PwCデジタルトランスフォーメーション事例公開!──経営課題をブロックチェーンで解決する

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PwCデジタルトランスフォーメーション事例公開!──経営課題をブロックチェーンで解決する

世界最大級の会計事務所であるPwC。そのメンバーファームであり、国内四大監査法人のひとつであるPwCあらた有限責任監査法人。ブロックチェーン(分散型台帳)を使ったアプリ開発において、世界トップクラスの技術力を誇るDLT Labs(DLTラブス)。

PwCカナダ法人とDTL Labsカナダ本社はブロックチェーンの普及に向けて、提携をしており、DLT Labsは今年から日本でも営業展開を開始している 。日本企業がブロックチェーン導入も含めたデジタルトランスフォーメーションを成功させるためにはどうすればよいのか――。両社のエキスパートを招き、語ってもらった。

セキュアなデータマネジメントが容易に

最初に登壇したのは、DLTラブスのShailen Parbhoo氏。冒頭で改めて、ブロックチェーンの有用性について述べた。


▲DLT Labs/Product Manager Shailen Parbhoo氏

Shailen Parbhoo氏はカナダ、米国、オーストラリア、ニュージーランド各国でITテクノロジーコンサルティングの経験が10年以上あり、領域としては政府機関、銀行業界(Royal Bank of Canadaなど)、保険業界, テレコム業界、航空機企業 (Boeingなど)に携わってきた。カナダ、トロントの州立ライアソン大学卒、ITマネージメント専攻。

「『ブロックチェーン=Bitcoin』のように考える人がいますが、ブロックチェーンはビットコインに代表される仮想通貨を生み出すだけの技術ではありません。現在のインターネットサービスの大部分は、ブロックチェーンがもたらすテクノロジーやサービスにより、いずれ置き換わるでしょう。その結果、リアルな世界も徐々に変わっていくと考えています」

ブロックチェーンは、もともとセキュアな取引を実現するために創出された技術であるため、特にサイバーセキュリティ領域における今後の期待や役割は大きいという。具体的には、コアのアプローチとして分散型台帳技術が使われており、過去の全トランザクションをオープンにしているため、改ざんがむずかしい、とのことであった。同時に、一極集中型のシステムでないことから、障害時の対応もスムーズだという。ビジネスでのメリットも相応に大きい。

「金融サービスにおいては、ブロックチェーンの導入によりピア・ツー・ピア取引が可能となり、例えば、銀行が必要なくなるなど、中間業者が不要となるケースが出てきます。その結果、経費も時間も削減でき、かかわる業者数も減りますから、セキュリティの面でも監視しやすくなります。

全トランザクションにIDがつくため、データマネジメントが容易です。仮にシステムにトラブルが発生しても、どこで起きたのか瞬時にわかるからです。当然、ハッキングされた場合でも、です。言い方を変えれば、ハッキングされにくいシステムなのです」

有用性は誰もが認めるところで、実際に以下のような動きがあるとShailen Parbhoo氏は説明した。

【ブロックチェーン最近の動向】

  • 2018年1月から5月にかけてブロックチェーンの技術と新興企業に13億ドルの投資(CrunchBase)。
  • 今後10~15年以内に10兆米ドル規模の産業に(RBCキャピタルマーケット)
  • ビジネス、中央オペレーション、コンプライアンスで50%のコスト節約(アクセンチュア)
  • 企業財務報告で70%のコスト節約(アクセンチュア)
  • UAE、エストニア、中国、米国がスマートシティ構想において、ブロックチェーンを活用
  • BiTA の会員企業は340社以上に

※ CrunchBase:世界最大級のスタートアップデータベースならびに検索プラットフォーム
※ BiTA:Blockchain in Transport Alliance。ブロックチェーンの輸送業界における技術運用ならびにサービスの促進などを調査・啓蒙する団体

サクセスストーリーはこれから

だが、期待値が高い一方で誤解も多いという。

「世間や社会の期待ばかりが先行・宣伝されている印象を持っています。現場の感覚としては、ユーザーや企業が求めるニーズに対し、実際のアプリケーションはまだそこまで普及していません。つまり、期待値と現実が乖離している状況なのです」

