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融資システムのテストを担当すると、「一般的なシステムテストと同じ考え方でよいのか」「どの機能まで細かく確認すればよいのか」と迷いやすいものです。 特に融資業務は、申込情報を登録して終わるものではなく、 審査・承認・契約・融資実行・返済まで複数の処理が連続してつながっています 。 個人融資を扱うシステムでも、商品や申込内容に応じたワークフロー、自動審査、信用情報機関への照会、勘定系システムとの連携など、多くの機能が組み合わされています。 そのため、個々の画面が正常に動くことだけを確認しても、融資システム全体の品質を十分に確かめたことにはなりません。 融資金額や金利、返済額、審査結果などに誤りがあれば、顧客や金融機関の業務へ大きな影響を与える可能性があります。 金融機関のシステムでは、システムの停止や誤作動、不正使用などによって顧客や金融機関が損失を被るリスクも考慮する必要があります。 そこで今回は、 融資システムで押さえたいテスト観点とテストケースの作り方を、業務の流れとリスクの両面から整理しました! 融資業務に不慣れな場合でも、どこから確認すればよいか判断できるよう、実務に落とし込みやすい順番で解説します。 import haihaiInquiryFormClient from "https://form-gw.hm-f.jp/js/haihai.inquiry_form.client.js";haihaiInquiryFormClient.create({baseURL: "https://form-gw.hm-f.jp",formUUID: "927d2c4e-f06c-45b1-bd36-0240e55ccf72",}) ▼テストの種類について詳しい内容はこちら▼ 【保存版】テストの目的別タイプ一覧 まず押さえたい!融資システムのテストは「業務の流れ」から考える 融資システムのテストを考えるとき、最初から画面一覧や機能一覧を見てテストケースを書き始めると、重要な確認が抜けることがあります。 先に整理したいのは、 融資案件がどのような業務を通り、どのデータやシステムと関係するのか という全体像です。 たとえば個人融資では、申込内容に応じて審査を行い、信用情報や行内情報を取得し、条件を判定したうえで後続の手続きへ進む仕組みがあります。 融資実行後も、残高管理、条件変更、保証料計算、入出金、完済などの処理が続くケースがあります。 つまり、テスト対象を「申込画面」「審査画面」といった単位だけで捉えると、画面と画面の間で起こるデータ不整合や誤った状態遷移を見落としかねません。 業務フローを軸に機能を並べ、その流れが途中で崩れないか確認すること が、融資システムにおけるテスト設計の基本になります。 融資申込から返済までの流れをつかめば、テストの抜け漏れを減らせる! まず、対象となる融資商品の業務フローを整理します。 一般的には、申込受付から審査、承認、契約、融資実行へ進み、実行後は返済や残高管理、条件変更などの処理につながります。 企業向けの融資管理システムでは、申込・契約登録・実行・請求・回収・延滞債権管理・返済条件変更などを一連の業務として扱う製品もあります。 ここで大切なのは、 各工程を独立した機能として見るのではなく、前後の工程とのつながりを見ること です。 たとえば、申込時に入力した融資希望額や顧客情報が審査処理へ正しく渡っているか、承認された案件だけが契約へ進めるか、契約済みの内容と実行時の条件が一致しているかを確認します。 業務フロー図だけでなく、状態遷移図、要件定義書、画面一覧、帳票一覧、外部インターフェース一覧なども組み合わせると、確認対象を洗い出しやすくなります。 商品によって業務ルールは異なるため、住宅ローンやカードローン、事業性融資などを同じテストケースで一律に扱わず、 対象商品のルールを起点にテスト範囲を決めること が重要です。 単体・結合・総合・受け入れテストの役割を整理しよう! 融資システムでは、テスト工程ごとに確認する目的を分けると、同じ確認を繰り返すだけのテストになりにくくなります。 単体テストでは、金額計算や条件分岐、入力チェック、エラー処理など、個々のプログラムや機能が想定通りに動くかを確認します。 結合テストでは、画面、API(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)、データベース、バッチ、外部サービスなどを組み合わせたときに、情報が正しく受け渡されるかを確認します。 システムテストでは、統合されたシステム全体が要求された動作を満たすかを確認し、受け入れテストでは業務上必要な処理を実際に遂行できるかを確かめます。 融資システムであれば、総合的なテストでは 申込から審査、契約、融資実行までを一つの業務シナリオとして通す視点 が重要です。 受け入れテストでは、単に仕様書通りかを見るだけでなく、担当者が現実の業務手順で問題なく処理できるか、必要な情報を確認できるかまで検証します。 工程ごとに「何を確認するか」だけでなく、 この工程でどのリスクを取り除くのか を決めておくと、テスト目的が明確になります。 テスト項目を増やす前に「障害が起きたら何が困るか」を考えよう! テストケースを増やせば品質が比例して高くなるとは限りません。 システムが複雑になるほど、考えられる入力や条件の組み合わせも増えるため、すべてを同じ深さで確認するのは現実的ではありません。 そこで役立つのが、 障害が発生する可能性と、発生した場合の影響を踏まえて優先順位を付けるリスクベースの考え方 です。 融資システムなら、融資額や金利、返済額など顧客の金銭に直接関係する処理、審査・承認など融資判断を左右する処理は、優先度を高く設定しやすい領域です。 「金利が誤って計算される」「否決案件が実行される」「同じ融資が二重実行される」「障害復旧後に同じ処理が再実行される」といった 起きてはいけない事象から逆算する方法 も有効です。 金融システムでは、停止や誤作動だけでなく、不正利用や重要情報への不正アクセスもシステムリスクになります。 限られた期間で品質を確保するには、すべてを均等に確認するのではなく、 業務への影響が大きい部分ほどテストを厚くする設計 が求められます。 ここは外せない!融資システムで確認したい重要テスト観点 融資システムには、一般的な業務システムでも必要になる入力チェックや画面遷移に加え、金融業務ならではのテスト観点があります。 特に重要なのが、 金額・金利・返済、審査条件、案件ステータス、権限、外部システム連携、日付処理 です。 個人融資の審査システムでも、自動審査、商品規定や審査規定による判定、信用情報機関への照会、勘定系やWeb申込システムとの外部連携など、複数の要素が組み合わされています。 実行後の管理では、残高や保証料、条件変更、入出金、完済などの処理も発生します。 それぞれを個別に確認するだけでなく、ある処理の結果が後続処理へ正しく反映されるかを見る必要があります。 ここからは、融資システムのテストケースを設計するときに優先して確認したい観点を整理します。 金額・金利・返済計算は「1円のズレ」まで確認する! 融資システムで特に慎重に確認したいのが、 融資金額・金利・利息・返済額・残高などの金額計算 です。 画面に表示された結果だけでなく、内部データ、帳票、外部システムへ連携される値まで一致しているかを確認します。 金額条件には、最低融資額や最高融資額、融資限度額などの境界が設定される場合があるため、境界値そのものだけでなく、その直前と直後もテストすると不具合を見つけやすくなります。 金利計算では、小数点以下の扱いや端数処理、切り上げ、切り捨て、四捨五入などのルールも確認対象です。 