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【レポート】地方に拠点を置くエンジニアがコミュニティで知識を共有することの意義~仙台データ活用勉強会

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【レポート】地方に拠点を置くエンジニアがコミュニティで知識を共有することの意義~仙台データ活用勉強会

IT産業を活性化させることで、地域経済の底上げや地方創生につなげようという動きが今、日本の各都市で起きています。

その一つである宮城県仙台市は、中長期的にIT産業を発展させる土台を築くために、行政主導の取り組みだけでなく「官民連携によるイノベーションエコシステムの形成」にも力を入れてきました。

この一環として立ち上がったのが、エンジニアやデザイナー、テクノロジーに関わる人たちが技術情報やノウハウを交換し合えるコミュニティ『SENDAI IT COMMUNE』です。

同コミュニティは、仙台市にオフィスを持つIT・Web企業が中心となって、ミートアップイベントや勉強会を開催してきました。特徴は、仙台のみならず首都圏に住むエンジニアとのつながりも作りながら、ナレッジシェアを促している点です。

このコンセプトの下で初開催した『SENDAI IT COMMUNE meetup #01』(2017年12月、東京のTECH PLAYにて)に続いて、さる2018年1月20日には、仙台市青葉区一番町にあるライブハウス「darwin」で『SENDAI IT COMMUNE meetup #02』を開催しました。

『データを活用したサービス開発の最新事例と、それを支えるために必須なクラウド技術』をテーマに行われた勉強会には、ゲストに仙台で働くIT関係者の他、東京で活躍するエンジニアも招聘。まさに仙台と首都圏をつなぐ形で知恵の共有が図られました。

ここでは、内容をダイジェストで紹介するとともに、エンジニアがコミュニティを介してナレッジをシェアし合うことの意味を考えていきます。

楽天&トレタの事例に学ぶデータ活用法

勉強会は二部構成で行われ、第一部は

半谷充生(はんがい・みつお)さん
楽天株式会社

増井雄一郎(ますい・ゆういちろう)さん
株式会社トレタ CTO

田籠 聡(たごもり・さとし)さん
トレジャーデータ株式会社

の3名が、「サービス&データ基盤の作り方」を披露。最初に登壇した楽天仙台オフィスで勤務する半谷さんは、同社のECマーケットプレイスである楽天市場の「当店通常価格」を正確に表示するためのデータ活用法を明かしました。

福島県出身で、現在は楽天の仙台オフィスで働く半谷さん

2013年、楽天市場はグループの一つであるプロ野球球団・東北楽天ゴールデンイーグルスの日本一に合わせて一大セールを展開。その際、一部のショップが商品の元値を不当に高く表示することでセール価格を安く見せかける「二重価格表示」を行い、これが景品表示法違反に当たる可能性があると問題になりました。

この問題を解決するべく、楽天では、4万を超える参加店舗の過去2カ月における表示価格をデータとして蓄積しておき、セールなどの際に不正な価格で商品を販売しないようチェックする体制を固めることになったそうです。

現在では2億3000万を超える商品数の「価格表示履歴」をリアルタイムに解析するべく、Hadoop Clusterなどを使った「ICHIBA DWH(楽天市場の各種データを蓄積・解析するデータウエアハウス)」を改修したといいます。

「これを主導したのが仙台オフィスでした。皆でどうやるかを考えた結果、Hadoop上で高速にビッグデータ処理を行うHiveを採用し、SQLを直接触ってクエリを書くことにしました。改修はだいたい1週間くらいでやり終え、今もこのDWHを軸に二重価格表示をチェックしています。今後も、よりリアルタイムなデータ解析が行えるよう、チューニングを重ねていきたいと思っています」(半谷さん)

続いて登壇したのは、飲食店向け予約管理システムを開発・提供するトレタでCTOを務めている増井雄一郎さんです。「一億人の予約データで作る新ビジネス」をテーマに、同社の取り組みを明かしてくれました。

PukiWikiやRuby on Rails、TitaniumなどのOSS開発にも積極的に参加してきたことで知られる増井さん

トレタは予約と顧客台帳に特化したSaaS提供を皮切りにスタートしましたが、現在では社内外でデータ収集&解析環境を整えることで、サービスの提供範囲を着実に広げています。

初期のトレタが収集していたデータは、予約を受けた顧客管理用に入力された情報のみでした。つまり、予約なしで来店した客や、お連れの人のデータは収集できていなかったことになります。

そこで、これらを店舗の従業員に負担をかけない形で取得するにはどうすればいいかを考えた結果生まれたのが、注文時にオーダー端末で入力する来店客の情報をPOS連携させるという仕組みでした。

「このやり方なら、『この人はウォークイン(予約なし)のお客さま』だと認識できるようになるので、次の来店時に『前回はどんなものを召し上がったか?』などの情報を見ながら接客できるようになります」(増井さん)

