ニフティのオンプレ世代とクラウド世代が語る「クラウド開発の内製化と密なチームワーク」──NIFTY TechDay#1レポート(後編)
クラウド活用で内製化と密なチームワークを推進
今回はTechDayのパネルディスカッション同様、オンプレ世代とクラウドネイティブ世代の5人にご登場いただき、ニフティにおけるクラウド開発の舞台裏やセッションの振り返り、社内の交流やカルチャーなどについて伺った。<オンプレ世代>
小松 勇貴氏
会員システムグループ グループ長(部長職)
2007年にニフティ子会社のコマースリンクに入社。業界はEC、アドテク、O2O、SaaS、技術は自然言語処理、大規模検索、負荷対策、開発、インフラなどを経験。2018年よりニフティネクサス、ニフティライフスタイル出向。2020年より現職。
芦川 亮氏
基幹システムグループ シニアエンジニア(課長職)
2004年に新卒入社。入社前企画職希望だったが、技術がわからないと何もできないと思いエンジニアへ志望。以降、「技術おもしろーい」が続いて、2017年シニアエンジニアへ。現在もマネジメントの傍らチームプロダクトの実装・レビューに関わる。
小松 初氏
基幹システムグループ エンジニア
2019年に新卒入社。初めて触ったAWSサービスは、Elastic Beanstalk。そこから、ユーザーサインアップやSSOシステムのAWS移行などに携わり、今年「AWS Certified Solutions Architect – Associate」を取得に至る。
川上 倫人氏
会員システムグループ エンジニア
2019年に新卒入社。入社後にほぼ知識がない状態からクラウドに触れるようになり、社内インフラ担当として一部社内システムをコンテナやサーバーレス構成へ刷新。現在はアプリ系サービスの担当としてプロダクトの実装に関わる。
田中 星佳氏
基幹システムグループ エンジニア
2019年に新卒入社。入社時はAWSに1ミリも触れたことはなかったが、今年「AWS Certified Solutions Architect – Associate」を取得。パネルセッションでは司会を務めた。
●ニフティはクラウドで何を開発しているのか
──まずは、みなさんの業務内容から聞かせてください。
小松 勇貴:オンプレ世代の小松です。ニフティでは現在、約150名のエンジニアが基幹システム、会員システム、インフラシステムの3つのグループに分かれて仕事をしています。
私が部門長を務める会員システムグループでは「@niftyニュース」や「@niftyメール」などユーザ向けサービスを中心に、最近では個人会員向けの「マイ ニフティ」というiOS・Androidアプリの開発も担当しています。マイ ニフティでは、ニフティの回線やサービスを利用する会員が、料金やトラブル発生時の情報などを手軽に取得できるサービスです。
芦川 亮:同じくオンプレ世代の芦川です。基幹システムグループに所属しています。2017年にシニアエンジニアという管理職になり、技術のスペシャリストを務めています。
ニフティはプロバイダのサービスをメインで提供していますが、基幹システムグループは主に光回線の申し込みから会員データベース、ログイン、課金の管理など、バックエンド寄りのシステムを開発しています。
川上 倫人:就職活動の一環でニフティのインターンに参加した際に、先輩社員のサポートが厚く、自分の技術スキルが高められると感じて、2019年にニフティに入社しました。会員システムグループに異動する前はインフラグループに所属し、社内システムのコンテナやサーバーレス構成へ刷新する業務に携わっていました。
現在は会員システムグループで、「マイニフティ」アプリの開発をしています。シングルサインオン(SSO)やユーザーサインアップの画面の設計や改修などですね。主に担当しているのはアプリ側ですが、バックボーンとしてAPI部分の改修にも関わっています。
小松 初:基幹システムグループで、主にログイン周りの開発やシングルサインオン(SSO)の開発、ユーザーサインアップの画面改修などを担当しています。ニフティを選んだのは、自社サービスを持っている企業だったこと。それからインターネットの老舗企業でありながら、若手の提案を積極的に活かしていく社風があると聞いたからです。
田中 星佳:2019年の入社時は、AWSどころかクラウドも全く知らなかったのですが、最初にニフクラ(VMwareを基盤とするパブリッククラウドサービス。富士通クラウドテクノロジーが提供)に触れ、その後は自分の担当システムをAWSに移行するという経験をしました。ニフティはクラウド開発のメインをニフクラで行ってきましたが、この数年はそれをAWSに移行する作業が進んでいます。
小松 初:メインはニフクラをまだ結構使っているところが多いのですが、最近は1割くらいがAWSの環境ですね。新規開発の案件は、ほとんどAWSで開発されています。
●オンプレ世代からクラウドネイティブが継承できるものは?