返済についても、通常の約定返済だけでなく、一部繰上返済、全額繰上返済、返済条件変更などを考慮します。 融資管理システムには、元金均等・元利均等・期限一括といった返済方法や、固定金利・変動金利、一部・全額の繰上返済を扱うものもあります。 計算結果だけでなく、その結果が後続処理へ正しく引き継がれるところまで確認すること がポイントです。 審査・承認は「条件の組み合わせ」と「境界」を重点的に確認する! 融資審査では、一つの入力値だけで結果が決まるとは限りません。 商品条件や申込内容、行内情報、信用情報など、複数の情報を使って審査処理を行うシステムがあります。 そのため、テストケースでは どの条件によって審査結果が切り替わるのか を明確にする必要があります。 承認されるケースだけではなく、否決、保留、追加確認など、仕様上存在する結果を一通り通せるデータを準備します。 条件の組み合わせが多い場合は、すべての組み合わせを機械的に作るのではなく、判定結果が変化する条件を優先します。 たとえば限度額や対象年齢、申込期間などに境界がある場合は、条件を一つだけ変えて結果の変化を見ることで、判定ロジックの誤りを発見しやすくなります。 自動審査のあとに担当者の確認や承認を挟む仕組みでは、自動判定そのものだけでなく、 判定結果が正しい担当者へ渡り、その後の操作が適切に制御されるか まで確認しましょう。 ステータスと業務フローは「進めるケース」と「進めないケース」の両方を見る! 融資案件には、申込受付、審査中、承認、否決、契約済、実行済、完済など、処理状況に応じた状態があります。 テストでは、正しい順番で状態が変わることに加えて、 本来は許可されない順番で処理できないこと も確認します。 たとえば、審査が終わっていない案件を契約済みにできないことや、否決された案件をそのまま融資実行できないことなどが確認例です。 正常系だけを実行していると、このような禁止ルートの不具合を見落としやすくなります。 さらに、現実の業務では取消、差戻し、再申請、再審査、条件変更など、一直線に進まないケースも発生します。 複数の担当者が同じ案件を操作できるシステムでは、同時操作によって更新内容が失われないか、承認や融資実行が重複しないかも確認したいポイントです。 「正しく進めること」と「誤った状態では進めないこと」をセットでテストする と、状態遷移に関する抜け漏れを抑えやすくなります。 権限・本人確認・セキュリティは「見えてはいけない・できてはいけない」まで確認する! 融資業務では、顧客情報や審査情報など重要な情報を扱うため、権限制御やセキュリティも重要なテスト対象です。 担当者、承認者、管理者など役割が分かれている場合は、それぞれの利用者が参照・登録・変更・承認できる範囲を確認します。 画面上でボタンが非表示になっているだけではなく、URLを直接指定した場合やAPIを直接呼び出した場合にも、権限のない処理を実行できないことが重要です。 本人確認が必要な業務では、確認が完了していない状態で契約や融資実行などの後続処理へ進めないかも確認します。 金融機関では、システムの不正使用や重要情報への不正アクセス、漏えいなども重大なシステムリスクとして扱われます。 金融情報システムの安全対策に関する基準も継続的に更新されており、2026年3月には第14版が公開されています。 機能が正常に動くかだけではなく、 見えてはいけない情報が見えないこと、実行してはいけない操作が実行できないこと もテスト観点として組み込みましょう。 外部連携・バッチ・日付処理は「止まったとき」までテストする! 融資システムは単独で完結せず、複数のシステムと連携するケースがあります。 個人融資の審査領域では、勘定系、情報系システム、Web申込システム、担保評価システム、個人信用情報機関などとの連携が考えられます。 そのため、正常にデータが返る場合だけでなく、 タイムアウト、通信切断、エラー応答、応答遅延などが発生した場合 も確認します。 通信エラー後に自動で再実行する仕組みでは、同じ申込や融資実行が二重登録されないことも重要です。 また、返済日や利息計算、期日管理などでは日付条件が結果に影響するため、月末、年末、年度末、うるう年、休日などのケースも検討します。 日次や月次のバッチ処理が途中で停止した場合は、復旧後にどこから再開するのか、処理済みデータが再処理されないかを確認します。 外部システムやバッチが正常に動く前提だけでテストせず、「止まる・遅れる・途中で失敗する」状況まで想定すること が重要です。 抜け漏れとムダを減らす!実践的なテストケースの作り方 重要なテスト観点を把握しても、そのまま項目を並べるだけではケース数が膨らみやすくなります。 融資システムでは商品、顧客属性、金額、審査条件、権限、状態など多くの条件が組み合わさるため、すべての組み合わせをテストしようとすると現実的な件数に収まらないことがあります。 テスト設計では、 何を確認するかと同時に、何を優先して確認するかを決めること が重要です。 リスクの高い機能や条件を厚く確認し、影響の小さい部分まで同じ粒度でテストしないよう濃淡を付けます。 また、ケース作成と並行してテストデータや証跡の残し方まで考えておけば、テスト実施段階での手戻りも抑えやすくなります。 ここでは、限られた工数の中でテストの抜け漏れとムダを減らすための具体的な方法を整理します。 まず「業務リスク×機能」の一覧を作って優先順位を付ける! 最初に、対象機能とその機能で障害が発生した場合の影響をセットで整理します。 たとえば「融資実行」という機能だけを書くのではなく、「誤った金額で実行される」「同一案件が二重実行される」「未承認案件が実行される」といった問題まで具体化します。 そのうえで、顧客資産への影響、業務停止の有無、情報漏えい、復旧の難しさなどを基準に優先順位を付けます。 リスクベーステストは、 リスクの種類やレベルをもとにテスト活動やリソースの優先順位を決める考え方 です。 高リスクと判断した領域では、正常系だけでなく、異常系、境界値、組み合わせ、障害復旧などまで確認範囲を広げます。 反対に影響が限定的な機能では、重要な正常系を中心にするなど、テストの深さを調整します。 この整理を残しておけば、レビュー時にも「なぜこの機能を重点的に確認するのか」を説明でき、 ケース数ではなくリスクに基づいてテスト計画の妥当性を示しやすくなります 。 正常系だけで安心しない!6つの切り口でテストケースを広げる テストケースを考えるときは、正常系だけで終わらせず、 正常系・異常系・境界値・組み合わせ・状態遷移と権限・障害と復旧 という切り口から確認します。 正常系では、想定された申込内容と正しい業務手順によって、融資処理を最後まで完了できるかを確認します。 異常系では、必須項目不足、不正な入力、外部連携エラーなどに対して適切なエラー処理が行われるかを見ます。 境界値では、融資限度額や年齢、期間など、判定結果が切り替わる値の直前・境界そのもの・直後を確認します。 組み合わせでは、商品、顧客属性、申込条件、審査条件などを組み合わせたときに、単独条件では発生しない不具合がないかを確認します。 状態遷移と権限では、案件の状態や利用者の役割によって操作可否が適切に変わるかを検証します。 障害と復旧では、処理中断や通信失敗後に データ不整合、処理漏れ、二重処理が残らないこと まで確認すると、実運用に近いテストになります。 テストデータは「ケースを書いたあと」ではなく設計段階で準備する! テストケースが完成してからデータを用意しようとすると、「必要な条件の顧客を作れない」「審査結果を狙った状態にできない」といった問題が起こりやすくなります。 そのため、 テストケースを設計する段階で必要なデータ条件も同時に決めること が大切です。 