「ディープテック」×「ソフトウェアファースト」に学ぶ新・グローバル基準での戦い方~Technovate Night Produced by GLOBIS #4
パネリストたちが語る「新しいグローバル基準での戦い方」
今回のモデレーターはグロービス経営大学院の田久保善彦氏。
イベント前半は、及川卓也氏、丸幸弘氏、石山洸氏に、自己紹介を兼ねた「新しいグローバル基準での戦い方」を語っていただいた。
グロービス経営大学院経営研究科研究科長 田久保 善彦氏
慶應義塾大学理工学部卒業、学士(工学)、修士(工学)、博士(学術)。スイスIMD PEDコース修了。株式会社三菱総合研究所を経て現職。経済同友会幹事、経済同友会・規制制度改革委員会副委員長(2019年度)、ベンチャー企業社外取締役、顧問等も務める。著書に『ビジネス数字力を鍛える』『社内を動かす力』(ダイヤモンド社)
Nothing Ventured, Nothing Gained──挑戦しなくなった日本に気づいてほしい
Tably株式会社 代表取締役 Technology Enabler 及川 卓也氏
早稲田大学理工学部を卒業後、日本DECに就職。営業サポート、ソフトウェア開発、研究開発に従事し、1997年からはMicrosoftでWindows製品の開発に携わる。2006年以降は、GoogleにてWeb検索のプロダクトマネジメントやChromeのエンジニアリングマネジメントなどを行う。その後、スタートアップを経て、独立。2019年1月、テクノロジーにより企業や社会の変革を支援するTablyを設立した。
著書『ソフトウェア・ファースト~あらゆるビジネスを一変させる最強戦略~』(日経BP)
IT業界で30年以上活躍してきた及川卓也氏。これからのキャリアを考えたとき、今までとは異なることを日本でやりたいと思ったという。また、そのようなキャリアパスが、他者との差別化にもなるだろうと。
そこで、これまでのキャリアとは真逆ともいえる、社員数13名、代表が27歳のスタートアップに、14番目の社員として50歳を過ぎてから転職する。そして、そのスタートアップで働くうちに、あることに気づく。
「英ヴァージン・グループ総帥のリチャード・ブランソを尊敬していて、彼の好きな言葉『Nothing Ventured, Nothing Gained(挑まなければ得られない)』は、私の座右の銘でもあります。外資系企業で長く働いてきましたから、外国の進化を、まさに自分の目で見てきました。そしてその進化は彼の言葉どおり、挑戦した結果の進化なのです。
そして挑戦とは、変化すること。一方、日本社会を見ると変化があまり見られない。つまり、挑戦しない国となっていました。このことに気づいてもらいたいと、起業することにしました」(及川氏)
挑戦、変化──端的に言えばDXなどの経営手法になるのだろうが、及川氏が事業に取り組むと、技術よりも人や組織を改革することが根幹の課題であることに気づいた。そして実際、同領域に携わる業務依頼が多いという。またプログラマなど、デジタル人材の少ない状況もわかった。
「時価総額の上位にランクインするグローバル企業は、ITを武器にしている企業が大半です。ITの本質はソフトウェアですから、いかにソフトウェアを活用できるか。もっと言えば、プログラマを育てることが重要なのですが、日本ではこれらのことが理解されていません。それは、いま話した当たり前のことを書いた『ソフトウェア・ファースト』という本が売れていることが何よりの証拠であり、日本の状況は深刻だと捉えています」(及川氏)
ディープテックを活用しのディープイシューを解決する
株式会社リバネス 代表取締役 グループCEO 丸 幸弘氏
東京大学大学院農学生命科学研究科応用生命工学専攻博士課程修了、博士(農学)。大学院在学中に理工系学生のみでリバネスを設立。日本初「最先端科学の出前実験教室」をビジネス化。大学・地域に眠る経営資源や技術を組み合わせて新事業のタネを生み出す「知識製造業」を営み、世界の知を集めるインフラ「知識プラットフォーム」を通じて、200以上のプロジェクトを進行。ユーグレナなど多数のベンチャー企業の立ち上げにも携わる。
