売上高2兆円に迫るファーストリテイリングのビジネスにデータ分析がもたらすインパクト

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売上高2兆円に迫るファーストリテイリングのビジネスにデータ分析がもたらすインパクト

2017年8月期に売上収益が1兆8600億円を突破し、過去最高の業績を収めている株式会社ファーストリテイリング。今期には2兆円への到達を視野に入れる。

同社は「情報製造小売業」へのモデル転換を打ち出しており、近年、大規模なIT投資を行っている。同社デジタル業務改革サービス部の伊藤芳幸氏は、このミッションにデータ分析からアプローチしている。AIを活用した画像認識、顧客の動線分析など、同社のデータ分析に関する取り組みについて、伊藤氏にお話を伺った。

ファーストリテイリングへ転職した3つの理由

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伊藤芳幸(いとう・よしゆき)/株式会社ファーストリテイリング デジタル業務改革サービス部。東京工業大学情報理工学院 情報工学研究科計算工学修了。SIerでの勤務を経て、2015年にファーストリテイリングへ入社。

ーー まず、伊藤さんのご経歴を教えてください。

伊藤 学生時代は音声認識系の研究室に所属していました。「音声合成」と「音声認識」の2つのテーマがあるのですが、私の研究は「音声合成」ですね。その研究の中で統計モデルを勉強したり、プログラミングに取り組んでいました。

その後、2009年に新卒でSIerへ入社します。まずエンジニアとして金融機関の基盤を5年間担当しました。その後、1年半ほど法人向けのコンサルタントとして活動しました。

ーー コンサルタントとしてはどのような領域を担当されていましたか?

伊藤 小売のEC向けに、「Twitterのつぶやき」と「EC上での売上」の相関を分析し、お客様である事業会社にレポーティングや施策提案などをしていました。

ただ、実際の施策までは関わらせてもらえなかったんです。そこで転職を考えました。データを分析して、実際にビジネスにインパクトを与えるところにまで興味があったので、事業会社に行きたいと思ったんです。

その頃、ファーストリテイリングでも、データ分析部隊ができ、ソーシャルなどの外部データを使ったトレンド分析を立ち上げようとしていました。そこで、私も採用してもらえました。2015年のことです。

ーー ファーストリテイリング以外の企業も考えていましたか?

伊藤 いくつか候補はありました。製造から小売までデータが一貫してそろっている事業会社で、データ分析に取り組みたいと考えていたんです。

ファーストリテイリングは第1志望だったのですが、その理由は3つあります。

ーー どのような理由ですか?

伊藤 まず、工場の生産データ、POSデータ、ECデータなど、製造から販売までのあらゆるデータを粒度がいい状態で、しかもグローバルで持っていると思ったこと。

次に、代表である柳井の経営手腕を学んでみたいと考えていたこと。

そして、チャレンジングで様々なことに取り組ませてくれる空気があると感じたことの3つが、ファーストリテイリングに決めた理由です。

ファッショントレンドを検知するための2つのアプローチ

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ーー 入社後はどのような案件を担当されてきたのでしょうか?

伊藤 入社後は、当時まだ10名ほどだったデータ分析チームに配属されました。

まず、取り組んだのはソーシャルを使って、ファッションのトレンドを素早くキャッチし、いかにそのトレンドを反映した商品を作るかというプロジェクトです。

ーー 商品の開発にデータ分析を利用している?

伊藤 そうですね。まずはファッショントレンドを掴むために、例えば「Twitter」「Instagram」「NAVER まとめ」など様々なソースからクローリングして情報を取得したんです。

そのデータを時系列で分析して、商品化を担当するMDと「この方法では全然ダメ」「この手法はイケそうですね」と毎週ミーティングを重ねました。

その結果、これらのデータを元に、一般のマスに流行ってきそうなものを当てられそうなロジックを作ることができました。この検知ロジックを導き出すまでには、1年ほど掛かっています。

ーー その検知ロジックを利用して、開発されたアイテムはあるのでしょうか?

伊藤 例えば、胸元にレースがデザインされたキャミソールはソーシャルのデータから流行の兆しが見つかったんですね。

MDと相談したところ「以前、似た商品を出していたから、また出してみよう」ということになり、販売したところ、かなりの勢いで売れたんです。

このようにMDの人たちに参考にしてもらっています。ただ、データからの提案で、実際に商品までつながるのは1割程度でしょうか。

ーー 分析対象はテキストですか?