たとえば正常に承認されるデータだけでなく、限度額ぎりぎり、審査条件を一つだけ満たさない、延滞状態、返済条件変更後など、確認したい結果を再現できるデータを整理します。 前工程で作った案件を後工程でも利用する場合は、どのデータが申込中で、どのデータが承認済みなのかといった状態管理も必要です。 同じデータを複数人が使うと、途中で状態が変わって再現できなくなることもあるため、利用ルールを決めておくとテストが安定します。 また、個人情報や金融情報を扱うシステムでは、本番情報を安易にコピーするのではなく、プロジェクトのセキュリティルールに沿ったデータ準備が欠かせません。 何度実行しても同じ条件を再現できるデータを用意しておくこと は、再テストや障害解析の効率向上にもつながります。 テスト結果は「合格・不合格」だけでなく、判断できる証跡を残す! テストを実行した結果として「合格」と記録するだけでは、あとから同じ結果を確認することが難しくなります。 実施日時、使用したテストデータ、操作内容、期待結果、実際の結果などを追跡できる形で残しておくと、レビューや障害調査が進めやすくなります。 必要に応じて画面キャプチャ、APIの応答内容、ログ、帳票などを保存し、 第三者が見ても期待結果と実際の結果を比較できる状態 にします。 金融系システムのテストでは、操作ログや画面キャプチャなど大量の証跡を扱うケースがあり、証跡取得自体が大きな作業になることもあります。 すべての操作で大量の証跡を残せばよいわけではなく、プロジェクトのルールや確認目的に合わせて取得対象を決めることが重要です。 不具合が見つかった場合は、入力データや操作順序、ログなどから同じ現象を再現できる情報を残します。 結果を残す目的は資料を増やすことではなく、あとから正しく判断・再現できるようにすること と考えると、必要な証跡を選びやすくなります。 自動化は「全部やる」のではなく、繰り返すテストから始める! 融資システムのテスト工数を減らす方法として、自動化を検討するケースもあります。 ただし、最初からすべてのテストを自動化しようとすると、シナリオ作成や保守に時間がかかり、かえって負担が増えることがあります。 まずは、 同じ操作を何度も繰り返す回帰テストや、期待結果を機械的に判定しやすい処理 から候補を選ぶ方法が現実的です。 金額計算の確認、APIテスト、データの比較、同一シナリオの繰り返し実行などは、自動化を検討しやすい領域です。 実際の融資管理システム開発でも、手作業で行っていたテストに自動化を導入し、証跡取得や結果確認の負担を軽減した事例があります。 一方で、担当者による業務判断や画面の使いやすさなど、人が確認したほうが適切な項目まで無理に自動化する必要はありません。 金融系の開発・テスト環境ではネットワークやセキュリティ上の制約も考えられるため、導入前に実行環境やツールの保守方法まで確認します。 自動化率の高さではなく、繰り返し工数や確認負荷をどれだけ減らせるかを基準に対象を選ぶこと が重要です。 まとめ|融資システムのテストは「機能」ではなく「業務リスク」から組み立てよう! 融資システムのテストでは、画面や機能を一つずつ確認するだけではなく、 申込・審査・契約・融資実行・返済までの業務全体をつなげて考えること が重要です。 特に、融資金額や金利、返済計算、審査条件、状態遷移、権限、外部システム連携、日付処理などは、融資業務の品質を左右しやすい確認領域です。 正常に処理できるケースだけでなく、異常値、境界値、禁止操作、通信障害、処理中断後の復旧まで対象を広げることで、本番環境で問題になりやすい不具合を見つけやすくなります。 ただし、考えられる条件をすべてテストしようとするとケース数が膨大になるため、重要度を無視した網羅は現実的ではありません。 障害が起きた場合にどのような影響が出るのかを整理し、影響の大きい領域から優先してテストを厚くすること が、品質と工数を両立するポイントです。 テストデータや証跡、自動化についても、テスト実行を始めてから考えるのではなく、設計段階から準備しておくと手戻りを抑えやすくなります。 まずは対象となる融資商品の業務フローを書き出し、それぞれの工程で「起きてはいけない事象」を整理するところから始めると、必要なテスト観点を体系的に洗い出せるようになります。 QA業務効率化ならPractiTest テスト管理の効率化 についてお悩みではありませんか?そんなときはテスト資産の一元管理をすることで 工数を20%削減できる 総合テスト管理ツール「 PractiTest 」がおすすめです! PractiTest (プラクティテスト) に関する お問い合わせ トライアルアカウントお申し込みや、製品デモの依頼、 機能についての問い合わせなどお気軽にお問い合わせください。 お問い合わせ この記事の監修 Dr.T。テストエンジニア。 PractiTestエバンジェリスト。 大学卒業後、外車純正Navi開発のテストエンジニアとしてキャリアをスタート。DTVチューナ開発会社、第三者検証会社等、数々のプロダクトの検証業務に従事。 2017年株式会社モンテカンポへ入社し、マネージメント業務の傍ら、自らもテストエンジニアとしテストコンサルやPractiTestの導入サポートなどを担当している。 記事制作: 川上サトシ (マーケター、合同会社ぎあはーと代表)
出展の概要 会場の印象 アプトポッドブースの展示 点検・警備ソリューション メーター読み取り 四足歩行ロボット以外の連携:ドローン・ウェアラブルカメラ・サーマルカメラ 通信 リアルタイムデジタルツインソリューション 映像3Dモデル化デモ フィジカルAI 来場者の反応 まとめ こんにちは、クロスインダストリー事業部ソリューション開発グループの影山です。同事業部で製品・ソリューションの開発を担当しています。 この度、株式会社アプトポッドは、2026年7月15日(水)から17日(金)までの3日間、東京ビッグサイト東展示棟で開催された「メンテナンス・レジリエンス 2026」に出展しました。おかげさまで3日間を通して多くの方にブースへお立ち寄りいただきました。ありがとうございました。 https://mente.jma.or.jp/ 今年は、点検・警備、リアルタイムデジタルツイン、フィジカルAIといったトピックにフォーカスして展示を行いました。本記事では、それぞれについてご紹介していきたいと思います。 出展の概要 アプトポッドは産業用IoTミドルウェア「 intdash 」を提供しています。これまで自動車開発や建設機械の領域で導入いただいてきましたが、設備の点検・保全という領域でもintdashの特長を生かせると考え、さまざまなユースケースのデモや事例を展示しました。intdashはマルチモーダルなデータをリアルタイムに扱うことに長けています。カメラ映像、LiDARの点群、ロボットのROSトピック、ガスセンサーの値、既存設備のデータといった、種類も周期もばらばらな大量のデータを、時刻を揃えたままリアルタイムに集めて遠隔から扱いたい、というニーズにマッチします。 www.aptpod.co.jp 今回のデモ全体の構成図 今回の出展では、複数の四足歩行ロボットを動かして点検をデモしたり、同時にドローンの映像をintdashへ転送したりといった実演を通じて、メーカーも種類も異なる機体・センサーを、intdashという1つのデータ基盤の上で運用する様子を、実機と画面でそのままご覧いただきました。 会場の印象 会場を歩いていて印象的だったのは、点検ロボットやドローンを展示しているだけでなく、実際に動かしているブースが非常に多かったことです。人手不足を背景に、インフラ・プラントの点検をいかに自動化・省人化するかというテーマが、実証段階から運用段階へ移りつつあることを感じました。 