メルペイ青柳氏・ヘイ佐藤氏・バンク光本氏が語る「お金の価値はどう変わる?」―日本のお金をアップデートする#01
お金と生活を変えるテクノロジー
岡部:次のテーマに移ろうと思います。今後どういうテクノロジーがお金や金融を変えていくか、ご意見をお聞かせください。
佐藤:いろいろな切り口がありますが、大別すると、一つはFinTechの領域のソリューションは旧来のサービスをよりモダンにするもの。つまり、あまりにも今のサービスの使い勝手が悪すぎるので、今ある技術とデザインノウハウでもう一回作り直しましょうという正当進化としてのFinTechサービスがあると思います。日本だとFOLIOさんがそうですね。
逆に、既存の金融サービスとはまったく違うけど、実質的に既存の金融サービスが満たしていた需要をより簡単にとか、より効率的に満たすタイプのサービスもあると思っています。それこそ「CASH」もそうですね。
僕たち全く金融に見えないインターネット業界のプレイヤーが、金融的な需要を満たしていくために、何をすべきかを考えながらサービスを作っていくほうが面白いし、チャンスもあるのかなと思っています。
光本:今までの価値の絶対的な軸は、お金だったと思うんですね。みんなお金を信じていたし、何を評価するにもお金だった。でも去年くらいから、お金以外のあらゆる“もの”にも価値がつく世界になってきました。例えば、人の時間だったり、その人自身だったり、目に見えない通貨(仮想通貨取引)に価値が出てきたり。
このものがいくらなのか、違う価値の支軸を作っているのが私たちのアプリだと思っています。これからはあらゆるものに価値がつくからこそ、テクノロジーでコントロールしたり、表現したり、取引したりするプラットフォームやサービスが増えていくんだろうなってイメージしています。
それは結局マスの人たちが使えないと普及しないし、意味がないので、それをどれだけわかりやすくシンプルに提供していくかが、重要になっていくのではないかと。
岡部:よく言われる話かもしれませんが、インターネット側から見たときの金融の難しさ、金融に関するインターネットサービスを手掛ける難しさを感じることはありますか?
光本:それが会社を作ったきっかけですね。私は金融のバックグラウンドもないし、お金に関わる事業もやってきてなかったので、自分が一消費者として、金融業界ってすごくわかりにくいし、近寄りがたいと感じていました。
ただ金融サービスって結局全ての人が必要なものなんですよね。それなのに、こんなに近寄りがたいのは違和感しかない。マスの人たちが超シンプルに親近感をもって使えるような金融サービスを作る会社になりたいと思ってバンクという会社を設立しました。
佐藤:既存の金融サービスは、これまでの歴史の中でさまざまな問題が生じてくるところに対して、ルール整備がなされてきました。基本的にはユーザー保護の観点から、一部のユーザーを守るためのルールが全ユーザーに適用され、それが使い勝手とかユーザーの利便と一部トレードオフしたり、コンフリクトしたりしていくという歴史が積み重なってきました。その代わりに、安心安全な世界が構築されているという状態です。
かたや中国に目を向けると、そういうインフラ整備やルール整備が十分発展する手前で先端テクノロジーを駆使した新しい体験を作っているという状態。いわゆる先進国がこれまで経てきたステップを、テクノロジーが進化したクロスカントリーが新しい体験をポーンと作っちゃうみたいな話。すごくシンプルで優れたユーザー体験が生まれています。
我々みたいなインターネット業界の人間がこういうサービスに飛び込むときって、やっぱり後者の方なんですね。今までのルールに完全に適合しながら、モダンなサービスを作っていくのって、かなりハードで、向き合わなくてはいけないユーザー以外の問題が相当あります。
日本がこれまでしっかりやってきた背景の中で、「CASH」のような違う形で優れたUXを見せて、ユーザーが喜んでいるからこれをスタンダートにしていきましょうという方向に持っていけないかと考えています。
岡部:今の話を聞いていると、先端的なテクノロジーがそれほど大事なわけではなく、UI/UXの優劣が重要な気がしました。一方で、金融機関ではAIを導入するなどの取り組みが増えています。アプローチがインターネット側の人たちと違う部分があったりするのでしょうか?
佐藤:そうですね。中国のモバイルペイメントの普及率を見るときに、Alipay(アリペイ)が提供しているサービスのテクノロジーサイドが先端だと捉えて理解するとちょっと違うかなと思っています。
単純に中国をそのまま捉えて持ち込もうとするのはナンセンスだし、アメリカのキャッシュレスの例をとっても、QRコードの導入率は日本の2倍以上高いし、50%近いですけど、ほとんど波及していないんです。だからプロダクトやデータ、UXだけでなく、それを取り巻く環境やルール、歴史などを理解することも重要なファクターじゃないでしょうか。
青柳:QRコードは過渡期的なものかもしれないですね。ユーザー体験で現金に対して上回っているとは必ずしも言い切れないのではないかと思います。ただ、企業側にしてみると、導入がしやすいとか、ネットワークのコストがかかっていないから安いといった決定的なメリットはあるし、キャッシュレスの動きを加速させるものだと評価しています。
これまでの金融機関の開発は、金融に強いSIerが外注で担っていたのだと思いますが、インターネットサービス開発のプラクティスがほとんど持ち込まれていない。その最も持ち込まれていない領域が、デザイン・UI/UXの領域です。
中国以外で勃興しているサービスや、これは流行るなっていうサービスを見ているとその裏側にデザイン組織に対する投資が潤沢になされているなと感じますね。中国の平安(Ping An)という会社がもともと旧来型の保険会社だったんですけど、スタートアップをどんどん買収していって、デザインに強い人たちを中に入れていった。その結果として、いいアプリを出しています。
こういうことは日本の既存の金融機関が外注して、なかなかできないところ。金融機関もリードする人を変えてしまうというか、テック出身の人たちによって組織を再編することができれば変わると思うんですけどね。例えば、光本さんが銀行の頭取になったら、すごいことが起きそうですよね。
岡部:光本さんは、もし頭取になったら、何を変えたいとかあります?
