を増やすことで解消するしかないが、現在は両方の発想で進んでいる。
続いて後藤氏は、ユーザーがEVを所有する際の懸念点に関する各国のアンケート結果を紹介。縦軸が価格、リセール時の価値、充電時間といった指標であり、日本では充電時間が特に懸念点である。実際、自動車メーカーとビジネスを検討する際にもよく聞かれるという。
ユーザー目線ではなく、自動車メーカーからの観点も紹介された。ガソリン車は利益率が7~8%に対し、EVはマイナスであり、4~5%の赤字だ。ただしテスラにおいては、2021年度には12%の利益を叩き出している。その理由を後藤氏は次のように分析した。
「販売店を持っていないことに加え、ソフトウェアファーストで車をつくっていることが大きいと言えます。例えばOTAを通して新しい価値を提供するといったマネタイズです」(後藤氏)
テスラがソフトウェアファーストで車をつくれるのは、ハードウェアがベースの既存自動車メーカーとは異なり、ゼロベースでEVをつくってきたからだと布井氏は言う。
そして、既存の自動車メーカーはハードウェアベースであるために、ソフトウェアを分離した車づくりが難しく、不可逆の波に抗えない。この課題をいかに突破できるかがポイントとなる。
「NTTデータが自動車メーカーをサポートすることで、マネタイズできる世界観を実現したいと考えています」(布井氏)
プラットフォーム構築とデータ活用でEVシフトをサポート
日本においてEVが普及しない理由は、海外に比べて「環境に対する意識が乏しい」という背景がある。具体的には、海外の人は二酸化炭素、酸性雨、災害を身近に感じる生活環境で暮らしていることから、エコやグリーンに対する意識が高い。
「日本は台風などの災害が多い半面、地球温暖化の影響などは身近に感じていないと思われます。まずは環境意識を高めることが、EV普及への道となるでしょう」(高橋氏)
日本は災害が多いことに対して布井氏は、「EVは災害時に蓄電池として、電力復旧までの間の電力供給源となる」というメリットを紹介。各自治体でも導入が進んでいると話した。
高橋氏は再生可能エネルギーでの発電割合が低いことが、EV導入の足かせのひとつとなっているというエビデンスを紹介した。各国がどのような手法で発電、エネルギーを得ているかの割合を示したのが以下のグラフである。
グラフを見ると、欧州は再生可能エネルギーの比率が高いため、ガソリン車からEVにシフトすれば、カーボンニュートラルの実現に貢献できることは明白だ。
ただ日本においても、再生可能エネルギーによる発電へのシフトは進んでいる。2030年にはCO2フリー、非化石エネルギーによる発電比率を59%まで高めると政府は掲げている。その実現可能性について、布井氏は次のように語っている。
「再生可能エネルギーはそれぞれの施設の発電力が小さく、不安定という特徴があります。そこで各発電所をつなぎ、全体のエネルギーをコントロールする。まさにソフトウェアの力になりますが、アグリゲーションコーディネーターと呼ばれる取り組みで進めています」(布井氏)
そもそもなぜIT企業であるNTTデータが、EVビジネスに携わっているのか。EV車の普及に向けては、自動車業界と電力業界が協調する仕組みが必要であること。そして協調する際には各業界、各社の強みや競争領域を定めることが必要だという。
その上で、各ステークホルダーが保有している自社のデータを活用していくことが大事だと後藤氏も強調する。
最後に業界の垣根を超えた社会インフラ、プラットフォームを構築するのは、NTTデータのコアコンピタンスであると布井氏は語り、ディスカッションセッションを締めた。
データ活用をベースに「最適充電アルゴリズム」を研究開発
続いては、NTTデータが推進、挑戦している自動車ビジネスについて、冨安啓太氏がプロジェクト事例なども交えて紹介した。
アプローチとしては、大きく2つのテーマで取り組んでいるという。充電に関する「充電体験」、価値向上の実現に向けた「行動変容」である。
充電体験においてはデータを活用し、最適なアルゴリズムの研究開発を行う。一方、行動変容においては自動車メーカーと共創し、新たなサービスの創出を目指す。
「自動車メーカーは、EVはカーボンニュートラルへの貢献と、ガソリン車ではできないことを享受できること。この2つを結びつけることがポイントだと考えています」(冨安氏)
行動変容の事例も紹介した。地域の電力が逼迫しそうになると、住人は家の電力を抑えるためにショッピングモールに出かける。日中の太陽光発電で余った電力を、EVに充電する。そして、このような行動変容が結果として環境の貢献につながることを、価値として変換できるようなサービスを生み出すことが大事だと、冨安氏は説明した。
最適充電アルゴリズムとはそもそも何なのか。なぜ、取り組んでいるのか。富安氏は4つのポイントを示した。
例えばダイナミックプライシング。電力以外でも活用されるケースが増えてきたが、電力においては昼と夜といった時間帯の他、再生可能エネルギーなど電力源などでも、料金が変わる。そのため一般のユーザーが自分で最適な判断をすることは難しい。
