キャリアチェンジに悩むエンジニアのための「キャリアサンプル」を紹介 ──エキスパートが語るQAを選んだ理由とは?
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好き・楽しい・興味を持てる──キャリアの軸を決めることが大事
株式会社AGEST
取締役副社長CTO 城倉 和孝氏
最初に登壇したのは、AGESTの取締役副社長CTOを務める城倉和孝氏だ。ソフトウェアの第三者検証事業を手がけるAGESTは、デジタルハーツのエンタープライズ事業がスピンアウトするかたちで、2022年4月に設立。JSTQB認定テスト技術者360名も含め、テスト人材を8000名以上抱え、年間手がけるテストは2500件以上、これまで1万6000件以上のテストに取り組んできた実績を誇る。
まず、城倉氏は「10年後、何をしていたらハッピーですか?」と問いかけ、「プライベートと同じように仕事においても、考えてみることが大事である」と、語り出した。
城倉氏は開発エンジニアの標準的なキャリアパスを挙げ、一般的にはマネージャー層に昇進しないと待遇がよくならないと思われがちだが、「視点を変えてキャリアを見つめることが大切」だと強調。そして「自分が楽しいか否かを考えてみよう」と、続けた。
例えば、技術を極めるキャリア軸であれば城倉氏のようにCTOを目指し、エンジニアのマネジメント業務にやりがいを感じればVPoE、ビジネスを極めるキャリア軸であればVPoPというように、多様なキャリアパスを選択することができる。
城倉氏は、エンジニアとしてキャリアをスタートさせた当時からCTOとなった現在までを振り返り、次のようにアドバイスを送った。
「私自身は他にやる人がいないという状況から、マネジメント業務を行うようになりました。ただ実際にやってみると、エンジニアとして優秀な人はマネジメントスキルも高い人が多く、ハマる人も多いという印象を持ちました。まずはチャレンジしてみることが大事だと思います」(城倉氏)
同様に、QAエンジニアのキャリアパスも1つではないと城倉氏は言う。そして、各ポジションで直接得られるスキルやキャリアを青枠、副次的に得られるスキルやキャリアを赤枠で示し、次のように述べた。
「各領域のスキルを極める必要はありますが、自然とプラスアルファの経験も得られます。とにかくいろいろ経験し、さまざまな視点を得ることが大事です。ただ取り組む際には、何をしているのか、意識することが重要です」
城倉氏は自身のキャリアパスを、所属組織での仕事、キャリア、経験という3軸で整理したスライドを紹介し、「いろいろな経験を積み、フルスタックエンジニアになる。そこから自分の得意領域、専門性を1つ出すことが大事です」と、新卒のメンバーにもよく話すというメッセージを語った。
城倉氏は「キャリアを考えること、変えることは大変である」と前置きしながらも、「仕事のやりがい」「働く環境」「個人の成長」「待遇・条件」という指標とすべき4つの軸を掲げ、セッションを締めた。
「どの軸を重要視するか。それぞれの軸のバランスに着目することも重要です。ただ自分としては興味を持てる、好きであることが一番の要素だと思っています」(城倉氏)
【パネルディスカッション】エキスパートがQAというキャリアを選んだ理由
株式会社マネーフォワード
マネーフォワードビジネスカンパニー
経理財務プロダクト本部 個人事業主開発部
QAグループ リーダー 小林 羊哉氏
株式会社Rebase
プロダクトグループ PM 鶴岡 洋子氏
続いては城倉氏が進行役となり、開発からQAにキャリアチェンジしたエンジニア3名が加わり、QAへのキャリアチェンジについて、ディスカッションを繰り広げた。
マネーフォワードからは、小売業界で開発エンジニアとしてのキャリアをスタートさせた小林羊哉氏が参加した。2019年、マネーフォワードへの転職を機にQAエンジニアにキャリアチェンジ。現在は「マネーフォワード クラウド確定申告」の開発チームで、QAリードを務める。
Rebaseからは、鶴岡洋子氏が参加。Rebaseが7社目だという鶴岡氏は、仕事・業界・プロダクトにおいてさまざまな経験を重ねてきた。QAエンジニアとしてのキャリアを10年積み、その後はスクラムマスター、PdMやPjMといったポジションを経験。ハードウェアのPdM経験もある。PMとともにスクラムマスターやQAエンジニアの役割も担っている。
AGESTからはSEとしてWebアプリの開発や運営・保守業務に約9年間携わった後、2023年の1月にQAエンジニアとしてジョインした坂本竜一氏が参加した。
──開発エンジニア時代に一番苦労したことは?
