【日立ハイテク】ソフト×ハードで読み解く医療機器のプロダクト開発― 現場で鍛えられた設計のリアル
ソフトかハードか。この判断に悩んだことはないだろうか。10年以上使われ続ける製品をつくるとき、どこまでを機械で実現し、どこからをプログラムに任せるべきか。その見極めは簡単ではない。1992年から30年以上にわたって計測・診断技術の開発に携わり、現在は株式会社日立ハイテクのCTOを務める坂詰 卓氏が、血液分析装置の開発現場で培った設計の考え方を語った。ソフトかハードか。この判断に悩んだことはないだろうか。10年以上使われ続ける製品をつくるとき、どこまでを機械で実現し、どこからをプログラムに任せるべきか。その見極めは簡単ではない。1992年から30年以上にわたって計測・診断技術の開発に携わり、現在は株式会社日立ハイテクのCTOを務める坂詰 卓氏が、血液分析装置の開発現場で培った設計の考え方を語った。
ソフトかハードか。精密計測機器開発におけるハード、ソフトの機能分担の経験を語る
株式会社日立ハイテク
ヘルスケア事業統括本部
統括本部長
常務執行役員 CTO
坂詰 卓(さかづめ・たく)氏
血液検査から半導体まで——日立ハイテクが追い続ける「正しい結果」
冒頭で坂詰氏は、自身のキャリアと株式会社日立ハイテク(以下「日立ハイテク」)の事業について紹介した。
1992年に日立製作所(当時・計測器事業部)に入社し、米国ペンシルベニア大学への客員研究員派遣を経て、2003年からは電気化学方式の免疫分析装置の開発に携わった。約10年間にわたる開発プロジェクトを設計部長として完遂させ、現在はがん治療向けX線治療システムも含むヘルスケア事業全体を統括している。

日立ハイテクは2001年に半導体製造・検査装置メーカーとして再編された企業である。世界シェア約80%を誇るCD-SEM(※1)をはじめ、ドライエッチング装置(※2)、FIB-SEM(※3)、分光光度計(※4)など幅広い製品群を有する。分光光度計の技術を応用して生化学分析装置が生まれ、そこで培われた技術をベースに免疫分析装置へと展開してきた経緯がある。


病院で採血した日に結果が出る——その当たり前の体験を支えているのが、こうした自動化された分析装置である。検体を投入するだけで、試薬の搭載・攪拌・インキュベーション・検出といった複雑なプロセスが自動で進む。装置内では12秒サイクルで多数のアクチュエーターが連携し、1時間に300テストをこなす。
計測できる項目は、ナトリウム・カリウムのような濃度の高い電解質から、がんマーカーやホルモンのような極めて微量な物質まで幅広い。かつて放射性同位体を用いた検出法でしか測れなかった微量成分が、化学発光技術と免疫分析の自動化によって一般の検査室でも測定できるようになった。その感度は「25mプールに角砂糖1個を入れても検出できるレベル」に達している。



開発プロセスは医療機器として厳格に規定されており、基礎研究・製品開発・非臨床検証・臨床検証という四つのフェーズに分かれ、各フェーズゲートをクリアして初めて次の段階に進める。
「正しい結果であれば、正しい決断につながる。我々はその正しい結果を追求している」と、日立ハイテクが長年にわたって医療現場と向き合ってきた姿勢を示し、プレゼンテーションパートを締め括った。
※1 CD-SEM(Critical Dimension Scanning Electron Microscope):半導体の微細構造の寸法を測定する走査型電子顕微鏡
※2 ドライエッチング装置:半導体製造工程で、ガスを用いて基板上の微細な構造を掘り出す加工装置
※3 FIB-SEM(Focused Ion Beam - Scanning Electron Microscope):集束イオンビームと走査型電子顕微鏡を組み合わせた装置。試料の断面加工と観察を同時に行える
