採用ブランディング活動のはじめ方【TECH PLAY -Branding Method- 第2章】
10年間で500社以上のエンジニア採用ブランディングを支援してきたTECH PLAYのノウハウを凝縮した「Branding Method」を基に、成功事例と具体策を解説するシリーズの第2弾。こんにちは。TECH PLAYプランナーの坂本です。これまで80本以上のエンジニア向けコンテンツを企画・制作してきた経験を踏まえ、「TECH PLAY -Branding Method-」をもとに、エンジニア採用や採用ブランディング、エンジニア向けのコンテンツ企画に役立つ実践的なノウハウをお届けしています。
このシリーズでは、私がナビゲーターとして、全5回にわたり「TECH PLAY -Branding Method-」を順を追ってご紹介していきます。
第2回となる今回は、採用ブランディングを始める際に押さえておくべき4つのステップに焦点を当てます。
- ゴールをどう設定するか
- どんなターゲットやコンセプトを定義するか
- どんな体制で現場を巻き込むか
- 予算をどう考えるか
など、どれも活動の基盤となる重要な要素です。
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この記事で分かること
- 施策の成功に不可欠な土台づくり
- 立ち上げ期/継続期/成長期で異なるゴール設計の方法
- ターゲット定義・業界分析・自社分析による発信設計の流れ
- 現場エンジニアを巻き込む協業体制づくりのポイント
- 予算を投資として確保・合意を得るための工夫
こんな方にオススメ
- 初めて採用ブランディングを担当する人事・採用担当の方
- エンジニア採用の難易度が高まり、母集団形成や歩留まり改善に課題を感じている方
- 技術広報・コミュニティ運営を任され、「何から手をつければよいか」整理したい方
特に、実務にすぐ活かせるチェックポイントを知りたい方におすすめです。
ゴールを設計する|立ち上げ期・継続期・成長期で考える
採用ブランディングを始めるときに最初に決めるべきなのは、「何をもって成功とするのか」 です。
成功の定義を曖昧にしたまま進めると施策が散発的になり、成果を適切に評価できずに活動が続きません。
そのため、活動の進行度に応じて、立ち上げ期 → 継続期 → 成長期 の3つに分けてゴールを設定するのが効果的です。

立ち上げ期|発信体制をつくる
最初のゴールは「仕組み化」です。いきなり成果数値を追うのではなく、無理なく続けられる体制を整えることが第一歩になります。
- ポイント
- 経営陣と「採用ブランディングは中長期施策である」と認識を合わせる
- 外部リソースを活用しながら、持続可能な仕組みにする
- KPIは参考値として活用し、PDCAを回すことに重きを置く
- 実施例
- チームを組成し、月次発信目標と年間スケジュールを設定
- オウンドメディア、SNS、スカウトなどチャネルごとの役割を決める
継続期|効果を測り改善する
発信が回り始めたら、発信がターゲットに適切に届いているかを検証し改善する段階です。
- ポイント
- コンテンツがターゲットに届いているかを測定
- 選考中の候補者や内定者から“生の声”を集めて改善に活かす
- 実施例
- Google AnalyticsやMAツールで「どのチャネルから」「どのコンテンツが」「どんな層に」届いたかを可視化
- 候補者・内定者・入社者にアンケートを行い、「認知経路」「参考になった情報」「印象変化」を把握
- 分析結果をもとに、次の発信テーマやチャネル戦略を改善
成長期|候補者体験を最適化する
ノウハウが溜まってきたら、活動を「候補者体験の質」や「母集団の広がり」に直結させるフェーズに入ります。ここでは、単なる発信量の拡大ではなく、候補者が選考をどう体験するか、そしてまだ応募を検討していない潜在層にどうリーチするかがポイントになります。
- ポイント
- 選考フローごとの歩留まりを把握し、ボトルネックを改善する
- ペルソナごとに導線を整理し、必要に応じてカスタマイズする
- SEOや広告を組み合わせて潜在層の裾野を広げる
- 当初の目的やKPIを見直し、候補者起点で改善を続ける
- 実施例
- 選考の遷移率を分析し、「どこで離脱しているか」を特定して対策を投入
- アンケートやインタビューから不足コンテンツを特定し、補強・拡充
- ペルソナ別にコンテンツ導線を設計し、応募・エントリーまでの流れを最適化
- 潜在層に届くよう、記事のSEO強化やイベント広告を実施
- 振り返り項目例
- コンテンツ経由で流入した候補者の選考進捗率はどうか
- 内定承諾率や候補者満足度は改善しているか
- 母集団の質・数は向上しているか
- 潜在層へのリーチ数は拡大しているか
コンセプト/ターゲットを設定する|情報発信の土台をつくる
採用ブランディングを進めるうえで大切なのは、「誰に、何を伝えるか」 を明確にすることです。
ここが曖昧だと、せっかくの発信もターゲットに響かず、社内のメッセージもバラバラになってしまいます。
効果的に進めるためには、次の4ステップで考えるのが基本です。

