異分野からロボットの世界へ飛び込んだUI/UXデザイナー
9月24日開催のウェビナー「TECH PLAY Career Conference #3 Women in Tech ~ アップデートしつづける"わたし式"のエンジニアリング」では、株式会社 本田技術研究所の深谷由佳氏が3番目に登壇。深谷氏はSIerのUI/UXのデザイナーからロボット分野のUI/UXデザイナーへと転身した。なぜロボット分野でUI/UXが求められているのか。そこではどんな経験ができ、過去の経験はどう生きているのかなどについて語った。9月24日開催のウェビナー「TECH PLAY Career Conference #3 Women in Tech ~ アップデートしつづける"わたし式"のエンジニアリング」では、株式会社 本田技術研究所の深谷由佳氏が3番目に登壇。深谷氏はSIerのUI/UXのデザイナーからロボット分野のUI/UXデザイナーへと転身した。なぜロボット分野でUI/UXが求められているのか。そこではどんな経験ができ、過去の経験はどう生きているのかなどについて語った。
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本田技術研究所は目先の利益にとらわれず、技術を生み出す研究機関
株式会社 本田技術研究所
先進技術研究所
ソリューション開発室
深谷 由佳(ふかや・ゆか)氏
深谷氏のキャリアのスタートはSIerのUI/UXデザイナー。「約10年間、様々な業界のUIデザインを経験してきました」と話す。SIer初期はデザイナーとしてデザインやコーディングの実装を中心に担当。SIer後期はディレクターとして、プロジェクト推進やデザイン提案、マーケティング、ユーザー調査など、デザインから幅を広げた役割を担っていたという。
クライアントワークに携わっているうちに、「商品コンセプトから一つのサービスに深く関わっていきたいという思いが強くなった」と深谷氏。2019年に金融機関のインハウスデザインの世界に転向。そこではカスタマージャーニーマップやカスタマーサポートからの評価分析を活用し、UXを重視したUIを構築するという業務に従事したという。
そして2024年に本田技術研究所に入社することになるのだが、そのきっかけは「TECH PLAYでセミナーを聴講したこと」と明かす。
現在、深谷氏は本田技術研究所 先進技術研究所 ソリューション開発室に所属。電動化・知能化技術やデータ活用技術を生かしたソリューション開発の現場でUI/UXを担当している。
本田技術研究所は本田技研工業の子会社という位置づけとなっている。だが本田技術研究所は、本田技研工業の創業者である本田宗一郎氏と藤沢武夫氏の「目先の利益にとらわれず、社会に必要とされる技術を生み出してじっくり育てていく」という強い思いにより、独立した研究機関として設立された。そのため本田技術研究所で生まれた研究成果や設計図面は、本田技研工業に販売。本田技研工業は技術や図面などをもとに、製品を量産、販売しているのだ。そういう役割分担をして事業を成立させているため、「本田技術研究所と本田技研工業は、一般的な親会社子会社のパワーバランスではないことを知ってほしい」と深谷氏は語る。
深谷氏が所属する先進技術研究所 ソリューション開発室は、ロボット領域における知能化技術の研究・開発を行っている。「ここでは社内の自動運転技術やロボティクス技術を活かして、新たなロボットに技術を流用し、自動芝刈り機、自動移動モビリティ、自動搬送ロボットの開発を行っています」(深谷氏)

そして深谷氏はそれらを統合管理するオペレーションプラットフォームに関連するシステムのUI/UXを担当している。現場はロボットエンジニア、ソフトウェアエンジニアに囲まれたコラボレーション型のチーム。プロダクトエンジニアとソフトウェアエンジニアが多く、UI/UXメンバーはかなり少数派だという。
「入社当初はデザイナーに対してどうやって接したらいいのかよくわからない、と戸惑いを感じているエンジニアがちらほらいらっしゃいました」(深谷氏)
エンジニアの中には、デザイナーは自身の好みで無茶な要望を投げかけてくる、という印象を持たれていたからだ。
