AIがコード生成をする時代における、エンジニアのキャリアパス・生存戦略とは?
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■プロフィール
株式会社AGEST
取締役副社長CTO 城倉 和孝氏
未経験で独立系SIerに入社、多岐にわたる企業システムの受託開発に従事。ワークフローシステムX-pointを開発し、2007年に株式会社エイトレッドを設立。同社でCTOに就任。2011年より株式会社DMM.comラボ(現 合同会社DMM.com)のCTOとしてエンジニア組織の拡大に取り組む。2020年10月より、株式会社デジタルハーツに入社、現在は株式会社AGESTの取締役副社長CTOを務める。
ChatGPTはシンギュラリティの兆しか?
AGESTは、2022年4月にデジタルハーツのエンタープライズ事業がスピンアウトして設立された第三者検証企業だ。現在、全国10カ所に拠点を設置。社員数も昨年の433人から740人まで急速に増えており、まさに急成長中である。
「先端品質テクノロジーで、すべてのDXに豊かな価値と体験を」をビジョンに掲げ、先端テクノロジーの研究や最新技術に対応したQAテックリード人材の育成を推進。次世代QAソリューションの提供を通じて、高度デジタル社会の発展への貢献を目指している。
今回登壇した城倉氏は、AGESTのCTOだけではなく、デジタルハーツホールディングスのCTOも務めている。AGESTにジョインしたのは、「QAの世界が面白いと感じたため」と城倉氏は言う。
まず城倉氏が取り上げたテーマは、「シンギュラリティは来るのか」。ここ数年、AIを活用したサービスが続々と登場している。Stable DiffusionやOpenAI DALL-Eが登場した時は、「衝撃だった」と城倉氏は語る。
その他にSNOW AIアバター、Google MusicLM、OpenAI Whisper、OpenAI Codexなどが挙げられるが、特にセンセーショナルだったのが、2022年11月に登場したChatGPTだ。AGESTのオウンドメディア「Sqripts」で、今年1月、同社のエンジニアが執筆したChatGPTに関する記事が公開されている。
ChatGPTに関する記事を書くきっかけとなったのは、12月に公開した記事をリリースされたばかりのChatGPTに校閲させ、その精度に衝撃を受けたことだった。「ChatGPTに関して賛否両論はあるが、シンギュラリティを感じるきっかけになった人も多いのでは」と城倉氏は問いかける。
実際にChatGPTを使って「ChatGPTとは何か」について聞いてみると、ChatGPTは次のように回答した。
ChatGPTは、OpenAIが開発した大型の自然処理のモデルです。GPTは『Generative Pre-trained Transfomer』の略で、言語生成タスクに特化したモデルです。ChatGPTは、自然なテキストの生成や、質問応答などのタスクに使用されます。
続いて「どんなことができますか?」と聞くと、「自然なテキストの生成、質問応答、文章や会話システム構築、様々なタスクに使用できます~」というように、説明してくれる。この会話を見れば、前の文脈を読み、それに沿って次の回答をしているのがわかる。
「ある一つの事柄について質問を続けるほどに文脈が狭まり、回答の精度が上がるという特徴があります」(城倉氏)
「以下の文章を校閲してください」と伝えることで、校閲を行うこともできる。またその回答を「絵文字をふんだんに使って校閲してください」と伝えれば、たくさんの絵文字が並んだ文章に、、また「回答を『ジョジョの奇妙な冒険』に登場するキャラクタ『ポルナレフ』の口調でお願いします」と伝えれば、そのキャラクターの特徴を掴んだ文章に校閲してくれる。
「表現に人物を利用する場合は、ネット上で多く語られ、またオリジナルの表現が多数存在するような人物を指定することが必要なようです」(城倉氏)
できることをまとめると、次のようになる。
このできることを応用することで、キーワードからメッセージを作成することもできる。例えば賃貸物件の情報を与えることで、物件紹介メッセージの生成が可能である。さらにChatGPTはAPIが使えるので、この紹介文を音声で表現することも可能だ。
もちろんコードも書ける。具体的なライブラリを指定すれば、それを使ってプログラムを書いてくれる。また、「関数の問題点やバグを指摘してください」と伝えると、「こういう改善ができます」と答え、リファクタリングまでできるのではないかというような指摘をしてくれる。
「だが、ChatGPTは嘘もつく」と、城倉氏は指摘する。例えばデジタルハーツに城倉氏がジョインした当時の社長である玉塚元一氏について聞くと、「玉塚元一さんは日本の画家・版画家・挿絵家です~」というように虚偽の情報を提示する。
「経営者の玉塚元一さんです」と記述すると、「知識がありません」と回答するが、「ロッテの玉塚社長」と続けると、ちゃんとした回答を返してくれる。