坂本:レガシーな環境であったため、一カ所を変えると多くの箇所に影響が出てしまう、厳しい開発環境であったことです。データベースに大量のデータを入れてリリースする業務では、2時間で終わる作業がうまく進まず、夜明けまでかかったこともありました。
小林:私も少し手を加えるだけで壊れるような、レガシーなシステムを扱うプロジェクトに携わっていたことです。すぐに壊れるので怖くて手を出せない心境になっていきました。
保守運用業務を担当していた際には、クライアントが小売業者だったことと、クライアント先のサーバールームで業務を行う必要があったため、リリース作業などは店舗営業終了後の夜中ということもありました。時間的な制約からパニックになるといった経験もしましたね。
鶴岡:保育士の業務効率化を実現するプロダクトです。保育士の仕事内容をきちんと把握していなかったので、本を読んだり独自で勉強していましたが、数カ月続けているうちに「これは無理だ」と考えるようになりました。
そこで保育園で実際に保育士がどのような仕事をどんな環境で行っているか、体験させてもらうことにしました。保育士さんはPCやテクノロジーにあまり詳しくないといった、ユーザー理解も深めることができました。
──QAエンジニアというキャリアを選択した理由は?
坂本:転職活動をしていた際に、転職エージェントからQAという職種を教えてもらいました。まさに前職で私が苦労していた、開発者を助けるようなポジションだと知り、興味を持ちました。
いくつかの候補企業の中からAGESTに決めたのは、「開発者とQAスキル両方を持っている人材は最強だよ」と、面接官が熱く、そして笑顔で語ってくれたからです。
小林:以前の私はT型キャリアの1つの強い領域がない状態で、どこに強みを見い出せばいいのか迷っていました。マネーフォワードでは最初サーバーサイドエンジニアの求人に応募したのですが、面接の際にテストが好きだという話をしたところ「QAエンジニアも募集しているので、そちらの選考を受けてみないか」と提案されたのです。
それが、QAエンジニアという仕事を知ったきっかけです。面接では、当時の1人目QAエンジニアとテスト観点を考えるワークがあったのですが、それが楽しくて。「こういう面白いことが毎日できる仕事だけど、どうかな?」と言われたのがキャリアチェンジの決め手になりました。
鶴岡:私はQAがキャリアスタートなので、QAエンジニアの魅力を紹介したいと思います。不具合が実装されない状態をなくすために、仕様もデザインもレビューを行い、開発エンジニアが安心して開発に臨める環境を整備するようにしています。
その後PdMという職種を知り、自分でも詳しく調べていくと、開発チームと一緒になって顧客に価値を提供するQAエンジニアとそんなに変わらないと感じました。もともとテスト設計などが苦手だと思っていたこともあり、そこからプロダクトを通じて価値を提供することに集中できるPdMにキャリアチェンジしていきました。
現在はPMとの肩書きですが、QAエンジニアが不在なこともあり、私が兼務しています。スクラムマスターも担当しているので、メンバーと話す際には状況に応じて使い分けており、QAエンジニアを卒業した感覚はあまりありません。
──QAエンジニアをやっていて、開発の経験が活かせている場面は?
小林:QAチームはエンジニアリング経験のない人が一定数いて、UIを作り上げた状態でないとテストを始められない、とQA・開発双方で思い込みがちです。一方で、私はプログラミングの経験があるので、実装途中でもテスト着手可能かどうかの判断もできます。また、E2E自動テスト導入の際にコーディングできる人材がいると選択肢が増えますよね。実際、私たちのE2E自動テストはGUIではなくコードベースのツールを利用していて、メンバー全員がメンテナンスに携わっています。
開発者に聞きたいことがある場合も、エンジニアリングの経験や知識がないからと躊躇してしまうメンバーもいますが、私がハブのような存在として仲介することができます。
坂本:AGESTでは「QA for Development」という、開発領域での品質保証を実現するプロダクトを開発しています。開発者の気持ちを考えながら開発しているサービスのため、開発経験が活きていると感じています。
──今のポジションにキャリアチェンジしてよかったこと、今後のビジョンは?
