ディーカレットが挑む「デジタル通貨プラットフォーム」は、日本の金融システムにどんな変革をもたらすのか
日本版デジタル通貨の実現を目指し、国内トップ企業が続々と出資
ブロックチェーン技術の成熟を背景に、グローバルで新たな取り組みが始まっている。国レベルでは、デジタル人民元など中央銀行デジタル通貨(CBDC)の検討が始まり、民間レベルでもFacebookの暗号資産などステーブルコインへの注目度も高まっている。
日本でもいくつかの企業が、まだPoC(概念実証)レベルとはいえ、デジタル通貨への取り組みを今後の重要なビジネス課題に挙げるようになった。こうした動きを先取りし、デジタル通貨を軸にしたエンタープライズ向け金融プラットフォームの構築を急ぐ企業、それがディーカレットだ。
ディーカレットは、デジタル通貨の取引・決済を担う金融サービスを主な事業内容として設立された。IIJのほか、発足時点ではメガバンク2行、証券トップの2企業、生損保大手各社、さらに鉄道、家電、広告、不動産、商社、電力などの主要業界のリーダー企業17社が出資者に名を連ねる。
日本におけるデジタル通貨流通のプラットフォーム構築を目指し、将来的にはそのグローバル展開も構想する、日本を代表する“ナショナルチーム”といっても差し支えない構成だ。代表取締役社長には、IIJ専務執行役員を務めた時田一広氏が就任した。
IIJは以前から、FX運用企業、ネット銀行、証券会社向けに高速通貨取引システムを提供するなど、FinTech分野でもその技術力は高く評価されている。そうした知見に加え、これまでのネットワーク、クラウド、セキュリティ等のインターネット関連技術をベースに、まずは暗号資産4種類、7銘柄の取引が可能な販売所を開始している。
2021年3月には国内の暗号資産交換業者として初めての提供となるマイニングマシンの販売・運用サービスをローンチした。こうした暗号資産事業と両軸を成すのが、デジタル通貨事業だ。
同社のデジタル通貨事業とは、「暗号資産をはじめ、銀行が独自に発行するデジタル通貨など多数のデジタル通貨を利用して、24時間365日リアルタイムでの取引・交換、ECサイトや実店舗での決済、電子マネー・モバイル決済サービスへのチャージを可能」にするもの(2018年1月25日、IIJプレスリリースより)を示す。
デジタル通貨をインターネット上で安全に保管・管理することにより、現金で起こりうる紛失や盗難といったリスクを排除した、新たなデジタル通貨プラットフォームの構築を目指しているのだ。
「デジタル化社会に即した新しいイノベーションは、必ず、何かしら人が価値と認める領域がデジタル化されることで発生しています。ブロックチェーン技術を活用したビットコインを初めとする暗号資産もその一つです。これはインターネット上にある数字の羅列が価値をもつという、新しい世界を生み出しました。一方、事業会社や銀行が発行する電子マネーも、電車や飛行機に乗ったり、商品を購入する際の決済手段として普及しつつあります」
そう現状を概観するのは、ディーカレットの清水健一氏だ。
株式会社ディーカレット
デジタル通貨事業グループヘッド 清水健一
デジタル技術に裏打ちされたデジタル通貨は、現金のハンドリングコスト低減や取引の効率化を生み出すだけでなく、データの有効活用を通して、商取引にイノベーションを起こす。それが日本経済や企業活動、市民生活の質の向上につながるということは、誰もが予感すること。デジタル通貨は、コロナ禍における非接触商取引でも、その有用性が再認識されつつある。
しかし現状のデジタル通貨は、企業間の売買や資金移動といったエンタープライズの決済手段としては普及していない。
ブロックチェーンをベースにした分散型アプリケーションを開発
それはこれまでの法定通貨に比べ、デジタル通貨が価値の安定・安全性、高い可用性、相互運用性や流通性などの点で多くの課題があるからだ。逆にいえば、インフラとして安定的であり、24時間365日いつでもトランザクションが可能であり、そして多様な企業、経済圏間での相互運用性が可能になれば、一気に普及する可能性がある。
企業が決済手段としてデジタル通貨を安全・安心に使えるプラットフォームを構築するためにまず必要となるのがテクノロジーだ。