他の3つのポイントも同様だ。NTTデータの技術や知見を活用することで、最適充電となるようなアルゴリズムを研究開発している。
データの活用においては、4つのステップで進める。まずは、自動車メーカーからコネクティッドデータを得る。いつ運転しているのかといった「利用傾向」、同じくいつ充電しているのかの「充電傾向」、そのほか運転の特徴を示す「運転特性データ」である。
冨安氏たちのチームは、このコネクティッドデータをもとに、近しい傾向のユーザーをクラス分類している。電気料金が割安な時間帯にシフトするレコメンドを出し、実際にシフトしてどうなるのか。現在は電気料金の削減効果のシミュレーションを検証しているフェーズであり、実際、成果も確認しているという。
自動車のコネクティッドデータをベースに、NTTデータが持つ人流データや電力会社から得られる電力データをつなげていく。そして先のシミュレーションを実証実験に移し、知見を積み重ね、数年後にはサービスを商用化したいと、冨安氏は今後の展望を語った。
ちなみに、電力データの取得においてはスマートメーターにより、全国のデータを取得できるGDBLというグループ会社を活用することで実現している。
自動車とエネルギーが融合する新ビジネスを創出
ビジネス共創での取り組みについては、価値向上に向けた新規サービスを創出するために、アイディエーションを実施している。メンバーは20名ほどで、自動車メーカーの研究開発者も参加している。
「システムインテグレーターとお客様との関係性ではありますが、新しいサービスを一緒になって創出する。その実現のために、ワークショップなどでは対等な立場でやり取りすることを心がけています」(冨安氏)
プロジェクトは大きく3つのステップで進む。まずは調査探索である。トレンドキーワードをもとに、メンバー各自が有識者へのヒアリングやネット検索などを行い、情報を収集。得た情報は共有され、さらなるお互いの学びへとつなげていく。
「各人が自分の手で調べることが重要」と、富安氏は語る。体感することでの気づきや、アイデア出す際のヒントになったりするからだ。
またチームにおいても多様なアイデアを出す相乗効果で、さらなる良きアイデアが醸成される可能性があるし、チームワークの醸成にもつながる。実際、アイデアの創発では、3時間で495ものアイデアが出たという。
そしてこれらのアイデアを組み合わせ、ビジネスの元となるコンセプトを作成。現在は、コンセプトに従い、検証を繰り返しているフェーズだ。
富安氏は今後の展望を次のように述べている。
「チームで協力して仮説検証を繰り返し、イノベーションを生み出す。サービスは細かく素早く市場に投入し、顧客のフィードバックを受ける。この循環サイクルを繰り返すことで、自動車とエネルギーが融合する新たなビジネスを開拓したいと考えています」(富安氏)
【Q&A】参加者からの質問に登壇者が回答
セッション後は、参加者からの質問に登壇者が回答した。
Q.今年のCESでワクワクした事例は?
高橋:1つはHERE Technologiesさんが発表していたEVルーティング機能です。充電場所をカーナビでレコメンドする機能で、日本でも同様の機能はありますが、同社の機能は一歩進んでいます。これまでの利用実績のデータから充電器の空き確立を計算し、可視化してユーザーに提示できます。
もう1つはソーラーカーです。充電器とは逆転の発想で、ボンネットなどにソーラーパネルを設置。夏場などは充電スポットを利用することなく数カ月も走行可能なので、さらなるサービスも生まれていくでしょう。
Q.「最適充電アルゴリズム」がもたらす効果とは
冨安:過充電などを行わず、必要な量を必要なときに充電する効果が1つあります。もう1つは、充電するという行動をユーザーが意識せずにできる。そのようなメリットも考えています。
Q.自動車メーカーがソフト・ハードウェアを融合し、ソフトウェアファーストになるためのポイントは?
布井:ソフトウェアはマイクロサービス化が大事であり、業務機能をそれぞれ疎結合とします。そして分けた機能同士をAPIで連携。さらにはアップデートも前提とします。一方、自動車はソフトウェアとハードウェアが密接につながっており、同時に入ってくる情報をいかに安全で安心なルールを整えていくかといった話をよく聞きます。
Q.登壇したメンバーはコンサルタントなのか
布井:エンジニアであり、コンサルタントでもあると言えます。
冨安:元々はシステム開発など、SIerの仕事に従事してきたメンバーです。現在は、チームも会社も単なるSIerから脱皮し、ビジネスパートナーとしてお客様と一緒にビジネスを生み出すフェーズにシフトしています。
今回紹介したアイディエーションのようなノウハウを持つコンサルタント部隊とも連携し、我々も勉強しながらアイデアの創発を進めています。これまでとは異なるスキルや思考が必要だと感じているので、より磨いていきたいと考えています。