情報設計の考え方~発信チャネルの選び方とコンテンツの集約について~【TECH PLAY -Branding Method- 第3章】
10年間で500社以上のエンジニア採用ブランディングを支援してきたTECH PLAYのノウハウを凝縮した「Branding Method」を基に、成功事例と具体策を解説するシリーズの第3弾。こんにちは。TECH PLAYプランナーの坂本です。これまで80本以上のエンジニア向けコンテンツを企画・制作してきた経験を踏まえ、「TECH PLAY -Branding Method-」をもとに、エンジニア採用や採用ブランディング、エンジニア向けのコンテンツ企画に役立つ実践的なノウハウをお届けしています。
このシリーズでは、私がナビゲーターとして、全5回にわたり「TECH PLAY -Branding Method-」を順を追ってご紹介していきます。
第3回となる今回は、「情報設計」をテーマに、自社に合った発信チャネルの選び方と、発信した情報を効果的に集約する“採用サイト”の設計ポイントを整理します。
全編をまとめた資料をダウンロードいただければ、採用ブランディングの全体像をより体系的に理解し、自社施策に活かすことができます。
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この記事で分かること
- 採用人数×離職率で整理する、発信戦略の考え方
- 抽象から具体へ流れるコンテンツ設計の型
- 記事・動画・イベント・SNSなどチャネルの特徴と活用法
- 採用サイトが果たす役割と、理想的な設計ポイント
- 成功企業の採用サイトに共通する工夫
こんな方にオススメ
- 採用ブランディングの情報設計に課題を感じている方
- 発信はしているのに応募やエンゲージメントに繋がらず悩んでいる方
- 採用サイトの刷新を検討している方
採用ブランディングの打ち手をどう選ぶか|『採用数』×『離職率』の4タイプ
最初の一歩は「自社の現状をどう見立てるか」です。
TECH PLAYでは『採用数』×『離職率』 の2軸で整理する方法を推奨しています。

たとえば、下記のように整理していきます。
- 【A】採用数が多く、離職率が少ない会社 = カルチャー明文化&ブランド投資型
- すでに人材が定着している強みを活かし、自社のカルチャーや価値観を積極的に発信するフェーズ。オウンドメディアやカンファレンスで「この会社で働く意味」を発信すれば、候補者の共感を得やすくなります。
- 【B】採用数が多く、離職率も高い会社 = 組織制度整備&リブランディング
- まずは制度や仕組みを整える段階です。教育制度や評価制度を見直し、ブランドの基盤を固めることが先決になります。
- 【C】採用数も離職率も少ない会社 = 周囲のファンをつくる
- いきなり大きな投資をするよりも「ファンづくり」から着手しましょう。社員インタビューや自社HPの改善を通じて、小さくても熱量のある共感層を育てることが重要です。
- 【D】採用数が少なく、離職率が高い会社 = カルチャー見直し&エンゲージメント強化
- 発信の前に「カルチャーの見直し」が欠かせません。役員や社員との対話を重ね、エンゲージメントを高める活動と並行して情報発信を進める必要があります。
あなたの会社はどのタイプに近いでしょうか?
