業務プロセスの可視化とDX推進で、納期遵守率100%を達成したルネサスの取り組みとは

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業務プロセスの可視化とDX推進で、納期遵守率100%を達成したルネサスの取り組みとは
マイコン/SoCやアナログ製品を組み合わせたソリューションを提供し、ADASや自動運転の実現を支援するルネサスエレクトロニクス社の車載ソフトウェア開発統括部。開発業務のDX推進により、業務プロセスの可視化やITインフラの構築プロジェクトで業務の効率化などを実現している。プロジェクトに携わったソフトウェアエンジニアたちが、その取り組みと成果、苦労を語った。

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なぜ業務プロセス改善にITインフラが必要なのか?

ルネサスエレクトロニクス株式会社 久保 善弘氏
ルネサスエレクトロニクス株式会社
ハイパフォーマンスコンピューティング・アナログ&パワーソリューショングループ
HPCソフトウェアソリューション統括部
課長 久保 善弘氏

最初に登壇したのは、国内外のメーカーでキャリアを積んだ後、2006年にルネサスエレクトロニクスに入社した久保善弘氏だ。4年間のドイツ駐在も含め、これまでソフトウェアの開発・管理といった、各種プロジェクトに携わってきた。

その多くでプロジェクトマネージャー(以下、PM)として、インフラを有効活用することで成果を出してきたという久保氏。まずは、ルネサスエレクトロニクスについて紹介した。

日立製作所、三菱電機、NECを起源とし、2010年に設立したルネサスエレクトロニクス。2017年以降はアナログ半導体への注力を強め、積極的に海外企業の買収を進めてきた。

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車載用マイコンで確固たるポジションにありながらも、半導体プロバイダーとして幅広い領域で製品を提供。我々の生活をより安全、豊かにするとともに、会社としても成長を遂げている。

現在は世界20カ国以上に販売拠点を持ち、関連会社も含めると、事業所の所在国数は30以上。そのため、従業員2万人の半数以上がグローバルメンバーから構成される。

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「2030年に向けて、売上では現在のおよそ倍近い数字を掲げており、時価総額においては6倍を目指すと」、久保氏はルネサスのAspirationを力強く語っている。

「この果敢でチャレンジングな目標実現に向けて、我々もクウラド、デジタルツイン、ソフトウェアの力を信じてチャレンジしています」(久保氏)

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続いて久保氏は、業務プロセス改革にITインフラが必要な理由、両者の関係性を述べた。結論からいえばどちらも重要であり、フィードバックサイクルを回すことが大切だという。

業務プロセスは単に改善しただけでは維持ができないため、ITインフラによる可視化やモニタリングが必要であるからだ。

一方、ITインフラを構築してプロセスを可視化、モニタリングするだけでは、業務プロセスがスムーズに進むわけではない。DX推進には、ITインフラを活用するPMやPMOの意志やスキルが必要になってくる。

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インフラを構築する際にキーとなるのが「バリューチェーン分析」だと、久保氏は語る。バリューチェーンとは、顧客に届ける価値を最大化することである。

その実現のためには各業務の成果、つまりバリューが積み重なり、まさに業務プロセスの連鎖となり、結果として大きな価値を生み出していく。

各業務フローで最大のバリューを出すためには、主活動を支える支援業務も含めた、バリューチェーン全体の分析が必要だという考えだ。久保氏たちのチームでは、ソフトウェア開発にこのバリューチェーン分析の考え方を3~4年ほど前から導入している。

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具体的には、ITインフラを構築することで、最大のバリューを生み出すことにチャレンジしてきたという。ソフトウェア開発におけるITインフラが、実際にどのようなバリューを出しているのかも説明した。

大きくは2つあり、「基幹系インフラ」「情報系インフラ」である。基幹系インフラでは、それまでExcelやメールといった情報の連鎖で生じていた停滞や不具合を、JIRA/Confluenceで共有することで解消していった。

「情報系インフラは、予算管理や工数管理など、QCDに関する情報を見える化、可視化するためのシステムです。そのため、ネーミングも『MIERUKA』としました」(久保氏)

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そして、もう一つの取り組みが、業務プロセス改善に向けたアプローチである。まずは、組織ならびに業務プロセスの課題を分析していった。すると、多くの課題が判明した。

例えば、「なぜそんなに忙しいのか?」では、ExcelやRedmineによる作業時間の管理が、リアルタイムではなく、継続的でもないことがわかった。一人のメンバーがどれくらのプロジェクトを抱えているのかが、わからないことも判明した。

そこで先ほど構築したシステム、MIERUKAを活用。各種業務プロセスを可視化することを実践。さらに、ここでもフィードバック、継続的改善を続けるような取り組みを行っていった。

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結果は、間接業務時間を削減できたことで、自己啓発に充てる時間や改善業務に充てる時間が増えた。誰が何をしているのか曖昧だったプロセスにおいては、工程を見える化することで、品質管理部門の指摘件数が72%も削減した。

