100年続く老舗印刷会社が挑む、X-TECH。 地域活性のための「まちテック」とは? 100年続く老舗印刷会社は、X-TECHで「まち」をどう変えるのか?

インタビュー 公開日:
ブックマーク
100年続く老舗印刷会社が挑む、X-TECH。 地域活性のための「まちテック」とは? 100年続く老舗印刷会社は、X-TECHで「まち」をどう変えるのか?
仙台市が実施している「仙台X-TECH イノベーションプロジェクト」(以下、X-TECHプロジェクト)」。特に2021年からは、AIを中心とした最先端テクノロジーを用いた社会課題解決や新規ビジネス発掘支援を目的に、セミナーやイベント、ワークショップなどを開催している。 これまでのX-TECHプロジェクトの歩みを振り返るべく、参加者への特別インタビューを実施。今回は、創業100年を超える老舗企業、今野印刷株式会社 代表取締役社長の橋浦隆一氏が登場。仙台経済同友会の副代表幹事としても活躍し、地域経済界のリーダーの中でも「仙台市のDXを先導する一人」でもある橋浦氏。X-TECHプロジェクト参加前後の変化や、現在どのようなアクションを起こしているのか、伺った。

<プロフィール>
今野印刷株式会社代表取締役社長。
大学卒業後、株式会社第一生命経済研究所にてエコノミストとして活躍。金利・為替・証券分析を専門に行う。2000年、今野印刷株式会社 5代目代表取締役社長に就任。

目指すは、時代の変化に柔軟な「創業100年のベンチャー企業」

―改めて、今野印刷の事業紹介をお願いいたします。

橋浦:今野印刷は、創業115年になる仙台市に根ざした会社です。100年続く会社は、「昔ながら」というイメージもあるかもしれません。しかし、時代の変化に対応できているからこそ存続できているのです。弊社は変化に対して高い対応力があると自負しています。
100年続く老舗印刷会社を誇りに思うと同時に、目指しているのは「創業100年のベンチャー企業」です。特に、印刷業界は非常に変化が激しい業界でもあります。活版印刷、カラー印刷、オフセット印刷という印刷技術の大きな変化、そして時代とともにデジタル化の流れも。
弊社では、そういった世の中の大きな流れをうまく捉え、チャンスとして生かしていこうと考えています。印刷会社でありながら、子会社にはWebやSNSの発信、映像の編集、ドローン撮影、スマホアプリ開発、BPOなどの事業も抱えています。紙媒体に限らず、デジタル媒体、そして看板や店頭POPなどのリアルの場も含め、お客様のニーズに幅広く対応するスタンスで事業展開をしているのです。
実は、印刷業界の周りには実はたくさんのビジネスが眠っています。お客様は紙媒体だけを使ってプロモーションをしたいわけではないのですから、トータルで手を打っていきたい。だからこそ紙媒体を中心にデジタルと融合させていこうと考えています。

―では、X-TECHプロジェクト参加のきっかけを教えてください。

橋浦:副代表幹事を務めている仙台経済同友会への案内がきっかけだったかと思います。元々、AI活用には興味があったので、「1回セミナーを聞いてみようかな」ぐらいの軽い気持ちで参加しました。「AIとは何か」の勉強会から始まり、Pythonでのプログラミング、ニューラルネットワークの仕組みなども勉強できて、とてもためになりました。

業務改善×社会課題解決で、「仙台まちテック」が生まれた

―今野印刷がDX推進に力入れてる理由は?

橋浦:特段、DX推進を目的にしていたわけではなく、事業のために取り組んだことが結果的にDX推進につながったという感覚です。目の前の課題をラクに解決できるんだったら、ダメもとでも新しい仕組みや技術を使ってみよう、という気持ちでAIを始めとしたデジタル技術を使っています。もちろん、取り入れてみて上手くいかない場合だってあります。でもまた次、上手くいく方法を見つければ良い。ビジネスの可能性を広げるために、AI技術を上手く活用していきたいですよね。

―X-TECHプロジェクトでは、どんなイベントに参加しましたか?

橋浦:まず最初に参加したのは経営者向けのAIのセミナーです。その後、AIを使った業務改善のヒントにつながるワークショップにも参加しました。そこでは、AIを使った業務改善のためには「二つの視点」が大切であると学びました。「自分たちの業務改善」そして「社会課題の解決」という視点です。この二つを両立させると、新しいビジネスモデルが生まれ、次の事業展開やイノベーションに繋がっていくのです。
ここで学んだことを基にビジネスモデルを書き、「仙台X-TECHイノベーションアワード2022」の優秀賞も受賞しました。

―どのようなビジネスモデルか、詳しく教えていただけますか?