※4 分光光度計:光の波長ごとの強度を測定する装置。物質の濃度や光学特性の分析に用いられる
【パネルディスカッション】ソフトかハードか——血液分析装置開発から学ぶ、10年先も通用するプロダクト設計
ここからはパネルディスカッション形式で、日立ハイテクの血液分析装置開発現場で培われた設計思想と、ハードとソフトの境界で下してきたリアルな判断が語られた。
◾️スピーカー
株式会社日立ハイテク
ヘルスケア事業統括本部
統括本部長
常務執行役員 CTO
坂詰 卓(さかづめ・たく)氏
◾️モデレーター
パーソルイノベーション株式会社
TECH PLAY
ブランディングプランナー / 映像ディレクター
磯部 翔一(いそべ・しょういち)
⚫︎ ソフトとハードの機能分担はどのように決められるべきか
磯部:ソフトとハードの機能分担は、どのように決めていくのでしょうか。
坂詰氏:まずハードで、どこまでできるかをしっかり見極めることに重点を置いています。ソフトはハードの骨格が確認できるところまでをまずやる、という進め方ですね。血液分析装置であれば、最初に「1時間に300テスト」という目標を掲げます。化学反応に要する18分という時間は変えられない。この制約のもとで、反応容器を何個並べるか、検出器のサイズはどうするか、筐体の寸法に収まるかを順に決めていきます。中途半端な数字にすると後の計算が複雑になるので、キリの良い数字を最初に置くことがシステム設計全体の負担を減らすんです。
磯部:ハードの骨格が固まった後に、CPUやOSといったソフトウェア側の選定はどのように進めるのでしょうか。
坂詰氏:装置の歴史を振り返ると、アクチュエーターの数は増え、スピードは速くなり、連携動作はどんどん複雑になってきます。そうすると、一つのソフトウェアでどれだけのアクチュエーターを動かせるか、どれくらい細かい時間で制御できるかがポイントになってくる。CPUのクロックや、CPUがカバーできるI/O(※)の数といったパフォーマンスの高いものに次第に移行していくことになります。
磯部:信頼性の担保という観点では、どのようなアプローチを取っていますか。
坂詰氏:もともとの製品で信頼性の高かったところは、手をつけないのを徹底しています。フルモデルチェンジする場合は我々はもちろん、ユーザーにとっても怖い部分があるので、例えば検出器を新しくする場合は、古い装置に検出器だけを乗せ換えて1年かけて検証を行います。
これは大型旅客機「ボーイング777」の開発を参考にしたものです。「ボーイング777」向けに開発された大型エンジンをどのように試験するかという課題に対し、航空エンジンメーカーのGE社は「ボーイング747」の機体に新型エンジンを1基だけ搭載して飛行試験を行ったんですね。地上ではできない検証をその方法で実現した。
我々もそれを真似て、装置全体には手をつけず、検出器だけをごっそり入れ替えて検証する方法を取っています。アイデアはあらゆるところに転がっているので、そのアイデアをどうやって拾ってくるかが、開発していくためには大事な行為だと思います。
※I/O(Input/Output):CPUと外部デバイスやセンサーなどとの間でデータをやりとりするための入出力インターフェース
⚫︎ 現場の制約条件の中で、何を優先すべきか
磯部:現場ではさまざまな制約があると思いますが、何を優先して判断されているのでしょうか。
坂詰氏:信頼性が最優先です。その次にコスト、そしてサプライチェーンの安定性ですね。部品調達では、国や供給元によっては製品終了の決定が突然下されることもあって、ここ数年は本当に苦労しました。過去の経験で懲りたメーカーは使わない、という判断も積み重ねてきています。
