地域経済の活性化にもハッカー精神を。仙台がIT都市に変わる3つの兆し

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地域経済の活性化にもハッカー精神を。仙台がIT都市に変わる3つの兆し

近年日本では、IT産業を活性化させることで雇用を創出し、地域経済の活性化につなげようとしている地方自治体がいくつも生まれています。東北の中枢都市である宮城県仙台市もその一つ。

しかし、地域経済の活性化というものは行政の努力だけでは成し得ません。下記の3つが噛み合い、その地域ならではのエコシステムを形成しないことには始まりません。

【1】IT企業を増やす「産業構造の変化」
【2】産業を活性化させる「場づくり」
【3】継続的な発展に向けた「人づくり」

そしてそれには、民間企業の“ハッカー”の存在が何より大切になります。

「ハッカーは、常に改善が可能で、あらゆるものは未完成だと考えています。彼らはしばしば『不可能だ』と言って現状に満足している人たちの壁に阻まれますが、それでも問題があればそれを直したいと考えるものなのです」

これは、Facebookが2012年2月に株式上場を申請した際の公開状で、CEOのマーク・ザッカーバーグが最も重視する社是である「ハッカー精神」を説いた一節です。ITによる地域経済の活性化でも、まさにこのハッカー精神が求められています。

2017年12月12日、仙台市が首都圏のIT業界従事者とのつながりを作るために開催したイベント『SENDAI IT COMMUNE meetup #01』では、そんな話が展開されました。登壇したのはいずれも仙台とその周辺を拠点に活動する民間の有志たちです。

櫻庭 誠司(さくらば・せいじ)さん
株式会社SoleBrain 代表取締役

佐藤 浩太郎(さとう・こうたろう)さん
株式会社メルカリ CSグループ

南條 融(なんじょう・とおる)さん
楽天株式会社 ECビジネスエンパワーメント課 シニアマネージャー

篠原 敏也(しのはら・としなり)さん
NTTドコモ エバンジェリスト
グローバルラボ仙台 GM
Evernote certified consultant

古山 隆幸(ふるやま・たかゆき)さん
一般社団法人イトナブ石巻 代表理事
株式会社イトナブ 代表取締役

この5名の話から、前述した3つのポイントがどのように進んでいるのかを中心に「変化の兆し」を紹介していきます。

IT企業を増やす「産業構造の変化」:受託体質からの変化

近年、楽天やメルカリのような大手ネット企業をはじめ様々なIT企業がオフィスを構えるなど、仙台市のIT産業の集積は着々と進んでいます。

また、2011年の東日本大震災からの教訓を踏まえ、2016〜2017年には、防災・減災に役立つ技術開発と、そこから地域産業の活性化へとつなげる目的で、NTTドコモや通信大手のノキアソリューションズ&ネットワークスと連携協定を締結。仙台から世界の防災・減災へ貢献するITソリューションを生み出す取組みを進めています。

ただし、2017年12月時点で約400社あるという仙台市内のIT事業者は、その多くが受託開発メインであり、この構造が仙台から様々なサービスを生み出していくステージに上がる上での、課題になっていると言われています。

その理由と、IT産業を盛り上げるために必要な変化について、この日ファシリテーターを務めたNTTドコモの篠原さんや、ソルブレインを起業して約10年間、仙台のIT産業を見続けてきた櫻庭さんらはこう話します。

Evernote公認エバンジェリストとしてシリコンバレーとのつながりもある篠原さん

櫻庭 そもそもIT産業はすごいスピードで変わっていて、10年前にリーディングカンパニーだったところも今は......というような世界じゃないですか? なのに、仙台のIT産業は10年前からほとんど変わってないんですよ。

篠原 なぜだと思いますか?

櫻庭 仙台のIT企業の多くが受託開発中心だからじゃないですかね。自社サービスを展開するIT企業がもっと増えないと、産業構造は変わっていかないと思います。

篠原 東京のような大都市に比べて、受託案件数も単価も高くないですからね。

櫻庭 ええ。僕がやっているソルブレインも、受託開発中心だった事業形態から、数年かけて何とかWebマーケティングが中心の業態にシフトしました。

篠原 仙台のIT企業で自社サービスをリリースしている企業は、まだまだ数えるほどしかないのが現状です。産業全体で伸びていくためには、企業同士が情報を交換し合う「横の連携」が大事だと思うんです。

櫻庭 しかし、仙台のIT業界は東京に比べても横の連携がまだまだ少ないですよ。

篠原 どのような事が要因だと思われますか?

