地方でITビジネスを行う意外なメリットって何だ!? 仙台に拠点を置く4社に聞く

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地方でITビジネスを行う意外なメリットって何だ!? 仙台に拠点を置く4社に聞く
(写真左から)CData Software Japanの疋田圭介さん、サーバーワークス仙台オフィスのアカツカセイジさん、ヘプタゴンの立花拓也さん、楽天の半谷充生さん

クラウド&GitHubを前提にした開発スタイルの普及や、リモートワークを促進する各種ツールの発展を背景に、IT・Web業界では「場所に縛られない開発」が広がりを見せています。

しかし、それでも米サンフランシスコのベイエリアやシリコンバレー、日本だと東京周辺に優秀なエンジニアが集まるのは、質の高いコミュニティが多数あるからだと言われています。

そこで、ITによる地域経済の底上げや地方創生を構想してきた宮城県仙台市は、同市にオフィスを持つIT・Web企業だけでなく、首都圏に住むエンジニアとのつながりも作りながら、技術情報や開発ノウハウを交換し合うコミュニティ『SENDAI IT COMMUNE』を展開しています。

今年2月23日には、3度目となる勉強会「SENDAI IT COMMUNE meetup #03 Youは何しに仙台へ?〜エンジニア採用に力を入れている企業が仙台を選んだ理由〜」を東京のTECH PLAYで開催。仙台に本社・拠点を置く楽天、サーバーワークス、CData Software Japan、ヘプタゴンの社員が登壇し、自社の取り組みを語りました。

そこで明かされた「仙台を選んだワケ」には、単なるUIターン支援や地域振興だけではない、新しい発見がありました。

外国企業の日本法人を地方都市に持ってくる

楽天の仙台拠点で働く半谷充生(はんがい・みつお)さんや、山形県在住ながらサーバーワークスの仙台オフィスで働くアカツカセイジさんは、第2回のSENDAI IT COMMUNE meetupにも登壇しており、この日は各社の組織運営や地方で働く意味について話してくれました。

その内容は後述するとして、CData Software Japanの疋田圭介(ひきた・けいすけ)さんによる講演では、地方都市に外国企業の日本法人を置くメリットという目新しい切り口の話が展開されました。

地元の仙台で「グローバル企業の日本法人代表」になるという一風変わったキャリアを持つ疋田さん

CData Softwareは、米ノースカロライナ州にあるデータ連携コンポーネント開発企業です。近年は、同社のコンポーネントやライブラリをクラウドベースで連携させ、仮想化した状態でデータを管理・接続できる仕組みづくりに注力。その際に用いるAPIの作成も、簡単にできるようになっています。

疋田さんは、他のデータ管理ツールを提供するデータ連携ツールベンダーを「場所・プログラム・トレーナー・機材が豊富にそろうスポーツジム」に例えた上で、CData Softwareはデータ連携の“つなぐ”機能に特化した「ダンベル(ツール)提供企業」だと説明します。

「鍛えたい部分が明確で、正しいトレーニングのやり方を理解している人にとって、ダンベルはいつでも・どこでも筋トレができる便利なツールです。スポーツジムに通うより、リーズナブルかつ効果的に筋力アップができるでしょう。CData Softwareの提供する各種ツールも、これと同じなんです。目的と用途がはっきりしていれば、他のデータ連携ツールより安価で効率的に使うことができます。しかも、スポーツジムでもダンベルが置いてあるように、実は大手のデータ連携ツールにもOEM でCDATA ライブラリが入っているんですよ。」(疋田さん)

このCData Softwareが日本法人を仙台に設けた理由は、ずばり「首都圏にオフィスを構える必要がなかったから」です。

同社の主な顧客はエンジニアになるため、ブログマーケティングなどを積極的に展開すれば、トライアルで使ってもらってから有料顧客へ...という流れを生み出すことができると言います。

であれば、あえてオフィス賃料の高い首都圏にオフィスを置かなくても、代表の疋田さんが「働きたい」と思う場所で事業を展開することができるというわけです。

「本社とオンライン上で密にやりとりをしながらツールを改善し、オンラインを中心に日本市場を開拓していく。この2点をうまく回すことができれば、極論、ネット環境さえ整っていればどこでも仕事ができます。なので、我々のようなツールベンダーの日本展開は、地方にいるエンジニアにも参加しやすい事業モデルだと感じています」(疋田さん)

「新しい組織運営の形」を体現する

続いて登壇した”東北に根ざしたクラウドインテグレーターとして東北の企業のクラウド化を進める” ヘプタゴン代表取締役の立花拓也(たちばな・たくや)さんは、経済学者ジョセフ・シュンペーターの言うイノベーション創出のキーワード「新結合」を挙げながら、地方都市で会社を運営する可能性を語りました。