CPUの選定においても同じで、世界のトレンドを掴みながら、製品が市場に出回る期間を通じて供給が続くかどうかを見極める。自動車業界の動向は特に注目しています。CPUはあくまで目的ではなく手段なので、製品を実現するために必要なものを探してくるというスタンスです。
磯部:想定外の負荷が後から出てきてしまうことも多いと思いますが、そこはどう向き合えばいいのでしょうか。
坂詰氏:想定外のものを想定するということがポイントだと思っています。経験の少ないエンジニアは、想定外を経験していないわけですよね。そこでちょっとだけ温度を上げてあげるんです。そうすると、本人が想定内だと思っていたもののボロが出てくる。やっぱりその衝撃が大事で、エンジニアが衝撃を感じないと、そこに立ち向かおうとしませんから。やっぱり一度びっくりすることはとっても大事だと思いますよ。
⚫︎ 長い製品ライフサイクルを見据えた開発に必要な視点とは何か
磯部:日立ハイテクでは昔から長いライフサイクルを見据えた開発をされていたのでしょうか。
坂詰氏:製品が複雑になってくると、お客様がいろんな工夫をして使われるようになって、ああいうこともやりたい、こういうこともやりたいという要望が積み上がってきます。次の世代がいつ来るかわからない中で期待値がどんどん高くなっていくので、溜まった課題を大きく刈り取ろうとすると、結果としてライフサイクルは長くなっていく。車のモデルチェンジと似ていて、マイナーチェンジが数世代重なった後に、シャシーの変更といった大きな変化が来るというサイクルは我々の製品でもあると思います。
磯部:10年先を見据えた開発において、特に重要な視点はどこにあるのでしょうか。
坂詰氏:枯れた技術や信頼性の高い既存の構造をいかに流用するか、という視点が大切だと思っています。日立製作所が1925年に作った電気機関車は、蒸気機関車のテンダー部分の構造をそのまま持ってきて、そこにモーターを追加しただけなんです。長距離・長時間の運用に耐えた信頼性の高い構造を活かすという発想は、現代の製品開発にも通じます。
磯部:ソフトウェアで補正をかけるという選択肢もあると思いますが、そこはどう考えていますか。
坂詰氏:私はメンバーに「補正を外して全部すっぴんで見なさい」と常に言っています。6桁測れる装置でも、ソフトで1桁分の補正をかければ5桁しか使えなくなる。ハードウェアとしての安定性を地道に追求し続けることが、製品の性能を長期にわたって守ることにつながるんです。半導体の世代交代についても、メーカーの供給終了の兆しを早めにキャッチして、代替品の確保に動く。連続した変化を着実に追い続けていくことで、製品の長寿命化が初めて可能になると思っています。
磯部:これから社会に出る若手エンジニアに向けて、長期視点でのものづくりについてメッセージをいただけますか。
坂詰氏:学校で検討されて出てきたカリキュラムを完全にこなすことは、本当に大事だと思っています。技術の基礎というのは意外と変わらないんですよ。私自身、流体力学の教科書が難しくて歯が立たなかったときに、工業高校の教科書を使って基礎から学び直したことがあります。自分がやったことのない分野は、そういう教科書を使った方がいいと今でも思っています。
一方でトレンドというのは教科書だけではわからない。人との会話や展示会で気になるワードを掴んで、それを自分で深掘りしていく。この両面をうまくバランスを取りながらやっていくことが、長期的な技術力の向上につながると思います。
【Q&Aセッション】
Q&Aセッションでは、坂詰氏がイベント参加者から投げかけられた質問に回答した。
Q. 従前からの課題・改善点のうち、どれから手を付けるか、優先順位はどのように選択していますか?
坂詰氏:価格や検証後の効果のわかりやすさなど、いろいろな要素を並べて、最終的に装置の原価にどう影響するかを考えます。ただし、既存製品で出来上がったレベルを下回ってはいけないので、信頼性を維持できるかどうかが基本です。