アプトポッドブースの展示 アプトポッドブースの様子 点検・警備ソリューション 点検や警備の分野では、人手不足が課題になっているというお話をうかがうことが特に多くなっています。よくうかがう課題は、人が現場に行かないと状況が分からないこと、計器の値を人が目視で読む必要があること、定置センサーがない箇所は人が足を運ぶしかないことです。 ブースの前面では、「カメラやセンサーを搭載したロボットが自律的に現場を歩いて移動する」「ロボットが撮影した画像をAIが解析して数値にする」「ロボットからのデータとAIの解析結果を、すべて1つのintdashの画面でリアルタイムに見る」という組み合わせで実演しました。 ブース内には昇降ステップやダミーの計器を配置して簡易的なプラントを模擬し、そのなかを Unitree Go2 や Unitree A2 が走行しました。 デモエリアを歩き回るロボットたち Unitree Go2 では、 パナソニック アドバンストテクノロジー株式会社 様の自律移動ソフトウェア「@mobi」を使い、事前に作成した地図とウェイポイントに沿ってブース内を巡回します。頭部カメラに加えて、背中に3D LiDAR(Livox Mid-360)と360度カメラ(Insta360 X5)、そしてCO2センサーを搭載しました。 adtsd.jpn.panasonic.com Go2の背中。3Dプリンタ製のケースに360度カメラとアンテナ、CO2センサーを載せています Unitree A2 は最近発売された新機種で、防塵防水に対応しており、重いペイロードも搭載できます。今回は自律走行は行わず、intdashを経由した遠隔操縦のデモを行いました。遠隔操縦だけでなく、 株式会社ザクティ 様のPTZカメラの向きを遠隔から操作できるようにし、さらに 理研計器株式会社 様のマルチガスセンサー GX-3R Pro を搭載して、ガスのセンサー値をリアルタイムにintdashへ送りました。PTZカメラを遠隔からパン・チルト・ズームさせて、離れた場所の計器を読みに行く、という使い方ができます。 A2の背中。PTZカメラとマルチガスセンサーを搭載しています product.rikenkeiki.co.jp xacti-co.com ブースの入り口で展示していた Unitree Go2-W は、脚の先が車輪になっているモデルで、こちらには TechShare 社株式会社 様の自律移動パッケージ「Patrobot」を載せています。搭載しているのはCO・アルコールガスセンサーと放射温度計。ガス漏れと発熱という、プラント点検で真っ先に見たい2つを歩きながら測るイメージです。 展示では昇降ステップを並べて段差を作り、ロボットが階段状の障害物を昇り降りする様子もご覧いただきました。 ブース内を自律走行して、メーターの自動読み取りを行うUnitree Go2 techshare.co.jp メーター読み取り アナログ計器は、人が値を目視で読み取って記録する作業が必要です。それを自動化する例として、ロボットのカメラ映像からメーター領域を切り出し、「hakaru.ai」 の認識APIに問い合わせて数値に変換するデモを行いました。 読み取った値は、そのまま intdash の時系列データとして扱えます。intdashへ送ることで、カメラの映像などと並べてメーターの読み取り値を確認できます。また、リアルタイムに見るだけでなく、あとからAPIを利用して回収することもできます。 切り出されたメーター画像と読み取り値。CO2濃度や人物検出数と同じ画面に並びます www.hakaru.ai 四足歩行ロボット以外の連携:ドローン・ウェアラブルカメラ・サーマルカメラ 四足歩行ロボット以外にも、ドローン、ウェアラブルカメラ、サーマルカメラとの連携を展示しました。 ドローンのデモでは、ドローン搭載カメラのライブ映像をintdashへ送り、高所や空中からの確認が可能なことを紹介しました。俯瞰位置に設置したサーマル監視カメラ(EDGEPLANT T1 経由)では、RGB映像とサーマル映像を同時に配信し、温度異常を色で確認できることを紹介しました。 株式会社ザクティ 様のウェアラブルカメラは Raspberry Pi 経由で接続し、ブレ補正された作業者目線の映像を送れることを実演しました。 これらの映像については、サーバー側でYOLOによる人物・物体検出を行い、映像を後処理して検知することも可能であることをデモしました。 ロボット・固定カメラ・人・ドローンという性格の違うデータソースを、intdashで統合して確認できることが、このソリューションの大きな特長の一つです。 ドローンの映像も、ロボットやカメラと同じ画面で確認できます xacti-live.com 通信 各ロボットには回線ボンディングに対応した Peplink MAX BR2 Micro を利用し、混雑した会場内でも2回線を束ねることで安定したモバイル通信を実現しました。 www.caso.co.jp リアルタイムデジタルツインソリューション このエリアでは、施工現場の状況を仮想空間に再現するリアルタイムデジタルツイン基盤をご覧いただきました。画面には現場の3D点群が広がり、その上に車両の走行軌跡が重なります。同じ画面の中に掘削量・盛土量といった土量の数値、地表の断面形状のグラフ、そして車載カメラの映像が並び、すべてが同じ時間軸で再生されます。「現場のいつ・どこで・何が起きていたか」を、後から3D空間ごと巻き戻して確認できる、というイメージです。 3D点群の上に車両の走行軌跡、土量、断面形状、車載カメラ映像が同じ時間軸で並びます 実際に動いている様子は、こちらの動画でご覧いただけます。 www.youtube.com 映像3Dモデル化デモ ブースを iPhoneアプリ intdash Motionで撮影した映像データを、 株式会社Liberaware 様が提供する「 LAPIS 」に連携して点群化し、3Dモデルとして表示しました。 専用の3Dスキャナーだけでなく映像を起点として空間を3D化できるため、設備や現場の状況把握、遠隔からの確認など、さまざまな活用が期待できます。映像を見るだけの監視から、空間として記録・参照する活用へ広がる点が興味深い展示でした。 www.youtube.com フィジカルAI フィジカルAIのエリアでは、これから応用が進んでいくであろうこの分野でも、intdashを活用できそうな事例をご紹介しました。 ロボットやAIを現場で賢く動かすには、大量の現実世界のデータが必要です。一方で、危険な状況やめったに起きない事象は、実環境ではなかなか集められません。そこで、実環境から集めたデータと、シミュレーション環境(Gazeboなど)で生成したデータを、intdash で同じように収集・蓄積する構成をご紹介しました。 あわせて、学習データの収集からアノテーション、モデル開発、実機へのOTAによるモデルデプロイ、そして運用時の遠隔監視・遠隔診断・遠隔制御介入までを一連のパイプラインとして構成する取り組みも、 FastLabel 株式会社様との連携例としてご紹介しました。動画像と関節角度・圧力といったマルチモーダルなデータを、時刻を揃えたまま時系列データベースに蓄積できることが、この構成の前提になっています。 収集したデータを使える形に整えるデータ加工レイヤも重要です。データ収集レイヤであるintdashから必要な時系列データを取得し、解析処理を行ったうえで、運用に必要な形に出力する仕組みが求められます。その一例として、Power BIとintdashを連携させるデモを展示しました。 データ収集レイヤ・加工レイヤ・活用レイヤの3層構成 来場者の反応 ブースでは、プラントや工場の設備保全、倉庫や施設の点検業務のDX推進など、さまざまな立場の方にお立ち寄りいただきました。 四足歩行ロボットによる巡回点検の展示について、反応を多く頂きました。ロボットの導入を考えてはいるものの、まず何から始めればよいのか悩んでいる、という声も多くうかがいました。 「カメラやセンサーはすでに導入しているが、形式も周期もばらばらで突き合わせられない」といった、データのサイロ化に関する課題を挙げられる方もいらっしゃいました。マルチモーダルな時系列データを時刻を揃えて収集するという intdash のアプローチについて、その必要性を実感を持って受け止めていただけたケースも多かったように思います。 まとめ メンテナンス・レジリエンス 2026 にご来場いただき、アプトポッドブースにお立ち寄りいただいた皆さま、誠にありがとうございました。 アプトポッドは、intdash を通じて、現場点検のロボット化・遠隔化、複数のカメラやセンサーを統合したリアルタイム可視化、現場のデジタルツイン化、ロボット・AI開発のためのデータ基盤といった、さまざまな領域で現場のデータ活用を支援してまいります。お困りごとがありましたら、ぜひ お問い合わせフォーム からご連絡ください。