STEP1:ターゲットを定義する|ペルソナ設計
候補者のスキルや志向は多様で、「エンジニア」という大きな括りでは十分に解像度が足りません。例えば同じWebアプリエンジニアでも、キャリア志向や技術スタックによって求める環境や価値観は大きく異なります。
そのため最初に行うべきは、採用したい人材像をペルソナとして明確にすることです。
- ペルソナ設計の観点例
- スキルセット:使用言語・フレームワーク・専門領域
- 職位:CTO、VPoE、EM、テックリード、開発エンジニアなど
- 経験:スタートアップでの新規プロダクト開発経験、大規模システム経験など
- 志向性:技術志向、ビジネス志向、安定志向 など
- キャリア目標:マネジメント志向か、エキスパート志向か
こうしてペルソナが定まることで、「どんな情報を、どのチャネルで伝えるか」が具体的に見えてきます。
STEP2:業界を分析する|候補者の認知を整理
候補者は応募前から業界に対して先入観を持っています。ときにその先入観は誤解を含み、採用の障壁になることもあります。
例えば自動車業界では「ウォーターフォール型の開発が主流」「安全性や信頼性が求められ、堅い企業風土」「ハード文化でソフトウェアエンジニアの活躍機会は少なそう」といった認知が先行するケースがあります。
一方で「日本を支える基幹産業で社会インフラ」「最先端の技術に触れられる」「大規模な開発に携われる」といったポジティブな面も存在します。
こうした背景を踏まえ、業界についての「良いイメージ」と「誤解されやすいイメージ」を整理し、候補者に正しく理解してもらうことが大切です。
その上で、誤解を解くメッセージと、自社ならではの強みを伝える発信を両立させると効果的です。
STEP3:自社を分析する|強みと文化を明文化
「どの会社でも言えること」を並べても、候補者の心には残りません。差別化のためには、自社ならではの技術力や文化を言語化することが必要です。
- 分析観点例
- 技術力:独自アーキテクチャ、豊富な大規模案件知見、データ活用力
- 開発プロセス:アジャイル文化、リファクタリングへの投資、PoC実績
- 成長環境:勉強会・OSS活動支援、社内外で学べる制度
- 企業文化:心理的安全性、挑戦を歓迎する風土、ボトムアップ文化
例えばSIer/コンサル企業であれば、以下の形で整理できます。
- 強み:大規模案件の知見、PoCから事業創出まで伴走できる点
- 文化:領域横断のスペシャリストが在籍、新技術での事業創出に積極的
STEP4:発信ポイントを整理する|一貫性を持たせる
最後に、自社の「強み」をターゲットに響く形で発信ポイントとして整理します。
自社の強みを分析をしても、各部署ごとに発信内容がバラバラだと、候補者から見たメッセージが一貫せず、ブランドは定着しません。
大切なのは、「社内の誰が話しても同じメッセージになる状態」 を作ることです。
- 《例》事業会社でよく整理される発信ポイント
- 高度な技術力と専門性
- 魅力的な顧客体験を提供するための一貫した「プロダクト開発と管理」
- 長期的な活躍と貢献につなげるタレントマネジメントやキャリアパス
- 心理的安全性の高いカルチャー
- 確認すべきポイント
- この発信内容はターゲットの価値観に刺さっているか?
- 他社ではなく「自社だからこそ言える強み」になっているか?
- 部署や発信者が変わってもメッセージの一貫性が保たれているか?
一貫した発信ポイントがあることで、候補者は安心感を持ち、企業の魅力をより深く理解できます。
現場協業の体制をつくる|エンジニアと共につくる情報発信
採用ブランディングを進めるうえで欠かせないのが、開発現場との協力体制です。
なぜなら、候補者が最も信頼する情報は「現場エンジニアの一次情報」だからです。
どれだけ戦略や計画を立てても、発信内容が現場とかけ離れていれば、候補者には響きません。
エンジニアが「発信したい」と思える仕組みをつくる
現場の協力を得るには、ただ「書いてください」「登壇してください」と依頼するだけでは不十分です。エンジニアにとってのメリットやサポート体制がなければ、発信は続きません。