Bitcoinがいい例だ。仮想通貨の登場で、一気にブレイクした感のあるブロックチェーン技術だが、ソリューションの実装はまだ少ない。

「ブロックチェーンにおけるサクセスストーリーは、まだこれからです。私たち自身、今後どのような領域で利用されていくのか、正直なところ模索中です」(Shailen Parbhoo氏)

課題もあるという。導入に際し、企業の取り組みがまちまちなところが一点。もうひとつは、いざ導入が決まっても、実証実験からローンチするまで、長い時間を要する点だ。具体例を紹介してくれた。オーストラリアの証券取引所である。

同所は既存のCESSシステム(証券取引を管理するコンピューターシステム)を、ブロックチェーン技術を取り入れた新システムに移行した。だが移行までの実証実験や検討に3年もの年月が必要だった。

米国・デトロイト社が米国の企業を調べたところ、74%の企業がブロックチェーンの導入を検討し、さらに40%以上の企業が実装まで考えているそうだが、これまでにすでにローンチした企業はまだ少ないそうだ。

だが同社では、多くの企業が導入を躊躇しているとしても、ブロックチェーンはゲームチェンジャーになる可能性があり、冒頭で述べた有用性は揺るぎないものだと考え、開発を進めているという。現に同社では、ブロックチェーン技術者は100名以上在籍し、50以上のプロジェクトが進行中とのこと。その中から近々の実装に向けて取り組み中の代表的なプロジェクトを二つ紹介してくれた。

ブロックチェーンソリューション事例①
~ アフリカにおけるコバルト鉱業

1つ目は、アフリカ・コンゴでのコバルト鉱業での導入事例だ。コバルトが市場に出回るまでには、山から掘り出した後、洗浄・加工・選別・販売といった多様なサプライチェーンがあり、携わる人も多いという。そのため従来はそうした生産工程のトレーサビリティ(追跡)が難しかった。当然、かなりのコストロスもあったという。さらに労働環境においても妊婦や未成年の児童が働くなど、倫理面での問題が指摘されてきた中で、コバルトの大手バイヤーであるAppleやTeslaなどは、ブランドの失墜を危惧していたという。

「このような問題は、ブロックチェーンを導入することで全て解決します」(Shailen Parbhoo氏)

ブロックチェーンソリューション事例②
~大型小売業者と運送業者との支払決済

2つ目は、大規模小売業者と商品を輸送する運送業者各社との決済における事例だ。これまでは紙の決済であったものが、ブロックチェーンの導入によりデジタルに変わる。結果、代金請求に係る不確かな精算が減るだけでなく、精算のスピードは格段に高まるという。精算業務に伴う間違いも減り、同業務に関わるコストは40%減にもなるという。

なお②番目の事例は現在デモアプリが完成している段階で、年明け2019年の1月には実装され、トラッキングがスタートするとのことであった。

「同事案がサクセスストーリーになるよう、楽しみにしています!」
と、Shailen Parbhoo氏は言葉を強めた。

ブロックチェーンの導入を成功させる五つのステップ

続いては、PwCあらた有限責任監査法人のプロフェッショナルが登壇。ブロックチェーンの導入をスムーズに進めるためのポイントを中心に、デジタルトランスフォーメーションについて解説した。


▲PwCあらた有限責任監査法人 リスク・デジタル・アシュアランス システム・プロセス・アシュアランスパートナー 宮村 和谷氏

2000年にPwC Japanグループに参画。デジタルトランスフォーメーションやビジネスレジリエンスに関するアドバイザリーやコンサルティング、リスクアシュアランス業務を、幅広いセクターの企業に対して提供。近年はクラウド、RPA、AI、ブロックチェーンといったキーテクノロジーを用いたビジネスモデル構築におけるアドバイザリーを、スタートアップ企業と成熟企業双方に対して展開。また、企業のガバナンスやカルチャーの強化といった、経営・リスク管理態勢の強化につき、さまざまなテクノロジー企業とコラボしてのソリューション開発と展開を進めている。

成熟企業からスタートアップまで、多くの企業をアドバイザリーしてきた同氏は、ブロックチェーン導入には、次のようなステップを踏み、進めていくことが重要だと説明。逆に、ステップを正しく踏まずに進めると、POC(概念実証)の後半あたりで大概の企業が「これじゃ、従来のデータベースと変わらない」となり、プロジェクトが頓挫するのを何度も見てきたという。