はじめに こんにちは、IoT Specialist ソリューションアーキテクトの新澤です。2026 年 6 月 25〜26 日に幕張メッセで開催された AWS Summit Japan 2026 の「生産ラインの未来」ブースでは、AI エージェントが生産ラインのボトルネックを検知し改善策を提案するデモを展示しました。 開催前の予告ブログ ではデモの概要をご紹介しましたが、本記事では展示を終えた今、その実装の詳細を解説します。 このデモのテーマは、「AI エージェントに工場の「構造」をどう教えるか」です。どの製品にどの部品が必要で、どの設備で加工し、どのサプライヤーから調達しているか。こうした関係性が構造化されていなければ、AI は参照すべきデータソースを判断できず、回答が不安定になったり、必要なデータに到達するまでの試行錯誤が増えたりします。本デモではこの関係性をスキーマとして定義し、ナレッジグラフとして実装しました。一方、スキーマだけでは「今」が分かりません。設備のサイクルタイムは今何秒か、現状の設備で増産対応が可能なのか。ここに IoT のリアルタイムデータを接続することで、AI エージェントは構造を知った上で現状を踏まえた判断を行えるようになります。まず、なぜ製造業にナレッジグラフが必要なのかという課題から出発し、グラフスキーマの設計、データストアの役割分担、AI エージェントの推論フロー、全体アーキテクチャの順に解説します。 なお本記事では、製品・部品・設備・サプライヤーといった要素間の関係性をグラフ構造で表現したものを「ナレッジグラフ」と呼ぶこととします。これは OWL や記述論理に基づくいわゆるオントロジー (TBox/ABox による概念公理や自動推論)とは異なり、AI エージェントが「どのデータをどう辿るか」を判断するためのセマンティックなコンテキスト情報として活用することを目的としています。また、本記事で「推論」と呼ぶのは、記述論理(OWL など)による論理推論ではなく、AI エージェント(LLM)がナレッジグラフを文脈として複数のデータソースを横断し、回答を組み立てる処理を指します。 デモ画面:生産ラインのナレッジグラフマップ なぜ製造業にナレッジグラフが必要か 突然の増産指示「来月末までに 300 台追加で出荷できるか?」この問いに答えるには、オーダー → 製品 → 部品 → 在庫 → サプライヤー → 設備稼働と、異なるシステムに散在するデータを横断的に辿らなければなりません。難しいのは個々のデータを取ることではなく、それらのデータ間の依存関係を何段も辿り切らなければならない点にあります。さらに各データは多対多の関係を持ちます。1 つの製品は複数の部品を必要とし、1 つの部品は複数のサプライヤーから調達可能で、1 台の設備は複数の製品の工程に関与します。増産対応に限らず、このような「多段の関係性探索」は製造現場で繰り返し発生します。 特に顕著なのが BOM (部品表) の探索です。BOM はツリー構造で、増産の実現性判断では BOM を順方向に展開して必要部品を洗い出す必要があります。一方、品質問題のトレーサビリティでは逆方向に辿って「この素材を使っている全製品は」を特定します。設計変更の影響確認でも同様です。しかも構成が何階層あるかは製品ごとに異なるため、探索の深さを事前に固定できません。本デモでは以下の 3 階層の BOM を定義しました (来場者の方から「うちは 100 階層を超える」という声もいただきました) 。 SD1 圧力センサーモジュール (完成品) ├── センサーユニット (サブアセンブリ) │ ├── セラミック圧力センサー素子 │ └── 配線ハーネス ├── 駆動ユニット (サブアセンブリ) │ ├── ブラシレスモーター ×4 │ └── モータードライバ IC └── フライトコントローラー 「300 台増産できるか」の判断には、部品ツリーを最下層まで展開し、在庫・リードタイム・設備の稼働状況を確認する必要があります。RDB では構成表テーブルを何段階も繰り返し結合して検索するため、部品が増えるほど処理が重くなります。一方、ナレッジグラフなら階層の深さに関わらず 1 行のクエリで記述でき、順方向・逆方向の検索もまったく同じ構文で対応できます。 // 順方向: 増産に必要な全部品を展開 g.V('PROD-SD1').repeat(out('REQUIRES')).emit().valueMap('name') // 逆方向: 不良素材の影響を受ける全製品を特定 g.V('PART-CERAMIC-001').repeat(in('REQUIRES')).emit().valueMap('name') ナレッジグラフの利点は、探索の書きやすさだけではありません。ユーザーにとって直接的なメリットが 2 つあります。 1 つはコストです。グラフ探索は問いに関係するサブグラフだけを返すため、テーブルや文書を丸ごと LLM のコンテキストに渡す必要がなく、消費トークンを抑えられます。またグラフが「次にどこを見るべきか」を示すため、エージェントが無関係なデータソースを探索して往復する無駄も生じません。もう 1 つは回答の信頼性です。エージェントは LLM の記憶ではなく、グラフに格納された検証済みの関係を根拠に回答を組み立てます。ナレッジグラフによる知識の裏付けがハルシネーションの抑制に有効と考えられます。 ここからは、これらの利点を実際のデモでどう形にしたかを解説します。 グラフスキーマの設計 まずは、AI エージェントに接続したデータソースと、その関係性を定義したグラフスキーマの設計から解説します。 デモで用意したデータソース AI エージェントが増産の実現性を判断するために、以下のデータソースを用意しました。 生産オーダー (Amazon DynamoDB) : どの製品をいつまでに何個作るかを管理します。本デモでは「SD1 圧力センサーモジュール 300 台、納期 7/10」のオーダーを投入しています。 BOM — 部品表 (Amazon Neptune ナレッジグラフ) : 製品に必要な部品の構成を定義します。前セクションで示した 3 階層のツリー(完成品 → サブアセンブリ → 部品)が REQUIRES エッジとして格納されています。 在庫 (Amazon DynamoDB) : 各部品の現在の在庫数量と安全在庫を保持します。例 : セラミック素子 10,000 個、ブラシレスモーター 30,000 個。 