パナソニックのデータサイエンティストたちが語る、空調設備の世界を変えるデータのインパクトとは

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パナソニックのデータサイエンティストたちが語る、空調設備の世界を変えるデータのインパクトとは
「幸せの、チカラに。」をブランドスローガンに掲げるパナソニックグループ。家庭用製品や住宅設備のようなBtoCから、航空機や自動車といったBtoBまで、幅広い事業領域で様々なIoT機器がある。それらのデータを新たなサービスや製品開発に活かすべく、データエンジニアやデータサイエンティスト、機械学習エンジニアの活躍が期待される。パナソニック インフォメーションシステムズとパナソニック空質空調社におけるデータ活用の最前線で活躍するエンジニアたちに、現在の仕事や、やりがいについて語ってもらった。

ネットワークに接続された空調設備にもっと付加価値を

──まずは、お二人の現在の担当業務について教えてください

小泉:パナソニック インフォメーションシステムズ(以下:パナソニックIS)は、パナソニックグループが持つ様々なデータを収集・分析し、価値に変える役割を担っています。私は、パナソニック製品のIoT機器から収集されるデータを分析するチームのリーダーを務めています。

パナソニックISのIoT分析チームが結成されたのは2015年ですが、その以前から家庭用製品のネットワーク化、IoT化は進んでいました。現在はテレビやBlu-ray/HDD録画機、家庭用エアコン以外にも、冷蔵庫、オーブンレンジ、炊飯器、洗濯機やロボット掃除機など、多くの家庭用製品がネットワークに繫がり、便利な機能をご利用いただけます。

パナソニックISはパナソニックグループ全体の情報システムを担う会社として、全社視点でそれらのデータ活用を支援しています。

パナソニック インフォメーションシステムズ株式会社 小泉 京平氏
パナソニック インフォメーションシステムズ株式会社
データ&アナリティクスソリューション本部 アナリティクスソリューション事業部
IoT・SCMデータ分析部 IoTデータ分析チーム チームリーダー 小泉 京平氏

菊地:パナソニックの空質空調社は、家庭用エアコン、業務用空調機器、ヒートポンプ式給湯器、温水暖房機などの空調関連製品の開発・製造を行っています。私の担当業務は、家庭用ルームエアコンのデータ分析です。

例えばパナソニックの家庭用エアコン「エオリア」は、アプリで遠隔操作やモニター機能、節電機能など、様々な設定ができるようになっています。匿名化されたユーザーの利用状況やIoT機器データなどを活用した故障診断も可能です。今後もより快適な機能を提供するために、私たちはデータを活用した付加価値づくりに挑んでいます。

パナソニック株式会社 空質空調社 菊地 啓太氏
パナソニック株式会社 空質空調社
ソリューション事業開発センター 付加価値開発部
データサイエンティスト 菊地 啓太氏

データの重要性に気づき異動。人の行動分析に興味があって入社

──お二人がパナソニックに入社し、現在の担当に就かれるまでの経緯を教えてください

小泉:大学・大学院では、情報工学専攻で人間の視覚に対して、ニューラルネットワークを使ったり心理物理実験を行ったりする研究室に所属していました。私はそこで質感について、CGを使った人間の質感認識処理に関する研究をしていました。こういった視覚に関する研究が活かせると考えて、パナソニックのテレビ事業部で、テレビの信号処理設計を担当していました。

当時はテレビがデジタル化する前だったこともあり、画質を向上させる機能はハードウェアが担っていました。しかし、テレビがデジタル化するとともに、ソフトウェアで実現する比重が高まり、私自身も大学の専攻は情報工学だったので、これからはソフトウェアが製品の鍵を握ると考えるようになりました。

そんな折、白物家電を担当する異動辞令が届きました。家庭向けの製品がIoT化していく中で、今後デジタル回路やネットワーク機能を開発できる人材が必要ということで、そこに携わってほしいという話だったんですね。

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新たな部署では、クラウドサービスの立ち上げがミッションでした。最初はデジタル回路設計を担当していましたが、組込みソフトウェア、クラウドサービスのサーバーアプリ開発などに、自分でもコードを書きながら、技術領域を広げていきました。

クラウドサービスを立ち上げると、データがどんどん溜まっていきます。このデータを上手く活用できないかという思いが、次第に強くなっていったのです。ちょうどパナソニックISがデータサイエンティストを募集していたので、社内の部署やグループ内の企業に応募できる制度を利用し、2017年に異動しました。

菊地:私は大学・大学院で人間工学を専攻し、3次元映像が人間の心理にどのような影響を与えるかを中心に、人間の行動を研究していました。人の行動データ、いわゆるライフログを、人の生活に関わる価値に変えられるのかは、その頃から今も続く関心事です。

パナソニックを就職先に選んだ理由は、身の回りにある機器のIoT化を進めている話を会社説明会で聞き、まさに人の生活に密着したデータを扱う仕事だと思ったからです。

2014年に入社後、最初に配属されたのが、人の睡眠時の体の動きをセンシングしたデータを使って寝苦しさを判定し、エアコンをどう制御すれば快適に眠れるかを研究するプロジェクトでした。そこではスマホのジャイロセンサーで体の動きを検出し、そのデータを元にエアコンを制御するアプリ「おやすみナビ」を開発しました。