この整理だけで、今取り組むべき打ち手がクリアになります。
コンテンツ設計|“抽象から具体”へ流れるストーリー設計と伝達手法
情報発信で迷いやすいのが「どんな内容から伝えるか」と「どの手法で届けるか」です。
候補者の理解には流れがあります。
まずは理念やビジョンなどに触れ、次に技術やプロジェクトを知り、最後に事例や調査で確信を深める──
この順番を意識するとストーリーが自然に流れます。

- STEP1:価値観やビジョン
- DXビジョンや中期経営計画など、会社がどこを目指しているのかを示すメッセージ。
- STEP2:技術やプロジェクト
- クラウドやAIといった技術テーマ、新規プロジェクトや組織づくり、社員やリーダー紹介など。エンジニアにとっての「挑戦できる環境」を伝えます。
- STEP3:事例や調査
- 社員取材記事、技術ブログ、SNS発信、勉強会レポートなど。具体的な実践や数字が候補者の納得感を高めます。
さらに大事なのは「どの手法で伝えるか」の選定です。

- リリース:速報性が高く、新方針や調査発表に最適
- 記事:検索されやすく長く読まれる。技術や事例の深掘りに効果的
- 動画:現場の空気感を直感的に伝えやすい
- イベント:候補者と直接つながり、熱量を共有できる
ポイントは「抽象から具体へ」の流れをつくりながら、内容に合わせて最適な手法を選ぶこと。
そうすることで、単なる情報発信が、候補者にとって“自分ごと化”できるストーリーになります。
発信手法の選び方|オウンドメディア・技術ブログ・イベント・SNS
情報発信とひと口にいっても、手法ごとに「目的」「活動目安」「必要コスト」は大きく違います。ここを理解していないと「やってみたけど続かない」「効果が見えない」という落とし穴にはまりがちです。
TECH PLAYでは大きく4つの手法に整理しています。
オウンドメディア|認知度と企業理解を深める“母艦”
- 目的
- 事業・組織・技術などを体系的に集約し、直接的な応募数よりも認知度向上や企業理解の深化に寄与する。
- 活動目安
- 月5本以上の記事更新。更新が滞ると「情報が少ない会社」という印象を与えやすい。
- 必要コスト
- サイト制作に数十万円〜数百万円前半。コンテンツ制作は内製なら0円、外注なら数十万〜数百万円。
- こんな企業にオススメ
- 採用を継続的に行う企業、編集スキルを持つメンバーがいる企業、安定してコンテンツを生み出せる現場を持つ企業。
長期的に採用力を高めたい会社にとっては「投資に見合う母艦」となるのがオウンドメディアです。
技術ブログ|現場エンジニアの声を外に届ける場
- 目的
- 技術情報を社外に開示し、エンジニアのプレゼンスを高める。社員の育成や社内コミュニケーションにも好影響。
- 活動目安
- 最低月2〜3本の更新が望ましい。間隔が空くと存在感が薄れてしまう。
- 必要コスト
- 基本的に内製だが、外注する場合は数万〜数十万円。
- こんな企業にオススメ
- 技術発信に寛容なカルチャーを持ち、現場に「発信したい」社員がいる企業。経営・技術TOPの理解と協力が必須。
技術ブログは「会社の技術的立ち位置」を示す鏡。候補者に「ここで働けば成長できる」と思わせる効果が大きい手法です。
イベント|直接接点を生み“熱量”を共有する場
- 目的
- 候補者との直接的な接点を創出し、技術やカルチャーをリアルに伝える。勉強会(情報共有型)とMeetup(採用目的型)の2タイプがある。
- 活動目安
- 四半期に1回がベター。月1回できると「発信に積極的な会社」と認知されやすい。
- 必要コスト
- フルアウトソースで数十万〜百数十万円。内製なら0円。広告費を設ける場合は10万円〜が目安。
- こんな企業にオススメ
- 採用効果を早期に出したい企業、リスト獲得や接点形成を重視する企業、現場協力と予算が確保できる企業
成果が見えやすく、社外との距離を一気に縮められるのがイベント。特に採用直結を狙うフェーズで有効です。
SNS|日常の延長で“親近感”を育てる
- 目的
- スピードと拡散力を活かし、候補者に親近感を持ってもらう。若年層やtoCサービスに強い。