情報に嘘が混じったりはするが、間違いを指摘すると「申し訳ありません」と返してくる。「まるで人と会話をするような感じ。シンギュラリティが来ることを想起させる。」と城倉氏は語る。
AIがコードを書けるようになると、「プログラマは要らなくなるのでは?」と不安に駆られる人もいるだろう。「私もIT業界に携わっているので不安に思う」と城倉氏は語る。では、この不安をどう払拭すればよいのか。その一つの解として城倉氏が提示したのが、「人間はわからないことを恐れる」という習性があることだ。
昔は雷や干ばつなど自然現象を恐れていた。それは科学的に解明されていなかったからだ。だが、科学的に解明されたことで、いまやそのような自然現象を恐れる人はいない。COVID-19もそうだ。ワクチンや薬ができたことで、最近では恐れる人は減ってきた。つまり、正しくファクトを知ることを心がけることが大事なのである。
AIは所詮コンピュータ。人間のことは何も分かっていない
これはAIにも当てはまる。AIは「KEYENCE 現場で役立つIoT用語辞典」によると、推論や判断、最適化提案、課題定義や解決、学習など、人間の知的能力を模倣する技術を意味する。「人間の知能そのものを持つ機械を目指す研究」と「人間が知的能力を使ってすることを機械にさせようとする研究」の2種類があり、実際行われている研究のほとんどが後者であると書かれている。
では、どのような仕組みなのか。その例として城倉氏が挙げたのが産業用機械学習サービス「Amazon Monitron」と、深層学習モデルでChatGPTのベースとなっている「Transformer」だ。MonitronもTransformerもインプット→処理→アウトプットという流れになっている。ルールベースとの違いは「処理の部分」。AIは予測推論を行い、検知、分類、検査/探索、生成というタスクを実行する。また、学習済みモデルを使うこともAIの特徴である。
なぜ最近、AIサービスがこんなに登場しているのか。それを読み解いていくために、城倉氏が取り上げたのが言語系AIである。言語系AIではRNN→LSTM→Seq2Seqと進化してきた。そして2017年にGoogleから「Transformer」というディープラーニングモデルが登場する。Transformerが革新と言われるのは、非常に長い文章を処理できるようになったためだ。
これにより大規模言語モデルが進化。OpenAIはGPT-1から始まり、最新モデルはこれから出てくるGPT-4である。一方Googleは、BERTから派生系を経て、LaMDAが発表されている。どう進化しているのか。GPT-2では40GBの文章を学習していたが、GTP-3になると45TB。さらにGTP-4になるとその約10倍の文章を学習していると言われており、それに伴い「精度がどんどん上がっている」というわけだ。
昨今、話題のChatGPTはGTP-3.5、MicrosoftのBingはGPT-4、GoogleのBardはLaMDAを使っている。DALL-E 2やStable Diffusion、Music LM、Codexなどはテキスト+派生系のサービスである。つまりこのようなサービスが登場している背景には、学習モデルの進化があるということだ。
言語モデルの精度が上がっているとはいえ、GPTが人の言葉を理解しているわけではない。言語モデルは、人間が話したり書いたりする言葉を単語の出現確率でモデル化したもの。会話しているように見えるが、主にネットで収集した文を繋げているだけ。だから収集した時期以降の情報は含まれない。
「ChatGPTはすごい。シンギュラリティを予感させると言われるが、AIは人間のことなんて何も分かっていないのです」(城倉氏)
これはAIの分類からもわかる。以下図のように、今実現しているのは弱い特化型のAIである。その弱いAIを構成している強化学習や機械学習、深層学習、ルールベースなどを組み合わせることで、人間のようにさまざまな問題を解決できるAIが生まれてくるのではないかと考えられる。
「ただし本当に人間のような自意識を持つ強いAIは、ドラえもんをつくるような話なので、わかりません」(城倉氏)
コンピュータは手順の決まった作業を得意とするが、創造的な仕事は苦手である。つまり人間は、クリエイティブな仕事にシフトしていく必要があるということ。AIが仕事を奪うのではなく、AIが人間の仕事を変えるのである。
当然、仕事が変わるので、求められるスキルセットも変わっていく。革新技術ができること、基本原理などを知ること、技術との共栄(どう使うか)を考えることが必要になる。そして最後に変化を感じ取ることである。
「今後はシンギュラリティが来るかもしれないということを、念頭に置くことが必要でしょう」(城倉氏)
AI時代におけるエンジニアのキャリアパスの考え方
ではこれらを踏まえて、エンジニアはどうキャリアパスを考えていけばよいのか。例えばアプリケーションエンジニアであれば、次のような図の選択肢があるという。