リリース納期の厳守率においては、リリース回数が約1.5倍に増加しているにも関わらず、100%達成との成果を得ることができた。

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久保氏は、各領域における具体的な対策と成果の説明を行った。例えば、開発プロセス厳守の対策では以下スライドでわかるように、プロジェクト数ならびにインシデントが発生している割合と数を可視化することで、年を追うごとに割合が縮小している。

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リリース納期の向上においては、前回のイベントで紹介された「DevOps、CI/CDの導入によるマンスリーリリースの実現」を例に挙げた。MIERUKAシステムが導入される前、CP(チェックポイント)は設けてはいたが、実際には遅延していた。

そこでCPで遅れが判明したら、自動アラートが担当者だけでなく、上司にもつながるシステムを構築した。

「最初は担当者へのアラートのみですが、翌日になっても対応できていない。期日が守られていない場合には部長級にもアラートが上がります。それでも改善されない場合には、さらに上の統括部長級にアラートがいくシステムとなっています」(久保氏)

つまり1人ではどうしょうもない場合は、チーム、組織としてフォローが行える。それも自動で受けるようなシステムとなっているのである。システム検証チームの工数も25%削減した。

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久保氏は取り組みを振り返り、業務プロセス改善とインフラの開発は、まさにDXであり、とても面白い業務だと各業務プロセスをスライドで示して語った。

例えば前半では経営課題を知ることができると同時に、幹部にソリューションを提示するとの醍醐味を味わうことができるからだ。リリース後は開発現場や経営陣から感謝される。

実際、今回紹介したMIERUKAシステムの具体的な数値は経営指標にも使われていると、久保氏は誇らしげに語った。

「業務プロセス改善ならびにインフラ開発を行い、両方をうまく見える化、活用することでDXを推進する。その結果、通常の業務が楽になり、周りから感謝される。醍醐味のある仕事だと思っています」(久保氏)

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業務プロセス改善を成功に導く、ITインフラ構築運用の勘所とは

ルネサスエレクトロニクス株式会社 高木 久考氏
ルネサスエレクトロニクス株式会社
ハイパフォーマンスコンピューティング・アナログ&パワーソリューショングループ
HPCソフトウェアソリューション統括部
主任技師 高木 久考氏

続いては、現場でITインフラの構築ならびに運営業務に携わってきた高木久考氏が登壇した。高木氏はまず、ITインフラ構築における歩みについて紹介した。

「ポイントは一般的な業務プロセスの管理で指標となるQCDではなく、CQDの順番で取り組んでいること。その理由は、工数管理に主軸を置いているからです」(高木氏)

作業バランスの可視化は、WBSやガントチャートといったグラフや表を作成して、各種工程や進捗の見える化を実施。単に見える化しただけでなく、業務プロセス改善を通じたDXを実現するために、継続的に運用しながらシステムも改善していった。

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だが実際には、取り組みの裏では苦労や失敗もあったという。高木氏は、苦労や失敗が発生した理由を次のように述べた。

「私たちが開発チームではなくインフラチームということもあり、どうしてもインフラ観点で物事を進めていった感がありました。プロジェクト管理視点がおざなりになっていたともいえるでしょう」(高木氏)

インフラ視点が強かったため、実際に構築したシステムを使う開発側からは「Excelでも管理できる」といった反発や、そもそも「使い方がわからないから使わない」といった状況が当初はあったと振り返った。

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使ってもらえないのであれば、こちらから使うようにアクションを起こそう。当初はそのように考えて入力をしているか、内容は正しいかどうかなどを、是正するような動きに出た。

すると開発者からは、まるで取締りを受けているようだと「MIERUKA警察」と揶揄されるようになる。可視化には至るが、心が離れるという事態に陥ってしまった。

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システムを導入したのであれば、プロジェクト管理はしなくていいだろう。そのような誤解も生まれた。その結果、プロジェクトが登録されていないという事態が発生。結果としてリリースが遅れるといったトラブルにも発展した。

このような失敗を重ねた結果、両者がWin-Winの関係になることで、お互いのゴールイメージを共有することが大事だと気づいたと高木氏。部長・課長級に工数分析の価値や意味、分析事例を共有するなどの取り組みを行っていった。

「見える化からいかに見せる化へのシフトです」と、高木氏は取り組みに対する姿勢の違い、変化を語った。

リリース遅れに関しては、組織ガバナンスの正常化を図る必要があると考え、実際にそのような組織構築に向けて取り組んだ。具体的にはシステムがアラートを出すのではなく、上司が事前に気づき、指示を出すことができる組織への変化である。

このような経験を踏まえ、最後のフェーズであるデリバリーにおいては、以下スライドで示した3つの点に留意しながら、システムの導入を進めていった。

例えば、3つ目のポイントは、まさにシステムがいかに優れていても、入力に負担がかかるような場合は結局使われない。その結果、システムも正しく稼働しない流れになるからだ。

