小さな取り組みから始め、大きなAIビジネスの可能性が見えてきた ──「仙台 X-TECHイノベーションプロジェクト2021」参加者インタビュー vol.1

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小さな取り組みから始め、大きなAIビジネスの可能性が見えてきた ──「仙台 X-TECHイノベーションプロジェクト2021」参加者インタビュー vol.1
仙台市では、AI・IoTをはじめとする先端技術を活用したビジネスの創出や、それをリードする先端IT人材の育成・交流を図る「仙台 X-TECH イノベーションプロジェクト」を展開している。その一環として実施されたのが「AIビジネス創出」「AI人材育成」に関する実践型のプログラムだ。 まず9月には「思想から実装まで リアルに学ぶ人工知能」と題する経営層向けのハンズオンセミナーを開催。また、ビジネスパーソン向けのAI人材育成プログラムとして10月から11月にかけて開催されたのが、オンライン学習形式による「JDLA『G検定』取得を目指す!人工知能基礎」講座となる。 さらに12月は3回にわけて「AIビジネス創出ワークショップ」を開催。AI活用について検討を続けている企業経営者や事業リーダー向けの集中的なトレーニングプログラムだ。これらのプログラムに参加することで、どんな気づきを得ることができたのか。参加者の声を紹介する。


株式会社エヌエスシー 常務取締役 髙谷将宏氏
宮城県の高校数学教員を経て、2016年に業務系システム開発の株式会社エヌエスシーに入社。現在は常務取締役を務める。顧客は県内を中心に小規模から大企業まで幅広い。AIリテラシー教育が専門で、尚絅学院大学(宮城県名取市)、事業構想大学院大学などでAIとデータサイエンスの講座も担当している。

【受講したプログラム】
<経営層向けAIハンズオンセミナー> 思想から実装までリアルに学ぶ人工知能
<AIビジネス人材育成プログラム >JDLA「G検定」取得を目指す!人工知能基礎
AIビジネス創出ワークショップ

「概念はわかるが実践に乏しい」というジレンマ

今回話を聞いたのは、株式会社エヌエスシーで経営を担う高谷将宏氏。AIリテラシーを教えるため大学の教壇に立つこともあるが、理論と実践の間には、会社としても、自分自身の中でも大きなギャップがあったという。3つのプログラム受講を通して、その距離はどう縮まったのか。

──今回のプロジェクトで、3つのプログラムに参加されました。どんな背景があったのでしょうか。

私は、業務系システムの会社を経営しているのですが、宮城県内の企業から、AIを導入したいという要望が増えてきました。ただ、AIを使えば何でもできるわけではなく、現状の機能が限定されていることを知ると、AI導入に二の足を踏んだりする企業も少なくありません。

当社も、AIを使った簡単な画像認識のシステムなどは構築できますが、それをソリューションとして提供したり、実際の案件で稼動させているわけではありません。私自身、AIのソリューションとしての良さを把握しきれておらず、自信を持って顧客に提案することができなかったんですね。

実は、私自身はもともと統計学が専門で、大学の客員准教授としてAIとデータサイエンスの講座も担当しています。AIリテラシーの授業では、学生にAIとは何かという概念を伝えていますが、実践となると経験が乏しい。そこにジレンマを抱えていました。

そこで今回、AIビジネス創出を謳うハンズオン型のプログラムを受けることで、AIに関する経験を積みたいと考えました。AIを具体的な事業案件に繋げていくためにも、もう少し踏み込んだ知識・経験が必要だとも考えました。

──これまで会社として、社員向けにAI研修を実施するといった取り組みはありましたか。

県内の業界団体が主催する研修を、若手社員に受けてもらうことはありました。経営陣も何らかの研修を受けていることを見せたら、社員もより奮起してくれるのではないか。そういう期待もありました。

60代の経営者も受講仲間。その頑張りに刺激を受ける

──3つのプログラムのうち、まず「経営層向けAIハンズオンセミナー」はいかがでしたか。

プログラムを担当する講師が、株式会社zero to oneの瀬谷啓介氏と聞いて、個人的にも受けたいなと思いました。理系出身ではない人をも対象にしたわかりやすい内容、かつ専門的な領域にも踏み込んだ講座でインパクトがありました。

インパクトといえば、地元仙台市のビジネス界では有名な老舗温泉旅館の館主の方も参加されていました。60歳を超えられていると思いますが、独自にPythonを勉強していらっしゃるという話を聞いて、その意欲に感銘しました。

老舗企業の経営者にはやはり先見の明がある。仙台の実業界をそれぞれの分野でリードされている方々が参加されており、経営層にもAIへの関心が高まっていることを実感しました。

——事前に高校数学の振り返りや、プログラミング(Python)の基礎についてクラウド演習環境で予習しておくことが推奨されていましたね。

私は高校で数学を教えていましたから、数学の面では問題ありませんでした。しかしPythonやR言語に関しては、技術書でかじったことはありましたが、それらを使って実際のシステムを開発した経験は全くありません。受講生の中には「高校数学」と聞いただけで、頭が痛くなった方もいたのではないでしょうか。それでも参加しようという意欲はすごいことだと思います。


励みになった「G検定合格」というゴール

——次のプログラム「AIビジネス人材育成プログラム」はいかがでしたか。最終的にはJDLAの「G検定」取得を目指すというものでした。

日本におけるAI研究の第一人者である松尾豊先生(日本ディープラーニング協会 理事長・東京大学大学院 教授)が教材を監修されています。間接的ではあれ、その薫陶を受けられるわけで、こんなチャンスはめったにないと思いました。