サプライヤー (Amazon Neptune ナレッジグラフ + Amazon DynamoDB) : 部品と調達先の対応関係は SUPPLIED_BY エッジとしてグラフに、リードタイムや最小発注数量などの値は Amazon DynamoDB に持たせています。例: セラミック素子は LT 14 日、ブラシレスモーターは LT 21 日。 設備稼働データ (AWS IoT SiteWise) : 各ステーション(受入検査、搬送、自動倉庫、加工、組立、出荷)のリアルタイムなサイクルタイムと稼働率を 1 分間隔で収集しています。Amazon Neptune の Equipment ノード ID と AWS IoT SiteWise のアセット ID を共通化しているため、グラフ探索で特定した設備の最新値を、ID 変換なしにそのまま取得できます。 工程設計書・FMEA (Amazon Bedrock Knowledge Bases) : 各工程の加工条件や運転手順を記述した工程設計書(Word ファイル)、FMEA(Excel ファイル)、PLC コーディング規約(Word ファイル)などのドキュメントを RAG 検索可能にしています。 グラフスキーマの全体像 本デモでは「増産オーダーの実現性診断」を頻出ユースケースとして特定し、そのグラフ探索パス (オーダー → 製品 → 部品 → 設備) を専用ツールとして事前実装しました。ユースケースに登場するエンティティをノード、関係をエッジとして Amazon Neptune に格納し、鮮度の高いデータ (サイクルタイム、在庫数量等) は IoT サービス群や Amazon DynamoDB に分離しています。静的な構造と動的な値を分けることで、レスポンス速度と回答精度を安定させることを目指しました。 しかし、現場では設備起点の問いも発生します。デモでは「オーダー起点で、影響する設備を探しに行く」パスを実装しましたが、現場ではその逆方向、設備で異常が起きたときに「何に影響するか」を知りたい場面が日常的に発生します。「焼成炉の温度が基準を超えた。この設備が停止したら、どの製品の出荷が遅れるか?」、「切削精度の劣化が検出された。同じユニットを使う他ラインの品質にも影響するか?」。これらはグラフ上の同じデータ構造を起点を変えて辿るだけなので簡単な話ですが、事前に定義した固定的な探索パスだけではカバーできません。なので実運用では頻出パターンは専用ツール (固定探索) で高速かつ安定した回答を返し、それ以外の問いには汎用グラフ探索 (LLM がノードの隣接関係を見て自律的に辿る方式) をフォールバックとして組み合わせるハイブリッド構成が現実的ではないかと考えています。 以下は、今回作成したグラフの全体像です。 本デモで定義したグラフスキーマ 本デモでは、グラフの実装基盤として Amazon Neptune を採用しました。Amazon Neptune 上に以下の 8 種類のノードと 10 種類のエッジを定義しました。以下は本ナレッジグラフのスキーマ (型定義) であり、実際の工場データ (インスタンス) はこの型に沿って格納されます。 ノードタイプ (8 種類) No. ノード 説明 例 1 Company 企業 AnyCompany 2 Factory 工場 Plant 02 横浜 3 Equipment 設備・ライン Production Line, Warehouse Station 4 SubUnit 設備内サブユニット Furnace Unit, Milling Machine 5 Product 製品 AnyCompany-SD1 6 Part 部品 セラミック圧力センサー素子 7 Supplier サプライヤー セラミック素材社 8 ProductionOrder 生産オーダー ORDER-2026-06-001 エッジタイプ (10 種類) No. エッジ 関係性 意味 1 CONTAINS Company → Factory 企業が工場を所有 2 HAS_EQUIPMENT Factory → Equipment 工場が設備を保有 3 HAS_SUBUNIT Equipment → SubUnit 設備がサブユニットを持つ 4 REQUIRES Product → Part 製品が部品を必要とする(BOM) 5 SUPPLIED_BY Part → Supplier 部品の調達先 6 STORED_AT Part → Equipment 部品の保管場所 7 PROCESSED_AT Part → Equipment 部品の加工場所 8 ASSEMBLED_AT Part → Equipment 部品の組立場所 9 PRODUCES ProductionOrder → Product オーダーの生産対象 10 EXECUTED_ON ProductionOrder → Equipment オーダーの実行設備 ISA-95 との対応 本デモのグラフモデルは、製造業の国際標準である ISA-95 の設備階層モデルと以下のように対応しています。 No. ISA-95 レベル 本デモのノード 説明 1 Level 4 — Enterprise Company ビジネス計画、オーダー管理 2 Level 4 — Site/Plant Factory 工場単位の生産管理 3 Level 2〜3 — Area/Work Cell Equipment 製造実行・各ステーション制御 4 Level 0〜1 — Control Module SubUnit 個別機器の制御 5 (サプライチェーン) Supplier, Part, Product, ProductionOrder ISA-95 外のビジネスエンティティ 本デモでは簡略化を目的として ISA-95 の Level 2〜3 を Equipment ノードに統合しています。実規模の適用時には、Work Center / Production Line / Work Unit を分離し、より詳細な階層を定義することも可能です。 ここまでで、グラフに格納する「構造」の設計を解説しました。一方、「グラフの全体像」で触れたとおり、鮮度の高いデータはグラフの外に置いています。次のセクションでは、この静的な構造と動的な値の分離を、データストアの役割分担として具体化します。 データストアの役割分担 本デモでは、データの特性に応じて 4 つのデータストアを使い分けています。 No. データストア 格納するもの 更新頻度 1 Amazon Neptune 静的な関係性 (BOM、設備構成、サプライヤー依存) 構造変更時のみ 2 AWS IoT サービス群 各設備のリアルタイム稼働データ (サイクルタイム、稼働率) 1 分間隔 3 Amazon DynamoDB 業務マスタデータ (生産オーダー、在庫、BOP) 日次〜週次 4 Amazon Bedrock Knowledge Bases 非構造化ドキュメント (工程設計書、FMEA、PLC コーディング規約) ドキュメント改訂時 データの置き場所が定まったところで、次は AI エージェントがこれらのデータソースをどのような順序で参照し、回答を組み立てるのかを、実際の問い合わせを例に見ていきます。 AI エージェントの推論フロー 「300 台増産は間に合う?」への回答プロセス AI エージェント (Amazon Bedrock AgentCore 上で動作) がユーザーからの問いに答えるプロセスを見てみます。ユーザーが「ORDER-2026-06-001 の増産 300 台は実現可能ですか?」とプロンプトウインドウに入力します。このとき、エージェントは以下の 5 つのステップを実行します。 Step 1 — ナレッジグラフ探索 (Amazon Neptune) オーダーを起点に、ノードタイプごとに異なる情報を収集しながら関係性を辿ります。 