「お茶の井ヶ田」が企業と学生・社会人がデータ・AI活用のためにプロジェクトベースで協業──仙台X-TECHイノベーションプロジェクト

インタビュー 公開日:
ブックマーク
「お茶の井ヶ田」が企業と学生・社会人がデータ・AI活用のためにプロジェクトベースで協業──仙台X-TECHイノベーションプロジェクト
仙台・東北地域におけるAI・データ利活用事例の創出促進を目的として活動する「仙台X-TECHイノベーションプロジェクト」。2024年度は、プロジェクトの歴史の中で初めて、PBL(Project-Based Learning)型のプログラムを実施した。2024年11月から2025年2月までの約4ヵ月間に渡るPBL参加3社の取り組みを振り返る。第2回は仙台市に本社を置き、お茶と和洋菓子を製造販売する「お茶の井ヶ田」の事例だ。

「お茶の井ヶ田」が企業と学生・社会人がデータ・AI活用のためにプロジェクトベースで協業──仙台X-TECHイノベーションプロジェクト - スライド1
▲お茶の井ヶ田のDXチーム(右:仲野裕輔氏、左:富永真氏)

物産館の来場者数と属性をデータで分析。地域活性化の基礎データに

お茶の井ヶ田は創業100年を超える老舗だ。茶・菓子の製造販売を行うだけでなく、仙台市太白区では物産館『秋保ヴィレッジ』を運営し、そこに自社店舗も構えている。

2023年からDX推進チームが発足し、仙台X-TECHプロジェクトに参加。顧客起点でのデータ利活用に取り組んできた。

●秋保ヴィレッジを舞台に運営

「お茶の井ヶ田」が企業と学生・社会人がデータ・AI活用のためにプロジェクトベースで協業──仙台X-TECHイノベーションプロジェクト - スライド2

今回のPBLでは物産館における来店客データの収集・分析をテーマに掲げた。レジベースの購入客数は年間40万人と把握できているが、施設全体の来店客数、さらにどこの地区から来店し、どのような商品を購入しているのか容易にわからない。

「10年前の物産館オープン時に紙ベースのアンケートを取り、主に仙台市内からの来店が多いということまでは把握しているが、それからどうエリアが拡大しているかが掴めていない。これができれば、商品の品揃え、プロモーション施策、イベント活性化にも活かせるはず」と、井ヶ田製茶生産部生産管理課のマネージャー・富永真氏は2024年11月のPBLキックオフで語っていた。

さらに、このデータは当店や物産館だけでなく、秋保地区に店舗を構える他の業態のお店との連携を進める上でも貴重なデータになるはず。近年はクラフトビールの工場ができるなど、個人事業主の方の小さな店舗が増えてきた。

地区全体にどういう属性のお客様が来ているかという情報を共有するだけでも、地域としての対策が打ち出せる。それによって、「地域の周遊性と賑わいをさらに増やすヒントが得られるのではないか」という期待もある。

もちろん人員を動員すれば、目視によって、来店客の性別、およその年代や購入商品もある程度把握できる。しかし、ここにこそAI・データ分析のテクノロジーを導入すべきだというのが、この2年間で同社がX-TECHプロジェクトを通じて学んだことだった。

「具体的には、定点カメラを入口や施設内に設置し、どの商品を選んでいるかをAIで判別できるようなモデルができればいいと考えているが、具体的な方法は今後のPBLメンバーたちとの議論で詰めていく」(富永氏)

Prophetで販売個数を時系列分析し、需要予測モデルを構築

「秋保ヴィレッジを通した地域社会への貢献や、東北の観光の窓口である秋保の地から地域情報の発信者となりたい」——というお茶の井ヶ田の思いを汲んで、課題に取り組んだのは、地域コーディネーターの七十七デジタルソリューションズ株式会社・中津川拓氏含めて6名の社会人・学生チームだ。

「データ活用で実現する新しい秋保ヴィレッジ」をテーマに、実際に店舗を訪れて、課題を話し合った。そこで直面したのが、必要なデータがなかったり、使いにくかったりするという問題だ。

●Prophetによる販売個数予測

「お茶の井ヶ田」が企業と学生・社会人がデータ・AI活用のためにプロジェクトベースで協業──仙台X-TECHイノベーションプロジェクト - スライド3

具体的には、秋保地区の人流データ、周辺施設の来客数データ、個客属性データなどがなかった。これだと来訪者数の正確な推測、秋保全体の人の流れの分析、購買傾向の詳細分析ができない。

