データ×AIで産業・顧客をどう変える?大企業のビジネスプロセス変革事例を公開
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AI Everywhere──Digital Twin Enterpriseの実現に向けて
アクセンチュア株式会社
マネジング・ディレクター 三原 哲氏
最初に登壇したアクセンチュアの三原哲氏は、国内SIer、海外ITベンダー、事業経営などを経て、2007年にアクセンチュアに入社。以降、金融業界や流通業界を中心にデータ活用のプラットフォームの構築やデータ活用案件を担当している。
まず三原氏は、あらゆる領域でデータおよびAIの活用が進んでいるものの、これまでの“ありがちな”データ活用に対する課題として、人が作業することが前提となっているプロセスを指摘した。
「人が作業することが前提のデータ活用や設計思想となっているため、出来上がったシステムでも、人が自らデータを探しにいく仕様となっています」(三原氏)
三原氏は、具体的にはBIツールやビジュアライゼーションツールなどを例に挙げ、「人がシステムやデータに使われている」とも表現した。また、データウェアハウス(DWH)やデータレイクなどにより構築されるデータ活用基盤も同様であるとし、以下の点も問題だと指摘した。
- 通常の業務に組み込まれておらず「非連続」である
- 属人的なため組織としてナレッジが共有・蓄積されていない
データの収集・分析がエンジンとしてシステムに組み込まれているため、ナレッジも組織全体のものになる。さらに、AIや機械学習ツールを業務そのものに組み込むことで、非連続の解決にもなる。
「データ活用では『データドリブン』との言葉がよく使われますが、単にBIツールやAIエンジンを導入するだけでなく、組織のあらゆる活動をデータに置き換えること。そのデータに基づき、学習・予測を通じた最適化を、自動・継続的に行う仕組みを確立することが重要です」(三原氏)
このような仕組みは「デジタルツイン」の概念とも合致すると、三原氏は語る。エンタープライズ・ワイドなデジタルツインの構築が求められており、プラットフォームの構築こそ、究極のデータ活用、データドリブンの姿だと強調した。
高みを目指したいエンジニアこそ、データ活用業務に取り組むべき
では、Digital Twin Enterpriseのようなシステムを構築するには、どのようなアプローチを取ればよいのか。そこでは「考え方のシフト」が重要だと三原氏は言う。
つまり、BIツールの選定も含めたシステム構築を議論の中心やゴールに置くのではなく、データをどう活用するのかをスタートに、ツールの選定も含めシステムを構築していくことがポイントとなる。
システム構築は工期があり有限なプロジェクトであるが、データ活用は永遠に続くものであり、日々の業務ならびにシステムに組み込む必要がある。
そのためSIerなどのベンダーに丸投げするのではなく、企業側の利用者が主体的かつ継続的に取り組むことも重要だ。
「いわゆるスモールスタートでも構わないので、まずはデータを活用してみるところから始めましょう。その上で必要だと感じた要件やドメインなどを、適宜加えていく。それぞれがマイクロサービスとも言えますし、まさしく最近の開発手法であるアジャイルやCI/CDの思考で進めます」(三原氏)
三原氏は、金融商品の取引に関して生じるさまざまな業務を、データならびにAIを活用することで効率化した成功事例も紹介した。
従来は、商品を販売しても問題のないお客さんなのか、営業担当が強引な勧誘を行っていないか、などの業務は、コンプライアンスが厳しいため、電話の応答記録を“人”が行うことで対応していた。この“人”の部分をAIエンジンに置き換えることで、大幅な業務効率化ならびに、業務量の削減を実現した。そしてAIエンジンが出した解を、最終チェックする役割を人が担う。
国内外のSI・ITベンダーやコンサルティング会社といったキャリアにおいて、常にエンジニア視点で携わり続けることを大切にしてきた三原氏。現在もコードを書き続けているという。最後にデータ活用業務におけるエンジニアの魅力を語り、セッションを締めた。
「20年近く携わっていますが、データ活用こそエンジニアが能力を発揮する領域だと感じています。対象となるスコープが広く、さまざまな技術スキルが必要となるため、従来型のコンサルタントでは難しい場合も多いからです。データ活用はビジネス変革に直結する、結果の出やすい領域でもあります。私自身、チャレンジングでエキサイティングな日々を送っています」(三原氏)
AI meets Enterprise SaaS──大企業向けSaaSのAI活用と効果創出の道筋
MNTSQ株式会社
事業開発 高山 聡史氏
続いてはMNTSQ(モンテスキュー)のセッションだ。「自然言語処理(機械学習)技術」と日本のトップローファームの力を掛け合わせることで、契約業務に関する「AI SaaSプロダクト」を開発・提供するスタートアップである。