一つずつ詳しく説明していくが、重要なポイントは、ブロックチェーンが多くのステークホルダーを巻き込むエコシステムであることを認識することだ。

ステップ1:自社の強みをデジタル化する

「日本企業、特に成熟した企業の多くは、自社の強みを聞いても、すぐに答えられない場合が往々にしてあります。理由はデータを始めとした経営資源が整理されていないから。デジタルトランスフォーメーション以前、デジタイゼーションができていないからです。

自社内で完結する従来型ビジネスであれば、そのままでもいいのかもしれません。しかしブロックチェーンの導入においては、他のステークホルダーとの情報共有に向けた標準化(デジタル化)が必要不可欠です。スタートアップや先進的な企業から見た場合、データを標準化していない企業には、コラボレーションする魅力も強みも感じない、とも言えます」

具体的に強みとは、データ、コアプロセス、人材など。特に裏技はなく、淡々と脈々と、整理しデジタル化するしかないと宮村氏は言う。

ただ、それほどむずかしく考えることもないという。

「クラウドにデータベースをつくり、強みとなるデータを整理していくだけでもかなりの効果が期待できます。実際、このようなデジタイゼーション作業が済んでいる企業は、デジタライゼーションもスピーディーに進めています」(宮村氏)

ステップ2:参加するインセンティブを明確にする

現在のマーケットの特徴は、客が店舗に足を運び、商品を買うといった従来のフローとは異なり、企業側から顧客に寄り添うフローに変わったと宮村氏は説明。金融サービスであれば、家にいながらスマホで決済ができるフィンテックなど、X-Techサービスの普及だ。

そしてこのようなビジネスモデルの構築には、繰り返しになるが、一社単独の動きではむずかしく、エンドユーザーも含めた多くのステークホルダーの協力が必要となる。そのため各人・各社に対して、インセンティブや課題解決といったメリットが明確に提示できないと参加せず、アーキテクチャが構築できないと宮村氏は言う。

例えばロジスティクス業者であれば、トレーサビリティが容易になる。小売業者であれば、在庫管理が最適化される、といった具合だ。当然、エンドユーザーにとっては決済も含めた買物が楽になるといったメリットを、明白にすること。そして、開示することが重要だと説明した。

ステップ3:ビジネスインパクトに注目

ネット通販が当たり前となり、リアル店舗の売上が減少。Uberなどライドシェアビジネスの台頭により、タクシー業界の売上が落ちた、など。昨今、多くの企業は、従来予想だにしなかった企業や技術の登場により自社のシェアを奪われる、ディスラプターにおびえている、と宮村氏は指摘する。だがおびえているばかりで、実際の損失はいくらになるのか、そのシミュレーションをしている企業がほとんどいないことが問題だと続けた。

「おびえていても何もはじまりません。ディスラプターが登場したら、どれほどの損益が生じるのか。その損失を補ったり、対抗したりするには、どのような技術を導入すればよいのか。例えば本日のテーマ、ブロックチェーンを導入したら、どうなのか。このようなシミュレーションをすることが重要です」(宮村氏)

ステップ4:組織の見直し

「ステップ1のデジタイゼーションは、実行したからといって、目の前の業績がアップするわけではありません。つまり担当者は、評価されにくいわけです。いずれ利益をもたらす業務であることを経営者が正しく理解し、担当者を正当に評価するKPIの見直しなどが必要となってきます」(宮村氏)

また繰り返しになるが、多くの人が介在するシステムであるため、社内のストラクチャーを従来の縦割り型ではなく、横断的な組織に改革する必要があると説明する。

ステップ5:フローの明確化および開示

「これまで紹介した1~4のステップを、経営計画のようなしっかりとしたフローとして、明確化すること。さらに全ステークホルダーに開示し、合意を得ることも重要です」

さらに宮村氏は、いま紹介したフローを客観的にチェックし、ガバナンスする体制も必要だと説明した。

実際に実行できている企業はわずか5%

「言うのは簡単ですが、実際にやるのは至難の業です。ステップ1の強みを活用できるようにする取り組みは、それだけでは売上には直結しないため、経営者はまずやりたがりません。というのも、経営者の多くは、任期中はとにかく売上を伸ばすことに集中しているケースが多いためです。」

