データサイエンティストが語る「価値創出」の知見とは?──BCGのプロジェクト事例・開発ツールを紹介

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世界をリードする経営コンサルティングファームのボストン コンサルティング グループ(BCG)は、2020年7月に大阪と京都にオフィスを開設。デジタル技術を活用したプロジェクトを通じてビジネスインパクトを生み出している。今回は、デジタル領域のプロジェクトを手がけるDigitalBCGのデータアナリティクスのエキスパート集団、GAMMAのメンバーが、実際のプロジェクト事例や開発ツール、働く環境などについて語った。
データサイエンティストが語る「価値創出」の知見とは?──BCGのプロジェクト事例・開発ツールを紹介

■登壇者プロフィール


ボストン コンサルティング グループ
リードデータサイエンティスト 溝江 宏真氏


ボストン コンサルティング グループ
シニアデータサイエンティスト 原島 慧氏


ボストン コンサルティング グループ
アソシエイトディレクター ヴァンワースム ダニエル氏


ボストン コンサルティング グループ
アソシエイトディレクター 泉 晃氏


ボストン コンサルティング グループ
シニアデータサイエンティスト バリトンパ ブリン氏


ボストン コンサルティング グループ
データサイエンティスト 横山 聡恵氏

戦略とデジタルテクノロジーを融合しクライアントの課題を解決

最初に登壇した溝江宏真氏は、まずボストンコンサルティンググループ(以下、BCG)とDigitalBCGについて紹介した。

「現代のビジネスにおいて、デジタルテクノロジーは欠かせません。BCGにはデジタルテクノロジーによる新たなビジネスの創出や課題解決を実現する専門チームとしてDigitalBCGがございます。従来からの戦略サポートと融合し、クライアントの課題解決を実現していきます」(溝江氏)


DigitalBCGは、専門領域や業務によって「GAMMA(ガンマ)」「Platinion(プラティニオン)」「Digital Ventures」の3つのチームに細分化されている。

GAMMAの主な役割は、機械学習やブロックチェーン、数理最適化などといったDXに必要不可欠な要素技術を使い、予測や最適化といったアルゴリズムを開発して課題解決を実現していくことである。そのため同分野に強いデータサイエンティストやAI開発エンジニアなどが在籍する。


現在GAMMAではデータアナリティクス領域のエキスパートがグローバルレベルで1100名以上在籍しており、グローバルトップクラスのデジタルチームだと溝江氏は説明した。

このようなアセットを武器に、様々な業種・テーマでクライアントの課題解決に取り組んでおり国内外で多数の実績があることを紹介し、原島氏にバトンを渡した。

なお、DigitalBCGについては以下レポート冒頭でも紹介しているので、深く知りたい方は参考にしていただきたい。

【参考記事】 ボストン コンサルティング グループ(BCG)が仕掛ける デジタル産業イノベーション事例【ビジネス(経営)×データサイエンス】

【事例紹介1】在庫スペースの最適化で物流コストを約20%削減

続いて登壇した原島慧氏は、スーパーマーケットチェーンでの在庫補充オペレーションの改善事例(物流コスト効率化)を紹介した。

スーパーマーケットには様々な種類の商品が陳列されているが、商品種類によって売れ筋は異なる。しかし在庫スペースを確認すると、売行きに応じた補充がされていない。例えば「りんごの3倍は売れるはずのバナナの在庫スペースが、3倍になっていない」というような課題が見つかった。そこで商品の在庫スペースと補充頻度を売れ筋に合わせて最適化することで、物流コスト削減を実現する取り組みを行った。

「現場を確認すると、サイズ・利益率・温度設定など、商品によって制約があることが分かりました。さらに在庫スペースもサイズがそれぞれ異なるなど制約は無数にある。そこで、この問題解決に最適な数理最適化のアプローチを取ることにしました」(原島氏)

数理最適化とは、現場の最適化問題を数理モデルで解決していく手法である。数理モデルは「①変数(多数の選択肢)」「②制約条件」「③目的関数(評価点)」といったパラメータから構成され、求める最適解を実現する変数の最適な組合せを導き出していく。

最適化問題の解決に数理最適化はよく使われており、身近なところではプロスポーツのリーグ戦の試合日程などで同手法が用いられているケースが多い。

原島氏はクライアントのビジネスサイドのメンバーと意見交換を重ねることで数理最適化を実現するために以下の各種パラメータを明確にした。

①変数
 - 各商品の在庫スペースの割当て
②制約条件
 - 各商品の売上予測
 - 各商品の組合せ
 - 各商品の管理温度(常温/冷蔵/冷凍 等)
 - その他
③評価点 (目的関数)
 - 物流コスト削減による利益の最大化

