博報堂のデータサイエンティストが語る「ひと・社会をデータで動かす」生活者発想のデータエンジニアリング

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博報堂のデータサイエンティストが語る「ひと・社会をデータで動かす」生活者発想のデータエンジニアリング
「クリエイティビティで、この社会に別解を。」を掲げる博報堂において、データサイエンティストやエンジニアはどのような仕事をしているのか。今回は博報堂生活総合研究所の30年にわたるリサーチデータを使った具体的な業務事例を基に、博報堂のデータサイエンティストたちがどのように日本の生活者を読み解き、解釈しているのかを紹介する。 ※3月22日に開催された「TECH PLAY Data Conference 2023」より博報堂のセッションをレポート

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広告・マーケティング・メディアはテクノロジーと共に進化してきた

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株式会社博報堂
データサイエンティスト/ディレクター 宮腰 卓志氏

広告会社の仕事はテレビCMやWEBキャンペーンを作ることだと思われがちだ。だが、博報堂のデータドリブンプラニング局データサイエンス部で部長を務める宮腰卓志氏は、広告・マーケティング・メディアの仕事は、テクノロジーと共に進化を続けていると語る。

博報堂が創業したのは、今から1世紀以上前の1895年。以降、国内屈指の広告会社として、多くのユーザーの心を打つテレビやラジオのCM、新聞や雑誌広告などを数多く手がけてきた。その原点は紙メディアであり、その裏側には印刷技術といった「社会的なテクノロジー基盤があった」からだと、宮腰氏は強調する。

近年ではテレビやラジオ、新聞/雑誌に、バナー広告やリスティング広告などデジタルメディアも加わってきた。もちろんメディアだけではない。広告やマーケティングなども、世の中に普及しているテクノロジーと共に日進月歩で進化してきた。

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例えば、カスタマーエンゲージメントプラットフォームを提供する米国発のスタートアップBrazeと博報堂は2022年11月にパートナーシップを結び、CRM戦略を支援するコンサルティングサービスの提供を開始した。(詳しくはこちら

Google Analyticsで得たデータを基に、広告の入札最適化を実現するソリューション「Analytics AaaS for CPG」も提供を開始した。広告が企業の活動や売上にどう影響するのか、MMM(マーケティング・ミックス・モデリング)とのアプローチを適用したサービスを展開していく。

「これらのデータエンジニアリングやサービスの創出においては、博報堂のデータサイエンティストやエンジニアが当然携わっています」(宮腰氏)

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生活者を全方位的に捉え深く洞察し、新しい価値を創造していく

宮腰氏は博報堂が大切にしている、フィロソフィーの一つである「生活者発想」を次のように紹介した。

「単にメディアで情報を発信するのではなく、生活者の背景・家族や仕事・心理といった要素を全方位的に捉えて、深く洞察する。その際にテクノロジーを活用することで、新しい価値を創造していきます」(宮腰氏)

このようなフィロソフィーに則り、博報堂は1960年代からマーケティングサイエンス研究に取り組んできている。 1990年代に入ると大規模な生活者調査を継続的に実施していく生活定点調査を実施しており、30年経った現在では膨大なデータが蓄積されている。それらのデータを他の調査データなども統合してシステム化し、企業のマーケティング活動を支援するソリューションを構築してきた。「このソリューションの提供こそ、現在のビジネスのメインになりつつある」と、宮腰氏は語った。

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単にマーケティング効率化のソリューションを提供するだけではない。「社会実装してこそ価値を生む」という考えのもと、これらの業務においてもデータサイエンティストやエンジニアが従事している。宮腰氏はその具体例を2つ紹介した。

1つは富山県朝日町と、デジタル田園都市国家構想の社会実装を開始した取り組みだ。地域コミュニティを活かした共助・共創型サービスで地域の活性化を目指す。

もう1つは、b8ta Japanと体験型ストアを活用して新規事業の受容性検証を支援する「X-PROTO」を共同で提供開始するというものである。

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全領域の業務に幅広いアセットを活用しアプローチできる環境

宮腰氏は、博報堂の社風やデータサイエンティスト・エンジニアたちの働き方の特徴についても、「粒ぞろいより、粒違い」「共創・協働」とのキーワードと共に紹介した。

データサイエンティストはデータサイエンスやデータエンジニアリングだけを行う分業制ではなく、全領域の業務に携わるという。

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アプローチにおいても統計学や機械学習などの領域に限ることなく、人文科学といった分野などもフル活用しながら、生活者を深く洞察していく。それらを深く洞察するアプローチこそ、博報堂のデータサイエンスやエンジニアリングという「仕事の面白み」だと宮腰氏は強調する。

そして、多種多様な職種の人材が集まる「HAKUHODO DX_UNITED」という組織が紹介された。DXプロデューサー、プラナー、マーケター、デザイナー、データサイエンティスト、エンジニアなどのメンバーが、博報堂に限らず、グループ会社も含めて、約700名が結集した組織だ。