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実際のプロジェクトでの事例も紹介された。事業部横断で100名以上の開発メンバーが、複数チームとして携わりながら、毎月2種類のSDKを継続リリースするプロジェクトである。

高木氏は改めて各チームの視点での課題とその成果を紹介。例えば開発チームでは、CPを遅延させないように、期日ファーストの思考やアジャイルマインドを浸透させていった。

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高木氏は最後に、現在のルネサスエレクトロニクスの状況を次のように述べ、セッションを締めた。

「今、ルネサスエレクトロニクスはハードウェアの会社からソフトウェア中心の会社として変わろうとしており、ソフトウェアファースト、シフトレフトの動きが活発化しています。そのため幅広く人材を求めています」(高木氏)

【Q&A】参加者からの質問に登壇者が回答

セッション後は、イベントを聴講した参加者からの質問に、登壇者が回答した。

Q.ダッシュボードを作成して見える化した後、どのように社内浸透させていったのか

久保:当初は活用してもらえなかったため、2つの工夫を行いました。1つ目は、我々が毎週行っているワーキンググループ(以下、WG)活動に、各課長に参加してもらい、一緒に業務プロセス改善に取り組んでいったことです。

具体的にはWG活動の場で、今月の業務分析目標を掲げてもらったり、現状どれくらいリーチしているかなどの分析について、毎月レポートを書いてもらったりしました。この取り組みにより、各課長は自分の課に持ち帰り、メンバーと1on1を行うなどして業務プロセス改善に向けての議論が起きていたと思います。

高木:WGでは私たちインフラチームだけではなく、各課の代表に集まってもらい、成果の報告や共有を行っています。

久保:もう一つの取り組みは、我々の方から各課の課長に出向き、実際にデモを行いツールの活用方法を示しました。また、個別に30分ほどヒアリングを行い、機能の使い方などを伝えることで浸透を目指しました。

Q.期日ファーストへのマインド変化は、どのような啓蒙活動により醸成したのか

高木:以前は、お客さまから要望された機能は納期が遅れても実装する考えの開発者が多かったように思います。そこで守るべきは納期であり、どうしても入れたい機能は次のリリースまでに必ずいれればよい。このような考えにシフトしてもらうようにしました。

久保:スクラム開発の考えを浸透させました。つまり、納期は変えずにスコープを変えると。リリース日を必ず守るために、中身は変更してもらうことを許容してもらうようにアプローチしていきました。

Q.工数管理において、Excel、Redmieは手動入力のため大変だったのではないか

久保:Jiraのアドオン(Timesheets by Tempo)を活用しました。ExcelやRedmineといった単品ツールとは異なり、実際に作業した内容をすべてカレンダー形式でチケット管理し、簡単にダッシュボード化されるというものです。

Q.プロジェクトの登録漏れを防ぐための組織ガバナンスの強化内容について

久保:WG活動で毎週、リマインドしています。

高木:基本的には年間取り組むプロジェクトは定義されているのですが、内容が変更されたり、新たなプロジェクトが立ち上がったりして、抜け漏れが発生しています。その抜け漏れが発生しないよう、久保さんが話したようにWGで拾い上げていきます。

Q.CP遅延解決の工夫について。アラートを上司に送ると上司負担になるのではないか?

久保:上にいけばいくほど解決オプションが豊富にあるため、問題解決が進むとの考えで取り組んでいます。

高木:一方で上にいけばいくほどメールは埋もれやすくなるため、メールの内容もアラート自体も、シンプルで分かりやすいものに毎回工夫しています。内容やアラートの感覚についてもWGでの意見を参考にしています。

Q.開発プロセス厳守が推進していったポイントは?

久保:WGに参加している各課の代表者から、自分たちのプロジェクトのアラート情報を展開します。それを繰り返したことで、自律的に是正しようとのマインドセットが醸成していったのだと思います。

高木:100%全員ができているというわけではありませんが、見せる化することで、私たちが指摘する前に自分たちで分析、改善に取り組む人たちが増えてきた、そのような環境が定着してきたように思います。

Q.Jiraの標準であるロードマップ機能ではなく、ガントチャートを追加導入している理由について。ウォーターフォール型の開発プロセスを考慮してのことか?

久保:まさにご指摘のとおり、ウォーターフォール型の開発が以前は9割ほどでした。一方で最近は、4~5割ほどがアジャイル開発で行っています。ただアジャイル開発であっても、ガントチャートは有効だと考えていますし、表示できるのがJiraの良い点でもあると思っています。

高木:Jiraのロードマップ機能も検討はしましたが、使いづらいところがあり、WBSガントのプラグインを追加したという経緯になります。

Q.システムの導入は全社的だったのか。また承認はどのように行ったのか

久保:導入に関しては全社ではなく、複数の部署を束ねる統括部にて行いました。統括部内では一斉に行いました。承認に関しては、どれだけ工数が削減できるか具体的なデータを算出し、費用対効果を提示することで進めました。

ルネサスエレクトロニクス株式会社
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