また、電話予約対応を支援するハードウエア『トレタフォン』の開発・導入によって、現在は営業時間外の予約電話に対してSMSでメッセージを送信するなどの接客も可能になっています。こうして、データを駆使して新ビジネスをどんどん立ち上げてきたのです。

「データを駆使して事業を作る」際の注意点

増井さんはそのためのステップとして、

  1. アプリリリース時にどうデータ取得をするか入念に検討
  2. 社内でのデータ活用を促すための仕組みづくり
  3. アプリ内分析を便利にするべく、単店でのデータ分析機能を提供
  4. 社内向けの高度な分析を可能にする体制構築
  5. POS連携のような高度な分析機能の提供

という5つのステップに分けて開発を進めてきたと話します。

「飲食業界はまだまだIT化が進んでいないので、トレタのアプリはほぼ100%、店舗の方に機能をご説明してから導入してもらう形になります。だから営業が必要で、その際にどんなデータを提案できると導入につながるか? を最初から議論してきました」(増井さん)

そこで構築したのが、BigQuery+SQLベースで「個人情報をマスクしながら分析・可視化できる体制」(下記リンク参照)でした。

BigQueryで作る分析環境(SlideShare)
トレタにおけるBigQueryの活用法について(トレタ開発者ブログ)

「サービスが成長していくと、お客さまから僕らが想定していなかったような使い方を希望されることも増えていきます。その場合も、まずデータが分析・利用しやすい形で取得できていないと話になりません。ですから、段階を追ってデータの収集環境を整えていくことが大事になるのです」(増井さん)

そして、第一部の最後に登壇したのがトレジャーデータの田籠聡さんです。

田籠さんは、データの収集・分析・連携を目的としたクラウド型データマネジメントサービスを提供する側の人間として、データを扱うシステムの構築で大事な「すべての仕事を冪等(べきとう)にする」という考え方を披露しました。

Fluentd、MessagePack-Ruby、Norikraなどのデータ処理にかかわるOSSプロダクトのコミッタ/メンテナ/開発者なども兼任する田籠さん

「冪等」とは、何回行っても同じ結果が出るようにするという意味です。

「データ解析のプロセスでは、コンピュータの性能や故障によって思ったように処理が進まないというシチュエーションが多々あります。そのため、データ収集〜分析業務では『大きな仕事を細かく分割しながら進める』というのが鉄則。そうすれば、どこかのプロセスで失敗しても、『小さな一回分のリトライ』で事が済むからです」(田籠さん)

そのためにも、リトライ可能な失敗と、そうでないものを分けて考える作業が重要になります。ここで問われるのが、冪等かどうか? という視点です。

これを踏まえた上で、特にエンタープライズ領域のデータ解析では「速く、安く、安定していて、使いやすい」の4条件を満たす必要があると田籠さんは続けます。

「IT専業の人たち以外は、業務上、高性能コンピュータはいらないからです。この4条件を満たすデータマネジメントサービスを提供するために、我々は仕事をしているといっても過言ではありません」(田籠さん)

今、クラウドを活用するメリットを正しく理解する

さて、休憩を挟んで行われた第二部は、

sinmetal(しんめたる)さん
株式会社ソウゾウ(メルカリグループ)

畠山大有(はたけやま・だいゆう)さん
日本マイクロソフト株式会社

アカツカ セイジさん
株式会社サーバーワークス 仙台オフィス

の3名が、データを活用したサービス運営を行う上でいまや必要不可欠となったクラウド基盤についての説明が行いました。

まず、GCPUG(Google Cloud Platform User Group)Tokyo Organizerでコミュニティ活動を行っているsinmetalさんが、GoogleのクラウドサービスであるGCP(Google Cloud Platform)導入のメリットを語ってくれました。

現在はソウゾウ社内のプロダクトメンバーに対してGCPコンサルティングやトレーニングも行っているsinmetalさん

「そもそもクラウドプラットフォームとは、データセンター上に存在するハードウエアリソースをAPI経由で動的に借りることができる仕組みです。ですから、ソウゾウのように同時多発的に新規事業を生み出そうとしている組織の場合、クラウドを活用したインフラ構築はとても重要な要素になります」(sinmetalさん)

実際に、ソウゾウではGoogleの提供するPaaSであるGAE(Google App Engine)を使ってアプリケーション開発を進めており、分析業務もGCPを介してBigQueryを活用しているそうです。「運用の負荷を全てGoogleに託す」(sinmetalさん)ことで、サービス開発のスピードを上げているわけです。

こうしたクラウド利用のメリットは、すでに多くのエンジニアが知るところとなっていますが、日本マイクロソフトの畠山大有さんはここに「AI活用」というメリットも加わったと続けます。

日本マイクロソフトのPrincipal Software Development Engineerとして、最新技術を必要とするクライアントへの技術的な支援をしている畠山さん

