アバナード杉本礼彦氏が語る「IoTデバイス×Power Platformでビールの醸造を制御してみた」-Avanade tech talk-

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アバナード杉本礼彦氏が語る「IoTデバイス×Power Platformでビールの醸造を制御してみた」-Avanade tech talk-
アバナードの開発部隊が取り組み事例を紹介していく「Avanade tech talk」。今回のテーマは、「IoTの力でビールを醸造してみた」だ。メガネ型ウェアラブル端末「mirama」の開発者としても有名な杉本礼彦氏が、オンラインで登壇。時折ジョークも交えた和やかな雰囲気のなか、イベントは大いに盛り上がった。

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●登壇者プロフィール

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▲アバナード株式会社 シニアディレクター 杉本 礼彦氏
専門学校を卒業後、ソフトウェアエンジニアの道へ進み、30歳で株式会社ブリリアントサービスを設立。大阪に本社を置き、スマートフォンアプリ、スマートデバイスの受託開発サービスを中心に、クラウド連携、コンテンツ企画なども手がけ、デジタルサービスプロバイダーとして事業を拡大。2013年にはメガネ型ウェアラブル端末「mirama(ミラマ)」を発表し、国内外から注目を集める。2017年に同社をコグニザント社に売却し経営から退き、2019年5月アバナードに入社。関西オフィスにてデジタルイノベーションを推進しながら、組織構築にも携わる。

“美味い”デジタルイノベーションに挑戦したい

まずは、なぜアバナードがビール醸造なのか。杉本氏は次のように説明した。

「デジタルイノベーションは広まりましたが、ビジネス領域がほとんどです。本当の意味で我々の生活に直結するようなデジタルイノベーションって、何なんだろう。このような疑問を、私は以前から持っていました。そして答えをはっきり言う人もいませんでした。

あるとき仲間と飲んでいた際に、ふとアイデアが湧いたんです。テクノロジーの力でビールを醸造したら、リアルに体感できる“美味い”デジタルイノベーションになるのではないかと。それで『TECHBEER(テックビール)』と名付けたんです」

ただ、杉本氏はお酒が飲めない。そのためビールの味や醸造に関しては、まったくの素人だ。そこで、いかに上質なビールを醸造するかを目的とするのではなく、エンジニアならではの視点。IoTの力で、どれだけ“美味く”なるかに着目するプロジェクトとした。加えて杉本氏らしく、“楽しい”というキーワードも加え、以下のようなコンセプトとした。

【テックビールづくりのコンセプト】
1.いかにHW/SW(IoT・クラウド・AI等)のバージョンだけで安定的に美味しくできるかを追求する
2.使用する原材料をいつも同じにして、HW/SWのバージョンで差が出るようにする
3.同時多発的にいろんなIoTブルワリーが立ち上がると楽しい (オープンソース)
4.「1」と「2」に厳密な縛りは設けない
5.要するに美味しく楽しければよい

このようなコンセプトのため、本来であればビール醸造は麦芽を粉砕し糖化する手順から始まるが、同工程は省力。すでに糖化が済んだ状態のシロップを使い、イースト菌を添加し、発酵状態をテクノロジーの力で制御することをポイントとした。

温度と動作を監視・管理するシステムを構築

発酵においてポイントとなるのは、温度だ。そこで杉本氏は、発酵中のビールの温度を一定に保つことができるシステムを考案する。

さらに、いつどこにいても温度ならびに、温度を制御するデバイスの状況が確認できるような機能も加えた。遠隔監視機能である。実際に考案したシステムの構成ならびに、具体的に使用したハード・ソフトウェア各デバイスならびにアプリケーションを紹介する。

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■ハードウェア
①ベース:Raspberry Pi 3 Model B+
②リレー: Y14H-1C-3DS
③モータードライバー: Cytron MD30C
④汎用整流用ダイオード: 1000V1A 1N4007-B
⑤防水温度センサー: DS18B20
⑥両面ファン付ペルチェ素子: 12V 6A
⑦スイッチング電源 直流安定化電源: 12V 30A 360W

