「消費者行動論から「日本発のマーケティング」を狙う」/慶應義塾大学 清水教授/最新マーケティング論を追う

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「消費者行動論から「日本発のマーケティング」を狙う」/慶應義塾大学 清水教授/最新マーケティング論を追う
最新マーケティング論の研究者や実務家を紹介するシリーズ:「最新マーケティング論を追う」  第1回目は、消費者行動研究の第一人者として知られる慶應義塾大学 商学部 教授 清水聰先生に、最新の消費者行動研究ならびにマーケティング研究についてお聞きしました。

# 「消費者行動論から「日本発のマーケティング」を狙う」

第1回 慶應義塾大学 商学部 教授 清水聰氏

最新マーケティング論の研究者や実務家を紹介するシリーズ:「最新マーケティング論を追う」

 第1回目は、消費者行動研究の第一人者として知られる慶應義塾大学 商学部 教授 清水聰先生に、最新の消費者行動研究ならびにマーケティング研究についてお聞きしました。

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消費者行動研究とは?

消費者行動研究には経済学や心理学など色々な領域がありますが、私が取り組んでいるのは『マーケティング領域』というものです。消費者が最終的に物をどう購入されるのかというような視点です。例えば消費者行動は、経済学のように経済的に人間が動くということだけでは少し説明できない部分があります。お金がなくても欲しいものは欲しい、お金があっても贅沢しない人はしない、そういうのは一体何から来るのかということを考えたりするような研究をしています。

 近年話題になっているのは、インターネットが出てきてから消費者のメディアとの接触やコミニケーションの仕方が変化してきているということです。その辺をきちんと捉えることが重要で研究が進化しています。もちろん消費者の行動に関するものなら何でも含まれるので、研究領域としては数学のように消費者の行動を捉える人もいれば、心理学、社会学のような面で見る人もいます。最近では医学的に脳波で見てみようというようなことも増えてきています。

Q:消費者行動研究とマーケティングの関係は?

   マーケティングとの関係で言うと、行動の中でも『物を買う』『広告に触れる』『それによって効果がどうか』といった面を考えていくと言う事が消費者行動研究のテーマとなります。

Q:企業にとっては消費者の行動をよく理解できるとメリットはありますか?

消費者は、最終消費者に売るいわゆるB to Cの企業について、小売等で売られている商品・サービスを通じて知ろうします。

 お客様は何を重視して買っているのか、例えばある企業がある商品を『おいしい』と思って作って売っていたけれども、消費者はおいしいと言う所ではなく『見た目が綺麗だ』と言うところで興味を持っていたとすると、そこにはギャップがあります。自分たちはおいしいものを出しているつもりでも、お客様は見た目に引っ張られているらしいというギャップがわからないと、次においしいものを出そうとした時に売れない。売れていると言ってもその理由が実は企業が思っているものとお客様が評価しているポイントと違う可能性があるので、そこをしっかり見ていかないと間違えてしまいます。あるいは逆に売れなかった理由あるいは買わなかった理由と言うのも、最初からいらないと思うのと最後まで競ってやっぱりやめたと言うのでは全く意味が違います。

 最初から嫌だったのか最後まで競って選ばれなかったのか、そういうようなことを見ていくのは大事になってくると思います。特に今考えているのは、お客様の中でも、情報感度高い人とそうでない人がいるという点です。今までの研究ではなんとなく感度が高い人に好かれている商品が長持ちすることがわかっているので、誰が買っているのか、どういう気持ちで買っているのかということを理解することがとても大事で、マーケティングに役立つと思います。

Q:情報感度が高い消費者の研究について

   多くの研究に取り組んでいますが、新製品の需要予測ができる『目利きさん』となる人を集めてみたり、『聞き耳さん』と言ってもう少し汎用的に世の中全体の流れが分かる人を集めて、これから先どうなるのか、この辺製品の売れ行きはどうなのかなどを調査しています。

 どうしても私たちは感度の高い人と言うと1番先端の人を見がちです。1番先端の人は確かに先端的で良いのですが、なかなか一般の人がついてこられない部分があります。そこで聞き耳さんと言うのは上から2番目位の情報感度の高さ、先端もわかるけれども一般の人の声もわかると言う人たちを選んでいます。その人たちはある意味キャズムを超えて一般の人に広まっていく商品がわかるというところがあります。新製品の需要予測のために、その人たちを使って調査をするというようなことで活用しています。

Q:汎用的な「聞き耳」層は、どのような商品や商材で活用できるのでしょう?