「プラットフォームのベースにあるのは、非中央集権的でありながら、分散台帳を持ち寄ることでデータの真正性を保つブロックチェーンの技術です。さらに私たちは、ブロックチェーンをベースに構築される非中央集権型の分散型アプリケーション(DApps)にも注目しています。
DAppsの一つである、分散型金融(DeFi)によってデジタル通貨を安全に管理できることはすでに実証されています。さらに新しいプロトコルやプロダクトを開発することで、ブロックチェーン技術をエンタープライズの決済領域に拡張することが私たちの最初のミッションになります」と、清水氏はいう。
ブロックチェーンが一番下にあるベースレイヤーだとすれば、その上にあるのがDAppsのレイヤー。DAppsの一種として、DeFi(分散型金融)やDEX(分散型取引所)を実現するビジネスアプリケーションが走る。
このプログラムはオープンソースの流儀に則って開発されているが、重要なのはアプリケーションのUIというよりは、そのプロトコル。これは、ERC(Ethereum Request For Comments)などの標準的な技術仕様に基づいて開発されるもので、新しいプロトコルが開発者コミュニティによって認証されれば、ブロックチェーンの仕組み上、容易に改ざんすることはできない。
アプリケーションは無償で使われるが、開発者はデプロイすることによってインセンティブを得る仕組みがあり、いま世界中のブロックチェーンエンジニアがこぞってその開発に乗り出している。
デジタル通貨プラットフォームの開発に求められる技術・スキルとは
ディーカレットも、そのエンジニアリングの一翼を担いながら、日本発のデジタル通貨プラットフォームを目指すことになる。さて、ここで問題なのは、誰がどういうスキルでそれを開発するかということだ。
ブロックチェーン技術には現在、数多くのタイプがある。ビットコインやイーサリアムなどのように、コンセンサスノードとして参加するのに許可が不要なパーミッションレス型のブロックチェーンもあれば、コンセンサスノードの運用に許可が必要なパーミッション型のブロックチェーンもあり、後者は一般にエンタープライズ向けのブロックチェーンと考えられている。
ディーカレットが開発・運用を目指すプラットフォームも、エンタープライズ向けブロックチェーンに準拠したものになる。その代表格が、Hyperledger Fabric やHyperledger BESUなどのHyperledgerプロジェクト、また、分散型台帳基盤のCordaやEthereumを拡張したGoQuorumなどのアプリケーションだ。
「これらは一般的なプログラミング言語、JavaやGoで書けるものです。それ以外の特殊な言語で書かれているものもありますが、JavaScriptやPythonを知っていればコーディングはそれほど難しくはないし、誰もが開発にコントリビュートできるものです。
もちろん、鍵の管理、トランザクションの署名など、一般的なSSL/TSLや暗号技術の知見は必要ですが、これとてそう特殊なものではない。ブロックチェーンは難しいと思われていますが、基本的には従来の技術の組合せにすぎないのです」と、清水氏は強調する。
ブロックチェーン技術に精通したエンジニアが内外の市場に潤沢にいるとは思えない。しかし、「従来技術の組合せ」でそれが成り立っていることを知れば、その間口は広がる。
「これまでのFinTech技術に係わってきた人はもちろん、金融システムの経験はないが、他の領域で業務システムに係わってきた人で、次世代のデジタル通貨に関心のある人」と、エンジニアに求める金融の経験度や要件はさほど高いわけではないようだ。
とはいえ、「ブロックチェーン技術の情報量はまだまだ少ない。開発者のコミュニティも比較的小さい。何かあった場合には、OSSのソースコードを読んで理解するなど、自分で解決しなければならない。そこが難しいポイント」と指摘する。
ちなみにディーカレット内には、世界のブロックチェーン技術の動向をリサーチするR&Dチームがある。ここは、Hyperledger BESUやCordaを実質的に開発してきた米国のスタートアップとも、日常的に情報のやりとりをしている。