学生時代、ひたすら研究に没頭していた丸氏は、子どもの理科離れやポスドク問題といった社会の課題を自らの力で解決するべく、24歳の大学院在学中にリバネスを立ち上げた。リバネスは「科学技術の発展と地球貢献を実現する」を理念に掲げ、人類の知識を組合せ地球課題の解決に資する新たな知識や技術を生み出す「知識製造業」を通じて多くのプロジェクトを手がけている。
その中でも特徴的なのは、テクノロジーベンチャーの発掘と育成。ミドリムシで有名なユーグレナ社は、丸氏の大学の後輩である出雲氏が創業し、丸氏が立ち上げからサポートしてきたベンチャーの一つである。
「大学等の研究機関では、数多くの技術が生み出され、特許も取得されています。しかしながら、その9割が事業化できずにいる。そこでこれらの技術を活用し、世界規模の根深い課題=ディープイシューを解決するようなテクノロジーベンチャーを生み出すべく、研究者と社会を橋渡しするサイエンスブリッジコミュニケーターとして活動しています。
その中で大切な考え方としては、ディスラプト(破壊的)なテクノロジーばかりではなく、大企業や大学に眠るローテクも活用すること。ディープイシューの解決には、技術の集合体=ディープテックで立ち向かっていくべきなのです。」(丸氏)
丸氏は自分の取り組みとディープテックの再定義について、以下の著書にまとめている。技術的素養がなくても読める一冊とのことなので、研究者以外の属性の人でも、社会課題の解決に興味がある人は、手に取ってみるといいだろう。
少子高齢化による人材不足etcを解決したい──AIを用いて社会課題に取り組む
株式会社エクサウィザーズ 代表取締役社長 石山 洸氏
東京工業大学大学院総合理工学研究科知能システム科学専攻修士課程修了。2006年4月、リクルートホールディングスに入社。同社のデジタル化を推進した後、新規事業提案制度での提案を契機に新会社を設立。事業を3年で成長フェーズにのせ売却した経験を経て、2014年4月、メディアテクノロジーラボ所長に就任。2015年4月、リクルートのAI研究所であるRecruit Institute of Technologyを設立し、初代所長に就任。2017年3月、デジタルセンセーション取締役COOに就任。2017年10月の合併を機に現職に。静岡大学客員教授、東京大学未来ビジョン研究センター客員准教授も兼務する。
「AIを用いた社会課題解決を通じて、幸せな社会を実現する」との理念を掲げるエクサウィザーズ。同社では、社会保障費の増大や労働人口の不足といった社会課題を解決するために、介護、医療、金融、HR、ロボットなど、さまざまな領域でAIを利活用したプロダクト開発を行っている。
また介護の様子をディープラーニングで解析し、要介護度の予測を行うAIや、症状の進行を予測するAIなどを開発する、内閣府のプロジェクトにも参画。POCレベルではなく、すでに中国などにAIを輸出する。
ディープテックとソフトウェアのあいだのようなことをしている、と石山氏。イベントのテーマにも触れ、同社での事例をスライドと共に紹介してくれた。
「海外では、ノーベル賞を受賞するほどのサイエンティスト、ソフトウェアレイヤーの第一人者がコラボレーションして、社会課題の解決に取り組んでいます。Googleの創業者、セルゲイ・ブリン氏が取り組んでいるパーキンソン病対策プロジェクトや、マイクロソフトのビル・ゲイツ氏が取り組んでいる、アルツハイマー対策プロジェクトなどです。そして彼らは、世界で最初に超高齢社会を迎える日本をラボとして検証し、得た知見を海外に展開しようと考えています」(石山氏)
パネルディスカッション
ディープテックとソフトウェアの融合したビジネス開発で大事なこと
丸:携わるメンバーの「情熱」と「ベクトル」が重要だと、これまで100社以上の会社を見てきて感じています。ベクトルとは、そのビジネスで目指すべき方向性のようなものです。研究者は、無理に新しい技術を導入したい、すべての機能を実装したいと考えてしまうことがあります。でも、予算や環境などにより、要らない場合もある。そこがズレていると、大抵うまくいきません。