ProductionOrder (ORDER-2026-06-001) │ → 数量: 300台、納期: 7/10 │ ├─PRODUCES→ Product (AnyCompany-SD1) │ │ │ ├─REQUIRES→ Part (セラミック素子) │ │ ├─SUPPLIED_BY→ Supplier (セラミック素材社, LT:14日) │ │ ├─STORED_AT→ Equipment (Warehouse Station) │ │ └─PROCESSED_AT→ Equipment (Production Line) │ │ │ ├─REQUIRES→ Part (ブラシレスモーター) │ │ ├─SUPPLIED_BY→ Supplier (モーター工業, LT:21日) │ │ └─ASSEMBLED_AT→ Equipment (Assembly Line) │ │ │ └─REQUIRES→ Part (フライトコントローラー) │ ├─SUPPLIED_BY→ Supplier (エレクトロニクス社, LT:30日) │ └─ASSEMBLED_AT→ Equipment (Assembly Line) │ └─EXECUTED_ON→ Equipment (Production Line, Assembly Line) 1 回の探索で以下が判明します: 部品 3 種 とそれぞれの所要数・リードタイム サプライヤー 3 社 と最小発注数量 関連設備 3 台 の ID(= AWS IoT SiteWise アセット ID) 各ノードに到達するたびに、次のステップで必要な情報 (ID、属性値) が揃います。Part ノードからは在庫確認 (Step 3) に進み、Equipment ノードからはリアルタイムデータ取得 (Step 2) に進みます。グラフが「次にどのデータソースを見るべきか」を教えてくれる構造です。 Step 2 — リアルタイムデータ取得 (AWS IoT SiteWise) Step 1 で特定した設備の ID (= AWS IoT SiteWise アセット ID) を使い、各設備の現在のサイクルタイムと稼働率を取得します。Amazon Neptune のノード ID と AWS IoT SiteWise のアセット ID に同じ UUID を使用しているので、Amazon Neptune のグラフ探索で特定した設備のノード ID を、そのまま AWS IoT SiteWise の API パラメータとして渡しています。別途マッピングテーブルを参照する必要がなく、グラフの探索結果が即座にリアルタイムデータの取得キーになります。関係性は頻繁には変わりませんがサイクルタイムは 1 分ごとに変わり、在庫数量は日々変動します。こうした鮮度の高いデータはそれぞれに適したデータストアに置き、必要なときに ID をキーにして参照するようにしています。 AWS IoT SiteWise 側のアセット階層: AnyCompany (企業) └── Plant 02 横浜工場 └── Line A ├── DSI (受入検査) assetId: d0754657-... ├── VGR (搬送ロボット) assetId: 787a70d9-... ├── HBW (自動倉庫) assetId: 58f6c640-... ├── MPO (加工機) assetId: 2b326756-... ├── FA (最終組立) assetId: 2c26ccc0-... └── DSO (出荷) assetId: d38bb203-... 各アセットは avg_mct (平均サイクルタイム) と Availability_Pct (稼働率) のプロパティを持ち、1 分間隔で更新されます。Step 1 で特定した設備の ID で問い合わせた結果、HBW のサイクルタイムが目標値 (60秒) の 3 倍に達していることが判明します。 Step 3 — 在庫照合 (Amazon DynamoDB) Step 1 で特定した部品の ID を使い、Amazon DynamoDB の在庫テーブルから現在の数量を取得します。BOM の所要数 (×300 台) と比較した結果、在庫は充足していると判断されます。 No. 部品ID 部品名 在庫 所要数 (×300台) 判定 1 PART-CERAMIC-001 セラミック圧力センサー素子 10,000 300 ✓ 十分 2 PART-MOTOR-001 ブラシレスモーター 30,000 1,200 ✓ 十分 3 PART-FC-001 フライトコントローラー 10,000 300 ✓ 十分 Step 4 — 統合判定 Step 2 (設備) と Step 3 (在庫) の結果を突き合わせ、生産能力を評価します。 ボトルネック: VGR + HBW (実測 CT 254.2 秒。タクトタイム 60 秒の約 4.2 倍、稼働率 35%) 在庫リスク: なし (全部品十分) 問題の所在: 部品は足りているが、HBW の処理能力がライン全体のスループットを制約している Step 5 — 自然言語で報告 エージェントが上記を統合し、以下のように自然言語で回答します。 思考過程 ・ユーザーは「ORDER-2026-06-001 の増産 300 台は実現可能ですか?」と聞いています。これは増産指示の実現性診断を求める質問です。 ・生産オーダー情報を取得します。製品名、数量、納期、ステータスを返します。 ・get_production_order 完了 (0.2s) ・Neptune ナレッジグラフを探索して、指定オーダーの影響範囲とボトルネックを検出します。オーダーから製品→部品→設備→サプライヤーの関係性を辿り、在庫不足やサイクルタイム超過を自動検出します。 ・neptune_impact 完了 (0.3s) ・Production Line のリアルタイム稼働データを一括取得 ・get_production_line_metrics 完了 (3.5s) ・部品の在庫情報を取得します。在庫数、安全在庫、リードタイム、サプライヤーを返します。 ・get_inventory 完了 (0.1s) 回答 ■ 影響範囲 (サプライチェーン探索結果) ・対象オーダー: ORDER-2026-06-001(AnyCompany-SD1 ドローン用圧力センサーモジュール 300台、納期 2026-06-13) ・製品: AnyCompany-SD1 ドローン用圧力センサーモジュール ・生産工場: 横浜工場 ・既存バックログ: 200台(合計処理必要数: 500台) ・必要部品と数量: セラミック圧力センサー素子×300、ブラシレスモーター×1,200、フライトコントローラー×300 ■ ボトルネック検出(リアルタイムデータ) ・VGR+HBW(搬送+自動倉庫): CT 254.2秒(タクト60秒を194.2秒超過、424%)、稼働率 35.0% ・ライン実効CT: 254.2秒/個(ボトルネック律速) ・日産能力: 39台/日 ・5日間生産可能数: 195台 → 横浜工場ダッシュボードで確認 ■ 在庫状況 ・全部品充足(セラミック圧力センサー素子 10,000個、ブラシレスモーター 30,000個、フライトコントローラー 10,000個) ■ 実現性判定 ・間に合いません:5日間で195台しか生産できず、300台に105台不足 ・既存バックログ200台を含めると合計500台必要。達成には13日(約2週間)必要 ・ボトルネックの搬送+自動倉庫工程(VGR+HBW)がタクトの4.2倍、稼働率も35%と低い 改善策を提案しますか? 