大学在学中から仙台市のITベンチャーで働いていた立花さんは、東日本大震災を機に自分の知らない100万人を幸せにするよりも身近な100人を幸せにしたい」と場所を問わずに仕事ができるクラウドに魅力を感じて地元・青森でUターン起業した

「ヘプタゴンの社員3名は現在全員仙台に住んでいますが、僕自身は青森に拠点を置いているので、協力会社を含めてチームはリモートで運営しています。このような体制でも、100を超える東北地方のサービスやITプロジェクトをクラウド上で稼働できるのは、クラウドとコミュニティを軸に『新結合』をいくつか生み出せたからだと思っています」(立花さん)

新結合とは、既存のビジネスシーンで常識とされてきたモノや事を新しい組み合わせで再定義することで、新機軸=イノベーションを生み出す行為です。

ヘプタゴンの場合、まずはクラウドという「誰もがどこにいても使える優れたインフラ」に特化することで、地方の小さな会社でも大手企業と対等に戦える素地を築きました。そこに、立花さんがコミュニティ活動を通じて学んだ知恵を「新結合」させることで、本格的に首都圏にあるような企業と伍してビジネスを行えるようになったといいます。

「弊社メンバーは、日本のAWSコミュニティであるJAWS-UGを中心にクラウド関連のコミュニティやイベントに積極的に参加や登壇を行っています。企画や運営そのものに携わっているコミュニティもあり、そこで得たつながりは、僕に多くのことを与えてくれました」(立花さん)

特に大きな「学び」は3つあったと立花さんは続けます。

一つは、コミュニティで積極的にアウトプットすることで、地方で会社を運営していても最先端の技術情報をインプットできるようになったという点です。

「個人的には、コミュニティに参加してアウトプットし続けると、その何倍もの技術情報が自然にインプットされるようになると感じています」(立花さん)

2つ目は、リモートワークを前提とした新しい組織マネジメントのやり方です。

「一般的な会社組織や業界団体が『ビジネスありきでつながる上下関係のある場』だとすると、コミュニティは参加者が相互に学び合う場で、利害関係もありません。だからこそ、オープンな組織での立ち振る舞い方や、強制力のない中でチームをマネジメントする知識を学ぶことができるのです」(立花さん)

そして、この延長線上に生まれるのが、共同ビジネスの機会。すなわち、のちに仕事の受発注にもつながるような「優秀な人材とのネットワーク」だと言います。

「クラウド分野はレバレッジが効きやすいので、少数精鋭で戦えます。そこに、コミュニティから得たさまざまなリソースを組み合わせると、新しい会社組織の在り方や、地方発の新ビジネス構想が生まれるかもしれません。そう実感しながら、まずは僕自身がコミュニティに貢献するように努めています」(立花さん)

地方でも自走できる会社と人の育て方

勉強会の最後に行われたパネルディスカッションでは、立花さんを質問役に、半谷さん、アカツカさん、疋田さんの3名が、地方都市で働く上での注意点を披露してくれました。

以降は、その内容をQ&A形式で紹介していきましょう。

単独講演に続き、パネルディスカッションにも登壇したサーバーワークスのアカツカさん(写真中央)と、楽天の半谷さん(写真右)

ーー 皆さんは、楽天、サーバーワークス、CData Softwareそれぞれの「支社」で働いているわけですが、支社ならではのミッションはありますか?

半谷 楽天の仙台オフィスだけに特別なミッションがあるわけではありません。(東京や大阪にある)他部門と同じく、会社全体のミッションである「イノベーションを通じて、人々と社会をエンパワーメントする」をベースに動いていますね。

特に、個人的には、東北地方は日本全体が抱える課題、つまり高齢化社会や人口減、過疎化などについての「課題先進地域」だと感じているので、当社のビジネスを通じてこれらの課題を解消するロールモデルのようなものを作っていければとは思っています。

例えば、楽天市場で有名な「みちのく農業研究所」さんは、宮城県の地域農家と広くつながりながら、農作物の販路を全国に広げることに成功しています。また、楽天市場では残念ながら販売していませんが、地域の方々が作り手となってニット製品を製造している「気仙沼ニッティング」さんのように、新しい雇用を生み出している事業もある。

こういった事例のような「課題解決のカケラ」を日本全国に広めていくのも、楽天市場を運営している私たちのミッションかなと考えています。

疋田 CData Software Japanは日本市場の開拓を担っているので、ローカルマーケットについての知見は必要不可欠です。でも、本社からは「ローカルチームとしての利点は意識しつつ、同じグローバルチームの一部という認識で製品全体に責任を持つつもりでやってほしい」と言われています。なので、ミッションは本社と変わらないです。

あえて仙台でやる意味を挙げるなら、東京から程よく離れているので、「他と違うこと」をやっていても居心地が悪くないという点ですね。

東京のような大都市では、同調圧力のようなものが強く働いていると感じることが多々あったので。少なくともIT産業について言えば、そういうプレッシャーは意外と地方都市の方が少ないと思っています。

ーー リクルーティングはどこでどうやっていますか?