- 活動目安
- 週次更新が理想。有事だけの投稿ではフォロワー増は見込めない。
- 必要コスト
- 運用代行で数十万円/月。専任担当がいれば0.2人月程度。
- こんな企業にオススメ
- スピード感のある広報を目指したい企業、SNS発信を通じて候補者との接点を増やしたい企業。
SNSは“会社の日常”を届ける場。候補者に「リアルな会社像」を想像させやすく、オウンドメディアやイベントと組み合わせると効果が高まります。
自社のリソース・目的・ターゲットを踏まえて、まずは「最小限でも継続できるもの」から始めるのが鉄則です。
やみくもに全部やろうとせず、優先順位をつけて取り組むことが、採用ブランディング成功の第一歩になります。
採用サイトは“発信のハブ”になる|候補者が理解・納得できる場づくり
チャネルごとに発信した情報を“点”で終わらせず、候補者が一目で理解できる“面”にするのが採用サイトの役割です。

- 会社のビジョンやカルチャーを体系的に整理
- 記事や動画で発信した内容を採用サイトに集約することで、「この会社は何を大事にしているか」を俯瞰できるようになります。
- 求人情報を明確に提示
- 募集職種や業務内容はもちろん、評価制度やキャリアパスまで書かれていると候補者の安心感が大きく変わります。
- 応募プロセスの簡略化
- サイト内で応募やカジュアル面談まで完結できれば、候補者の離脱を防げます。
- 外部媒体依存を減らしコストを削減
- 採用媒体に頼らず、サイト経由で応募が増えれば、長期的な採用効率も改善します。
- アクセス解析による改善サイクル
- 「どのページで離脱しているか」「どのコンテンツが人気か」を見ながら、採用広報全体をチューニングできます。
採用サイトは単なる“求人ページ”ではなく、候補者が入社を決めるための「意思決定の場」。ここをどれだけ設計できるかが、採用ブランディングの成否を大きく左右します。
理想的な採用サイトのポイント|候補者の心を動かす10の工夫
採用サイトを構築・運用する際は、候補者が「ここで働きたい」と思える仕掛けを盛り込むことが大切です。
特に以下の10項目は、成功している企業サイトに共通しています。
- 採用ターゲットに適応したページ構成
新卒・中途を分けるだけでなく、エンジニア向けに特化したページを設けると候補者が必要な情報にすぐ辿りつけます。 - 惹きつけるデザインと使いやすさ
シンプルなメニュー構造とレスポンシブ対応で、候補者が迷わず情報にアクセスできます。 - 魅力的な企業メッセージの発信
MVV(ミッション・バリュー・ビジョン)や企業ストーリーを明示し、写真や動画でカルチャーを伝えることで候補者は「入社後の自分」を想像しやすくなります。 - 分かりやすい求人情報
職務内容・待遇・勤務地・キャリアパスを明示。FAQやAIチャットボットの導入も有効です。 - 簡単な応募プロセス
エージェント依存を減らし、簡易応募フォームやカジュアル面談の導線を整えることで応募率を高めます。 - 多彩なコンテンツ
社員インタビュー、オフィス紹介、最新プロジェクト記事などでリアルな働く姿を伝えます。 - 企業の信頼性を示す情報
認定・受賞歴、主要取引先を明記すると「安心して応募できる会社」として認知されます。 - データ解析機能の導入
アクセス解析や候補者アンケートを活用し、サイト改善のPDCAを回しましょう。 - 更新性の担保
CMSを活用して定期更新を可能にし、常にフレッシュな情報を候補者に届けます。 - インクルージョンとダイバーシティの訴求
多様性を歓迎する姿勢やSDGsへの取り組みを示すことで、信頼性と共感を高めます。
成功企業に共通する工夫|SmartHR・メルカリ・イオンの事例
理想的な採用サイトを実現している企業には共通点があります。それは「候補者の不安を払拭し、入社後の自分を想像させる設計」が徹底されていることです。
ここでは代表的な3社を取り上げます。
株式会社SmartHR
- 特徴
- エンジニアフレンドリーで非常に網羅的なサイト。
- MVVやキャッチコピーを通じてチャレンジマインドを前面に押し出しています。