伊藤 はい。まずはキーワードを分析していましたね。

ただ、ソーシャルデータはあくまでも「今」のトレンドなので、トレンド分析が社内で一定の市民権を得られるようになると、「もう少し早い段階でファッショントレンドを掴めないの?」という声が出るようになりました。

というのもソーシャルでのデータは、トレンドの潮流でいうとマスに近いので、一般的な人々に流行が届き始めた瞬間がわかります。

MDは、例えば半年前くらいに「次のシーズンはピンクが流行る」とか、「スカートの丈はミディアムよりロング気味になってきている」と読み取りたかったわけです。

そこで、始めたのがコレクションをデータソースにした分析です。

ーー どのようにコレクションを分析するのですか?

伊藤 コレクションのルック画像を分析するんです。ただ、1年間でルックの画像数は約2万点あります。これがだいたい10年分ありますので、それだけで約20万点です。

いきなり全ての画像は扱えませんので、まずはユニクロのデザイナーに聞き、40ブランドの2年分、2000ルックぐらいまで絞りました。

その画像に対して初めは人手で「カラー」「柄」「丈」「ディテール」「シルエット」などのタグ付けをしたんです。「これはピンクのスカートで、ドット柄で、丈はミディで、シルエットは台形」みたいな感じですね。

ーー ファッションアイテムは人手でタグ付けするのも難しそうですよね。

伊藤 そうなんです、ファッションの知見が必要です。以前アパレルで働いていた女性にチームに加わっていただき、ユニクロのデザイナーと意識合わせをした上で、彼女自身の知見を活かしてタグ付けをしてもらいました。

ルック画像ひとつに平均すると4アイテムくらいあります。ですから、だいたい8000アイテムに人手でタグ付けでしたわけです。

そこまで行なってまずは「これはユニクロの人手で導いたファッショントレンドの推移です」という形でレポートしました。

ーー その後はどのように進めたのでしょうか?

伊藤 MDは「さらに過去10年分すべてトレンドを分析した結果がみたい」と望んでいました。ただ、これはやっぱり人手では難しいですよね。

そこで、画像認識の技術を使って、自動でタグ付けできないかと考えたんです。

これが2016年の10月くらいのことなのですが、様々なベンダーさんにファッション画像の自動タグ付け技術を見せていただきました。ただ、どれもMDやデザイナーが求める精度はなかったんです。

様々な分析ベンダーや研究機関を訪れ、最も精度の高かったところと共同で画像認識用のエンジンを作り始めました。

ーー 画像認識はどのような領域から取り組み始めたのですか?

伊藤 まずは「アイテムの分類」ですね。現在は「カラー」「柄」「丈」「シルエット」まで識別できるようになってきています。

MDの「こういう切り口で画像を見たい」という希望に合わせて設計している形ですね。

ーー スタートから1年が経過していますが、社内での反応は?

伊藤 「まさにこれが欲しかったんです」と評価してもらっています。

MDやデザイナーがビジネス上のジャッジをするための、バイアスがかかっていない客観的なデータを提供できている状態ですね。

データから「売れるモノを作る」

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ーー その他にはどのような取り組みを行なっていますか?

伊藤 トレンド商品がどれだけ売れるのか、需要を予測するプロジェクトを行っています。

ーー データ分析の取り組みが事業に与えている影響についてどのようにお考えですか?

伊藤 まだまだ、影響が小さいと思います。データ分析から直接商品に結びついた事例はまだ少ないですね。

中にはヒット商品になったものもありますが、まだまだビジネスへの貢献は小さいですね。

また、サンプルを作って上層部にレビューしてもらう際に、参考情報としてインプットはしてもらっていますね。

ーー 最後に、今後の展望を教えてください。

伊藤 いま私たちはITにかなり注力していて、大きな投資も行っています。新しい技術も積極的に取り入れて、新たなビジネスモデルに変革しようとしています。

これまで私たちは「製造小売業」、つまりモノを作って売ることをビジネスモデルの根幹にしていたのですが、「情報製造小売業」への転換を目指しています。「情報製造小売業」は造語なのですが、「データを元に売れるモノを作る」というモデルです。

ですから、まだまだ人材も足りないのですが、常に新しい技術を使って、服をよくしたり、ビジネスに貢献することにチャレンジし続けたいですね。まずは、画像認識の領域を研究して、「世界一のファッション認識エンジン」を作りたいと思います。

グループにあなたのことを伝えて、面談の申し込みをしましょう。

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