「コードを書いていたい」というエンジニアには「AIを開発」「AIを使ってソフトウェアを開発」という2つの道がある。前者であれば、機械学習エンジニアやデータサイエンティスト、後者であればアプリケーションエンジニアやプロンプトエンジニアというパスである。
プロンプトエンジニアとは、コンテンツ生成AIに命令する役割で、実際にコンテンツを生成したり、生成の質を改善したりする職種で、目当てのコンテンツをAIに生成させるための呪文を作成する仕事である。
具体的に呪文について知りたい人には、メディアプラットフォーム「note」の公式YouTubeチャンネルがお勧めされた。ここではnote CXOの深津貴之氏が深津式プロンプト・システムを公開している。
コードを書いていたいというキャリアを選んだとしても、AIと共に働くことになり、エンジニアに求められるのは次の図のようなことだ。ではこれまで培ってきた技術が不要になるかというと、「そうではない」と城倉氏は言い切る。AIがアウトプットしたものが本当に正しいかどうか、判断するためには知識がいるからだ。
一方、コードを書くこと以外でキャリアを磨いていきたいと思うならば、チームやQCDをリードするエンジニアリングマネージャやQAエンジニア、データを活用するデータアナリスト、ビジネスをリードするプロダクトマネージャの道がある。
また、テクノロジー、エンジニアリング、ビジネスという軸でキャリアパスを考える方法もある。テクノロジーならテックリードを経てCTOに、エンジニアリングならエンジニアリングマネージャやスクラムマスターを経て、VPoEに、ビジネスならプロダクトマネージャやプロダクトオーナーを経てVPoPへの道がある。
このようにエンジニアのキャリアパスは一つではない。
イノベーションは突然やってくる。新しいパラダイムに対応するためにはどうするか。「要素技術に分解することで、対応の道筋を立てられる」と城倉氏は語る。
今後はメタバースやスマートシティのテストが必要になるが、メタバースであればVR/AR、AI、ブロックチェーンWebバックエンド、Webフロントエンド、マイクロサービス、クラウドなどの要素技術に分解できる。このように分解した上で、対応していくのである。
例えばAGESTでも新しいパラダイムに対応するため、シフトレフトモデルによる品質保証の探求と推進を行っている。また同社CTSOの髙橋寿一氏を中心に、産学連携によるAIの品質保証の研究も推進している。
「人とAIはパートナーになり働く。AIと人は敵対するものではない。AIで何ができるのかを理解しながら、一緒に働いていくことになる」(城倉氏)
そうした時代を生き抜くためには、次の3点が重要になる。
- 学び続け、物事の真相を知ること
- 最適な手段の模索と選択をすること
- アンテナを高く張り、変化を感じること
このようにまとめ、城倉氏はセッションを終えた。
多くの質問が投げかけられたQ&Aタイム
セッション後は、Q&Aタイムも設けられた。たくさんの質問が寄せられたので、抜粋して紹介する。
Q.城倉さんが考えるクリエイティブな仕事とはどのような仕事か?
単純作業にしないこと。言われたとおりに作業するのではなく、目的を達成するために作業をする。それがクリエイティブに働くことだと思います。解決しなければならない課題はどうなのか。そういうことが求められていくのではないでしょうか。
Q.新しい技術を習得する上で注意すべきこと、AIで人間が何をやるべきか?
AIができることをしっかり把握して、できることはAIに任せる。例えばコードはAIに書かせて、その間違いを人間が直す。またリファクタリングのヒントをもらうという使い方もできます。いかに効率化できるかを考えることが大事だと思います。AIが正しいかどうかを判断するためには、技術のキャッチアップが必要です。幅広い仕事をするためにも、なるべくフルスタックでT字型人材になる努力をしていく必要があるでしょう。
Q.マネジメントよりも現場でプレイヤーとしてスキルの研鑽に励み、仕事をこなすことに喜びを感じている。だが、プレイヤー的な仕事はAIに代替され、マネージャーを目指すべきなのか?
私はそうは思いません。AIがエンジニアの領域に入っている反面、AIを使いこなしたり、デジタル化を進めていくためには、まだまだエンジニアが必要だと言われています。技術が好きであれば、AIというツールをどう使いこなすか。そのための技術を身につけていく必要があります。
そしてもう一つが変化へのアンテナを高く張っておくこと。時代の変化を見極めながら、どの技術を覚えるかを研鑽していくことが大事です。年齢を重ねてもマネージャーの道だけではなく、経験を生かし、テックリードとして背中を見せて、後進育成をしていく道もあります。技術が好きなら、技術の道を突っ走ってください。
株式会社AGEST
https://agest.co.jp/
※2022年4月1日 株式会社デジタルハーツからスピンアウト