MNTSQが目指すのは、契約プロセス全体の最適化。つまり、契約のドラフト作成から始まり、契約審査プロセスでのナレッジ活用、バラバラになりがちな交渉経緯に関する情報や締結済み契約書データの集約、締結済み契約書の期限やリスクの管理など、契約にまつわるデータを丸ごと分析して、契約業務全体の高度化・効率化をMNTSQ CLMはカバーしている。
設立は2018年だが、すでに業界を代表する大手企業に採用され、契約業務のベスト・プラクティスをアップデートし続けている。
今回登壇した高山聡史氏は、BCGにて、事業トランスフォーメーションや全社デジタル戦略の策定・実行など、大規模な変革を伴うプロジェクトを複数経験。その後、金融・通信・商社・製造業などの大手企業へのAI導入プロジェクトや、自社SaaSの営業組織立ち上げを経験した後、MNTSQに入社。現在は、複数大手企業への導入支援に加え、組織設計、リソース計画及びアサイン調整、提案から導入プロセスの標準化などを手がけている。
高山氏は、まず本セッションのテーマに対して「なぜ、業務は変わらないのか」という観点から見解を述べた。
「AI導入やDX施策がうまく進まない、というご相談を受けることも多いのですが、失敗事例で企業が陥りがちな頻出課題が3つあり、変革を進めるためには、まずこれらを避けることだと言えます」(高山氏)
その3つのポイントとは、以下である。
- 目的やビジネス上のゴールがはっきりしていない
- AI=魔法の杖だと思っている(できること、できないことがわかっていない)
- 現場の業務にフィットしない使い方になっている
まずは、どのような課題があるのかを明確にする。MNTSQのクライアントの場合であれば、法務担当者や事業部担当者など、ステークホルダーごとの課題や実現したいことを洗い出し、課題の全体像を解像度高く捉える。その上で、課題の解決難易度と発生頻度を整理していく。
「つい難しい課題から解決しようとされがちですが、解決が簡単でインパクトの大きい課題から手をつけることがポイントです」(高山氏)
高山氏は引き続き、正しい目的・ゴール設定について、自社の取り組みと重ねて説明していった。課題は契約書のレビューである。
従来、AIなどを導入していない企業では、レビューしてもらいたいドキュメントをメールなどで法務担当者に提出。法務担当者がリーガルチェックを行い、想定されているビジネススキームを契約書が適切に書き表せているかや、ビジネスリスクを各当事者がどう負担していて、それを自社が許容可能か、また形式面も含めた表現のチェック、記載漏れがある内容などについて指摘する。当然、法務担当者の業務時間がそのまま工数となる。
そのレビュー業務をAIが行うことで、業務の効率化を実現したいという顧客要望も少なくない。しかし、単に法務担当者の代わりをAI・機械学習に行わせようとしても一般論的な指摘しかできず、結局担当者の最終チェックが必要になるなど、正しいゴール設定ではないと高山氏は言う。
MNTSQでは、顧客が過去から蓄積してきたデータを統合したデータベースを構築する。そのデータベースをもとに、AIが最適なノウハウを自動提案することで業務の効率化や高度化を実現することを目指している。
例えばスライドのように、特定の取引先(ロック株式会社)との過去の交渉経緯、検討テーマ(機械学習の研究開発)や論点(知財の帰属・個人情報保護)について適切な提案をすることをゴールに設定している。
契約に関するドキュメントは主にテキストデータであるため、解析には自然言語処理の高い技術力が求められるが、MNTSQでは同領域で力を発揮するAIエンジンを開発している。
しかも、業務でどのように利用されるかを踏まえて解析項目が設計されており、より精度の高い解析を実現することが可能になっている。
高山氏はこれまで説明してきた、課題(検討の背景)、ゴール設定を踏まえ、実際にどのようにアプローチをしているのか、2つの事例を紹介した。
1つ目は、部署ごとに管理されてきた契約データを全社で集約し、一元的な管理を実現した取り組みである。
2つ目は、知財契約業務における事業横断の取り組みだ。オープンイノベーションが活発な昨今、少なくない課題であり、審査の内容や管理すべきリスクも複雑化しているという。
最後に高山氏は次のように述べ、セッションをまとめた。
「現場実務も含めた業務フローを、しっかりと把握することが大切です。その上で、蓄積したデータやナレッジを、いかに適切な材料として提供できるか。実現には、現場へのヒアリングを通して課題を明確にすることはもちろん、社内のエンジニアとも密な連携を取ることが重要だと考えています」(高山氏)
【パネルディスカッション・Q&A】
デジタルと人のバランスについて ここからはMNTSQの古角優弥氏、福井昭夫氏が参加。福井氏がモデレーターを務め、パネルディスカッションならびにQ&Aセッションが行われた。
MNTSQ株式会社
コンサルタント 古角 優弥氏
MNTSQ株式会社
事業開発 福井 昭夫氏
福井:三原さんからデジタルツインの話がでましたが、デジタルと人のバランスや役割分担についてはどのように考えますか。
三原:難しいというのが正直なところです。人が取り組んだ方がいいのか、デジタル・AIが行った方がいいのか。明確に分けることが難しいからです。結論としては、エンドツーエンドで業務を見渡し、一つひとつを仕分ける。その上で人が膝を突き合わせて、地道に仕分けていく必要があるでしょう。近道はないと考えています。