また、G検定取得に向けた学習から受験までがパッケージとなったプログラムになっていて、仙台市の本気度が伝わってきました。「落ちるわけにはいかない」というプレッシャーはありましたね。講義を聞いてサンプルコードを書いて終わりではなく、検定試験というアウトプットがきちんと設定されている。知識の定着を第三者が証明してくれるわけです。

講座はオンラインで受講できるので、職場や自宅で時間をみつけては毎日少しずつ勉強していました。この歳になって何か資格取るのはそうあることではないので、合格できてちょっと嬉しかったですね。

AIを適用すべきどうか、判断の基準になるフレームワーク

──12月に3回にわたって実施された「AIビジネス創出ワークショップ」にも参加されています。初回はオンライン、以降はリアル開催でワークショップが行われました。

株式会社aiforce solutionsの高橋蔵人氏を講師に、マウス操作中心でAI(機械学習)を活用できるソフトウェアを用いて、AIモデル構築を体験するというものでした。この演習はとても興味深かった。特に、「こういうケースだったらAIが使えるが、別のケースでは必ずしもAIを使う必要がない」という、テーマ選定ができるフレームワークが用意されていたのですが、これこそ私が一番欲しかったものでした。

システム会社の視点で見ると、顧客の業務改善にAIを導入するには、AIが得意とする領域を見定めることが重要で、その選別ができるわけです。事業会社であれば、自社の課題解決や新たなビジネス創出に向けたAIの実現可能性を検証するために使うことができるはずです。とても素晴らしいフレームワークだと思いましたね。

──リアルのセッションでは、この「AIテーマ選定フレームワーク」に基づいてグループでディスカッションし、一人ひとりが取り組むべき課題を考えたそうですね。

私がこのセッションで考えたテーマは、自分が大学で担当しているキャリア教育に関するものでした。学生が「なりたい自分」の像を設定し、その実現に近づくためには、どういう授業をえらべばよいか、どういう資格を取得したらよいかを、AIがサジェスチョンしてくれる仕組みですね。そのAIシステムを動かすためには、どんなデータが必要で、それが実際に取得可能かどうかも検討課題の一つでした。

このプログラムで考えたアイデアに磨きをかけ、2022年2月の「X-TECHイノベーションアワード」に応募することになりました。ただ、キャリア教育支援システムを考えているうちに、自分でもあまり面白くないと思うようになり、別のアイデアで応募しました。

私は人見知りなので、初対面の人とテーブルを囲んで議論するのは苦手だったのですが、その最初の一線さえ越えれば、益は多いですね。今回も似たようなことを考えている同業者の方や、全く異業種だけれど実は課題が共通している方と話をすることで、様々な気づきを得ることができました。

社内エンジニアのプライドを引き出して、実務に活かす

──3回のプログラムを終えて、全体の感想をお聞かせください。

どの業界もそうですが、業務改善やビジネス戦略の課題はお客様自身が持っているものです。なかには、お客様自身は気づいていないけれど、重要な課題というのもある。システム開発会社は、お客様が本当にやりたいことを引き出して、それがAIで実現できるのかどうかということを判断し、提案することが仕事です。今回のプログラムを通して、その判断の根拠となる尺度や基準、やり方が掴めたように思います。

システム開発を自社で行っていない事業会社の経営者も、AI活用によるDXを真剣に考えている。そのことを知って、勇気付けられました。各プログラムのゴール設定も明確で、きつかったけれど非常に充実した3カ月でしたね。

──その体験を社員の皆さん、特にエンジニアの方にはどのように伝えますか。

当社には先端事業部という部署があって、月に1回アイデア出しの会議を開いているんです。誰もが参加自由。そこで今回の経験を小出しにしながら、エンジニアのプライドをくすぐり、エンジニアたちの意欲を引き出したいと考えています。

ヒラメの資源回復にAI画像認識を適用するというアイデア

──アワードにはどのようなアイデアで応募したのですか。

宮城県は有数の漁業県ですが、東日本大震災以降、高級魚ヒラメの漁獲量が減っています。そこで県は毎年、6000匹のヒラメの稚魚を放流する事業を始めました。稚魚のヒレの一部をカットして目印にし、釣り人さんたちにその魚が獲れた地点などを報告してもらうことで、資源の維持・回復に役立てるのが目的です。

そこにAI画像認識を導入したらどうか、というのが私のアイデアです。何らかのインセンティブを設定してヒラメの写真を送ってもらったり、ネットにあふれている釣果の写真を解析すれば、それが宮城で放流されたものかどうかがすぐわかります。

会社の現在の体力や技術スキルで十分に対応が可能で、水産資源の保護という大きな社会課題にも貢献できる。さらには県や漁業団体からの予算も得られるかもしれない。そういう現実性を見据えた上での「ちょっとしたAIによる大きな貢献」というタイトルのプロジェクト提案でした。


※高谷氏のアワード発表用スライドより

──次回以降、これらのプログラムに参加してみたいと思われる方に向けて、何かアドバイスをお願いします。

今回のように、AIに関する基礎から実務に近いところまでを勉強できる機会は、そうそうないと思います。一方通行の講義だけでなく、演習もありますし、他の参加者と議論もできます。その空気感を共有するだけでも、大きな刺激になるのではないでしょうか。AIビジネスの知識を蓄え、それを定着させ、いずれはそれを実践するために、こういう機会にはぜひ挑戦していただきたいと思います。

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