【レポート】IBMのデータサイエンティストたちが描く未来 〜人の知能拡張を目指したビッグデータ活用事例とAI技術〜

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【レポート】IBMのデータサイエンティストたちが描く未来 〜人の知能拡張を目指したビッグデータ活用事例とAI技術〜

2018年5月30日(水)19時00分より、「[人の知能拡張を目指したビッグデータ活用事例とAI技術 〜IBMのデータサイエンティストたちが描く未来〜(https://techplay.jp/event/672969)」が開催されました。

「ビッグデータ活用」と「AI技術」をテーマに、日本アイ・ビー・エムが主催する本イベントは非常に大きな注目を浴びました。イベント参加の定員は50名でしたが、参加申し込みは実に300名超え。当日は6倍以上の倍率を勝ち抜いた50名が集まりました。

イベントの内容は下記の通りです。

【講演】
「人の知能拡張に向けたAI関連技術の動向」
日本アイ・ビー・エム株式会社 山田敦さん

【事例ディスカッション】
「自然言語の活用事例 コールセンターへのAI導入」
日本アイ・ビー・エム株式会社 木村亮朝さん

「地理情報を活用した製品販売の最適化」
日本アイ・ビー・エム株式会社 黒木俊介さん

「自動車IoTデータを活用した新顧客サービス開発」
日本アイ・ビー・エム株式会社 髙橋敏樹さん

【講演】
「AIエコシステム時代に向けて ~ 単独AIから繋がるAIへ ~」
日本アイ・ビー・エム株式会社 山田敦さん

それでは内容をご紹介します!

人の知能拡張に向けたAI関連技術の動向

まずは、山田さんの講演からスタートです。

山田敦(やまだ・あつし)/日本アイ・ビー・エム株式会社 技術理事。Distinguished Engineer。1995年に、日本アイ・ビー・エムへ入社。東京基礎研究所にて、主に3次元形状処理の研究に従事する。著書に『データサイエンティスト・ハンドブック』(2015年、近代科学社) などがある。

まず導入として、山田さんはIBMにおける「AI」の定義を紹介します。

「IBMでは『AI』を『Artificial Intelligence(人工知能)』ではなく、『Augmented Intelligence(拡張知能)』と呼んでいます。

それは、みなさんが取り組む業務を、コンピュータが耳元でアドバイスしてくれることで、より仕事が効率的になったり、スピードが増したり、インパクトが大きくなったりするイメージです。

その道具として、例えば『Watson』などの技術をテクノロジープラットフォームとして提供しています」(山田さん)

次に山田さんは「社会の変化」について説明します。

「ビッグデータ、AI、IoT、ロボティクス、VRなどに代表されるテクノロジーは、エクスポネンシャル、つまり指数関数的に急激に進化を遂げています。それに対して人間、組織は急に変わることはできません。

すると、テクノロジーと私たちにはギャップが生まれますよね。このギャップがインパクトにつながります。そのギャップには、例えば『AIに人間の仕事が奪われる』といったネガティブな意見や、『テクノロジーをどんどん活用することで次のステージに進める』というポジティブな意見もあります。

また、『社会の変化』のひとつとして、AIスピーカーや顔認証など顧客体験の新しい流れを見逃すことはできません。これらは生活に必ずしも必要というわけではありませんが、クリックひとつを省略できる体験が大きな売上を生みだしていることに注目しなければいけないと思います。

こうした変化は、ビッグデータ、IoT、AIという3つの要因の相互作用によって加速化しているのです」(山田さん)

続いては「AI関連の技術動向」について。

「私は線形代数など基礎学問も重要だと思います。例えばビッグデータの領域では、変数の数やデータの数に応じた物の捉え方ができることが必要だからです。

機械学習が『食べられる』のは定形データしかありません。テキストや画像、音声をいかに前処理で『機械学習が食べられるデータ』に『料理』することが求められると考えています。

少しだけ事例を紹介すると、電力会社のフィールドエンジニアが現場からデバイス経由で会社のノウハウや顧客データにアクセスする自然言語を活用する案件や、工場の製品検査工程に画像認識を導入してコスト削減するな案件、製造業において新人と熟練者の動きをモニタリングして差異を可視化する案件などがございます」(山田さん)

最後に山田さんは「技術の進化にはアルゴリズムが注目されがちですが、その後ろハードウェアも重要です」と指摘し、IBMが製造する「Power9プロセッサー」「ニューロシナプティックチップ」「量子コンピュータ」を紹介して講演を終了しました。