- 押さえるべきポイント
- 発信によって得られるメリットを明確にする(個人の評価、スキルの可視化、キャリアの広がり)
- 経営層やマネージャーが発信の重要性を理解し、積極的に支援する
- 発信にかける工数を現実的に設計し、過度な負担を避ける
- 登壇・執筆のサポートやフィードバック、評価反映などを仕組み化する
- NG例:目標や評価につながらない依頼、数値だけを求めるタスク化
- 適切な例:目標設定・予算・評価に組み込み、協力とフィードバックの循環を作る
協業を進める4ステップ
質の高い情報発信を行うためには、場当たり的に依頼するのではなく、ステップを踏んで準備することが重要です。

- ターゲット設定
- 「どの会社で」「どんな職種で」「どのレイヤーの人に」「なにに興味があるのか」を具体化。
- 技術タグやSNS検索、ターゲットへのヒアリングで解像度を高める。
- 発信ネタの棚卸し
- 「誰が話せて」「どのプロジェクトで」「なにが面白く」「なぜ対象に刺さるのか」を整理。
- 社内ヒアリングや既存記事の検索から素材を集める。
- エッジの設計
- 洗い出した発信ネタに切り口を加えることで魅力的なコンテンツに仕立てる。
- 例えば、新技術を導入したプロジェクトの話を取り上げる場合、「技術選定のポイント」や「導入時に直面した課題」を切り口にし掘り下げる。
- 情報設計
- 入口(どのチャネルで発信するか)→動線(どんな形で読まれるか)→出口(最終的にどう動いてほしいか)を設計する。
- SNS拡散や広告活用も含め、候補者に届きやすい構造をつくる。
チーム体制イメージ
協業体制をつくるときは、役割分担を明確にしておくことが成功の鍵です。

以下は役割分担の一例です。
- 本部人事:採用全体の戦略、応募者対応、採用広報の統括
- 各部門人事(HRBP):部門ごとの採用を担い、エンジニア組織との橋渡し役
- エンジニアリングマネージャー:技術的な助言や現場体験の共有、発信に適したメンバーのアサイン
- コンテンツ制作チーム:記事制作、イベント企画、SNS運用など実務を担う(内製/外部リソース)
- 現場協力社員:開発プロジェクトのリアルを発信する中心的存在
採用ブランディングの予算の考え方|投資としての捉え方と確保の方法
採用ブランディングを進める上で、多くの担当者が最初に直面する壁の一つが 「予算」 です。
求人媒体や人材紹介といった短期採用費用と比べると、ブランディングはどうしても効果が見えづらいため、社内で予算を確保するハードルが高くなりがちです。
しかし、採用ブランディングを「単なるコスト」と捉えるのは誤りです。中長期的には採用効率を改善し、結果的にコスト削減にもつながる投資という視点を持つことが重要です。
予算の考え方|3つの視点

1. 既存の採用コストを下げる手段
認知度やブランドの好感度が低いと、どの採用チャネルを使っても応募数が伸びにくく、結果的に単価が上がります。
採用ブランディングは、応募率を高め、選考離脱率を減らすことで既存コストを抑える手段 として機能します。
2. 新しい採用チャネルにつなげる手段
ブランディングによってタレントプールを拡大すれば、求人媒体や人材紹介に頼らずとも候補者と出会える土台ができます。
これは 「今は転職を考えていない潜在層」や「企業に関心を持ち始めた層」との接点を作る投資と捉えられます。
3. 余剰予算の戦略的活用
採用計画が順調な年や、一部未達で余った予算を「来期以降の採用難易度を下げるための布石」としてブランディングに回すのも有効です。
短期成果だけを追うのではなく、翌年以降の母集団形成を楽にする先行投資と考えることができます。
予算確保の方法|3つのアプローチ