光本:やりたいことはたくさんありますけど、技術よりは表現を変えたい。今日は皆さん同じことを言われていて、とても共感するんですが、一般的には表現の重要性に気づかれている人って少ない気がします。だからこそ可能性がたくさんある。結局、いかにわかりやすくみんなが必要なお金にまつわるサービスを提供するかが大事だと思っていますね。
これからの金融サービスを創るのは、どんなエンジニア?
岡部:では、これからの金融サービスで求められるエンジニアはどういう人材なのかお聞きしたいと思います。いろんな観点があると思いますが、いかがですか?
青柳:メルペイはそれぞれ専門分野の人たちを集めていて、iOS、Android、ブロックチェーン、フロントエンド、バックエンドとそれぞれ採用しています。共通してこういう人がいいなと思っているのは、一つはお金がどんどんなめらかになった後の未来に対して、ワクワクしながらイマジネーションできる人ですね。
もう一つは、僕らは今ブロックチェーンの領域とか採用を進めているんですけど、コミュニティに関与しながらモノを作っていくということが多分にあるんですね。そのルールメイカー、ステークホルダーと一緒にコミュニケーションできる人。エンジニアコミュニティを盛り上げるというかたちでもいいのですが、一個社の枠を飛び越えて議論し、どんな可能性があるか、どうやって実装しようか、などと考えられるタイプの方は、すごくいいんじゃないかと思います。
その点で、光本さんはすごい。去年のFinTechが盛り上がった流れを作ったのは光本さんだと思っています。1年経ったらみんなFinTechやっているじゃないですか。そうやって楽しめる人と一緒に働きたいですね。
佐藤:この領域は、対象となる市場が日本だけでみても民間創出300兆円くらいと広大なので、作るべきものはみんなが使えないといけないとか、みんなのためのサービスを作るとなりがちだけど、フォーカスがないサービスは、結局誰にとっても使いやすくないものになる。
開発者が自分たちのサービスのコアターゲットをちゃんと認識して、彼らのためにフォーカスされたターゲットのためにものを作るための必要なプロセスを全て踏めるようなエンジニアがうまくいくと思っています。
特にこういう透明で公共に近いようなサービスを作る開発者であればあるほど、絞りこまれたターゲットにちゃんと話が聞けて、その人たちを愛せるというか、愛情を持てるようなエンジニア、自分が誰に何を作るかに責任を持てるエンジニアと一緒に仕事したい。
お金は自分の人生にあまりにも影響を及ぼしすぎるものなので、青柳さんも言っていましたが、未来に対する想像力は必要だと思います。あと5年くらいでかなり変わっていきますが、今の固定観念が強烈に残っているので、変わった先の未来を描きづらい。ブロックチェーンの可能性や遠くの可能性にも想像が及びつかないんですね。
今のお金の固定観念を取り外したときに、どういう世界が見えてくるか自分で考える力があり、それを考えるのが楽しい人が向いていると思います。
岡部:そこに必ずしも金融業務の知識は必要ではないと?
佐藤:ただ実際にモノを作るときは、当然既存のインフラや行法の範疇内で作ることになるので、新しく異業種から入ってきた人たちもキャッチアップしていくべきだと思います。
光本:ありきたりですが、世界を変えたい人ですね。結局インターネットの世界で何か新しいサービスを作るには、絶対的に技術が必要です。金融領域は、今このタイミングは面白い。世界を変えられる振り幅が一番ある業界の一つだし、エンジニアはそれを自分で作る才能がある。
お金って、絶対生きていくなかで必要なものじゃないですか。ごはんを食べるにしろ、家賃を払うにしろ、空気を吸うだけでお金がかかるんですよね。全人類が生きていく中で絶対的に必要な要素で、確実にここ2~3年でお金というものがガラッと変わります。
お金自体もそうだし、取り扱われ方も変わる。今佐藤さんが言っていたようにお金ってバイアスがかかっていて、固定概念がすごくて、今までの固定概念の枠から離れられない人がたくさんいます。
でもこれって可能性だらけじゃないですか。お金が変わるということは、世の中が変わるって目に見えてわかりきっているのに、枠に入っている人だらけ。ちょっとだけ枠の外のことを考えられる人が世の中を変えていくわけで、変えていくには技術が必要なんです。
この領域は激変していく領域の一つ。その領域でそのテーマを選んでチャレンジできるエンジニアがうらやましいと思う。将来のスタンダードになるし、あれは自分が作ったって言えるわけじゃないですか。
世の中でみんなが作っているマスのサービスっていっぱいあるけど、自信をもって自分が作ったって言える人って限られている。これから変わると目に見えてわかっている中で、将来のスタンダードを創るチャレンジができる人がいいと思います。
岡部:皆さんのおっしゃるとおり、日々の取材でもそんな感触を持っています。2016年に日経FinTechを創刊してから、全然取材のネタが切れないし、むしろ取材の量も増えている。FinTechが世の中を変える現場を直接目撃できて楽しい仕事をさせてもらっているし、良い意味で広がり過ぎている部分にも可能性を感じています。
今日は貴重なお話をありがとうございました。