東京から移住した沖縄のIT番長、常盤木龍治が語る「沖縄の技・食・住」 のリアル
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沖縄を代表するIT番長トッキーこと、常盤木龍治とは何者か
沖縄のIT番長 DX軍師
パラレルキャリアエバンジェリスト 常盤木 龍治氏
EBILAB、クアンド、レキサス、岡野バルブ製造、ZENTech、ハウステンボス、カステラ本家福砂屋など、テック企業から著名事業会社まで様々な企業の最高戦略責任者、最高技術責任者、社外取締役、エバンジェリスト、事業戦略アドバイザーを務めるパラレルキャリアエバンジェリスト。ライバルはスティーブ・ジョブズとビル・ゲイツ。
常盤木龍治氏は、8年前に東京から沖縄に移住し、パラレルキャリアという働き方を実践している。常盤木氏のこれまでのキャリアを簡単に紹介すると、2001年にテンダに入社し、エンジニアとしてキャリアをスタート。自動マニュアル作成ツール「Dojo」の企画段階から携わり、、マニュアル自動作成ツールの分野では、国内トップシェアを誇るまで、同社の事業を牽引してきた。
ビジネスエンジニアリングでは、製造業向け生産管理パッケージ「MCFrame」、2009年1月、時代に先駆け原価管理のクラウドサービス「MCFrame online原価管理」を企画、提供。その後、アステリアやSAPなどでキャリアを積み、2014年から沖縄に移住。沖縄、伊勢、長崎、北九州、鳥取、大阪、石川、東京、ブラジルなど、日本および世界中を飛び回りながら、テクノロジーで社会課題を解決することに取り組んでいる。
2019年には、Developers Summit KANSAI 2019 ベストスピーカー1位を受賞。プログラム言語はアセンブラ・Java・Scala・Pythonなど30言語以上、GraphQLやLaravelなどを使ったアーキテクチャの構築も得意とする。数多くの企業で、事業企画、プロダクト開発、マーケティング、営業など様々な業種に携わっている、沖縄にとって心強い軍師であり、まさにIT番長である。
3万人の雇用と496社の企業数を生み出した沖縄のIT産業振興策
現在、沖縄では「観光」と「情報通信(IT)」を注力産業として掲げている。1998年(平成10年)9月に「沖縄マルチメディアアイランド構想」というIT産業発展に特化した方針を打ち出し、2002年には「沖縄振興計画」を策定。本格的にIT産業に取り組んでいる。
「メディアでも沖縄におけるIT産業への取り組みが報じられるようになり、国内外で沖縄がITに強い島だという認知が広がっていきました」(常盤木氏)
その結果、2021年1月現在までに、沖縄の雇用人数は3万88人、新たに沖縄に立地したIT企業は496社という成果を挙げている。コールセンターやデータセンターの数は日本でもトップクラス、コンテンツ制作やソフトウェア開発の企業も増えてきた。
「主要なベンダーのサポート拠点も増えており、エンジニアリングを学ぶ環境もあり、大都市圏に比べても充実しています」(常盤木氏)
沖縄は、香港やシンガポール、ベトナム、台湾、韓国など、アジアに近いという強みも挙げられる。中国やアメリカとの海底ケーブルで繋いだITインフラや、地震などの震災がほとんどないという地政学的な強みを活かしたデータセンターの誘致も成功している。
また、東京や大阪、福岡などの国内拠点やアジア主要国への直行便もあり、移動コストもそれほどかからないという地政学的なメリットもある。
そして、沖縄のIT戦略の中核を担う一つが、うるま市にある「沖縄IT津梁パーク」である。企業のコールセンターやデータセンター、研修センターなどの施設があり、国内外のIT産業の一大拠点となることを目指し、2009年に開所した。日本やアジアに必要なIT人材の育成に努めている。
「津梁(しんりょう)というのは、アジアとの架け橋を意味する言葉。今では沖縄を代表するIT企業であるレキサスが第一号の入居企業となりました。実は私自身も、レキサスに転職したくて東京から移住したIターン人材です」(常盤木氏)
年収1000万円を超える70代の農家たちを創出したデータビジネス
常盤木氏がレキサスで作ったソフトウェアサービスプラットフォームの一つに、人口約1300人の徳島県上勝町で約165軒の農家が参加した葉っぱビジネスがある。平均年齢70歳(最高齢は92歳)でも使える画面インターフェースで、明日何が何個売れるのかという予測をしながら、地上に適切な量を供給量を提供するシステムを作ったのである。
その結果、年収1000万円を超える農家も出たり、70代の農家が自立的に働くようになったことで要介護認定の老人が減ったり、子どもや孫が移住してきて街が活気をあふれるようになったという副次効果もあった。
「レキサスが需要供給量を予測するシステムは、生涯現役ネットワークとして日本中の限界集落に横展開して、特産品がちゃんと売れる世界を作っていきたい。人が死ぬときに、好きな場所で自尊心を持って死んでいける世界を作りたいと思っています」(常盤木氏)
人々の幸せに寄り添うシステムを作るためにはデータが重要であり、そのデータを扱うことができる人材が必要だ。そこで、常盤木氏は沖縄のIT事業戦略の中核の一つとして、人材育成に注力してきた。
まずはデータを適切に利活用できるマネジメントスキルの育成、次にデータを利活用することで消費購買喚起や適切なマーケティングができる人材の育成を目指しているという。