──TechDayの「クラウド開発を語る会」では主にどんな話が出ましたか。
田中:ニフティでは、オンプレからクラウドへの移行過程を歩んできた世代と、入社時からクラウドで開発してきた世代が共存しています。その中で技術や知見の継承が一つのテーマでした。オンプレからクラウドに移行するとなった時に、小松(勇)さんや芦川さんたちの世代のエンジニアがどんなことを考えたか。私としてはとても興味がありましたね。
小松(勇):クラウドへの移行にあたって最初に行ったのは、そもそも今のシステムがいくつあって、それぞれのシステムがあるべき姿とは何かをまず書き出していったんですね。それぞれサーバーやデータベースがどうなっていたかを洗い出し、それぞれこの形でいいのか、それとももっと最適な形があるのかを議論しました。
議論する中で、クラウドに移行する場合は、この形じゃない方がよりシステムとしては最適だと気づくこともあって、それまで同じサーバーに複数のシステムが乗っていたものを適宜分離しながら、適正な形に少しずつ置き換えていく作業を、数年がかりで進めました。
芦川:ニフティにおける初期のクラウド移行は、2010年に始まりました。最初はクラウドといえども、サーバーの内容はオンプレとほぼ同じ。サーバーは早くもらえるけど、中で作業することはオンプレ時代とほぼ変わらないという状態でした。
それが2017年になると、コンテナという技術が登場し、クラウド上でコンテナが動かせるようになると、開発のやり方が大きく変わりました。コンテナによって環境構築の手間が大幅に削減され、エンジニアがアプリケーション開発に注力できる時間が生まれました。これは大きな変化だったと思います。
小松(勇):ニフクラになる前に仮想環境を社内で整えていたので、クラウド移行前の体験、仮想環境での体験はすでに済んでいた状態でした。さらにクラウド化が進み、コンテナやマネージドサービスも出てきてすごく便利になったと思いましたね。ですから、クラウド移行については、僕らエンジニアはとてもポジティブでした。エンジニアだけでなく、経営サイドもクラウド化には前向きでした。
オンプレからクラウド移行に伴う技術はいろいろありますが、クラウドネイティブ世代のエンジニアがそれを知っておくべきかというと、その必要はあまりないと思っています。最近のエンジニアが本当に学ばなくてはいけない技術は他にもたくさんあるし、個々の専門性が以前より深まっているので、それを勉強した方がいいと思うからです。
一方で、サービスや技術の歴史を知ることで、AWSやニフクラがどんな技術で動いてるのか、裏側の仕組みをより理解できるようになります。そういうことに興味があるエンジニアには、ぜひ学んでもらいたいと思います。
小松 初:クラウドで開発が楽になっているとは思います。ただその分、サーバーの深い部分やLinuxの操作、トラブル対応などの知識や経験が自分には足りていないと実感します。その点は、オンプレ世代の先輩が頼りになると感じますね。
とはいえ、今後もどんどん新しい技術が出てきて、今自分たちが使っている技術も古くなっていく。やはり、今の新しい技術を勉強するほうに注力していきたいと思っています。
田中:AWSやクラウドなどの新しい技術を学ぶにしても、我々の世代はまだ経験が足りない面があります。やはり経験がある人の方が、新しい技術を理解して使いこなすのも早い。だから、社内の先輩たちの経験を活かし、学ぶべきことはどんどん学んでいきたいです。
川上:クラウドの基本的な構成はオンプレ時代と全然別のものではなく、それをクラウド上のアーキテクチャで再現していることが多いので、そうしたアーキテクチャの基本技術は自分たちも継承しなければとは思います。
また、障害やセキュリティリスクが発生したときは、状況をどう判断して、どういう対処をするかというのは、やはり上の世代の方が対応も早いし、我々が吸収できることはまだまだ多いですね。
●頻繁に勉強会を開催。エンジニアが自発的に学習する文化
──そうした技術継承をどういう形でやるか。日々の仕事を通してが基本だと思いますが、社内の勉強会などでも、技術は伝えられるものでしょうか。
小松(勇):ニフティでは、各分野に講師を立てて教えていくイベントがたびたび開催されています。AWSの勉強会やデータ分析勉強会など、隔週ごとに行われる定例の勉強会もありますね。もちろん誰でも参加自由。そこで質問したり、実際にハンズオン的に何かシステムを組んでみたり、互いに教え合うという文化がニフティにはあります。
最近では、競技プログラミングの「AtCoder」に向けた勉強会や、Go言語を勉強するための輪読会などがありましたね。輪読会にはベテランエンジニアも参加し、プログラミング言語の歴史を背景に、シニアの目線で新しい言語の構造を語ったりしています。