そういう戸惑いや印象を払拭するために深谷氏が心がけていたことがある。「UIデザインを説明するときには、ロジカルで筋の通った説明をすることを大切にしていました」(深谷氏)
ロボットの分野で求められるUI/UXとは
なぜ、ロボットとUI/UXなのか。ロボットが自律的に最適な行動をとる世界はまだ実現していない。図のように、ロボット本体には車載モニターや物理ボタンが搭載されており、さらにロボットの稼働スケジュールや配備状況、地図情報などを一元的に管理するためのシステムと連動して動作している。そのためのオペレーションプラットフォームも用意されており、利用者のユースケースを考慮し、スマートフォンやPC、タブレットなどの端末から利用シーンに沿った操作ができるようになっている。このようにロボットの世界においてUIは多くのシーンで設計が必要になること、そして利用者の環境・作業の流れを把握し、ハード・ソフトをまたいだ一連の体験設計が重要になることを実感したという。

また深谷氏はロボットのUI/UXデザインにおいて、ロボットが検知していることや状態を周囲にいる人に一目で伝えられるようにすることが大事だと学んだという。「自動運転中は青ランプ、障害物で止まった時には赤ランプを点灯させるのもその一つ。これまでの経歴で経験してきたUI/UXデザインは操作者とデジタルデバイスの中だけで閉じていたので、非常に新鮮に感じました」(深谷氏)
具体的な事例として深谷氏が紹介したのが、昨年、参加した自律移動車両を動かす経路地図の編集UIの改善プロジェクト。元々の経路地図の編集UIは、Hondaのスタッフが経路地図を作成するというコンセプトの基で作成されたという。そのためプロ向けで機能も豊富。「複雑で直感的な操作が難しかった」と深谷氏は振り返る。そこで一般のユーザーでも簡単に操作できるようにUIを検討することになったのだ。
アプローチとしては情報構造と操作フローを再設計することに。「一般のユーザーがどういう機能を主に使うのかを整理し、必要な機能をシンプルに絞り込みました。また一般のユーザーでも使いやすいよう、直感的な操作性を意識してUIを構築しました」(深谷氏)
実際これまで資料上で例示した形状の経路を引くのに23クリック必要だったものが、改善後は7クリックで完了。ユーザビリティ評価を実施したところ、スコアが上昇。改善効果も得られ、プロジェクトとして大きな成果が得られたという。
ロボット領域で生かせるキャリア
ロボット領域のUI/UXデザインプロジェクトにおいても、これまでに培ったスキル、知見が生きた場面が多々あったという。一つはクライアントワーク時代に培ったプロジェクト進行管理スキルである。編集UI改善プロジェクトでは、複数のパートナー企業と協調してプロジェクトを推進しなければならなかった。「スケジュールを組み立てる能力やパートナー企業とタイムラインを合わせて推進する力などは、キャリア前半で培ったスキルです。当時は苦労しましたが、それを今に生かすことができました」(深谷氏)
UI設計という点では、キャリアの初期に実装した経験が生かされたという。「わらしべ長者ではないですが、少しずつ蓄積したキャリアが今に生きていると実感しています」(深谷氏)
さらに深谷氏はキャリアを構築する上で大切にしていることについても言及。深谷氏自身、キャリアの原動力になっているのは好奇心だという。「インハウスデザインに興味を持ったことで、思い切ってクライアントワークからキャリアを切り替えることができました」(深谷氏)
それだけではない。前職の金融系から製造業に転身したのも、「趣味としてHondaのバイクに乗り始めたことで、もっと生活に密着した分野のプロダクトに関わってみたい」という好奇心もあったという。本田技術研究所に入社するきっかけとなったTECH PLAYのセミナーも、実はUI/UXのトレンドや最新技術を収集する中で出会ったという。「振り返ると、好奇心に動かされてキャリアを構築してきたのだと思います」(深谷氏)