「沖縄は9割以上がサービス業なので、サービス業の人たちが儲けられるようにならないとハッピーにはなれません。そのために必要なデータを、誰もが水道の蛇口をひねる感覚で扱える人材を増やしていきたいと思います」(常盤木氏)
さらに常盤木氏は、沖縄にIT関連企業が立地してきたことで、コールセンターやデータセンターは増えたが、それはいわゆる集約労働に近いと指摘。さらに、高所得に直結するデータスキル、例えば、データをもとにデジタルトランスフォーメーション(DX)に関わるスキルを身に付けてほしいと語る。
「世の中に価値を認められるイノベーションは、データとセットで生まれます。データがなければ、デジタルトランスフォーメーションは存在しないというわけです」(常盤木氏)
そこで次に取り組んだのが、内閣府主催の「沖縄DX人材育成講座」だ。沖縄県内のIT企業をはじめ、ユーザー側の企業である小売業や観光業からも多く参加。卒業生は累計150名にもなるという。
「表面的ではない業務効率化、ユーザーにとって課題解決がなされるマインドセットの育成。新たな概念を学び、わからないところはお互いに教え合うカルチャーも作ってきました。意外に思われるかもしれませんが、沖縄のコミュニティは今では全国屈指の密度を誇ります」(常盤木氏)
沖縄をリードする高度人材育成、産業育成を加速するために「ISCO 沖縄ITイノベーション戦略センター」が設立され、DXやデジタル技術を学ぶセミナーや研修、概念検証、様々なプロジェクトが推進されている。
街全体で270件のオープンイノベーションを実現
沖縄では、いまスタートアップが集積するコザ、沖縄市が特に盛り上がっている。常盤木氏も沖縄市に住んでおり、「世界で屈指の面白い街だから、沖縄に来たら案内するので、ぜひ覚えておいてほしい」と語る。
「コザ スタートアップ商店街」には、マイクロソフト、SAPなどの大手企業、常盤木氏がCTOを務める「EBILAB(エビラボ)」や、氏が取締役DX本部長を務める北九州門司を本拠とするバルブ製造業大手丘のバルブのイノベーション拠点「X-BORDER KOZA(クロスボーダーコザ)」、国内留学を提供する「HelloWorld」といったスタートアップ、エンジニア向けのシェアハウスやワーケーション向けホテル、コーヒー専門店、そうしてそれらの人々が繋がり集う日替わり店長制のソーシャルバーなどが集っている。
「コザは街全体でオープンイノベーションを実現しており、数百にものぼる多様なイベントを実施しています。テクノロジーのイベントだけではなく、映画や街作りのイベント、エンジニア以外でも課題解決をするためのハッカソンとかアイデアソンをやっている。街全体が玉手箱のようでびっくりするくらい面白いです」(常盤木氏)
日本中からエンジニアがふらっとワーケーションがてら集まってくる「ギークハウス沖縄」や、コアワーキングスペースや起業相談・著名起業家のセミナーなどを運営する「Lagoon Koza」 (ラグーン コザ)や産学連携の仕組みなど、多様な組織や個人が集まる仕掛けがあると強調する常盤木氏。起業家育成プログラムやリカレント教育、シングルマザーや主婦がしっかり学べるプログラミング教室なども積極的に展開されているという。
「移住したときに、最も大切になってくるのがコミュニティです。自分とは違う業種、違う視点の人から学ばないと、自分自身こそが地域社会の成長阻害要因になってしまう。自分のスキルセットと世の中で求められていることのギャップは常に発生します。学び合える与え合える環境こそがコミュニティの大切さだと思います」(常盤木氏)
縮小する日本市場の未来を沖縄から解決する
常盤木氏がCTOを務めるEBILABの本社は、三重県の伊勢神宮近くで老舗である「ゑびや大食堂」から生まれた老舗発テックベンチャーだ。ご存じの方も多いと思うが、常盤木氏らは世界屈指のデータ解析の力で、翌日の来客数を約96%という高い的中率で予測し、何が売れるのかまでをデータ解析することで、食材のロスを8割減らし、大幅なコストカットに成功した。
「データの力で店を日本屈指の繁盛店にしただけでなく、無駄を削ることで、全従業員の完全週休2日や有給休暇、ボーナスなども実現しました」(常盤木氏)
沖縄の主力産業は、観光や飲食などの消費産業が中心となる。まさにデータ分析によって、ビジネスを効率化するEBILABには最高の拠点である。実際、アリーナ沖縄の人流データの分析なども行っている。
最後に常盤木氏は「日本の市場は人口減少とともに縮小する」データを紹介し、以下のように語りかけた。
「人口減少とともに減少する市場は約30%と予測されています。その数字は、コロナで陥った売り上げ減とほぼ同じ。今まさにコロナ禍でも稼げる体制を作り、急速な発展を追い求めた人類全てのバグを出し尽くしましょう」(常盤木氏)
EBILABのこの取り組みは、世界中から1万8000人のパートナーが集まるマイクロソフトのラスベガスのカンファレンス(2019年)で、サティア・ナデラ氏にも世界一のDX、AI活用事例として紹介された。
人口14万人の沖縄と人口13万人の伊勢市から世界No.1の仕組みを作ることができた。「地方だからできないことはない」と常盤木氏。沖縄で暮らし、沖縄でイノベーションを創ることの楽しさを熱く語り、セッションを締めた。