   B to Bのような商品だとわかりにくいのですが、消費材ならば大体わかります。特に聞き耳さんと言うのは一般的に情報感度が高い人なので、例えばその中からお菓子について興味がある人、車について興味がある人というのを取り上げると、お菓子ならお菓子車なら車についてのことを感度良く話すことができます。実際その人たちにグループインタビューに来ていただいてお話を伺ったりすると、メーカーさんが思ってもみないような視点からの発言があったり、メーカーさんの意図をちゃんとわかって話をしてくれたりというようなことがあります。

 世の中全般の流れがわかる人をネット上で抱えていて、その中である商品について聞きたかったらその商品について興味がある人を選んでくれば良いと言う仕組みになっています。

Q:最新のご研究について

 今は情報感度の高い人とメディアの関係について研究しています。口コミの影響を考えたときに、情報感度の高い人の口コミというのはどのくらい影響力があるのかと言うのを見ています。今までどうしてもメディア広告の効果と言うのは認知率がどうかというところで判断されていましたが、感度の高い人たちが広告を見て、話をしてくれるたり商品を買ってよかった物について口コミをしてくれるたりすることが、メディア広告あるいはそれ以上の効果があると言われています。

 そこで口コミをどのように管理していったら良いのかが大切になってくるわけです。具体的に言うと、例えば企業が広告を打って消費者に商品を知ってもらう。その後店頭に行ってあるいはネット上で見て商品を買ってもらう。買った後に口コミを書いてもらう。書いた口コミが次の潜在顧客にどのように回っていくのか、こうした情報がぐるぐると循環するようなものを考えています。より情報がうまく循環するにはどうしたらいいのかを考えていくことがもしかしたら広告代理店のゴールかもしれません。あるいは情報がうまく回るように商品の改良していくと良いのではないかと考えています。

 今まで商品を買うときは、自分の頭の中で思い浮かべたもの、『考慮集合』の中から選ぶと言われていました。しかしこれだけ情報が多くなってくると考慮集合というより、世の中で話題になっている『話題集合』の中から選ぼうとする傾向が非常に強くなってくるので、そういう意味で常に話題になるような仕組みというものを情報循環させて作ることに意味があるのではないかと思いそのあたりを中心に研究しています。

 その他、モバイルを使いモバイルのGPS機能から人はどのようなところを歩きまわっているのかを見たり、2020年オリンピックもありますので日本と言う国の世界におけるマーケティングの価値はどうなのかという研究をしています。

Q:日本におけるマーケティングの課題をどのように捉えていますか?

 学会、実務界色々課題はあると思いますが、学会においてはなかなか世界にチャレンジしていける環境が中国や韓国に比べて弱いという気がしており、年長者である私としてはなんとかしなければいけないと考えています。

 マーケティングの課題と言うことに関して言えば、どうしても欧米企業が日本に進出する際にマーケットが大きいかというのを見てしまう部分があります。中国やインドは人口が多いのでマーケットが大きい。では日本はどうなんだと言うことになると人口が減っているのでマーケットとして魅力がないということになっています。そうなると日本を素通りしてインドや中国で商売をしようという欧米の企業が出てくるわけですが、その中で日本の立ち位置はどうするのかを考える必要があります。日本人は非常に商品の質に対するこだわりが強いので日本はテストマーケットとして使えるのではないかと考えます。マーケットとして日本はさほど大きくないが日本で成功した商品はどこでも通用する。そのような仕組みを作れたらいいなと考えています。

 世界で見たとき、日本自体が聞き耳といえるかもしれません。

Q:最後に「日本発のマーケティング」とは?

 日本は今マーケティングだけでなく海外からの理論を持ってきて日本に当てはまるかどうかと言う研究がとても多く、実際企業のセミナーも海外で有名な先生が来たということで人が集まる傾向があります。しかしこれだけ多くの日本人が海外旅行したり海外に住む昨今、国民性が違うし体格も違うし気候も違うのだから海外のものを日本にそのまま持ってきてもうまくいかないというのは十分わかると思うのです。

 そういう意味で言うと、海外のものをそのまま持ってきて日本に応用して…という考えではなく、それを改良するとか、あるいは日本のアニメが世界ですごく注目されたり日本食が世界に注目されたりしているように、日本から発信していて世界で注目されているものというのも数多くあるわけですから、日本からマーケティング理論を発信してもいいのではないかと考えています。僕は研究者になって30年近く経ちます。海外の研究にはこのようなものがありますよ、日本に応用したらこういうところがわかってこういうところができませんよ、では日本独自でこういうのもあるのではないですかというようなステップを踏んでやってきているので、そろそろそういうものを世界に出して行ってもいいのではないかと考えています。

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