地域復興や社会課題の解決に、テクノロジーを活かすヒントを見出す ──「仙台 X-TECHイノベーションプロジェクト2021」参加者インタビューvol.2
一般社団法人 仙台経済同友会 専務理事・事務局長 川嶋輝彦氏
大学卒業後、日本アイ・ビー・エムに入社し、広報を担当。公益社団法人経済同友会に出向し、同会の北城恪太郎副代表(その後代表)幹事の広報担当を務めたこともある。2006年、日本IBMの社会貢献部部長に就任。東日本大震災後、アイリスオーヤマの大山健太郎会長の誘いで同社へ転職。2013年から仙台同友会の事務局運営に関わる。
【受講したプログラム】
・<経営層向けAIハンズオンセミナー> 思想から実装までリアルに学ぶ人工知能
・<AIビジネス人材育成プログラム >JDLA「G検定」取得を目指す!人工知能基礎
最新技術をビジネスに活用するための最後のチャンス
──今回、仙台 X-TECHイノベーションプロジェクトのAI人材育成プログラムに参加された理由をお聞かせください。
私は東京出身で、これまでずっと東京で仕事をしてきました。仙台に単身赴任してもう8年になります。だからこそ客観的に仙台市、広くは宮城県や東北の経済を見ることができていると思います。
東日本大震災から11年が経ち、この間に31兆円規模という巨額な国の支援を受けて、宮城県は復興を果たしつつあります。ただ、復興需要の多くは、防潮堤とか道路修復、復興公営住宅、防災集団移転のための宅地造成など、主にインフラ整備に関わるものでした。
それはそれで重要なことですが、地震や津波で崩壊した土台の上に、どんな未来の産業や社会を築いていくかは、これからの課題だと考えています。今後は国の復興予算も限定的になる。自然災害が多発していますから、今は東北だけが被災地ではない。そうなると、地方創生は自力でやり遂げるしかありません。
経済同友会のミッションはこうした未来の産業作りに向けて、政策提言をしていくことです。そこで重要な鍵になるのが、クラウドやAIなど先進的なデジタル技術をいかに活用していくかという視点です。
実は長年、日本のコンピュータ産業の盛衰を見ていて思っていることがあります。日本のIT産業がGAFAに席巻されたのは、やはり欧米に対抗できるだけのストラテジーを持っていなかったからじゃないかと。欧米のように、テクノロジーを理解する経営者が少なかったからではないか、と思うことがあるのです。
IT分野で日本が欧米や中国などに後塵を拝している状況を考えると、今がAIやロボティクスを含めた最先端技術をビジネスにアプライする最後の機会。もしこのチャンスを逃すと、日本はこれからも負け続けると思うんですね。
そんなことを考えている時に、株式会社zero to one(仙台X-TECH推進事務局)の竹川隆司さんから「デジタル人材を育てるプログラムを設計したので、同友会の会員にも参加してほしい」と声をかけていただきました。それが「仙台 X-TECHイノベーションプロジェクト」です。仙台同友会もバックアップしてほしいと言われて、強い関心を持ったのです。そこで、会員に紹介するのはもちろん、自分も受けてみようと思い、エントリーすることを決めました。
ただ、IT企業で広報業務に従事していたものの、もともとは文系なので、AIのシステムはどんな仕組みになっているか、具体的にどういうことができるのかはよくわからない。そこで、これを機会にちゃんと自分で勉強したいという想いもありました。
AIは人間の脅威ではない。共に課題を担う欠かせないパートナー
──9月の経営層向けハンズオンセミナーに参加したことで、得られたものは何でしょうか。
ディープラーニングや機械翻訳、AIに関する歴史を学び、なぜ今AIがビジネスの現場で重要なのかという講義は、とても面白かったですね。あっという間に時間が過ぎました。頭を動かした充実感というか、「アタマが汗をかく感覚」を久しぶりに味わうことができました。
数学の基礎そのものについても、新しい発見がありました。例えば、私は中学校で一次関数のY=aX+bという問題では、YとXを特定することが重要だと教わりました。ところが、今回の勉強を通じて、実はaやbの存在こそが重要だと気づきました。
学生時代は高等数学なんて、何の役に立つんだろうと思っていました。しかし、基礎的な理論と応用を分けず、応用例から教えてもらう。それを実現するために、必要な基礎的な知識を学ぶという流れであれば、数学への興味がもっと湧いていたと思います。