高山:MNTSQの中でもよく議論になるポイントですが、一つのアプローチとして、人がそこそこできる業務をAIを使うことで少しだけ効率化する。このようなアプローチは意外とハードルが高いと考えています。
人が80点取れている業務をAIで行い85点取るようなものですね。対して、人が50点しか取れないような業務で、AIが技術的に得意な領域であれば任せる。こちらの方がうまくいくケースも多いと思います。
古角:課題の解像度を高めた上で切り分ける必要があります。例えば、クリエイティブな業務は人がやり、効率化できるところはAIに任せる。例えば契約業務であれば、過去に例がないような全く新しい契約書の作成業務に人のリソースを割く、などがあると思います。
福井:データの継続的な収集・分析をプロダクトに組み込むことが先進的という話が出ましたが、データ活用による成功の姿を解像度高く想像することが難しい面もありそうです。To-Be像の描き方についてはどうでしょう。
三原:将来の青写真を描くことも重要ですが、あまりに先の未来だと実感が湧きません。そこで、イメージできる範囲の未来での成功を取りにいきます。そのような小さな成果の積み重ねが重要だと考えています。
高山:逆に、ちょっと遠い先の未来をフラットな気持ちで、データを参考にしながらイメージしていくと見えてくる課題や傾向があります。そこから問題意識を深掘り、ゴールを設定していく手法もあります。
古角:To-Be像を描き、これまで取り組んでいないことにチャレンジする姿勢は重要です。失敗による喪失感や周囲とのハレーションを恐れすぎず、着実に成功体験を積み重ねていくことが大切です。
福井:大企業の場合は、いろいろな立場の人がいろいろな目的で動いており、様々な方向を向いていることもあります。To-Be像も含めて同じ目線に揃えたり、視座を高める工夫があれば教えてください。
高山:プロジェクト全体で何を目指しているのか。特に、多くの人が携わる場合には誰がボールの持ち主か分からないこともあるので、オーナーシップの明確化やマイルストーンを細かく設定することが大切だと思います。
三原:オーナーシップが大事だという考えには大いに共感します。しっかりとオーナーシップを持つメンバーがいることはプロジェクトの成否を左右する、最も重要なポイントですね。小さな失敗があっても突破していくドライブ力を持っている企業やリーダーがいると変革がうまくできます。
福井:それを実現するには、メンバーの思考を変える短期的な取り組みに注力するのか、それとも時間をかけて組織の文化を変えていくようなテーマなのか。どちらのアプローチになるのでしょう。
三原:劇的に変わる方法は少ないと考えます。小さな成功を地道に積み重ねていくしかないでしょう。組織論で言えば、小さな組織をつくり、経営層が全社に発信します。先ほど紹介した金融機関の事例でも実施しました。
古角:そのプロジェクトがどこを目指すのか。本来目指している目的を常に意識するための議論の場を定期的に設けます。その結果メンバーの目線が中長期的な方向にも向けられていきます。
福井:費用対効果が出しにくかったり試算が難しいケースにおける、意思決定層へのアプローチ方法についてはどうでしょうか。
三原:データ活用を実現する環境構築は、そもそも効果が費用を上回るのは難しいことが大前提としてあります。その上で、投資を抑える努力をしていることを提示します。また、小さな成果を継続的に見せることもポイントです。
古角:目先のわかりやすい効果にこだわりすぎて、視野が狭くならないようにすることがポイントです。定量的には測れない効果にも目を向ける意識も必要だと思います。
福井:本日の両社とも外部の立場で参画するわけですが、アプローチする際の工夫や、コンサルとSaaSベンダーの違いなどがあればお聞きしたいです。
三原:データ収集からモデリングなども行いますが、コンサルタントはあくまで外部の人間だという自覚を持ってコミュニケーションするように意識しています。企画段階でのコミュニケーションでは、目的やゴール設定が重要であることを伝えています。
高山:私たちは特定領域の専門家であり、常に機能をブラッシュアップしていることが強み。プロダクトや新たな仕組みを構築することで、結果としてその領域の課題を定義したり、解決したりといった形で貢献できることを伝えます。
福井:コンサルタントとして顧客の主体性を高める取り組み、事例があれば紹介してください。
三原:すべてのプロジェクトにおいて、顧客にオーナーシップを持ってもらうことを心がけています。データの活用やシステムの運用は、お客様自身が継続的に行う必要があるからです。そのため、データ活用に関する知識やスキルもレベルアップしてもらう。我々はあくまでも外部の人間である。このような認識のすり合わせを行っています。
高山:MNTSQでも、「お客さまとのコミュニケーションやマイルストーン設定の中で継続的に成果を実感してもらうこと」を意識しています。小さな成果という燃料を都度お客さまに補給することで、さらに次のマイルストーンに向けた推進力を持ってもらえるように努めています。