及川:私も丸さんと同じような考えです。地頭がいいのにビジネスがうまくいっていない人を見ると、情熱やモチベーションが欠如していることが多いからです。知識習得のための好奇心、価値追求のための意識、夢を描く想像力、とも言えます。
ただ、グロービスが取り組まれているテクノベートのような、理系の基礎素養も必要です。
理系学部卒がいい、というわけではなく、STEMのような素養です。このベースがないと、新しいことが出てきたときに、そもそも理解できませんから。
※STEM:Science(科学、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)を総合的に表した言葉。
丸:モチベーションとパッションは異なると考えています。お金持ちになりたい、会社を大きくしたいなど目の前のことに対して頑張る気持ちをがモチベーションといいますが、研究者はそこにあまり興味がなく、私もまったくモチベーションはありません。一方パッションは自分のうち側にある火のようなもの。これまでリバネスという会社もパッションドリブンで進めてきました。
田久保:パッションがあれば、モチベーションは必要ない、とも言われますよね。パッションがないから、モチベーションという糊で繋いでいるとも言えます。
石山:及川さん、丸さんから強いパッションを私は感じるのですが、その源泉はどこなのか、気になります。
及川:情熱とモチベーションは確かに違いますが、私は共通していることも多く、何かをしたことで誰かを喜ばせたり、世の中を変える、課題解決のようなものだと捉えています。そしてこのようなマインドこそ、ものづくりの本質であるとも思っていて、私の原体験でもあります。
田久保:数字ばかり追っているイメージのエンジニアですが、プロダクトや仕事に対する情熱、愛が高い人も多いですからね。ユーグレナの出雲氏などは代表例だと思います。
丸:彼のミドリムシに対する情熱は、まさに「愛」そのものですからね。経営という観点から考えたら、ミドリムシだけでなく、他の藻類もすべて扱った方がいいわけです。それを提言しても、「いや、ミドリムシが好きだから。失敗してもいい」と、真顔で答えますからね(笑)。
田久保:ただ、出雲さんの極端な愛を、まわりの経営陣も共感していますよね。つまり、先ほど丸さんが言われたようにベクトルを合わせている。だからユーグレナは、成功したのだと思います。
グローバル基準でビジネスをするとき、日本企業に足りないこと
石山: ディープイシューは、地球規模の課題です。そのため各国企業が争うのではなく、世界中の企業が協力して、地球全体で解決すべきです。まさに先のディスラプティブではなく、インクルーシブの精神です。
ところが日本企業の多くは、自社もしくは日本が潤えばいいと考えていますよね。だから、知財という言葉が当たり前にあり、オープンマインドではない。実際、海外からもそう見られています。このマインドを変えること、自社ならびに自分はオープンマインドであり、インクルーシブの精神を持っていると、海外の企業から思ってもらえる努力することが重要です。
田久保:新型コロナウイルス対策は、まさにいい例ですよね。
石山:その通りだと思います。まさに今、世界中で、新型コロナウイルス対策のベストプラクティスを模索していますからね。高齢者の介護に関しても、同じように世界が協力してベストな対策を考える必要があるでしょう。
丸:文化理解が、日本企業には少ないと感じています。特に東京の常識は、グローバル基準ではないことを、多くの企業が理解すべきです。またスタートアップに関しては、最初からグローバル展開を意識することが重要です。
売上げが上がったから海外に行くといった思考ではなく、最初から世界の課題を解決することを考えると、すぐにグローバル基準の会社になれる。これが、ティープテックベンチャーの面白いところなのです。 たとえば、中東にあるソーラーパネルの表面に積もった砂を、自動で掃除するロボットを開発したベンチャー企業は、売上ゼロ円の状態で、現地から発注をもらっていますからね。
田久保:日本にいると、世界の課題に気づきにくいかもしれません。課題を発見するにはどうしたらよいのでしょうか?