現在は、エアコンの故障診断をテーマに、エアコンが正常に動いているか、万一故障した時はその原因は何なのかを、データから分析・判断する技術開発に取り組んでいます。

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エアコンの「つけっぱなし判定」機能を生んだ協業プロジェクト

──パナソニックISと空質空調社で、お二人が所属するチームが協業して進めてきたプロジェクトがあるそうですね

小泉:ルームエアコン「エオリア」シリーズの2019年モデルから搭載された「つけっぱなし判定」の機能です。電気代を節約するためには、外出時にエアコンを切った方がいいのか、そのままつけっぱなしにした方がいいのか。その判断は家・部屋の断熱状態の影響で大きく異なり、なかなか難しい問題でした。

「その家による」という元も子もない答えではなく、データ分析を通して最適な解をユーザーに提供するアプリの開発プロジェクトです。例えば、ユーザーが外出する時に、「今から何分間外出するのか」をアプリに入力するだけで、外出時にエアコンを切るべきか、つけっぱなしにするべきかを自動判定します。

アプリはエオリアが保有する住宅環境データや運転設定条件と、気象予報会社が提供する外気温の予想データなどを組み合わせて判定します。エアコンをつけっぱなしにして出かけた場合、一旦切って帰宅時に運転再開した場合のそれぞれかかる電気代を算出し、比較できるようにしています。最終的な判断はユーザーに委ねますが、その判断の目安が得られるわけですね。

──この機能は、昨今の電気代の高騰下ではユーザーの関心も高いでしょうね

小泉:以前は、IoT機器のデータは各事業部が集めて各々が活用していたのですが、2017年にパナソニックグループ横断のデータ活用プロジェクトが始まりました。

その分析結果を空質空調社にも提供したところ、エアコン自体に「つけっぱなし判定」機能を持たせたらどうだろうという話になったのです。そこで予測モデルを開発し、エアコンやアプリに搭載するところまで、菊地さんのチームと一緒に取り組みました。

菊地:電気代予測ができるモデルの話を小泉さんから聞き、「これは面白い」と思いました。そして私たちは、そのモデルをお客様向けのサービスにどう活かせるかを検討しました。

ところが、予測モデルを実際のサービスに組み込む上で、必ずしもモデルが全ての利用データで正しく予測できるわけではない問題が発生したのです。例えば、ユーザーが想定外の使い方をした場合、電気代が異常値を示す例がありました。

そうした異常データがあったときは、どのような対応をすればよいか。製品事業部としては品質保証の観点でも対峙する必要がありました。

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小泉:私はモデル開発に注力していたのですが、予測モデルを実際のシステムに組み込んだ際に、例外処理が発生してしまう問題を菊地さんに相談しました。

これは機械学習やデータ分析と機器制御の知識、両方の領域に知見がないと、システムに落とし込むのが難しいんですね。そこでデータ分析に加えて機器制御の知識を持つ菊地さんに協力してもらい、なんとか解決することができました。

──「つけっぱなし判定」に対するユーザーからの反応はいかがですか?

菊地:家電量販店の売り場でも「つけっぱなし判定機能があるから、パナソニックのエアコンにしよう」というお客様の声があると聞いています。ダッシュボードで、実際の使用状況を常に見ていると、アプリユーザーの30%に使っていただいているようです。ユーザーアンケートでも、「機能として使ってよかった」ランキングの上位に入っています。成功したソリューションの一つだと言えるのではないでしょうか。

──小泉さんと菊地さんはそれぞれ立場が違いますが、お互いの協業が進むことでグループ全体に及ぼす影響はありますか?

小泉:私はグループのIT部門として、データ活用基盤や分析サービスを提供する立場、菊地さんは空質空調社でそれらのデータを活用して製品やサービスに落とし込む立場です。

今回の協業では、立場は違っても、使っていただくお客様への価値提供を共通課題として議論し合うことで、結果的に良いプロダクト、良いサービスを一緒に作り上げていることを実感できたと思います。この取り組みをきっかけに、データ分析の価値を事業会社に認識してもらえたと思っています。

事業会社としては、データを活用したアプリ開発も大切だとわかっていても、人材とスキルの有無でデータ分析は専門部隊の協力が必要になると思うんですね。我々はパナソニックグループのデータ活用を引っ張っていく組織だと自負していますから、事業会社のためのデータ分析は全力でサポートします。そして、各事業会社が自らデータ活用できる支援についても取り組み、どんどん先進事例を作っていきたいと思います。

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──パナソニック各社が活用できるIoTデータ分析基盤は、具体的にどのようなものがあるのでしょうか?