櫻庭 少ない受託案件を取り合っているような状況だと、連携も進まないんです。実際、前はコンペで勝つと(競合した会社に)恨まれるような雰囲気もありました。

仙台で活動してきたIT起業家として、現状と課題を話すソルブレインの櫻庭さん

篠原 そうですね。決して受託開発が悪いと言ってるわけではなく、自社サービスを作って収益構造を受託から自社サービスに転換しておかないと、他社に依存した経営になってしまうのでこれから厳しくなると思います。

櫻庭 ただ、最近やっと昔ながらの構造が徐々に変わってきたと感じています。

IT企業の経営者が若い世代にシフトしているからかもしれません。お互いにリスペクトし合ってつながっていく流れが少しずつ出てきています。本当に少しずつですけど。

篠原 石巻で情報系の高校生・大学生を中心にプログラミングを学ぶ拠点を立ち上げたという意味で、地域の若手IT起業家の一人でもあるイトナブの古山さんはどう考えていますか?

古山 古くからある産業構造が変わりにくい面は確かにあるので、過去の話をするより未来をどうするか? を考えて動かないとダメだと思っています。「石巻や仙台を最高のIT都市にするにはどうすればいいか?」を議論しまくって、僕ら自身が答えを出さなければならないというか。

櫻庭 その通りですね。まだまだ足りないものだらけだけど、最も足りないのは「(現状を変えるという)熱を持った人」だと思います。

実は今の仙台市は、中小企業が資金調達をする上で、全国でも屈指の低金利で無担保融資してもらえる街なんです。個人投資家はほとんどいないので、東京のスタートアップのようにシードマネーを得やすい環境ではないのですが、事業の運営資金は10年前に比べて飛躍的に調達しやすくなっています。

だから、「東京で勝つよりは仙台で勝つ」「仙台から世界に出ていく」という人がもっと増えてほしいんです。

産業を活性化させる「場づくり」:コミュニティを根付かせる工夫

産業構造の変化を加速させるのは、篠原さんが指摘する「横の連携」です。特に、企業の枠を超えて情報交換し合う開かれたITコミュニティの存在は、経営者やエンジニアにとって新たな知見を手に入れる貴重な場となります。

事実、「ほとんどの仕事がオンラインで済む」とされるITの世界で、企業も仕事もいまだ東京のような大都市に集中している要因の一つには、優れた人たちが集まるコミュニティにアクセスしやすいという点があります。

仙台市はこの現状を変えるために、ITに関わる個人が自由に技術情報やノウハウを交換することが出来る出会いの場を作り、育てていくために『SENDAI IT COMMUNE』を立ち上げました。ただし、より現場レベルでつながりを強める動きも出始めているようです。

UIターン転職者である楽天の南條さん(写真左)とメルカリの佐藤さん(写真右)

篠原 つい先日(2017年12月9日)、『はじめてのIT勉強会 in 仙台』さんというコミュニティと『グローバルラボ仙台』の共催で、『はじめての人のためのコミュニティミーティング2017 はじめてのIT勉強会』というイベントをやったんですよ。その時は仙台で活動する13のITコミュニティ運営者さんが集まってくれて、仙台にもちょっとずつコミュニティ同士が連携する文化が芽吹いてきたなと感じました。

Iターン転職で仙台に来たメルカリの佐藤さんは、仙台のコミュニティをどう見ていますか?

佐藤 僕は関東出身で、仙台には人脈ゼロの状態で来たので最初は全然情報がなくて......。怪し気なコミュニティに行って後悔したこともありました。「じゃあ自分で作ってしまおう」と、『CS JAM』というカスタマーサポート担当者向けのコミュニティを立ち上げたんですね。

南條 僕が佐藤さんと初めて会ったのは、この『CS JAM』主催の勉強会だったんです。その時に「CSはカスタマーサクセス」という考え方を知って、すごく刺さったのを覚えています。

篠原 『CS JAM』は今、どのくらいの規模になっているんですか?