参照データソース ・DynamoDB: 生産オーダーテーブル(ORDER-2026-06-001) ・Neptune: ナレッジグラフ(オーダー→製品→部品の関連) ・IoT SiteWise: 横浜工場 Production Line のリアルタイムデータ(サイクルタイム、稼働率) ・DynamoDB: 在庫テーブル(部品在庫状況) (グラフ上で6ノードをハイライト中) なお、この後に続く改善策の提案 — 工程設計書や FMEA を根拠とした運転方法の変更案、PLC プログラムの修正案の生成 — も本デモの見どころですが、紙幅の都合により本記事では割愛します。 全体アーキテクチャ ここまで、ナレッジグラフの設計と AI エージェントの推論フローを解説してきました。このセクションでは視点を引いて、工場の設備からデータを収集し、エージェントが推論するまでを支えるシステム全体の構成を説明します。 本デモは、エッジ (工場) ・IoT データ収集・AI エージェントの 3 レイヤーで構成されています。工場側では 2 系統のデータ経路を持ちます。設備データは PLC → OPC UA サーバー → AWS IoT Greengrass → AWS IoT SiteWise という経路で収集されます。OPC UA は設備のリアルタイム値だけでなくアセット階層(設備間の親子関係や型定義)も標準化された形で公開するため、AWS IoT SiteWise 側でデータストリームとアセット階層の両方を構造化して管理できます。カメラ映像は別系統で、ONVIF 対応カメラ → Raspberry Pi 上の AWS IoT Greengrass → Amazon Kinesis Video Streams に送信されます。カメラの PTZ 制御は AWS IoT Core 経由の MQTT で行い、AI エージェントから操作可能です。 AI エージェントレイヤーでは、Amazon Bedrock AgentCore 上で Strands SDK ベースのオーケストレーターが動作し、問いの種類に応じて専門サブエージェントに処理を委譲します。本記事で解説した実現性診断のフロー (Step 1〜5) は Production Analyst が担当し、カメラ映像による現場確認は Camera Inspector、FMEA など品質文書の参照は QA Manager、制御プログラムの変更案生成は PLC Engineer が担います。各サブエージェントは Amazon Neptune (ナレッジグラフ探索)、AWS IoT SiteWise (リアルタイム値取得) 、DynamoDB (BOP・在庫・オーダー) 、Amazon Bedrock Knowledge Bases (工程設計書・FMEA) 、Amazon Kinesis Video Streams (映像フレーム取得) にアクセスします。 以上が本デモの技術的な全体像です。最後に、実際にブースで来場者の方々と対話する中で見えてきた、実運用に向けた課題を考察します。 全体アーキテクチャ お客様の声と課題 AWS Summit Japan 2026 のブースで製造業のお客様から得たフィードバックのうち、特に多かった 3 点と現時点での見解を共有します。 「関係性を最初に定義するのが大変だ」 — 本デモでは生成 AI に グラフスキーマの定義 を依頼し、一括で生成することで対応しました。「増産診断」というユースケースが明確だったため、必要な関係性の範囲を絞れたことが大きいです。ただし、対象範囲やノード数が拡大した場合に同じ手法でスケールするかは検証が必要です。 「グラフのメンテナンスが大変では?」 — ブースでは「BOM 階層が 100 近くある」という声も戴きました。本デモは数十ノード程度の規模であり、そうした現実のスケールでの変更管理、例えば ERP マスタ変更をイベント駆動で Amazon Neptune に反映するパイプラインなどは今後取り組む必要があります。 「そもそもデータが揃っていない」 — AI エージェント活用デモの多くは参照先データが整備済みの前提で構築されており、本デモも例外ではありません。ただ、本デモは全データをグラフに集約せず、グラフ・IoT・DynamoDB・ドキュメントをそれぞれ別のツールとしてエージェントに持たせる構成にしています。この形だと、新しいデータソースが用意できたときに既存の構成を作り直さず、ツールを 1 つ足すことで対応できます。全体が揃うのを待つのではなく、まず 1 ユースケースに必要なデータから始めて、揃った分だけ段階的に足していく進め方も、選択肢としてあり得るのではないかと考えています。 まとめ 本記事では、AWS Summit Japan 2026「生産ラインの未来」ブースで展示したデモの技術詳細として、製造ドメインのグラフスキーマの設計と、そこに IoT データを接続する方式を解説しました。取り組んだのは「AI エージェントに工場の構造をどう教えるか」というテーマです。製品・部品・設備・サプライヤーの関係を型とエッジとして定義し、Amazon Neptune 上のナレッジグラフに実装しました。サイクルタイムや在庫といった鮮度の高いデータはグラフに持たせず、AWS IoT SiteWise や Amazon DynamoDB から必要なときに参照します。変わりにくい構造と、刻々と変わる値を分けることで、エージェントの回答を速く安定させることを目指しました。一方で、本デモで定義したのは、型(ノード)と、型の間にどの関係が張れるかまでで、その関係自体が従うルールは定義していません。次のステップとして考えられるのは、こうしたルールを RDF/OWL のような形式で記述し、オントロジーへと発展させることです。明示的にリンクを張らなくても不良素材から影響製品を辿れたり、データの矛盾を自動で検出できたりと、対応できる範囲を広げられると考えています。本記事が、製造業のお客様が自社のデータを AI エージェントで活かすための一歩として、参考になれば幸いです。 使用サービス Amazon Neptune — 製造ドメインのナレッジグラフ Amazon Bedrock / Amazon Bedrock AgentCore — AI エージェントの推論基盤 Amazon Bedrock Knowledge Bases — 工程設計書のドキュメント検索 AWS IoT Greengrass — エッジゲートウェイ AWS IoT Core — デバイス接続 AWS IoT SiteWise — 設備稼働データの構造化・蓄積 Amazon Kinesis Video Streams — 工場カメラ映像の管理 Amazon DynamoDB — 生産オーダー・在庫・BOP の格納 著者 新澤 雅治 (Masaharu Niizawa) — IoT Specialist Solutions Architect。製造業、IT 企業を経て AWS に入社。現在は IoT スペシャリストソリューションアーキテクトとして、主に製造業のお客様の Industrial IoT 関連案件の支援に携わる。 松永 充弘 (Mitsuhiro Matsunaga) — Senior Solutions Architect。製造業のお客様を担当するソリューションアーキテクト。クラウド × データ × AI でお客様のビジネスを支援。前職では製造業にて、機器の IoT 化、AI 活用を担当。 関連リンク AWS Summit Japan 2026 ブース紹介 生産ラインの未来 Amazon Neptune — 概要 Amazon Bedrock AgentCore — 概要 AWS IoT Core ー 概要 AWS IoT Greengrass ー 概要 AWS IoT SiteWise — 概要
