疋田 はじめは、仙台市やその周辺にどんなIT企業があって、どんなエンジニアがいるのかも分からなかったので、一般の転職サービスやエージェントを使っていました。

しかし、私や会社のメンバーが地元のコミュニティに参加していく中で、エンジニアとのネットワークができつつあるので、最近はコミュニティ経由の採用が増えています。

アカツカ サーバーワークスでも、コミュニティでのつながりから採用するケースが増えていますね。私自身がJAWS-UGで活動していますし、当社のメンバーもさまざまなコミュニティに参加しているので。

また、当社の場合は9割くらいの社員がリモートワークを活用しているので、そういう生産性を高める仕組みへの適応生も重視しています。その意味でも、コミュニティを通じて一度でもお会いしたことのあるエンジニアの方がお互いに理解しやすいという点があります。

とはいえ、コミュニティで面識があるからといって、採用で“下駄”を履かせるようなことはありません。他社さんのようにコードテストまではやってないですが、あくまでエンジニアとしての実力を第一に考えています。

半谷 楽天の場合も似たような部分があります。他にも、地元の大学の学生を積極的に採用したり、海外からの転職者を受け入れたりするケースが増えていますね。外国籍の方からすると、東京も大阪も仙台もあまり変わらないっぽいので。

ーー リクルーティングのお話を聞いた理由でもあるのですが、一般的には人材獲得でも案件獲得でも「首都圏の方が地方企業より機会が多い」と思われがちじゃないですか? 皆さんは実際に仙台で働く中で、地方でエンジニアをやるメリットとデメリットをどう捉えていますか?

半谷 首都圏の方がいろんな機会が多いというのは事実だと思います。それとよく言われるデメリットは、技術系のイベントや勉強会の少なさです。

ですが、今はそれをデメリットと思わなくなりましたね。やりたければ自分で立ち上げればいいし、実際、最近はそうやって勉強会を始める人も増えているように感じます。

アカツカ 地方でエンジニアをやってみると、「学習力」が身に付くというメリットがあると感じます。

東京だと、周りに優秀な人がたくさんいたおかげでサボっていても情報が入ってくるので特に意識していなかったのですが、私自身が山形に移住してからは、自分で学ぶ環境を作らなければならないという意識が高まりました。

その結果の一つがJAWS-UGへの参加ですし、本気でコミュニティにコミットしてみると、立花さんの言うようにインプットの量が加速度的に増えました。

あえてデメリットを挙げるとすれば、所属する企業によっては(技術力を磨く上で)重要な最先端の現場での「本番の打席」、つまり仕事の場数が減るかもしれないということ。これは、自分で能動的に動いてカバーしなければならないと思います。

疋田 僕の感覚ではメリットしかないと思いますよ。本来、エンジニアはコードを書いてなんぼ、最新技術を調べてなんぼ、デバッグしてなんぼの商売じゃないですか。

集中してやりたい時に、毎日ギュウギュウの通勤電車に乗ってオフィスに行き、電話が鳴りまくるオフィスの中でプログラムを書くなんて、本当はナンセンスだと思うんですね。

であれば、仙台のような地方都市で通勤のストレスなく働いた方が「いい仕事」ができる気がします。

アカツカさんのおっしゃる通り、(何もせず)外から刺激を受けられる環境は東京の方があるので、自分で機会を作っていかなければならないという面はありますが。

ーー 皆さんのお話の共通項は「自走するエンジニアになる」ということかと思いますが、そのために必要なことって何だと思いますか?

疋田 発信力がないと、東京で働いていても仙台で働いても埋もれてしまうので、国内はもちろん、グローバルに情報発信していく行動が大事になると思います。

半谷 その「発信」の場として、やっぱりコミュニティに飛び込む勇気は大事ですよね。SNSでつぶやいているだけでは、何も変わりません。

アカツカ そう思います。まずは地元の勉強会に顔を出して見てほしいですね。そして、できれば登壇してみてほしい。

半谷 あとは英語じゃないでしょうか。楽天が英語を公用語化しているからではなく(笑)、Web技術の多くは最初のドキュメントが英語で出ますから。英語を学んでさえいれば、仙台だろうがどこだろうが最新のことが学べるようになります。

疋田 英語ができれば、地方にいても一気に世界とつながることができるようになりますしね。先ほども少し話しましたが、仙台は「人と違うこと」をやる場所としては最高だと思うんですよ。手前味噌ではありますが、我々のように外国企業の日本法人を仙台に持ってくるとか、新しいチャレンジをするにはもってこいの場所だと思っています。

ーー 結局、自走できるエンジニアになるには自らアクションを起こすことが大事というわけですね。今日はありがとうございました!

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