佐藤 参加人数は延べ400人くらいになっていると思います。

篠原 すごいですね。

佐藤 ただ、コミュニティ運営は毎回試行錯誤なので失敗も多いですよ。それに、リピーターは増えるけど新しい参加者が増えないというのが目下の課題です。

2016年に、メルカリだけじゃなく楽天さん、マクロミルさん、メンバーズさんと一緒に仙台市内の学生を対象として「SENDAI IT JAM」という大きめのITイベントを新しく企画したんです。その時は、自費で交通広告なども出して集客したんですが、結局参加者は20名くらいでした。

篠原 何が悪かったんでしょうか?

佐藤 土曜開催だったことや、会場の場所なんかも影響したのかもしれません。そもそも東北の人たちは「新しいものを敬遠しがち」という印象もあります。

古山 でも、ここの若い人たちは、運営側のパッションがちゃんと伝われば来てくれます。イトナブは石巻にあるので仙台より交通の便もよくないんですが、この間は学生80人くらいが集まってBBQをしながら業界の未来を語るイベントをやって盛況でした。

佐藤 コミュニティ運営者の思いと参加者のメリットが噛み合えば、まだまだやりようがあるってことですね。

古山 そう思います。逆に、イベントでもコミュニティ活動でも、変な形で行政や他のステークホルダーが絡んでくると目的がぼやけて失敗してしまう気がします。

イトナブでの活動を通じて「コミュニティ形成で大切なこと」を話す古山さん

篠原 東日本大震災をきっかけに、様々な方達が仙台東北を盛り上げようという流れはとても良いのですが、一過性で盛り上げようと思っている人たちに引っ張られている地域をみると、とても悲しくなりますね。

櫻庭 ホントそうですよね。あの頃のこともあって、実は僕、今回のような行政主催のITイベントがすごく嫌いになりまして。登壇を頼まれても断ってきたんですよ。

篠原 じゃあ、今日はなぜ登壇してくれたんですか?(笑)

櫻庭 理由の一つは、助成金目当てで動いているような人たちが「仙台代表」みたいな顔をして表に出ていることにダメ出ししたかったから(笑)。

もう一つは、『SENDAI IT COMMUNE』の担当者の方と話してみて、きちんと質の良いコミュニティを作ろうとしているんだなと感じたからです。

なので、こういう場に出て「ダメなものはダメ」「でも仙台も捨てたもんじゃないよ」と伝えていくのも大事だと思い直したんです。

古山 東京はエコシステムができ上がっているけれど、東北や仙台はこれからエコシステムを作っていけるのが魅力。そうポジティブに考えて、佐藤さんや櫻庭さんのようにリーダーシップを発揮する人が増えていけば、すごく良い環境を作れると思うんですよ。

篠原 それに、最近はコワーキングスペースのような箱物も増えてきたし、ちょっとずつ機運が変わってきたという期待感があります。

(会場に来ていた、仙台市でコワーキングスペースを整備中の参加者を見ながら)今度、国分町にもすごく立派な7階建てのコワーキングスペースができるんですよね? こうやって「場」が整っていくと、そこに人とナレッジが集まってきて、「環境が人を育てる」みたいなシリコンバレーっぽい考え方も広まっていくと思うんです。

古山 熱くてオープンマインドな人が増えていくきっかけになればいいですよね。

継続的な発展に向けた「人づくり」:大人の役割は環境整備

「場」が整ったら、地域経済の活性化に向けた最後のピースは「人材獲得「と「育成」になります。

しかし、東北地方全体で見ると、他の地域に比べて人口減少が早く進んでおり、学生の地域内就職率も10%程度低い結果となっています。(下図参照)。

そんな中で、民間企業が「人づくり」のためにやれることは何なのか。IT人材の育成を生業とするイトナブ古山さんの話を中心にヒントを探っていきます。

仙台市が示した「地域別に見た地域内就職の意向」の数値

篠原 現状、仙台のIT産業は人材供給の面で大きな壁に突き当たっていると思うんです。エンジニア育成はもちろん、「失敗してもいいからどんどんサービスを立ち上げていく」という起業家精神のようなものも定着させなければならない。課題だらけの中で僕らがやれることって何なのでしょう?