丸:現場に行くしかありません。「百聞は一見にしかず」はまさに良き言葉で、現場に行くと、インスピレーションが沸くからです。実際、トヨタ自動車のような大企業も昔は必ず海外に行き、アイデアを発想していました。しかし現在はインターネットの情報を鵜呑みにしがちで、実際に現場に行くことが足りていないと思います。
最後にもうひとつ、ソフトウェアやITツールは世界基準のものを利用することも重要です。日本製より、はるかに優れているからです。
及川:視座を上げることが重要だと考えています。先の情熱の話とも関連しますが、受託系業務の場合、自分が携わったものがどう使われているのか見えにくいため、情熱を保つのが難しく、自社の売上げばかり見てしまいがちになることもあるでしょう。そうではなく、視座を上げ、お客様のためになる仕事をしようと考えるのです。
さらに言えば、サービスの質を、グローバルレベルまで上げるような、さらなる視座のアップも必要でしょう。先ほどの石山さんの話につながりますが、日本が儲かればいいといった視座ではなく、世界が抱えるディープイシューを、グローバル企業とパートナーシップを組み、解決する。SDGs関連の課題は、まさしくグローバル視座的なテーマだと思います。
田久保:自社の売上云々ではなく、世界基準で考えることが、日本企業に不足しているということですね。
これからの時代を生き抜くために必要なビジネススキルとは
及川:情熱が必要だと話しましたが、熱い人がひとりでは、社会課題は解決しません。仲間が必要です。そこで、情熱を周りの人に伝え、かつ、共感してもらえるような、「インフルエンス」のスキルが必要です。
具体的には、マネジメント、ヒューマン、ストリートテリング、コピーライティングなどのスキルで、スティーブ・ジョブズがいい例です。
石山:「ディープイシュー」「コンピューター科学」「ドメイン科学」。この3領域を理解した三刀流人材が、これからの時代で求められていると思います。そして身につけるには、「戦略的学習力」が必要です。
先進国の企業における従業員一人あたりの教育投資を見ると、先進国で唯一、日本はマイナス成長です。新型コロナウイルスの影響で時間の余裕が生まれている今こそ、いい機会です。まずは、自分にとってのパッションが何なのかを考えてみる。見つけたら、今度はどのようなコンテンツを学べばよいのか、じっくりと考えてみるといいと思います。
丸:私はリバネスが提唱する「QPMIサイクル」という、イノベーションを生み出すための新しい概念を取り入れる必要があると考えています。Qは、Question(課題)のことで、Pはpersonal(個人的)なPassion(情熱)のこと。例えば、先ほどのお掃除ロボットのベンチャーも、人がソーラーパネルの上に登って掃除することに課題を感じ、それを解決したいという創業者の個人的な情熱から始まりました。そして、Mは、Member(仲間)とMission(使命)の意味があります。及川さんが話したように一人では何もできませんから、個人的な情熱を達成すべき使命として掲げ、共感する仲間を集める。あとは、仲間と共に出来るだけ早く試してみることを繰り返せば、Innovation(革新)につながるというわけです。
ビジネスでよく用いられる「PDCA」は、既存業務の改善には効果的です。しかし、これからの時代に求められている、全く新しい価値を創出するような「イノベーション」の始まりに、具体的な「Plan」があることはありません。そこにあるのは、個人が抱く課題感、パーソナルなクエッションなのです。このQPMIサイクルを高速で回し続けることこそがこれからの時代に重要になります。
また、組織においても、今後は社内のメンバーだけでなく、個人同士のつながりである「個のネットワーク」を通じてビジネスを進めることができなければ、イノベーションは起きないでしょう。そのため、文系・理系、会社という組織などは関係なく、チーム集め、マネジメントをすることが大切です。その観点から、サイエンス・テクノロジー・アート・デザインを融合して理解し、マネジメントできるスキルも今後は必要となってくるでしょう。
田久保:本日のセッションは、テクノロジー寄りの話になると考えていました。でも実際に上がってきたワードは、パッションやミッションなど、マインドセットの部分でした。実はグロービス経営大学院が一番大切にしているのも「志」です。何をしたいのか、どう、生きたいのかが重要だと、本日のセッションを通じて、改めて感じました。
視聴者からの質問にパネリストが回答
Q: ベクトル合わせとメンバーの自由度のバランスはどう考えるべきか。