優先順位としては、まず信頼性、次にコスト、そして部品の調達安定性やサプライチェーンの供給能力も非常に大事ですね。
Q. 組織として経験を蓄積し成果につなげるために、ソフト・ハードの担当者がうまく連携できる場づくりについて、どのような工夫をされていますか?
坂詰氏:まず物理的に同じ部屋に入れますね。そして、ベテランのメカエンジニアと若いソフトウェアエンジニア、またはベテランのソフトウェアエンジニアと若いメカエンジニアというように、年齢構成を意識した組み合わせにしています。
ある病院では夜勤の当番を決める際に「合計経験年数6年」というルールを設けていて、これにより中堅同士や、ベテランと若手の組み合わせが生まれます。異分野・異年齢の組み合わせだと、ベテランが若手に説明する過程で気づきが生まれますし、若手の聞き上手がいるとベテランはもっと力を発揮します。
Q. 日立ハイテクの生化学分析装置でも、検体の結果分析においてAIが活用されているのでしょうか?
坂詰氏:結果を評価して異常を検知するところについては、一部やっているところがある、もしくはやろうとしているというレベルです。
研究開発は一生懸命進めていますが、実際の製品にAIが搭載されているケースは非常に少なく、AIが動的に変わるようなものは今のところありません。医療機器として許容される範囲についてはディスカッションが進んでおり、業界全体でAIの使い方についてさまざまな議論があります。
Q. ハードウェア開発は手戻りや仕様変更への対応が難しいと思いますが、ソフトウェアとの融合によって開発スピードや機能改善、顧客価値向上をどのように実現していますか?
坂詰氏:ハードウェアの手戻りは避けたいですが、ソフトウェアの手戻りもあっていいわけではありません。早く試作をして、ハードもソフトもどういう配分で進めるとベストかを、早いサイクルで見ていくことが必要です。
最近は「ソフトも試作して」とお願いしています。アジャイル開発という言い方もできるかもしれませんが、幹があって異常処理がすっきりしたソフトを目標にすべきです。センサーが増えると異常処理の組み合わせが膨大になるので、本当にそのセンサーが必要なのかを議論し、ハードウェアを根本的に直すこともあります。センサーがなければ事故は起こりませんから。
Q. 他分野からヒントを得たアイデアを出しているとのことですが、視野を広げるための取り組みや環境はありますか?
坂詰氏:日立グループ全体で技術討論会や発表会を行っています。日立ハイテクでも各技術分野で集まって議論するサークルのようなものがあり、そこに参加して知識を吸収できる体制を整えています。
私自身もそういったサークルに入っていて、技術的に優れた人のご指導を受けることで頑張ってこられました。技術だけでなく人間的にも優れた人がいるので、違う角度でコミュニケーションすることはすごく大事だと思っています。
Q. ソフトウェア・ディファインドとして、ソフトウェアがハードウェアの物理能力を定義するのが現代のトレンドと思いますが、取り組まれている事例はありますか?また、どこまでをハードウェアで固定し、どこからをソフトウェアで調整するのでしょうか?
坂詰氏:最高の性能を限界まで引き出そうとすると、物理的な制約から「ハードでやるかソフトでやるか」は自ずと一つに決まり、迷う余地はなくなると考えています。
我々はリアルタイムOSを使っていて、化学反応のプロセスを正しい時間で実行しようとしています。ハードウェアの方が制約が大きく、CPUが圧倒的に速くて人間の反応や通信が律速になる場合は、ソフトウェアドリブンになるかもしれません。
操作部に関してはWindows PCの処理能力に関わっていますが、液体を入れて混ぜて温度・時間を守って測るという部分はリアルタイムOSの世界です。リアルタイムOSの世界とそうでない世界を通信で組み合わせてやっているのが、我々の製品の難しいところです。
Q. ハードの選定によってソフトの開発条件が引っ張られますが、ハード選定の指針について、どのような思想がありますか?
坂詰氏:我々の場合はハードの方が制約は大きいですね。ソフトウェアは余裕を持ったパフォーマンスでやっていますが、実現しなかったときにメモリを追加したことはあります。
いろいろなパターンを登録しなければならなくなり、ソフトを頑張って改良してシンプルにしようとしたけど無理で、結局ハードで解決したこともありました。CPUの値段が急激に下がる時代があり、試作中に新しいCPUの方が安くなっていて乗り換えるケースもありました。