そのため、ステップ1が実行できている企業は5%ほどだという。しかし、やる必要がある、と強調。ではこの数字を上げ、ブロックチェーンならびにデジタルトランスフォーメーションを成功させるには、どうすればよいのだろうか。

特に重要なのはステップ4、組織改革だという。

「例えば、自社の強みの標準化において、米国に比べると、日本企業ははるかに遅れています。これは業務の工程ごとに管理する体制だからです。そしてこのような管理体制は、社内の都合や倫理から生まれたもの。良き製品を効率よく作り、クライアントに買ってもらう従来のビジネスモデルではよかったでしょう。しかしブロックチェーンのエコシステムでは、マーケットが何を求めているか、アウトサイドインの考え方でビジネスを判断していく必要があります」

つまりブロックチェーンの分散型エコシステムを、社内の組織にも当てはめていくことが重要だというのだ。もっと言えば、携わるメンバーもエコシステムな素養を持っているタイプが適任だという。

「チャレンジ精神が旺盛で行動力がある。自分の意見を持ち、発言もできる。社外・社内問わず、誰とでもコミュニケーションがとれる。このような特徴を持つ人材が、ブロックチェーンの導入ならびに成功には、必要不可欠です。そして重要なのは、先にも述べましたが、担当者の働きを正しく評価することです。時には失敗もあるでしょう。でもその失敗から学ぶことも重要だと、会社全体として捉える姿勢や評価システムが組織体制に必要となってきます」

以下は後述するパネルディスカッションからのコメントではあるが、人材・組織に関する内容であったため、こちらで紹介する。

「一方で、積極的な人ばかりでもうまくいきません。法律、契約内容なども考慮し進めていく必要があるからです。そういった意味でも、攻めのタイプだけでなく、守りに強い人材も重要になってきます。さらに数字に強い人材、その他領域の専門メンバーなども加え、皆で意見を出し合いながら、時にはコンフリクトしながら課題を乗り越えていくことが、エコシステム実現に向けた組織に変わるために重要なのです」

また決定権を持つ人材を現場メンバーに加えることも、開発スピードを早める意味でも、重要とのことであった。

なお、先の5%とは老舗企業での割合であり、スタートアップの場合は既にデジタライゼーションされたビジネスや技術を持つ企業も多いという。ただスタートアップの場合は、リスク認識、安全・安全の説明、コンプライアンス、データの整備・保護といった、トラストの部分が弱く、その改善・対策がこれからの課題とのことであった。

チャレンジしてこそのサクセス

その後はファシリテーターも加え、Shailen Parbhoo氏、宮村氏によるパネルディスカッションとなった。気になった部分を抜粋して紹介する。

――ブロックチェーン技術の導入に際し、クライアントが注意すべきことは何か。また、導入がうまくいく企業とそうでない企業の違いは?

Shailen Parbhoo氏:先ほども述べたとおり、全てのユースケースやクライアントでブロックチェーン技術がフィットするとは限りません。そのためブロックチェーン技術を正しく理解し、自社のサービスにフィットするかどうか、見極めることが大切です。当然、要件定義は厳密に行います。骨が折れる作業ですが、正確な要件定義がなければ、サービスの導入は成功しないでしょう。

そうして検討を重ねた結果、ブロックチェーン技術が生かせると確信したのであれば、あとは強い意志とチャレンジ精神を持って、プロジェクトをドライブしていくことです。

――ブロックチェーンが企業におよぼすベネフィットは?

宮村氏:これまで話してきたように、ブロックチェーン技術を使ったサービスは構想も開発フローも、従来のビジネスとは異なります。つまり、導入することはParbhoo氏が何度も口にしているとおり、チャレンジなのです。当然、技術的な意味も含みます。しかしこのチャレンジにより、従来型の発想や組織体制を転換するいい機会だと、私は捉えています。実際チャレンジしている企業は、良き方向に向かっていますからね。

Parbhoo氏も言っていたように、具体定なサービスならびにベネフィットが出るのは、チャレンジの先の段階です。まだ時間はかかると思いますが、今後の企業の動向に注目、そして期待しています。


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