鶴岡:世の中に価値を提供できていることを早く知れる点です。ユーザーインタビューの実施など、利用者とのコミュニケーションはもちろん、フィードバックをもらえること、開発者に共有して喜ばれること、どちらも嬉しいと感じています。
坂本:一番よかったことは、品質の知識を得られている点、言語化できている点です。今後はさらに、人に教えることもできるようになるでしょう。開発者時代には考えていませんでしたが、どのように品質をより良くしていけば良いのかを考えられるようになりました。
小林:学びが尽きない分野であることが楽しいと思っています。例えば、JSTQBのシラバス(学習要項)や、ソフトウェアテストコミュニティの存在などです。扱っている技術は更新されると裾野も広がっていくため、キャッチアップの必要があります。
QAエンジニアが力を発揮すれば、エンジニアが楽しく仕事を全うできるような世界を実現できると思いますし、実現していきたいと考えています。
【パネルトーク】AGEST現役QAエンジニアがキャリアチェンジについて語る
続いてのパネルトークでは、AGESTの坂本氏と田口裕樹氏、そしてモデレーター城倉氏が、QAエンジニアにキャリアチェンジした背景や現在の状況などを語り合った。
城倉:これまでPMポジションを多く経験してきた田口さんは、どういった経緯でQAエンジニアになろうと思ったのでしょう。
田口:PMは責任の大きなポジションです。一方で、問題が発生したときに自分一人の力では解決が難しく、外部要因が大きいといった課題もありました。そのため、PMとしてキャリアを重ねていくことに不安がありました。
PMの知識を活かしながら、品質を高めるという観点で業務に注力していけば、プロジェクトを成功に導くことができるのではないか。QAエンジニアとして新たにチャレンジしたいと考えるようになりました。
城倉:QA業界の情報や知識は、どのように学んでいるのでしょうか。
坂本:QAに関する基礎知識を身につけるところから取り組みました。当初は単語レベルでわからないことも多い状況でしたが、知識がついていくにつれ、打ち合わせでの会話の内容も理解できるようになっていきました。
JSTQBを取得することも目標に掲げました。資格取得に向けての勉強では、ソフトウェア品質領域における、トップレベルエンジニアの輩出を目的とした「AGEST Academy」を利用しました。
田口:私も同じくAGEST Academyで学び基礎知識を身につけ、JSTQB試験にチャレンジして無事に合格しました。中には知っている用語もありましたが、自分の理解とは異なっていたこともあったので、学び直しは大いに意味があったと考えています。
AGESTでは入社後1カ月間、オンボーディング研修を受けることができます。テストの設計から実施まで、じっくりと学び直しの期間を設けているため効果が大きいと感じています。
城倉:QAにキャリアチェンジするエンジニアはベテランの方も多く、改めて学び直すのは新鮮で楽しいという話はよく聞きます。
田口:勉強自体は楽しかったですが、テスト項目の作成は苦しく大変でした。開発経験があるからこそ、作ったテスト項目が本当に正しいのか、数やスケジュールは適正か、これまでとは異なる感覚で取り組む必要があったからです。
城倉:実際に入社してみて感じたこと、よかったことはどのあたりでしょう。
坂本:自分の考えを自由に反映できること。つまり、裁量があることです。今後もQAの知識も身に付け、最強のエンジニアに成長すべく、がんばりたいと思います。
田口:PM時代も品質へのこだわりはありましたが、納期を優先していたように思います。おそらくそのようなPMは多いと思いますので、今の私の立場であればフォローできることもたくさんあると考えています。その結果、プロジェクトを成功に導いていきたいですね。
【Q&A】参加者からの質問に登壇者が回答
セッション後はイベントを聴講した参加者からの質問に登壇者が回答した。
Q.スキル不足だと思うので転職に踏み出せない。スキルを伸ばしてからすべきか?
小林:スキルを伸ばしてからでは永遠に転職できないと思います。今できることで自分の強みは何か、アピールできるポイントをひねり出した方が良いと思います。そうすることでQAエンジニアに限らず、自分に合った職種が見つかるかもしれません。
鶴岡:スキルが足りていないことを自覚しているのはいいことだと思います。自分が何が好きなのかを考え、その領域に飛び込んでみる。その上で足りないと思ったスキルを身につけるのが良いのではないでしょうか。まずは、行動だと思います。
Q.QAエンジニアの発案が開発者から同意を得られない場合、どう対応すればいい?
鶴岡:ディスカッションレベルで意見がズレることはありますが、お互いにユーザー目線で考えているので、同意を得られなかったケースはこれまで一度もありません。もしあると仮定した場合、データを見せて納得してもらう。あるいはあくまで仮説なので、失敗覚悟でトライしてみるのが良いのではないでしょうか。
Q.QAエンジニアにキャリアチェンジして感じた、開発エンジニアとは違う楽しさは?
坂本:QAのことを私が知らなったこともあり、今やっていることはすべて新鮮で楽しいです。例えば、コードメトリクスを用いた品質担保といった考え方などですね。
小林:他のエンジニアに気を配り、プロダクト横断の思考ができる点です。開発エンジニアのときは、自分の担当機能や担当プロダクトにどうしても集中しがちだったからです。
田口:PM時代は予算、納期、スケジュールに追われてばかりでしたが、より良いものづくりの根幹である品質を考えながら、仕事ができていることです。結果としてPMから評価をもらえるのも、これからの楽しみのひとつです。
Q.QAエンジニアを目指す人へのアドバイスを聞きたい
小林:QAエンジニアの共通言語であるJSTQBを学ぶことは、マストだと思います。弊社も最低限、FL(Foundation Level )を取得することを推奨しています。開発経験がない方は、情報処理技術者試験などを通してエンジニアリングの基礎を学ぶという手もあると思います。
鶴岡:どこのポジションにもいえることになってしまいますが、会社のビジョンやそのプロダクトを好きになれるといいと思います。プロダクトに対する想いが強まるので活動の質が良くなると思います。
Q.QAの役割や価値とは?
城倉:そもそもQAは、ネットベンチャーのテックリードが、コードレビューなどの業務を自動化、仕組み化していったことに起因します。用意されたテストケースを実行するだけなら経験が浅い人でもできますが、不確実性な近年だからこそ、開発エンジニアの方もテストスキルを身につけてもらえればと思います。