リストには掲載されていないが、撮影を行うためのカメラユニット、醸造庫を作るために発泡スチロールの板もしくは発泡スチロールでできたクーラーボックス、液体を入れておくペットボトルも実際には必要となる。逆に、リレーは用意しなくても問題ない。モーターがスイッチングする際に「カチッ」とした機械音が聞きたい、あくまで杉本氏の好みによるからだ。

ペルチェ素子とは、ある方向に直流電流を流すと素子の上面では吸熱(冷却)、逆に下面では発熱(加熱)する半導体熱電素子の一種である。これをペルチェ効果といい、この効果を活用することで、醸造庫内の温度を一定に保つ仕組みだ。

実際にデバイスを組み上げる際は、100V電源接続に要注意とのこと。誤った方法で行うとショートしやけどや感電、火災の恐れがあるからだ。このような注意点も含め、ハードウェアデバイスの配線や組み立てに関しては、杉本氏がブログで詳細を公開しているので、実際に作りたいと思った人は参考にしてほしい。プログラムならびにインストール方法も記載されている。

⇒ハードウェアデバイス組み立て詳細はこちら

一行もコードを書かずに望みのシステムが構築できた

■ソフトウェア
ソフトウェアは、マイクロソフトのPower Platformの各種パワー系アプリケーションを使った。Power Platformは、データの収集から解析・予測などを限りなくノンプログラミングで実現できるプラットフォームであり、4つのアプリケーションから構成されている。

アプリケーションをまさにノンプログラミングで作成できる「Power Apps」。抽出・変換・統合といった各種データ処理を自動化し、利用者が分析しやすいよう視覚表示する、いわゆるセルフサービスBIの「Power BI」。さまざまタスクを自動化するRPAソフト「Power Automate」。そして「Power Virtual Agents(同プロジェクトでは未使用)」だ。

実際にこれらのアプリケーションが、どのような役割を果たしたのか。Power BIはペルチェ素子の稼働状況がひと目で分かるよう、可視化のタスクを担った。Power Appsは、庫内で発酵中のペットボトルの状態を実画像で見るための、カメラユニットを動かすアプリケーションをノンプログラミングで作成した。Power Automateは、必要な情報を的確に抜き出すタスクを自動化した。

「パワー系のアプリケーションとAzureを組み合わせたことで、作業が楽に行えました。実際、エッジ側のデバイス設定ではコードを書きましたが、スマホ(監視)側においては、一行もコードを書いていません。

元情報には不必要なデータも多いですが、アプリケーションのおかげで、欲しい情報を的確に監視することができました。その結果、システム構築においてもその後の発酵監視においても、特に悩むことやトラブルはなく、スムーズにプロジェクトは進みました」

改めて、システムの概要を説明する。温度センサーやペルチェ素子といったIoTデバイスから、醸造庫内のデータを取得する。得られたデータはAzure(IoT Hub)にアップロードされ、データベースに格納される。

そのデータベースの情報を各種パワー系アプリを使い、スマートフォンでモニタリング。そのモニタリングの情報をもとに、ペルチェ素子の稼働温度設定を変えたり、カメラの遠隔監視が行える、という仕組みだ。なお、ラズベリーパイからAzureへは1分に一度の頻度で情報がアップされている。

このようにIoTデバイスおよび関連ソフトウェアとAzure IoT Hubを組み合わせることで、誰でも限りなくノンコードで、IoTデバイスを使ったプロジェクトのタスク(データ)管理が簡便に行えることが分かった。

テクノロジーを楽しむ仲間を増やしコミュニティを構築したい

実際、できあがったビールは美味かったのか。杉本氏はイベント中に醸造したビールを実際に飲みながら、感想を述べた。

「ビールを飲めない私ですが、このビールはいい香りもしますし、美味しいと感じます。本当にアルコール度数は1%なのかと思うほどです」

実はアルコール度数が高いビールを作ると法律に触れる可能性があるため、今回作ったのは先述のシロップの量を抑えた、アルコール度数1%以下のものであり、正確には清涼飲料水とのこと。