数理最適化では組合せが天文学な数になるため、事象に適したアルゴリズムを選定しモデルを作成していくのが一般的なアプローチである。今回のケースでは、「混合整数計画法(MIP:Mixed Integer Programming)」を採用した。

得られたパラメータを数式としてプログラム実装し、最適な変数の組合せを算出するMIPソルバーの開発を実行した。

「ソルバーの結果を見ると、例えば売れ筋商品であったのに在庫スペースが十分ではなかった商品の在庫スペースが、しっかりと確保されていることが分かりました。その分、スペースの捻出においては、売れ筋商品ではない商品の在庫スペースから充てていることも分かりました。

一見すると最適ではない調整のように思える変数も見られましたが、制約条件全体を把握できるMIPソルバーだからこそ、このような解が得られたと評価しています」(原島氏)


原島氏は、技術スタックについても紹介した。Pythonで最適化モデルを作成する際に活用するPuLP、多くのメンバーが共同で開発する際に用いられるDocker。今回のプロジェクトでは、関係者それぞれのOSが異なる環境であったという。

最適化モデルの作成は膨大な処理になるため、大規模計算プラットフォームを利用した。具体的にはAzureのサービスを使い、数百台のサーバーで同時に処理を行うことで、1万回以上の最適化問題の処理がわずか1時間ほどで完了することができた。

原島氏はプロジェクトを振り返り、次のように総括してセッションを終えた。

「今回のプロジェクトでは、アイデアの創出から、アルゴリズムの開発、ビジネスオペレーションの改善までを実施。GAMMAだけでなく、PlatinionやDigital Venturesとも力を合わせてプロジェクトを進めました。ソルバーの結果が出てから新たな制約条件が見つかるとの懸念もあったため、開発はアジャイルで行いました。

結果として、在庫補充の日数が伸び、物流コストを大きく削減する見込みが立ちました。ビジネス部門との実地検証、およびIT部門とのシステム実装を、クライアントのデータサイエンティストと協業しながら推進実現する次のフェーズへつながりました。」(原島氏)

【事例紹介2】不確実かつ複雑なコロナ禍の状況を予測・分析し戦略に活かす

新型コロナウイルスの影響を受け、今後いかにしてビジネスを展開していけばよいのか。続いて登壇したダニエル氏は、多くの企業や経営者が抱えている課題解決を実現する予測分析ソリューション「Lighthouse(ライトハウス)」を紹介した。

「Lighthouseは、何千にもおよぶ膨大なリアルタイムデータを各種エンジン(機械学習モデル)で分析することで、1カ月ほどの短期から1年以上にわたる中・長期まで、様々な未来を予測したシナリオを作成できます。そのシナリオを元に、経営陣は各種施策や戦略を打てるというものです」(ダニエル氏)

データは外部と内部の大きく2つに分かれている。外部データはいわゆるマクロ指標、一般的なデータであり、ウイルスの拡散や今後の動向、GDPの成長見積もり、政府の対策や政策に関する情報、オンラインユーザーの動向などがある。特徴的なのは定量データだけでなく、ロックダウン解除の時期など定性データも含まれていることだ。

一方、内部データは各企業における需要・生産・売上・在庫量などから、コマーシャル、人件費といった経費などの情報である。内部データと外部データを掛け合わせることで、より精緻な予測ができるようになる。

「データを分析するモジュール(シナリオ)は大きく4つに大別されます。次の感染拡大などを予測する疫学的シナリオ、消費者支出を予測する顧客の消費傾向シナリオ、検索などオンラインの消費者行動をモニタリングするデマンドモニター、売上など財務状況の変化を予測するセールス&ファイナンシャルシナリオです」(ダニエル氏)

同ソリューションはすでにグローバルで利用が始まっており、世界的な消費財メーカーでは経営戦略シナリオの設計や供給リスクや損益計算などに同ソリューションを活用しているという。ダニエル氏は次のような言葉でセッションを締めた。

「オペレーティングモデルの構築やケイパビリティの強化など、最終的なアクションはクライアントが判断すべきこと。しかし、判断材料や的確な意思決定ならびに戦略に寄与するツールでもあると考えています」(ダニエル氏)