現在、深谷氏の好奇心の対象となっているのは、UI/UX関連に加え、建設、農業、工場などDXが進む業界へと広がっている。「それらの業界で汎用ロボットに関する情報を収集していきたいですね」(深谷氏) もう一つ大事にしていることとして深谷氏は信頼関係を挙げる。信頼関係が新しい挑戦や成長の機会を生むという。深谷氏は子どもが小さかった頃、なるべく周囲の協力を得られるような環境を作ることを心がけていたという。実際、クライアントワークの頃、炎上案件を担当し、土日出勤を余儀なくされたことがあったという。普段から上司とコミュニケーションをとり、信頼関係を築いていた深谷氏は、上司に相談、子どもを連れて出社し、乗り切ったのだ。「業務上の信頼関係を築くのはもちろんですが、人間同士のコミュニケーションも本当に重要です」(深谷氏)
そのような経験をしてきた深谷氏の目標は、何か困った際に声をかけてもらえるような人になることだという。

これから目指すことも紹介。1つ目はロボットとUI/UXの融合で新しい体験を創出すること。これまでは画面の中に閉じた世界だったが、今後は視覚や聴覚、音声と組み合わせたUI全体での双方向コミュニケーションが取れるようなUI/UXを構築したいという。
2つ目は異分野のエンジニアと共創すること。Hondaにはヒューマン・マシン・インタフェースの評価技術のプロや画像認識、物体認識のプロなど、これまで関わったことのない分野のプロがたくさんいる。「そういう方と話をするだけでも刺激になりますからね」(深谷氏)
3つ目はUI/UXメンバーを増やしてチーム力を高めること。「UI/UXの心得がある方は、ぜひ、チームに加わっていただけると嬉しいです」(深谷氏)
SIerのUI/UXデザイナーがロボットの世界に飛び込んでわかったことは、「文系・理系の壁はない。必要なのは興味と行動力。それがあればどんなことにもチャレンジできる」と深谷氏は言い切る。
最後に深谷氏は次のようにメッセージを投げかけ、セッションを締めた。
「技術領域に飛び込むUI/UXデザイナーはまだまだ少数です。Hondaの場合、人の移動をテーマに陸・海・空、宇宙と、チャレンジできるフィールドは幅広い。一緒にロボットと人の未来をデザインすることに是非チャレンジしてほしいと思います」(深谷氏)
【Q&Aセッション】
Q&Aセッションでは、深谷氏がイベント参加者から投げかけられた質問に回答した。
Q.異業種からの転職だと慣れていない状態で仕事に携わることになります。その際のモチベーションを保つコツはありますか。
深谷氏:Hondaに入ったばかりの頃は専門用語もわからず、何の役に立っているかわからないというような状態だったので、「本当に役に立つのかな」と不安になったこともあります。
そんな時、初心者の私の質問にも丁寧に答えていただいたりと周りの方が優しく接してくださいました。自分でも用語リストを作ったりして、少しずつ知識を蓄積。1年経った今は会議で話されている内容にかなりついていけるようになったなと実感。そんな小さなことの積み重ねがモチベーションになっています。
Q.この努力をして良かったという業務や資格取得はありますか。
深谷氏:キャリアの前半に実装周りを経験し、その後にプロジェクト推進やお客様とのコミュニケーションなどのマネジメント分野に携わりました。プロジェクト全体を経験したことが今のキャリアにつながりました。
UI/UXの分野で役立つ資格としては、人間中心設計専門家/スペシャリストの資格があります。私は人間中心設計スペシャリストを取得することで、転職の際、目を止めていただくきっかけになりました。
文=中村 仁美
※所属組織および取材内容は2025年9月時点の情報です
本田技研工業株式会社
https://www.honda.co.jp/
本田技研工業のキャリア採用情報
https://www.honda-jobs.com/
Honda R&D:Woman’s Career ページ
https://global.honda/jp/RandD/recruit/workstyle01/
Me & Honda, Career:インタビュー記事を掲載
Me and Honda, Career | Hondaの人=原動力を伝える
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