これからは、理系教育をしっかり受けて理解している人が社会を動かしていく必要があると思います。とはいえ、必ずしも経営者がプログラミングを書ければいいという話ではない。エンジニアが持ってきた提案を「じゃあ、あとはよろしくね」ではなくて、一緒に考える知識がないと、テクノロジーを経営の中に落とし込んでいくことはできない。それが私の率直な印象でした。
──AIについてのイメージは変わりましたか。
「シンギュラリティ(技術的特異点)」という言葉に象徴されるように、AIが人間の知能を超えることに対して、一種の恐れがありました。よく言われる、何十年後かには、人間がやっている仕事をAIが乗っ取ってしまうといったことですね(笑)。
しかし、このセミナーを受講してからは、AIに対する感覚が少し変わりました。AIと競争するのではなく、協業すべきだと。AIを適切なパートナーとして扱えば、一緒に手を取り合って、これまで人間が解決できなかった課題を解決することができるんじゃないか。うまく活用して、社会の問題を解決するという意味では、AIは非常にパワフルなツールだと思えるようになりました。
BtoBビジネスで成功事例を生み出し、社会課題解決にも繋がる
──10月、11月は「AIビジネス人材育成プログラム」が開催されました。G検定取得を目指すというゴールが設定されていましたね。
G検定資格の合格者は、圧倒的に首都圏や関西圏に集中していて、東北は少ないという話も聞いていました。これでは地域間競争で東北は負けてしまう。その競争力の一助になれたらと思い、受験しました。
東京にいる長女が今年就職するのですが、このG検定を取得したと聞いて、父親としては負けてはいられないと頑張りました。それはプレッシャーでもありましたけど(笑)。
カリキュラムについては、人工知能の歴史やこれからの社会にどう影響するか、どんな法的整備が必要かなど、社会領域とも隣接する内容もあって興味が持てましたね。ただ、やはり回帰分析やデータセットといったデータサイエンスの話はちょっと難しかったかな。
──AIに対するマインドセットが変わったことを、今後の同友会の活動にどう活かしていこうとお考えですか。
仙台市は大企業の支店が多く、同友会の会員企業もBtoBのビジネスを営む企業が多い。AIのソリューションで想定される、消費者動向やマーケット分析などをメインにしているBtoCの企業は少ないんですね。
今後はそうした業種・業態の企業にも会員になっていただき、自社のビジネスにどうAIを活かせるかを追求していただきたいと思います。その中からロールモデルとなる企業が出てきたら、仙台のAIビジネスはもっと活性化すると思います。
さらには、震災で傷んでしまった地域の経済を、AIを活用して解決していく。そういう方向性も大事だと思いますね。よく少子化や高齢化の問題が、震災によって加速されたと言われます。これまで潜在化していた社会問題が、一気に顕在化したとも。
震災で破壊された地域コミュニティの再建も、大きな課題です。コロナ禍でその問題がさらに浮き彫りにされてきました。さらに言えば、東北の生産年齢人口はこの先、減ることはあっても増える可能性が低いことは、人口動態データなどからも明らかなんです。
他の地域から若い人を呼び込むといっても、それには限度があって、全国で人材争奪の競争をしていてもしかたがない。となると、まさに自動化やビジュアルインテリジェンス、人間に代わってラーニングするなど、AIの機能が東北の被災地、人口減に直面している地域にこそ必要になってくるでしょう。課題解決にテクノロジーを活用するということです。
例えば、高齢者を介護する人手不足を補うためにも、AIを活用することができるのではないか。GPSを使って認知症の方の居場所を把握したり、介護ロボットでケアしたり、高齢者のコミュニケーションをサポートするために、5Gなどのネットワーク技術やロボティクスの役割がますます重要になるでしょう。薬剤の開発に加え、調剤やそのデリバリー面においても、AIテクノロジーを活用できる余地がまだまだあります。
こうした地域の社会課題解決のために、どうテクノロジーを活用したらいいか。そのための気づきやヒントを今回のプログラムに参加することで得られたと思います。