Q. 今後の医療装置開発における課題を踏まえ、どのような医療の未来を実現したいとお考えですか?
坂詰氏:私が気をつけて見ているのはウェアラブルです。今の医療は、お医者さんの前にいる瞬間や採血した時の真実で判断されますが、緊張して状態が変わることもあります。介護の世界では、家では厳しい状態なのにお医者さんの前ではシャキッとしているケースがあり、家族を傷つけています。
連続モニタリングで計測されるようになれば、家族の困りごとが数字で表現され、お医者さんがしっかり理解できるようになります。ウェアラブルには測定項目の限界や電池の問題がありますが、血糖値、体温、心拍、酸素などの医療情報をどれくらいうまく使うかは、これからの世の中で違うフェーズになってくると思います。
Q. 長い製品ライフサイクルの中で、現場で観測される性能ばらつきや経年変化に対して、ソフトで吸収すべき領域とハードを見直すべき領域をどのような基準で切り分けていますか?
坂詰氏:ソフトには補正という考え方がありますが、私は「補正を外して全部すっぴんで見なさい」と常に指導しています。ハードだけで安定した性能を極限まで追求する姿勢がないとダメだと思います。
キャリブレーションで調整できますが、そうしているということは端っこは絶対欠けてくるんです。6桁測れる装置があっても、補正で1桁分ずらしたら5桁しか使えません。ハードウェアとしての安定性は長年のテーマで、技能五輪などで培われたハードウェアの技術は、製品の長期安定性にものすごく効いています。
Q. 大学院で機械系専攻に進学予定ですが、機械系の技術者が特に活躍されている分野や業務を教えてください。
坂詰氏:機械系の人はどこでも本当に頑張っていますよ。プロジェクトを取りまとめている人も機械系が多いですね。
ソフトの人が活躍できるフィールドとしては、お客さまが今困っている問題を素早く解決する場所です。ただ、今の製品はかなり完成度が上がっていてトラブルに遭遇することがあまりないので、製造現場の調整部分や製造工程のソフト改良に投入して、製造現場の人との対話を通じて学んでもらうようにしています。
Q. 御社では理科教室事業にも注力していますが、今後多様な高度人材の獲得のために教育現場にどういった改革が求められるとお考えですか?
坂詰氏:実験・実習を通じて学ぶことは多いと思います。採用においてもご本人の実験の経験を重視しています。動画の活用も重要かつ効果的な一方、現物を見る教育もバランスよく維持することが重要だと思います。大学の教養課程の実験の教科書でも各大学、世代で比較するとおもしろいですよ。
Q. メーカーでは、ソフトウェアがハードウェアの制約に影響されやすく、設計や仕様変更に無理が生じる場面もあると思います。こうした課題に対して、現場の個人が少しずつ改善や変化を促していくためには、どのような取り組みができるのでしょうか?
坂詰氏:ハードの変更がどの程度大変で、考慮すべき範囲があるのかを理解することが大切であると思います。ハードのメンバーもソフトウェアでできる基本的な事案を理解することが大事。それぞれの特性、限界の相互理解が大事です。
Q. AI時代にソフトウェアエンジニアが求められる資質は何だとお考えでしょうか?
坂詰氏:コンピュータのハードについて理解をし、ハードの変化を予測していくこと。私は20年にわたって日経BPパソコンベストムック社の『PC自作の鉄則』を年末に購入しており、どんな進化があるかを楽しんでいます。