橋浦:AIを活用した「手書き帳票のデータ化」で既存事業の効率化を図り、さらにその顧客情報を活用し、商店街の活性化を図る仕組みです。商店街が持っているアンケート結果や紙ベースの顧客情報をAI-OCRでデータに落とし込む。そしてBluetoothの電波やAIカメラからも人流データを抽出し、AI解析。そのデータに基づいて人を集めて商店街を活性化させようというビジネスモデルです。
元々、弊社では業務改善のためにAI-OCRを使用していました。その技術を「コロナ禍で打撃を受けた商店街の活性化」という社会課題解決と掛け合わせる発想に至ったのは、X-TECHプロジェクトの学びのおかげでしたね。

―AIを活用した商店街活性化について、その後の進捗も教えてください。

橋浦:仙台市からの支援を受け、まずは実証実験を行いました。商店街のイベントに合わせて小規模に人流調査を行い、通行人の属性やイベント前後での人流変化などを調査。なかなか有用なデータが集まりましたよ。現在はもっと規模を広げ、経済産業省のDX関連の助成も受け、「仙台まちテック」というプロジェクトを立ち上げました。
東北を代表する百貨店の株式会社藤崎や、地元チェーンの飲食店、株式会社ハミングバードインターナショナル、そして商店街をまとめる中心市街地活性化協議会とアライアンスを組み、大規模な人流調査を行っています。例えば、今後は人流データを解析し「お店の前の看板をどう変えるか」「人流が少ない時にはどんなSNSでの発信が効果的であるか」「百貨店のイベントをした時に周辺の商店街にはどんな波及効果があるか」などの視点で活用していきたいと思っています。

AIやDXはあくまで課題解決のためのツール。学べば思考の引き出しが増える

2

―参加者から見て、X-TECHプロジェクトに参加することのメリットはどんな点にありますか?

橋浦:X-TECHプロジェクトは、単に知識を吸収する場ではなく、良質な出会いの場でもあったと感じています。実際にワークショップの講師でもあったAI活用コンサルタントの高橋蔵人さんともアライアンスを組み、事業にまで発展しました。また、X-TECHプロジェクトで出会った方との情報交換の中でソーシャルイノベーションの知見を学ぶこともあります。講師を含めた一つのコミュニティとして交流が広まり、その中でさらに学びが広がり、実践の場にまで広がる場所。良い出会いがもたらされると感じています。

―今後のX-TECHの取り組みへの展望も教えてください。

橋浦:今後弊社が取り組むべきことは、お客様に寄り添い、動向に合わせた媒体展開を効率的に提案するためにデータを活用することです。いくら良質なデータがあっても、効率的な提案ができないと意味がありません。だからこそこれからも印刷会社としての基本をしっかりと磨き続ける。その中でデータやAIを活用できれば良いなと思っています。
AIをはじめとしたテクノロジーは、あくまで問題解決のツールです。まずはお客様がどんな課題を抱えているのかに寄り添うことから、というスタンスは変わりません。

―最後に、これからX-TECHプロジェクトに参加される方々にメッセージをお願いします。

橋浦:まずは「自分たちは今どんな課題を抱えているか」を掘り下げることから始めてください。「何でも良いからAI活用やDX化をやろう」という本末転倒な考えではNGです。課題を掘り下げると、恐らく今までのやり方では非効率的な部分が見えてくると思います。そういった時にデジタルの力を借りるとラクになることがあるはずです。
まず、自分たちの足元を見直してからデジタルを活用する。この順番を間違えてはいけません。そして、デジタル活用を考える上で、X-TECHプロジェクトはとても有効な場です。
もしも、現在AIやデジタル技術の具体的な活用法が決まっていなくても、考え方のベースにAIやDXの概念があれば、新しい課題に直面した時の引き出しが増えます。どんな方にも有効な知識ですし、あまり難しく考え過ぎず、まずは参加してみてほしいですね。

テクノロジーと共に成長しよう、
活躍しよう。

TECH PLAYに登録すると、
スキルアップやキャリアアップのための
情報がもっと簡単に見つけられます。

面白そうなイベントを見つけたら
積極的に参加してみましょう。
ログインはこちら

タグからイベントをさがす