味についても、プロジェクトを行ったのがビール醸造に最適な時期だったため、テクノロジーの力を借りなくても、自然の力でビールは適切に発酵したそうだ。つまり、ペルチェ素子が稼働し温度をコントロールする機会が、実際にはあまりなかったという結果となったのである。

バージョンによる味の違いについても言及した。バージョン1では、ただヌメヌメしていた飲み物であったのが、次第に制御がコントロールされ、バージョン2以降は改善。杉本氏が飲んだのはバージョン3で作られたビールであり、現在醸造中のビールが最新バージョン4になるそうだが、バージョン2~4に関しては、さほど味は変わらないはずとのことであった。

「オクトーバーフェストとはよく言ったもの」と、杉本氏は笑いながらプロジェクトを振り返ったが、得たものは大きかったとの手応えも口にした。

「一番の成果はプロジェクトの目的どおり、IT技術を使ってビジネス以外にも楽しいことができることが分かったことです。そしてこの思いは私だけでなく、一緒にビール醸造を行った若手メンバーでも同じでした。

発酵のパワーが思ったよりすごく、ペットボトルがパンパンになり破裂しそうなシーンが度々起こったのですが、そのときはみんなでどうしようか意見を出し合いながらも、なぜか皆、ワクワクしていましたからね(笑)。もちろん、Power Platformがいかに素晴らしいツールであるかも実際に使うことで体感しましたから、実務での糧にもなったのは言うまでもありません」

今後は機械学習の技術を加え、さらに高度なシステムに発展させたいとの豊富を語ってくれた。また冒頭のコンセプトどおり、今回のプロジェクトを通して知り合ったメンバーとの交流を深め、テックビールはもちろん「テック○○」といった美味いものをITの力で作るコミュニティを構築し、テックビールコンテストなどにも発展させたいという。

実際、会津大学ではIoTの力でピザを作っているそうで、名指しでコラボレーションしたいとアナウンスしていた。

杉本氏はオンラインイベントに参加したメンバーに対してもメッセージを送った。

「参加者のビール醸造に対するレベルが高くて驚きました。私よりはるかに上級者です。今回、このように発表したことで、多くの方々と繋がることができましたし、交流することでさらにノウハウが溜まっていくことでしょう。このような交流こそがプロジェクトの醍醐味ですし、これからどんな展開をするのか、楽しみで仕方ありません」

イベントの最後に行われたQAでは、実際、ビールづくりが趣味な人も多く集まり、いつものTECH PLAYイベントは違う属性だったのも興味深い。中にはプロの醸造家も参加しており、プロフェッショナルな質問が上がる度に、「素人で申し訳ない」と杉本氏は謙遜しながらも、嬉しそうに、そして興奮していたのが印象的であった。

好奇心が強くテクノロジーが大好きな人が活躍できる

杉本氏がアバナードにジョインしたのは2019年5月。そんな杉本氏は、今回のプロジェクトも含めたアバナードに対する感想を度々述べていたので、最後にまとめて紹介する。

「テクノロジーのことが好きで、関心や好奇心が強いメンバーが多い会社だと感じています。たとえば日頃から仕事・プライベート関係なく、夜中に技術のことに関して連絡が来たりしますからね。今回のプロジェクトもいい例です。

冗談半分で企画を出したところ、アバナード側もノリノリで各種機材を用意してくれましたし、費用に関しても持つと言ってくれました。結果に関しても、グローバルで報告が上がっています。

ビジネスはもちろん、楽しいことに対して積極的に自ら手を動かし、取り組むメンバーならびに文化が醸成されている会社だと、改めて感じました。実際、私の後を追って、とかげが排泄したかどうかを臭いで判断するような、そんなプロジェクトを始めたメンバーもいますから(笑)。

一方で、大規模開発やコンサルティングスキルも学べる。しかも全国47都道府県どこにいても、100%在宅で携わることのできる案件もある環境が整っています」

マイクロソフトとアクセンチュアのジョイントベンチャーであるアバナードの開発部隊が取り組み事例を紹介する「Avanade tech talk」。興味を持っていただいた方は、ぜひこちらのページをフォローし、次回イベントに参加していただきたい。

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