自然言語の活用事例 コールセンターへのAI導入

講演の終了後は、事例ディスカッションです。事例ディスカッションは、会場を3つにわけ同時に進行します。25分×3回の時間で開催されるため、参加者は全ての会場を1回ずつまわってもよし、強い興味があるテーマには3回連続で参加してもOKです。

まずこちらでは、「自然言語」をテーマにして木村さんの事例ディスカッションを紹介します。

木村亮朝(きむら・あきとも)/日本アイ・ビー・エム株式会社 マネージングコンサルタント。2009年に日本アイ・ビー・エムへ入社。

「自然言語の活用」をテーマに木村さんが紹介するのは、世界でも最大級の食品メーカーの事例です。この事例では、日本法人のコールセンターにAIを導入しました。

「2015年から私がマネージャーとして担当した同社では、IBMの『Watson』を使ったサービスをコールセンターに導入しています。チャットで寄せられた商品の注文、商品に関する問い合わせ、サービスへの質問などにAIが対応するわけです。

PC、モバイル、タブレットへの対応はもちろんですが、LINEにも対応しています」(木村さん)

では、この食品メーカーはなぜAIの活用を始めたのでしょうか? 木村さんは2015年当時の同社の課題感を次のように並べます。

  • 利益率を向上するために直販チャネルを拡大したい
  • そのため、消費者とのコミュニケーションをリッチにしたい
  • 会員数は500万人を超え、年間に電話での問い合わせが100万件を超えている
  • コールセンターの外注費は、電話1件あたり数百円〜1000円弱と膨大で削減したい
  • さらにコールセンターの人員確保も難しい

「同社の導入にあたっては、コールセンターのすべての業務にAIを入れたわけではありません。『AIのメリットを発揮しやすい業務領域』がどこなのかを、ディスカッションしながら開発を進めていきました。

現在は既にシステムが稼働中なのですが、100万件あった問い合せの15%を『Watson』がカバーしている状況です。『Watson』が稼働する領域においては、コストも40%削減を達成しました。

もちろん、成果はコストカットだけではありません。『Watson』による対応は、会員IDと紐付いたコミュニケーションのログが残ります。そこから、どのような提案をすればいいのかなど、お客様との密なコミュニケーションをとれるように活用も始めています」(木村さん)

続いて、参加者からの質問を紹介します。

Q. 「AIのメリットが発揮しやすい領域」はどのように決めた?

「ロングテールになっているマイナーな質問は人に任せるようにしています。AIを活用するのは、『あるあるの質問』『人間が思い出しにくい領域』などですね。

具体的には、定期便に関するお問い合わせ、商品に関するお問い合わせ、サービスに関するお問い合わせがとにかく多かったので、まずはここを解決できるように取り組んで行きました。

また、ある程度の精度のコミュニケーションでも成り立つということも大切でした。例えば、『定期便の新規登録』などは、一字一句のレベルで正確性が求められますよね。こういった領域は対象から外しています」(木村さん)

Q. 新製品はどのようにキャッチアップする?

「そもそも、この案件では『Watson』の『Natural Language Classifier』という仕組みを使っています。質問文を投げかけると、何を意図しているのかを分類するアルゴリズムです。

例えば、『引っ越しをしたんだけど』とユーザーが問いかけてきた場合、行なうべきは『住所変更手続き』です。 この『住所変更手続き』は質問にたいする『インテント』と呼ばれています。『Natural Language Classifier』では、ひとつのインテントに該当する質問文を複数個集めて紐付けるわけです。すると様々な表現で問いかけられても『住所変更手続き』に対する適切な回答ができるようになります。

新製品の場合にも、どのような質問が新製品に紐づくのかを教えこんであげるわけです。インテントは合計1000を超えていたので、分類に非常に苦労しましたね。途中から自動化を試みましたが、最初はやはり教えこみが必要です」(木村さん)

Q. AIの対応を評価する仕組みはある?

「ありますね。システムを運営しながらメンテナンスする必要がありますので、うまくコミュニケーションがとれたのかどうかトラッキングしています。

お客様が『疑問が解消しなかった』と回答した場合には、何が要因だったのかを確認するわけです。『Watson』による回答の精度が悪いために満足しないのか、それともクレームに近いのかを判断するために、スタートから3ヶ月は同社の担当者が全件チェックしていたことが印象的です」(木村さん)

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