「ブロックチェーンアプリケーションのコアを作っているエンジニアとディスカッションしながら開発できる」(清水氏)ことは、ディーカレットの強みの一つでもある。
さまざまな事業者を巻き込み、技術開発に本気で取り組む
次世代のデジタル通貨プラットフォームには、「24時間365日いつでもトランザクションが可能」という運用上のクリティカルな課題もある。
「マルチクラウドでシステム基盤の可用性と効率性を担保しつつ、多様なユーザーが安定して、柔軟に使えることが第一の要件です。ブロックチェーン技術だけではなく、金融サービスに必要なビジネスロジックをコンポーネント化するためにコンテナベースになります。コンテナをマイクロサービスで開発するとなると、オーケストレーションが重要なので、そこではKubernetesなどの技術が必要になります。コンテナ化したアプリケーションのデプロイ、スケーリングを柔軟に行う必要があるからです。さらに、サイトの信頼性を担保するためにはSRE視点でのエンジニアリングも不可欠になるでしょう」と、清水氏。
しかし、こうした要素技術は、いまどきの大規模Webサービスでは、いわば常識となっているものばかりだ。その意味でWebサービスの構築・運用に係わってきたエンジニアなら、ディーカレットの求人にエントリーするチャンスがあると言えるのだ。
ディーカレットが知名度はともあれ、単なるスタートアップではないことは、冒頭に記した通りだ。IIJという日本のインターネット技術を一貫してリードしてきた企業がバックにあり、日本を代表する有数の企業が株主として出資し、その出資総額は100億円以上に及ぶ。その企業としての堅固な立ち位置は、キャリアプランの次を模索するエンジニアが実力を発揮する舞台として、きわめて魅力的だ。
もちろん、次世代デジタル通貨プラットフォームは、ディーカレット1社だけで構築できるものではない。同社が音頭を取って、2020年6月に多様な業種・企業が参画する「デジタル通貨勉強会」が生まれ、現在は「デジタル通貨フォーラム」に発展している。
銀行、小売、運輸、情報通信など広範な分野にわたる50社以上の企業と有識者、オブザーバーとして関係省庁が参画する、民間主導型のコンソーシアムだ。このように「いろんな人を巻き込みながら事業を構想している」点も、ディーカレットの優位性といえる。
ちなみに、現在、同フォーラムは小売・流通、セキュリティトークン、電力取引、電子マネー、地域通貨、クレジットカード、ウォレットセキュリティという7つの分科会に分かれ、PoC(概念実証)に向けた活動を開始している。
例えば、地域限定商品券として利用されている地域通貨。現在は紙のクーポンを発行する地域が多いが、これをプログラマブルなデジタル通貨に変えれば、ブロックチェーン上のプロトコルでその流通をコントロールすることができるようになり、利便性は向上する。
現在、種類が多すぎて混乱気味の「○○Pay」型の電子マネーにしても、事業者のユーザー囲い込みという制約を超えて、すべてデジタル通貨に交換可能というスキームを開発すれば、現在の紙幣と同じような相互運用性や流通性が開かれることになり、その価値はさらに高まる——そんな議論が分科会では行われているようだ。
「私たちの事業は、エンタープライズ領域にブロックチェーンを使うと何が可能になるかという実験でもありますが、それを単なるPoCで終わりにするつもりはありません。日本の金融システム全体を視野に入れながら、そこにデジタル通貨を取り込むプラットフォームの技術開発に本気で取り組んでいるのは、当社だけだと自負しています。
私たちがいま取り組もうとしているのは、近代以降、人類が作り上げてきた現金ベースの金融システムを、デジタルの時代に沿う形に大胆に変えることで、世の中に新しい付加価値を提供するという大事業です。それを生み出すエンジンになるという自負が私たちにはありますし、一生の仕事にしてもいい事業と考えています。その一角を私たちと一緒に担ってほしい」
幅広い領域のエンジニアに、日本の金融システムに変革を起こすチャンスがある。清水氏は幅広いエンジニア層にそう呼びかけている。
株式会社ディーカレット
https://www.decurret.com/
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