予算確保の方法は、大きく3つに分けられます。
1. イベント投資型|タレントプールを広げる
カンファレンスのスポンサー参加や自社イベント開催など、「見込み人材が集まる場」に投資する方法です。
1名あたりの獲得単価を試算しておくと、経営陣に説明しやすくなります。
2. 配分固定型|採用予算の一部を広報に回す
採用全体予算の中から 一定割合を技術広報に固定的に割り当てる 方式です。
短期的な求人広告費だけに依存せず、長期的に採用難易度を下げる“ポートフォリオ”を組むイメージです。
3. 積み上げ型|施策ごとに見積もりを提示する
記事制作費、配信費、イベント運営費など、具体的な施策単位で必要額を積み上げる方法です。
「この活動をするには、この金額が必要」と説明できるため、社内承認を得やすい傾向があります。
社内合意を得るための工夫
採用ブランディングは効果がすぐに数字に表れにくいため、社内で予算承認を得るには工夫が必要です。経営層やマネージャーに「なぜ必要なのか」を納得してもらうには、以下の3つの観点で伝えると効果的です。
数値で語る
応募率、内定承諾率、CPA(採用単価)の改善効果など、既存の採用KPIに直結させて説明します。
数字に落とし込むことで、抽象的な「ブランド強化」ではなく、採用効率改善に寄与する施策だと理解してもらいやすくなります。
比較で語る
求人広告や人材紹介にかかる「1人あたりコスト」と対比させることで、投資対効果がイメージしやすくなります。
たとえば「紹介会社で1人採用するより、ブランディングに投資する方が長期的に安い」と具体例を出すと納得度が高まります。
中長期を見据える
「今期の採用だけでなく、来期以降の母集団形成を楽にする投資」という位置付けで語ることが重要です。短期的な成果が見えにくくても、翌年度の採用難易度を下げる布石になると説明すれば、戦略的投資として合意が得やすくなります。
採用ブランディングの予算は、短期的な成果を追う採用活動とは異なる性質を持ちます。
だからこそ「投資としての視点」を持ち、数値や施策単位で説明することで社内の理解を得やすくなります。
まとめ
採用ブランディング活動を始めるときに大切なのは、いきなり施策に飛びつかないことです。
まずは 「ゴール設定」「コンセプト/ターゲットの明確化」「現場との協業体制づくり」「予算の考え方」 という土台を固めることからスタートしましょう。
- ゴールはフェーズ(立ち上げ期/継続期/成長期)ごとに異なる
- コンセプトやターゲットを定義して“誰に・何を届けるか”を明確にする
- 発信のリアリティを担保するために、現場エンジニアとの協業体制を整える
- 予算は「コスト」ではなく「投資」として説明・確保する
こうした準備を丁寧に進めることで、活動はブレずに継続し、やがて「候補者に選ばれる企業ブランド」として根付いていきます。
皆さんの組織では、まずどのステップから着手できそうでしょうか?
より詳細を知りたい方へ
本記事では「TECH PLAY -Branding Method-」第2章の内容を中心に解説しました。
全編をまとめた資料をダウンロードいただければ、採用ブランディングの全体像をより体系的に理解し、自社施策に活かすことができます。
[▶「TECH PLAY -Branding Method-」全編資料をダウンロードする]
次回は「第3章:情報設計の考え方~発信チャネルの選び方とコンテンツの集約について~」について解説します。
執筆者

坂本 奈穂
パーソルイノベーション株式会社
TECH PLAY BRANDING
2016年にパーソルキャリア(旧 インテリジェンス)に新卒入社し、約4年間IT・インターネット業界への採用支援を担当。その後、エンジニア領域の転職支援に従事。2022年よりエンジニア向け採用ブランディングのプランナーとして『TECH PLAY』に参画。これまで80本以上のイベントや動画・対談を企画。自動車業界をはじめメーカー・小売・IT・Web・スタートアップなど、様々な業界で企業の採用ブランディングを支援。