また、POSデータも購入履歴と顧客情報との紐付けがされていなかったり、紙に出力されたものしかなく、これを電子データ化する場合は手入力が必要など、データはあるが使いにくいものだった。

しかしチームはこれで作業を中止するわけにはいかない。①今あるデータでできることと、②データを集めたらできることに、課題を大きく分解して、取り組みを進めた。

①「今あるデータでできること」として、チームが取り組んだのが、秋保ヴィレッジの商品販売個数の予測だ。日別の商品販売個数や売場ごとの売上金額はデータとしてあるので、これを「Prophet」を使って時系列分析すれば、需要予測に活用できると提案した。

Prophetは Metaが公開している時系列データの統計予測モデル。RとPythonに対応していて、統計や機械学習などの難しい知識がなくても簡単に使うことができる。

2024年の実績値を与えて作った時系列分析は、商品販売個数の予測モデルとして十分に使えるものになった。これまで同社では、前年の発注実績に担当者の見解と経験を合わせて今年度の発注数量を算出していた。

Prophetによる予測モデルを使うことで、担当者の技量を補完できるだけでなく、結果として販売機会の逸失や商品の廃棄を少なくできるのではないかと考えている。

●プレゼンするお茶の井ヶ田チーム「デジタルツインを活用した理想郷づくり」

「お茶の井ヶ田」が企業と学生・社会人がデータ・AI活用のためにプロジェクトベースで協業──仙台X-TECHイノベーションプロジェクト - スライド4

②の「データを集めたらできること」として、チームが掲げたビジョンが「デジタルツインを活用した理想郷づくり」だ。秋保全体の来訪者の動きや、店舗のレイアウトをデジタルで再現し、顧客の動線、購買パターンなどを分析することで、効果的なマーケティング戦略を策定しようというもの。

もちろんそのためには、POSデータ、定点カメラ映像、人流マップデータ、SNSの位置情報付き投稿など、多数のデータが必要なため、実際の導入はまだ先のことになる。ただ、これらのデータと販売データ、労働時間データを組み合わせることで次のようなことが可能になる。

例えば、顧客の流れをシミュレーションし、混雑時のスタッフ配置と商品陳列が最適化された売り場づくりが実現する。

リアルタイムによる在庫監視で棚卸作業の省力化や需要予測に基づく適切な商品補充、さらには、購買履歴に基づくパーソナライズされたプロモーション提案や需要予測に基づく効率的な商品発注と勤務シフトづくりも可能になる。こうした将来構想が示されたことだけでも、PBLは大きな意義があった。

PBLメンバーの一人、クリナップ株式会社 営業管理部 仁井田晃氏は「背景がそれぞれ異なるメンバーだったので、課題を小さくまとめすぎると面白くなく、広げすぎると議論がまとまらない。その調整をしながら議論を進めるのは苦労もあったが面白かった」とPBLに参加した感想を語る。

東北学院大学情報学部の太田美里氏は、普段は学生団体で情報リテラシー教室を運営しているが、「デジタルツイン構想にはみんなの夢が込められている。小さな規模でいいから、まずは始めたい。実現すると秋保はとても面白い街になる」と目を輝かせていた。

これらのメンバーと共に4ヵ月にわたるPBL活動を振り返って、お茶の井ヶ田の富永氏は、「これからの経営ではデータ活用が必須だと理解していても、具体的に何をすればいいのかがわからなかった。それが、チームの方々と議論し、アドバイスをいただくなかで課題が見えてきた」と語る。

「データが欲しいと言われても会社側として出せないデータもあったりした。しかしそれがないと話が前に進まない。そこで上長を説得してなんとか出せたデータもある」と、データ提供の苦労話もあった。

同社店舗開発部 アグリエの森 主任の仲野裕輔氏は、「お茶とお菓子という日本の和みの文化を伝え続けることも私たちの課題。データを使うことによって業務を効率化し、その空いた時間をお客様との関係性づくりのためにより使っていきたい。

秋保地区の他店舗との地域連携という点では、今後、スタンプラリーなどのイベントを実施して、そこであらためてデータを集めることも考えたい」と語っていた。

テクノロジーと共に成長しよう、
活躍しよう。

TECH PLAYに登録すると、
スキルアップやキャリアアップのための
情報がもっと簡単に見つけられます。

面白そうなイベントを見つけたら
積極的に参加してみましょう。
ログインはこちら

タグからイベントをさがす