【事例紹介3】最適な医療の提供や医療費削減を実現する「Patient Finder」

最後に登壇した泉氏は、BCGが開発したヘルスケア領域におけるデジタルテクノロジーソリューション「Patient Finder」について、事例も含めて紹介した。

「Patient Finderは、ヘルスケア領域におけるリアルワールドデータ(RWD)を統合し、機械学習処理を行うことで、同領域における様々なサービスの質向上や効率化、経費削減などに寄与する分析・予測ツールです」(泉氏)

RWDとは、臨床現場での診療に基づくデータなど医療領域で実際に発生しているビッグデータの総称であり、電子カルテや診療報酬内容なども含まれる。同ツールのアプローチとしては、患者の属性や状態によって、どの様な状態になる可能性が高いのか、治療や処方をした場合の成功確率などを機械学習により可視化しシミュレーション可能にしている。

これらの解析を患者の行動プロセス、「Patient Journey(ペイシェントジャーニー)」に適用し、患者がそれぞれの段階で抱えるペインポイントに対する課題を分析し、最適なアプローチ方法をデータ×AIモデルが予測し弾き出す、というものだ。

医療現場における具体的な利用用途としては、診断を受けてはいないが、病気の可能性が高い患者の予測や、このまま治療を続けていても、症状の改善が見込めない患者のスクリーニングとより適した治療方法への変更などにも活用できる。

「RWDとAIを用いてPatient Journeyを分析・理解することで、治療の最適化はもちろん、これまで見落としていたビジネス機会を得ることができます。実際、私たちのクライアントの中にも、疾患の進行リスクがある患者を特定し、既存の標準治療から新薬への切り替えを促進したケースがありました。治療法の違いをエリアごとにマッピングすることで、最適な医師や医療機関を充てることができた事例もあります」(泉氏)

泉氏はヘルスケア領域における、データならびにテクノロジー活用の事例についても紹介した。20年ほど前は小規模であったヘルスケアや保険サービスを手がけるある企業は、自社はもちろん、外部からのデータを積極的に収集・分析することで、事業を拡大。現在では事業規模約11兆円と、同分野で世界最大規模にまで成長したという。

アメリカのある保険会社では、データを分析することで患者の健康改善や治療法を再考、約10億ドルのコスト削減を実現した。泉氏はこのようにヘルスケア領域におけるデータ活用の隆盛を紹介すると共に次のように述べ、セッションを締めた。

「RWDとデータとAIを活用することで、病気の早期発見や確定診断のスピード向上はもとより、新しいサービスや治療方法の開発や創薬プロセスの革新も期待できると考えている。そのような取り組みのサポートを、今後も続けていきたいと考えています」(泉氏)

GAMMAデータサイエンティストの働く環境やマインドをリアルに公開

GAMMAのデータサイエンティストは、どのような働き方や思考を持っているのか。ダニエル氏がファシリテーターとなり、メンバー2人に質問を投げかけるかたちで、リアルなトークショーが行われた。

まずは2人の「典型的な1日のスケジュール」を発表するところからスタートした。

テーマ1:典型的な1日のスケジュールは?


ブリン:薄い青色がメンバーやクライアントと議論を交わす業務です。一方、濃い青色は個人で行う業務になります。私はスタート時刻が遅めで、終業時刻も遅くなっています。

横山:私は朝の方が集中できるタイプなので、このようなシフトにしています。そして、夜の時間帯はなるべく個人の時間にあてるようにしています。業務が忙しいときは、夜遅くまで仕事をする日もあります。

スケジュールの調整に関してはチーム内で共有・確認し、それぞれがベストな働き方ができるよう議論しながら、週に一度ブラッシュアップしています。

テーマ2:入社(異動)後に感じたこと、意外だったこと

ブリン:単に機械学習だけではなく、幅広い案件に携わることができます。BCGならではだと思いますが、どのような課題があり、どう解決していくべきか。戦略コンサルティング企業としてのベースを踏まえた上で、テクノロジーを活用していきます。案件のサイクルが短く、スピーディに進むのも特徴です。あとは技術研修が充実していることですね。

テーマ3:BCGで働くことで、データサイエンティストとしてスキルアップできること

横山:私も研修が充実していると感じています。実際のプロジェクトでも技術に限らず、戦略コンサルティングチームと共に働くことで、ビジネス的な知識の蓄積やスキルの向上もできると感じています。