このような“粒違い”のメンバーによるコラボレーション事業、具体的にはマーケティングリサーチャーと、データサイエンティストによる協働事例を紹介すると話し、次のメンバーにバトンを渡した。

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「消齢化」は実際に起こっているのか。30年分のデータから検証

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株式会社博報堂 
データサイエンティスト/マーケター 澁江 耕介氏

続いては、博報堂のデータサイエンティスト/マーケター 澁江耕介氏が登壇。まずは、博報堂生活総合研究所(以下、生活総研)が30年間実施している大規模調査の概要を紹介した。

生活総研では、1400項目にも及ぶ生活者への調査(生活定点調査)を1992年から30年間にわたり、東京近郊圏と阪神圏の20代から60代の男女に対して、隔年で実施している。

調査項目は「食」「遊び」などをはじめ、多岐にわたっている。結果は「生活定点」という以下のWebサイトで公開しており、誰でもアクセスすることが可能だ。さまざまな項目のアンケートの推移をグラフで分かりやすく知ることができる。

博報堂生活総合研究所による定点調査「定点生活」

「1年以内にゴールデンウィークに遊びに出かけた」調査では、新型コロナウイルスによる影響を大きく受けていることが分かる。

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また、調査結果が類似している他の項目を提示するユニークな機能も備えており、澁江氏も個人的に好きだという、20代女性の「経済状態」と「酢の物が好き率」のデータ推移がかなり類似しているというグラフも紹介された。

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生活総研では毎年洞察を発表している。2023年のテーマは「消齢化社会」。消齢化とは、年齢による意識や価値観、好みなどの違いが小さくなっていくことであり、このような傾向が最近のトレンドだという。

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そして、ここからはまさに生活総研とデータサイエンティストのコラボレーションになる。これまでのデータを科学的にデータサイエンティストが調査・検証し、解明していくプロジェクトが動き出している。

対象となるデータは、「年間3000人×約1400項目×30年分」と膨大だ。澁江氏はプロジェクトのアプローチについて、次のように語った。

「差分・分散・有意差検定など、いろいろなアプローチ手法を考え検討した結果、今回のプロジェクトでは、『情報エントロピー』という指標を用いて分析することとしました」(澁江氏)

情報エントロピーとは、乱雑さや無秩序さといった不確かさを示す指標で、大きければ個々が判別できない。逆に小さければ、個々が判別できるということになる。

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そして、この情報エントロピーを活用し、設問ごとのエントロピーの時系列推移を出すと同時に、全体を俯瞰する。その結果、大半の設問においてエントロピー2.0付近であることが分かった。

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そこで、時系列データ同士の類似度を調べることができるアルゴリズム「DTW(Dynamic Time Warping/動的時間伸縮法)」を用いて、エントロピーの時系列的な推移をクラスタリング。4つのクラスタに分類できた。

そして違いが最も小さいクラスタ「0」が最多であったことから、「消齢化が起きている」ことがデータ検証からも明らかになったと結論づけた。

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クラスタ分類はDemographicsからPsychographicsへ

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株式会社博報堂
データサイエンティスト 牧野 壮馬氏

続いては、牧野壮馬氏が登壇。設問数からのアプローチでも、年代による差が小さくなっている設問の方が多く、消齢化が起こっていることは明らかであったと説明を行った。

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また、そのような小差化している質問のひとつである「恋愛」に着目し、さらなる検証を続けた。実際に調べていくと、恋愛においても年齢による差が縮まっている。

つまり、恋愛意欲の年代差が縮小(消齢化)していることを、グラフをもとに解説した。

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牧野氏はその他にも「お酒を飲む」「情報は自分で検索しながら手に入れたい」など、具体的に消齢化が進んでいる項目を示した。 そして検証結果の見解を次のように述べている。

「これまでは性別や年齢、居住地や家族構成といった、デモグラフィックス的な属性によりクラスタ分けしていました。しかしこれからは、価値観や趣味、生活様式といった心理的な属性で分けることが有効性を増すのではないかと考えています」(牧野氏)

粒違いのメンバーが多種多様なフィールドで活躍

セッションの最後は、再び宮腰氏が登壇。博報堂も含めた博報堂DYグループでは、以下のスライドのようにクライアントサイド、自社内のシステム開発など、どちらの業務も多岐にわたっていることを説明した。

先述した内容にも重なるが、データエンジニアリングからシステムへの実装まで、さまざまなフェーズや領域の業務が、多様で粒違いなメンバーにより生み出されていること。このような特徴を踏まえて、改めてデータサイエンティスト・エンジニアたちに次のようなメッセージを送り、セッションをまとめた。

「生活総研の調査を通じて、世の中にはどのような動きがあるのかを知ることができます。このようなテーマで博報堂DYグループが持つデータ活用、広告、メディアの仕組みをつくりたい方々を歓迎いたします」(宮腰氏)

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株式会社博報堂
https://www.hakuhodo.co.jp/
株式会社博報堂の採用情報
https://hmp-career.jp/

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