- 注目ポイント
- 事業内容から技術スタック、開発体制まで詳細に開示
- 今後の展望やロードマップを公開し、候補者に「一緒に未来をつくる」感覚を提供
- 評価制度・給与情報まで明示する透明性の高さ
「カルチャーへの共感」と「情報の透明性」を両立させ、ミスマッチを減らしながら応募意欲を高めている好例です。
《出典》SmartHR エンジニア採用
株式会社メルカリ
- 特徴
- 記事コンテンツの量と多様性が圧倒的。
- 技術ブログやオウンドメディア「メルカン」により、会社の最新動向を常に発信し続けています。
- 注目ポイント
- サイト内で求人動線を丁寧に設計し、職種ごとの情報へスムーズにアクセス可能
- YouTubeチャンネル「Mercari Gears」で、開発現場のリアルな裏側を動画で公開
- オンボーディングや技術トレーニングを明示し、候補者の入社後不安を払拭
「情報発信の継続性」と「候補者体験の可視化」によって、エンジニアから強く支持されるモデルケースです。
《出典》Engineering | 株式会社メルカリ - 採用情報
イオン株式会社
- 特徴
- 2023年12月に公開されたエンジニア向け採用サイト。小売業ならではのスケール感とデジタル活用の魅力を大きなストーリーで伝えています。
- 注目ポイント
- IT・デジタル人材に特化したランディングページを用意し、専門性を前面に訴求
- 現在解決すべき技術課題を明確化し、挑戦テーマを提示
- ニュースレター登録・キャリア登録・カジュアル面談への導線を分かりやすく整備
「課題を正直に伝えること」+「次の行動を後押しする導線設計」で、候補者に挑戦意欲を芽生えさせる事例です。
《出典》イオングループ エンジニア採用サイト AEON Engineer Recruitment
3社に共通するのは、「網羅性」「透明性」「導線設計」の徹底。
候補者が 情報を十分に得て納得し、入社後を想像できる状態 をつくることこそ、採用サイト成功のカギだといえます。
まとめ
第3章では「情報設計」をテーマに、採用ブランディングを成功させるための基本を整理しました。
- 自社の状況は「採用人数×離職率」の4タイプで捉え、まず打つべき手を明確にする
- コンテンツは“抽象→具体”の流れを意識し、理念から技術、そして事例へと段階的に伝える
- 記事・動画・イベント・SNSといったチャネルは、目的やリソースに応じて選び、継続できる範囲から始める
- 採用サイトは点在する情報を「面」で整理する“ハブ”として、候補者の意思決定を支援する場になる
- 成功企業の共通点は「網羅性・透明性・導線設計」を徹底していること
採用活動を進めるなかで「伝えたいことはあるけれど、どう整理すればいいか分からない」という状況はよくあります。
今回のフレームを使えば、自社の発信を地図の上に置き直し、改善の優先順位を見極められるはずです。
より詳細を知りたい方へ
本記事では「TECH PLAY -Branding Method-」第3章の内容を中心に解説しました。
全編をまとめた資料をダウンロードいただければ、採用ブランディングの全体像をより体系的に理解し、自社施策に活かすことができます。
[▶「TECH PLAY -Branding Method-」全編資料をダウンロードする]
次回は「第4章:魅力的な技術イベントの作り方」を取り上げ、「誰に」「どんな魅力を」「どんな言葉で届けるのか」など、より具体的な発信設計を掘り下げていきます。
執筆者

坂本 奈穂
パーソルイノベーション株式会社
TECH PLAY BRANDING
2016年にパーソルキャリア(旧 インテリジェンス)に新卒入社し、約4年間IT・インターネット業界への採用支援を担当。その後、エンジニア領域の転職支援に従事。2022年よりエンジニア向け採用ブランディングのプランナーとして『TECH PLAY』に参画。これまで80本以上のイベントや動画・対談を企画。自動車業界をはじめメーカー・小売・IT・Web・スタートアップなど、様々な業界で企業の採用ブランディングを支援。