小泉:IoT機器から得られるデータをユーザーの個人情報に配慮した形で、安全に蓄積・活用できる環境を活用しています。

データサイエンティストやエンジニアが用いる分析環境としては、目的に応じ、またその時に旬な技術と判断した環境を使い分けています。例えば、ビジュルアル分析のプラットフォームとしてはMicrosoftの「Power BI」やSalesforceの「Tableau」を用いることが多いです。

パナソニックのIoT機器から集まるデータは、ペタバイトスケールにもなる膨大なものですから、その処理を効率的に進めるためには処理に応じてリソースを柔軟に変更できるシステム環境が必須です。データ集計には「Snowflake」や「Amazon EMR」で「Apache Spark」なども活用しています。

──こうした個々の技術選定は、パナソニックIS、空質空調社それぞれのエンジニアの裁量で行われるのでしょうか?

小泉:データ分析の分野は常に新しい技術が誕生していますから、そのリサーチは欠かすことができません。私たちには、それらを各事業会社に伝えるというミッションもあります。もちろん技術選定のイニシアティブは取れます。ただ、いずれの会社も組織が大きいこともあり、全員が満足する仕組みを作るのは難しいですが、やりがいのある仕事です。

菊地:空質空調社は、若手の活躍も著しく、裁量範囲は広いと思います。先ほどの「つけっぱなし判定」を担当したのは、入社5年目の時でした。システム構築からインターフェイス設計などを任せてもらえましたね。

もちろん全く経験がなかったので、失敗も多かったのですが、そこは上司がうまくフォローしてくれました。どんな小さな役割でも、任されることで若手は成長します。若手に任せつつも、上司がフォローしてくれる風土があると思います。

現在は入社8年目を迎え、当時の上司に当たる立場になりました。その時の感謝の気持ちが忘れられず、私もメンバーに役割を割り振り、各人に任せるようにしています。

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ユーザーの行動を想像する力と、金脈を発見する喜び

──IoT機器のデータ活用を進めていく上で、データエンジニアやデータサイエンティストに求められる資質や知識は何でしょうか?

小泉:データを見て、IoT機器を使うユーザーや自分自身が使っている時をイメージできることです。例えばエアコンの温度設定を変えた時に、このユーザーはなぜ温度を変えたのか。部屋が暑いと思ったからなのか、それとも別の理由からなのか。データは単なる数字でしかないので、その人の気持ちを私たちは想像しなければならない。それができないと、分析はできないのです。

自分で考えてもわからない場合は、実際に製品開発しているエンジニアに聞くようにしています。もちろん、私たちも普段使っている製品でもあるので、自分たちでも考えられることも多く、一人のユーザーになって考えてみれば、想像がつくかもしれない。その上で、仮説を立てて検証する。

温度設定を変えるというユーザーの行動の背景には、何か不快を感じている部分があるかもしれない。それを検出することで、いろいろ分析のアイデアが出てくるし、最終的にはそれを製品の改善に繋げることができる。それがデータ分析の難しいところであり、面白いところでもあります。

それを繰り返すことで、自分の中で製品のデータ構造やその中身の動きがだんだん理解できるようになります。まずは製品に興味を持ち、データをできるだけ自分の身近に置き換えていくことが大切だと思いますね。

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菊地:データサイエンティストに必要なのは、基本的なところでいえば、PythonやSQLでデータを処理する技術だと思います。そうした基礎技術を身につけた上でドメイン知識、例えばIoT機器の開発など、経験を積むことで強みを持つことですね。

エアコンの故障診断というテーマでいうと、ドメイン知識とデータ分析の知識を両方持ってる人はニーズが高いと思います。当社では、データ分析技術を社内研修でしっかり習得することができますから、製品のドメイン知識を強みに、入社してからデータ分析技術を磨きたいという人も大歓迎です。

あとは小泉さんと同じく、データを通してユーザーの行動をどれだけイメージできるかが一番大切だと思います。そこからロジックを立てて、仮説を立てて検証していく。その繰り返しだと思います。

データマイニングは、金脈からどうやって価値を掘り出すかという仕事ですから、簡単なことではなく、時間もかかります。そこに根気強く取り組める人と、価値を発見した時にそれを楽しいと思える人がこの仕事に最も向いているのではないでしょうか。

小泉:いろいろな製品で、一人ひとりのライフスタイルに応じたパーソナライズが始まっています。どの家庭にもある機器であり、良い暮らしを実現することで、社会へ貢献できる。また、子どもにも「これはパパが作った技術なんだよ」と自慢できる。それが製品に関わる究極の面白さだと、私は思っています。

菊地:テレビとエアコンと冷蔵庫が繋がれば、テレビが「隣の部屋のエアコン、誰もいないから電源を切ったほうがいいですよ」と喋ってくれるようになる。家全体の暮らし方をIoT機器がコントロールしてくれる世界も近づいていますね。

小泉:単なるバーチャルの世界に閉じて完結するのではなく、実際の生活に影響を起こせることが、製造業の強み。データ活用がモノの世界で起こすインパクトは、今後ますます大きなものになろうとしています。そこでデータサイエンティストやデータエンジニアとしての力を発揮してくれる仲間がもっと増えてほしいと期待しています。

パナソニック インフォメーションシステムズ株式会社
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