テーマ4:今後の目標やキャリア展望について

横山:もともとは戦略コンサルタントチームに所属していた背景もありますので、GAMMAで技術面のスキルを磨いた上でいずれはデジタルとビジネスのの架け橋を担えるような、そして海外でも活躍できる人材に成長することが目標です。

ブリン:コンサルティングスキルはもちろんですが、より技術の専門性を深めたいですね。そして将来は、海外オフィスで働くことも選択肢にあります。国によって主に取り組んでいるプロジェクトの領域・業界が違うので、業界ごとに異なる専門知識、強みを高められる機会になると思います。

【Q&A】参加者からの質問に登壇者が回答

参加者からの様々な質問が寄せられたので、その回答も紹介する。

●商品配置最適化による物流コスト削減について

Q:在庫スペースの最適化は、現場メンバーでは対応できないのか。

原島:熟練のご担当者が独自に最適化をされていることもございますが、人的対応ではやはり限りがあります。制約条件を全て変えて多数のパターンを確認したい場合ボリュームが膨大となり、最適解にたどり着くのは難しいのが現実だと考えています。実際、ソルバーの結果がより良い内容でもありました。

Q:遅い時間に行くと社員食堂の人気メニューが売り切れている。同手法で改善できるか。

原島:社員食堂に限らず、予測アルゴリズムを作ることで課題解決につながる事例であれば、対応可能です。

●「Lighthouse」について

Q:LighthouseのシナリオはAI、メンバーどちらが作成しているのか。

ダニエル:両方です。GAMMA、データサイエンティスト側の定量データならびに技術に加え、戦略コンサルティングチームの定性的な観点の両方を組み合わせた上で、最終的なシナリオを作成しています。

●「Patient Finder」について

Q:Patient Journeyに、医師や病院の技量や良し悪しといった要素は、パラメータとして入っているのか。

泉:現状では入っていません。ただし、医療機関や医師により治療方法や技量は異なりますので、将来的にパラメータに加わる可能性はあるかもしれません。

●BCG Gammaチーム、データサイエンティストについて

Q:BCG Gammaのメンバーに加わるには、学位も含めどの程度の専門知識が必要か。

泉:個人的な感覚ですが、学位に関しては修士、博士が必須ではないと思います。仮に学士の方であれば、独学でデータサイエンティストの勉強を深掘りしている、コンテストに参加したなどの実績があることが望ましいと思います。

原島:私も泉さんと同意見で、学位のレベルは本質ではありません。素養としては、ある程度の研究経験は必要です。論文を2つ3つ読んで、使えるものをクイックに実装する案件もあるからです。

Q:自動化ツールの普及・活用によるデータサイエンス案件の外部委託の動向について。

溝江:RPAやDataRobotなどを活用されているお客様も増えていることを実感しております。一方で、そういった自動化ツールで解決できない課題が増えていることも理解しております。我々はお客様の課題に応じて適切な技術を使い問題解決を進めさせていただきますので、RPA等を活用することも当然ございますし、一からアルゴリズムを開発することもございます。

Q:プロジェクトでよく使う技術や技術スタックについて。

ブリン:Pythonがメインである以外は特にこだわりはありません。クライアント・問題に合わせ、最適な技術を選定しています。

Q:現在は在宅勤務がメインか。

横山:メンバーによりますが、私は今年に入ってからはほぼ在宅で、ほとんど出社していません。通勤時間が減ったことで、より自分の時間を確保できるようになりましたが、プロジェクトメンバー以外とのコミュニケーションが減ってしまったことが残念だと感じています。

ブリン:私もすでに1年以上にわたり、ほぼ在宅で仕事をしています。フェースツーフェースで伝わる様なことが伝わりにくくなったりするので、通常よりコミュニケーション力が問われ、その面でのスキルアップには良い機会と考えています。また在宅ですと、プロジェクト以外の人との接触が減ってしまい、少し孤独と感じる人もおりますので、最近ではGAMMA全体で交流イベント等を実施しています。

Q:コミュニケーションツールは何を使っているか

ブリン:オンラインでのツールはSlackがメインで、クライアントとのやり取りでもSlackを使うことがあります。

横山:社内では、Slackが頻繁に使われています。ミーティングではZOOMやTeamsを、クライアントとのコミュニケーションはメールを、急ぎの際は電話など、多様なツールを使い分けています。

Q:メンバーの専門性やバックグラウンドについて。

ダニエル:多くは理学系ですが、経済学など他分野のキャリアやバックグラウンドを持つメンバーもいます。

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