丸:時間軸を持って考えます。ベクトルを合わせることは必要ですが、フェーズによって必要な人、そうでない人がいるからです。最初から最後まで同じメンバーがいる必要はありません。柔軟に、自由に、メンバーから外れていいのです。実際、私もプロジェクトの途中で、チームから抜けることがよくあります。
田久保:企業経営そのものですよね。自分の役割を終えたら、プロジェクトから抜ける。その柔軟さが必要なのではないでしょうか。
丸:まさにその通りなのですが、ローンチ前に抜けたメンバーに対する、リスペクトを忘れてはいけません。実際、海外では開発段階で抜けたメンバーに対するリスペクトがもの凄く高いですからね。特に私のような研究者は、お金儲けやビジネスではなく、自分の研究した技術がいかに世の中の役に立ったか。そして、そのことがリスペクトされているかを気にするからです。
Q:組織論について聞きたい。全員がパッションを持っていればいいが、組織ではそうもいかない。
及川:モチベーション、内発的動機づけは、やはり必要だと思います。持っていないと、ビジネスに対するインパクトが弱いからです。そもそもモチベーションが沸かない仕事というのは、人間がやるべき仕事ではなく、AIに任せる。そのような考え方も必要でしょう。
丸:以前は、会社から言われた通りに行う「事に仕える」ことこそが”仕事”でした。しかし現在は、自ら「事を仕掛ける」ことこそが仕事であると定義が変わってきています。ですから情熱がないと、仕事のドライブはかからないと思います。
石山:別の意味でのモチベーションもありますよね。私は新卒入社一年目のとき、研究職志望でしたが、営業職に配属されました。しかも、かなりのハードワーク。ただ、営業も含め、多くのことを学習できましたし、学習しているとのモチベーションもありました。だからこそ先に話したように、戦略的に学習もしました。
及川:私も石山さんと同じく、大学時代にプログラミングを勉強していたのに、配属先はプリセールスでした。当初は嫌でしたが、実際に取り組んでみると意外と面白かったですし、学習・成長機会だと捉えることができました。
丸:私は2人とは異なる考えです。自分にとって情熱のない営業職などを、やろうとはまったく思わないからです。ただ学習意欲や総量という点では共感します。好きな研究については、かなりの量、勉強してきたからです。
田久保:つまり、パッションが沸く対象を見つけること。そして、学習量を上げること。この2つがないと、何も始まらないですね。
Q:今日の話をまとめると競争ではなく協力、視座を上げるに集約される。3人はどのようなプロセスで、このような思考や視座を持つようになったのか。
石山:競争がまったく悪いというわけではありません。実際、私もリクルートで働いていたころ、かなり競合を意識して仕事をしていましたから。そういった競争という基礎体力があり、その上に協力が起き得ると思っています。
田久保:UNIX系のプラットフォームに「Ubuntu(ウブントゥ)」という名称があります。これは、ネルソン・マンデラ氏が愛した言葉で、「私はあなたのおかげで存在している」という意味です。まさに、今の石山さんの話と同じように、競争はするけど、根源の部分は同じでより良いものを作ろうとのメッセージが込められていると、改めて思いました。
及川:マイクロソフト、グーグルでの経験がルーツだと考えます。
マイクロソフトは他社と競い合うことで、より良いものを作るとの考えが根付いていたからです。実際、本社のエグゼクティブは競合について質問を受けたときに「競合は我々をさらに偉大にしてくれる存在だ」とコメントするほどでしたから。ただ、競合を打ち負かすとの考えはありません。競争の結果として、より良いプロダクトが開発され、その結果として課題解決を実現し、世の中がよくなるとの考えがありました。
グーグルでは、市場は自分たちで作るという思考でしたから、競合はともに市場を大きくする同士と捉えていました。ネット広告のシェアが拡大していったのは、まさにいい例です。
丸:勝つ、負けるという言葉や概念が、私のような研究者にはそもそもありません。研究の世界では、他の研究者が行っていないエッジの効いたテーマを研究し、論文としてまとめる。そしてその論文が他の研究者に引用され、共有していくことに価値があるからです。そしてこの思考や価値観は、ビジネスでもそのまま変わりません。このようなディープテック的な概念は、これから大事だと考えています。
私の理想は、リバネスがなくなることです。それは世界の課題が全て解決し、世界が平和になった、ということだからです。このような考えの組織ですから、そもそも会社なのかどうかも分かりませんね。
田久保:研究者は、論文をどれだけ使われたがKPIなのに、ビジネスになった途端、隠しますよね。丸さんがおっしゃったように、どんどん使ってもらうことで、社会課題が解決する。ビジネスにおいても、そのような方向性が出てくることを期待します。