田中:勉強会といっても、そんなに敷居は高くないですね。私も気になるテーマの勉強会は積極的に参加するようにしています。最近は在宅勤務なのでオンライン開催が増え、気軽に参加できるようになりました。ラジオ感覚といいますか、作業しながら聞くこともできたりするので楽しんでいます。
小松(勇):TechDayのセッションでも話したのですが、これからは社外向けにニフティが情報発信する方法として、ラジオ感覚のポッドキャストみたいなものをやっていくのも面白いと思っています。
──社外にニフティのテクノロジーを発信するという意味でも重要な取り組みですね。
芦川:ニフティには「NIFTY engineering」というテックブログがあって、エンジニアがハッカソン合宿の話や、さまざまなツールを活用したクラウド開発のテクニックなどを発信しています。これはもっと強化していきたいですね。ニフティのテックカンパニーとしてのブランド力を高めようと社内は盛り上がっているので、乞うご期待です。
小松(勇):社外のエンジニアと気軽に話せる場も、今後どんどん作っていきたいですね。ニフティはそれこそ、パソコン通信の時代から先端的な技術を開発してきた歴史のある会社です。インターネット時代にも先端にいるということを、もう一度みなさんに知ってもらいたいですね。
──TechDayのセッションでは、未来のエンジニアについての話も出ていましたね。
川上:メタバース上での開発が進むのではないか、果たして100年後もGoogleあるのか、そういう妄想レベルの話が面白かったですね。自分のチームに限って言えば、朝会・夕会があるので、その場で気になったニュースや技術の話など、広いテーマで雑談することがよくあります。そこではみんな妄想逞しく、いろいろなアイディアをぶつけ合っています。
小松 初:チーム会では、上司が会議の資料をピックアップし、それに対してみんなが感想を言い合っています。ニフティの未来というか、こういうものがあった方が面白いとか、もうちょっとここは改善した方がいいよねみたいな話をしていますね。
田中:ただ、今回のように技術面だけを俯瞰して時系列を語るなんてことはしてないですね。だから、セッションでの話は面白かったですね。世代の離れた人たちや、別の部署のエンジニアとフランクに夢を語る機会を、もっと増やしていきたいという気づきになりました。
例えば、小松勇貴さんとは、これまでほとんど喋ったことがなかったので、気軽に声をかけてもいいのかと思っていましたが、今回のセッションでその壁がすっかり崩れました(笑)。 ──ニフティのクラウド開発で、ここは他社にはない、あるいは他社には負けないというものがあれば、ぜひご紹介下さい。
芦川:クラウドに移行してから、内製アプリをスクラムでチーム開発する時間が増えました。以前は外注開発が多かったのですが、この5年間でほとんどの部分を自分たちで作り上げる文化が根づいてきました。技術力も格段に上がったんじゃないかと思っています。
ニフティの社風は昔から変わらず、雰囲気がとてもいいんですよ。チーム開発でもみんな親切に教えてくれるし、怒鳴る人がいない(笑)。みんな優しいんですよね。そういう社風と内製文化があいまって、相乗効果が生まれているんじゃないかなと思っています。
さっきの技術やスキル継承の話に絡めれば、若手エンジニアがハマってしまいそうなポイントは中堅社員があらかじめ指摘しておき、同じ間違いを繰り返さないようにしています。そうやって開発の効率化を進めると同時に、その過程を一緒に楽しんでいるところがあるんです。これは自慢してもいいところかもしれません。
小松(勇):技術的なチャレンジという意味では、他社がやっていることは当社でも当然取り組んでいるし、ニフティだけが抜きん出ていることはあまりないかもしれません。ただ、上から下まで全部内製で作っている点は特色だと思います。プロバイダ業界でも唯一だと思いますね。例えば、カスタマーサポートセンターのシステムも自社で開発。顧客情報を分析するデータ基盤も自社で構築しています。
SRE(サイトリライアビリティエンジニアリング)についても専門部隊がいて、各サービス開発チームに対して、SREの観点からサジェッションしている。こうした取り組みはニフティの強みの一つだと思います。この5月に「SRE NEXT 2022」というイベントではニフティもスポンサーをさせていただき、SREチームから登壇する予定になっています。
──ニフティの社外発信が勢いづきそうですね。次回のTechDayは社外にも公開するイベントになるとのことなので、楽しみにしています。今日はありがとうございました。
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