クラウドプラットフォームのMicrosoft Azureで知られるマイクロソフトは、インテリジェントクラウド「Microsoft Intelligent Data Platform」を通じて、AIを実務で使えるレベルで提供しています。

その詳細は当日のSlideShareに譲る(以下リンク参照)として、

Microsoft Intelligent Data Platform -データ活用のための最新技術-

畠山さんは「AIを使ったコグニティブサービスが一般化したことで、膨大にあるデータの分析結果を『どう使えばいいのか?』を考えるのがエンジニアの仕事になった」と語ります。

「以前はデータを集め、分析するだけでも一苦労だったことを考えると、この進化は口で言う以上に重要なものです」(畠山さん)

その一例として、畠山さんは米国のとある大規模レタス農場で行われている取り組みを紹介しました。これは、畑を耕すコンバインの前方に、高度な画像認識AIを搭載したレタス識別器をつけるというものです。

このレタス識別器がAzure上で学習され鍛えられたモデルを組み込んでおり、オフラインで、リアルタイムにレタスと雑草を選別できるので、農薬散布を90%以上減らすことができるようになったといいます。

「これによって農薬の量を大幅に減らせただけでなく、オーガニックなレタスを消費者に届けることができ、かつ地球にも優しい農業に転換することもできたわけです。こういった新しい価値を生む支えとなるのがクラウドコンピューティングであり、価値の創出を簡単にするのがコグニティブサービスなのです」(畠山さん)

山形県に住むエンジニアからのアドバイス

最後に、これまで紹介してきたような情報が得られる良質なコミュニティに参加することが、仕事やキャリアにどんな影響をもたらすのかを考察していきましょう。

この点について実体験を話してくれたのは、AWS専業のクラウドインテグレーターであるサーバーワークスの仙台オフィスで働くアカツカセイジさんです。

アカツカさんは今、家族の希望で自宅を宮城県の隣にある山形県に移しています。そのため、平日は仙台オフィス勤務と家でのリモートワークを平行しながら仕事をこなしているそうです。

このような状況下でも、地方のエンジニアにありがちな「最新情報との断絶」に悩むことなく働けているのは、AWSのコミュニティグループであるJAWS-UG(AWS Users Group – Japan)の運営に携わっているからだといいます。

JAWS-UGでの活動が認められ、コミュニティの成長およびAWSクラウドの普及に大きく貢献した人を表彰する「AWS Samurai 2016」を受賞しているアカツカさん

「今、JAWS-UGは日本全国に50以上の支部があります。なので、私のような地方在住のエンジニアでも、コミュニティの一員になることで全国の関係者と直接情報交換ができるのです。こういうつながりは、とても貴重だと思います」(アカツカさん)

また、調査会社ガートナーが2016年に行った調査によると、日本企業のクラウド採用率はまだ20%程度とのことです。つまり、クラウド導入はまだスタート地点に立ったばかりの状態だといえます。

「今回の勉強会に登壇した皆さんが披露してくれたような事例を基に、自社やクラアント企業のインフラをクラウド化していく余地はまだまだあるということです。『地方在住で今さらクラウドコミュニティに入っても遅いんじゃないか』などと思わず、積極的に参加して情報を得て、仕事の幅を広げてほしいと思います」(アカツカさん)

ちなみにクラウドの導入や移行を促す際、アカツカさんは以下のような「3つのアンチパターン」に遭遇するシチュエーションが多いと指摘しますが、

  1. 作り方がまずいことで運用への不安が絶えない
  2. オンプレミス的見積もりによって決済がおりない
  3. 「高セキュリティなシステムには使えない」などの都市伝説

AWSは公式情報もユーザーによるブログエントリも豊富にあるため、「まずはネットで最新情報をキャッチアップしつつ、コミュニティに参加しながらユースケースを見聞きすることで解消できる」とアドバイスしています。

「オンプレミスからの移行についても、AWSのSIMPLE MONTHLY CALCULATORを使えばすぐに見積もりが取れるので、従量課金への抵抗感を数字で払拭することができるでしょう。また、最初は余裕を持ってサイジングしつつ、きちんとモニタリングして最適化していくのも大事です。

こういった細かなノウハウを得る際も、JAWS-UGのようなユーザーグループを上手に活用してほしいと思っています」(アカツカさん)

テクノロジーがサービスを生み出す時代となった今、テクノロジーを活用したビジネスを生み出していくうえでもエンジニアは主役となりつつあります。そのような時代に地方に拠点を置くエンジニアにとって、アカツカさんのように、エリアを超えて、技術コミュニティ活動に参加し、知識の共有に取り組むことは、自分の価値を高め、仕事やキャリアを充実させることにつながっていくことになります。

また、エンジニアが活動の拠点とする地域にとっても、新たなイノベーションが生み出させる土壌として、彼らの活動を応援していくことが大切といえます。

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