Q. 日立ハイテクを一言で表すと、何でしょうか。
坂詰氏:「知る力」で世界を、未来を、変えていく会社。
Q. 専門分野とは異なる領域を学ぶことで、専門に新たな視点を取り入れていると伺いましたが、具体的にはどのような分野を学ばれているのでしょうか?
坂詰氏:部材を調達した場合に、提供していただいた企業の担当者さまに「御社の新人教育用の教科書はありませんか?」という質問をしています。製品に使用する材料、力学的現象、新規の回路技術、財務、租税など問題に直面したらまず学ぶようにしています。基本的なものは工業高校の教科書から、大学生の使う高度なものまでさまざまです。
Q. 自動車の世界ではハードとソフトの分離が大きなテーマになっていますが、日立ハイテクが扱う領域ではどうなっていくのでしょうか?
坂詰氏:自動車では、駆動系と補助システム(オーディオ、空調)に分かれていると聞きました。求められる安全性が異なります。医療機器として法令の管理対象になっている部分とそれ以外の分類があります。それぞれは別々に改良サイクルに入ることもあります。
飛行機では米国の爆撃機のB52はHからJにバージョンが上がりました。機体の骨格は変わらないまま、コンピュータシステム、プログラムが変わった。そしてエンジンの設計も更新されたそうです。
Q. 試薬をメインに扱う海外企業と協業されているなか、課題となること、またその課題を解決するために取り組まれていることがあれば教えていただきたいです。
坂詰氏:歴史も文化も異なります。プロジェクトでは法律や、約束の履行に対する考え方も異なる。それぞれの国の中でも広がりがあり、分布のピークの位置が違う感じです。それぞれの国で、大事にされている文化については先入観を持たずに見てみる、実際に訪問してみるようにしています。
Q. この先より個別化医療を社会に普及していくために御社が取り組んでいること、またはこの先取り組んでいきたいことがあれば教えていただきたいです。
坂詰氏:体外診断装置では、国際的な基準とのトレーサビリティが確保できる再現性のある試験結果を提供することに主眼を置いています。個別化医療というのは、他の人に類似のケースがあったら、そこから学ぶということです。
しかし計測値がずれていたら、類似かどうかわからない。海外の衣類を購入する際、同じMでもサイズが違って困りますよね。でも60cmと24インチは単位が違っても衣類のサイズとしては同じです。
Q. 製造業はユーザーの存在が不可欠かと思いますが、ときに企業としての開発方針と、ユーザーのニーズ・要望とギャップが生じることもあるかと思います。このような場合は、ユーザーの要望を優先して方針転換すべきか、ある程度のギャップを許容すべきか、どのようにお考えでしょうか?
坂詰氏:どちらが妥協するかではないでしょうか。装置の高さを考える場合、床置きの場合では、背丈が低い方は、移動式のステップを置いて作業されていることもあります。装置をひな壇に載せているケースは見ません。一方、テーブルに載せる場合は、テーブルのサイズを変えて対応することもできる。トータルのコストで考えていくことだと思います。
Q. 坂詰さんは音楽や数学の経験が、モノづくりにどのような影響を及ぼすと考えるか、ご意見をよろしくお願いします。
坂詰氏:数学で複雑さ予見ができると、リソース配置の覚悟ができる。複雑なソフトウェアの開発は時に大きな心理的な負担を起こす。これを、数学的な解析で複雑さを予見することで心理的負担を減らせます。
音楽用の楽器もInstrumentであり、人間が使用するという大前提で、長い歴史をかけて最適化されてきました。実は楽器の歴史は、産業の歴史とも極めて関係が強いです。機械加工の発達の歴史は安価な管楽器の誕生につながりました。合金の歴史は、管楽器の製造にいち早く反映されています。
Q. コストを抑えるためにソフトウェアで処理を担わせることもできると思いますが、それでもハードウェアで機能を実装すべき場面はあるのでしょうか?
坂詰氏:かつては、スピードを要求される場合には、汎用のPCではなく専用の電子回路を設計して処理をするケースがありました。ROMにプログラムを書き込む方法やFPGAなどは、その進化系です。汎用のコンピュータが十分早くかつ安価になれば、コンピュータを使えます。ソフトもメモリの価格が下がることと、実装可能な機能の種類とは関係がある。ハードとソフトは連続する概念で捉えてみるのもおもしろいです。
文=宮口 佑香(パーソルイノベーション)
※所属組織および取材内容は2026年4月時点の情報です。
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