古山 イトナブでIT教育をやっていて感じるのは、プログラミングを教えること以上に、「夢を語れる人が教えているか?」が大事だということです。

若者たちの夢を否定ばっかりするような大人がいるじゃないですか。あれってとても失礼なことで。教える側の人間はまずこういうマインドをリセットする必要があると思います。

その上でイトナブでは、学生にプログラミングという“武器”を教えること以上に、「これで俺はトップになるんだ!」「地球は俺を中心に回っている!」みたいな気持ちを大事に育んでいきたいんです。

篠原 どうやってそういう気持ちを育てようとしているんですか?

古山 昔は近所のおじさんにもすごく怒られたじゃないですか。あれって実は、「地域で子どもを育てる」ということにつながっていたんですね。IT教育も、教える大人側には似たようなマインドが大事になると考えています。

実際には僕はほとんど怒らないし、基本は放任主義なんですけど、大人はどうしても自分の経験をあれこれ言いたがるので、イトナブでは極力それを我慢して「若い子のトライする気持ち」を優先して見守るようにしています。

南條 義務教育じゃないところで人を育てるには、環境づくりが本当に大切ですよね。僕もこの間、似たようなことを痛感する出来事がありました。

楽天には「人々と社会をエンパワーメントする」という企業理念があって、この理念のもと自治体と連携して地産品のEC販売促進やIT教室などをやっているんですね。僕もあるIT教室で子どもたちにマインドストームを使ったプログラミングを教える機会があったんですが、学校の先生が一人も来なかったんですよ。これでは、IT教育も根付かないだろうなと。

古山 僕もイトナブを始めた頃は「なんでプログラミング教室に先生が来ないの?」と思っていました。実際は、先生たちが忙し過ぎて来れないという現実もあるので悩ましいところです。

篠原 社会人のIT教育はどうでしょう? ソルブレインでは何か取り組んでいますか?

櫻庭 毎週、希望する社員には東京の勉強会に参加してもらって、そこでの学びを社員に還元してもらうような取り組みをしています。経費は会社持ちです。

篠原 それも一つの投資ですね。

櫻庭 「自分が今エンジニアとしてどのくらいのレベルなのか?」という尺度がわかるなら安いものだと思っています。さらに勉強への意欲も高まるでしょうし。

佐藤 メルカリにも、手を挙げた人には場所を問わず好きな勉強会に行ってもらうような制度があります。最近はインターンシッププログラムとして、渡航費と生活費を渡して2週間アメリカに行ってもらうという取り組みも始めました。

ただこれにはけっこうドSなルールがあって、1人で渡航して多くの方にインタビューして回り、帰国後にレポートを提出してもらうんです。

篠原 そうやって、自主性を引き出すきっかけを提供するのは本当に大事ですよね。

私も浩太郎さんと組んで、学生たちにNTTドコモとメルカリの職場を同時に見学してもらうようなツアーをやるんですが、超大企業とベンチャーの環境を両方見せた上で、「君たちが働く会社はこの2つの会社の間のどこかだ」と考えてもらうんです。

佐藤 結局、大事なのは実際に体験してもらう中で「好き」とか「やりたい」という気持ちを引き出すことなんじゃないかと。それさえあれば現状は変えられますしね。

篠原 そうなんですよ。

佐藤 東北はまだまだぬるい環境かもしれないけど、逆に言えばチャンスだらけでもある。

古山 僕もこういうイベントに出るといつも話していることがあるんです。

「地方にはまだ泥んこまみれになれる場所があって、50メートル走りたい時に全力疾走できるんですよ」って。そういう場所、東京には少ないですよね。

ビジネスも同じで、地方はしがらみも多いけど、「思い立ったらやりたいことをやれる場所」でもあります。なので、学生だけじゃなく関東で揉まれているエンジニアにもどんどん仙台に来てもらって、「変える側」になってほしいと思います。

篠原 綺麗な締めをありがとうございます!

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